11 母の死に疑問を抱いて
母の死に疑念を抱いた雪蘭は、母の葬儀が落ち着いてから、慧雪の元を訪ねた。
いくら親切にしてくれたとはいえ、いきなり訊ねても大丈夫だろうか。そんな不安を抱きながら、慧雪が身を寄せていると言っていた屋敷へ向かう。
「慧雪さま!」
ちょうど屋敷の門から、先日の侍女二人を伴って現れた慧雪を見て、雪蘭は駆け寄った。
相手も雪蘭のことを覚えていたようで、あら、と言って手を振ってきた。
「雪蘭、お母さまの体調は回復した? ずっと気になっていたのよ」
慧雪の問いに、雪蘭は緩く首を振る。
「せっかく貴重な薬草をいただいたのに、無駄になってしまいました」
雪蘭はいったん言葉を切り、視線を足元に落とし続けて言う。
「間に合いませんでした……」
慧雪は眉尻を下げ、悲しそうな顔をする。
「そうだったのね。気の毒に」
「親切にしていただき、ありがとうございました」
「お礼なんていいのよ。困っている人を助けるのは当たり前のことなのだから」
雪蘭は勢いよく顔を上げ、慧雪を観る。
「そのお言葉に甘えて、お時間を頂けないでしょうか。どうしてもお聞きしたいことがあるのです」
「もちろん。私で分かることなら何でも答えるわ」
「慧雪さま」
引き止めようとする侍女の常夜を、慧雪は手をあげとどめる。
「入って」
と、慧雪に促され、雪蘭は屋敷に足を踏み入れる。
慧雪の側仕えである侍女が、煙たそうに目を細め雪蘭を見る。その視線に雪蘭は申し訳なさそうにうつむく。
侍女の明夜が茶を入れ雪蘭に差し出した。
「ありがとうございます」
雪蘭は恐縮して、深く頭を下げる。
「話してちょうだい」
慧雪はさっそく話を促す。
「母の症状のことで、教えていただきたいことがあるのです」
「お母さまの?」
「はい」
雪蘭は母の症状を詳しく慧雪に話した。
側女によってまともな食事を与えられなかったこと。冬場は炭も貰えず凍えるような生活を送っていたこと。そのせいで母の健康状態は常に思わしくなかったことを。
訴えかける目で雪蘭は慧雪を見る。
「母が亡くなって初めて気づいたのです。母の身体や顔に発疹があったのを。母はいつもお化粧が濃かったから、皮膚の異常に気づきませんでした。化粧品も側女が用意したものです」
発疹……と呟き、慧雪は考え込むように目を伏せる。その様子を雪蘭は見守っていた。慧雪の二人の侍女も互いに顔を見合わせている。やがて、慧雪は口を開く。
「その化粧品は今持っているかしら」
「あ、あります! 持ってきました!」
雪蘭は心の中で黎飛にお礼を言う。
黎飛が言ってくれなければ、これらを慧雪に見せるといおう考えなど及ばなかった。
これです、と雪蘭は持ってきた化粧品類を慧雪に渡す。
容器を受け取った慧雪は、蓋を開けようとする。
「お気をつけてください。慧雪さま」
明夜が心配そうに声をかける。
「大丈夫よ」
慧雪は蓋を開け、中身を確認する。白粉に頬紅、そして口紅。慧雪は一つ一つそれらを確認する。
白粉を確かめ、首を振り慧雪は卓に置く。次に手に取ったのは頬紅だ。
慧雪は目で侍女に訴える。すぐに侍女は蝋燭と匙を用意した。
慧雪は匙に頬紅を乗せ蝋燭の炎で加熱する。口紅も同様に火にあてた。その様子を雪蘭は凝視する。
「お化粧には問題はないわね」
考え込むように慧雪は眉根を寄せた。
「あの、慧雪さま、何か分かりましたか?」
雪蘭の声に慧雪は視線をあげた。
「一概には言えないけれど、お母さまが亡くなった原因は、長期服用によって引き起こした慢性中毒によるもの……つまり、辰砂ではと思ったの」
「辰砂」
聞き慣れない言葉に雪蘭は首を傾げる。
「水銀を含む赤い鉱物で毒性のあるものよ」
「そんな」
雪蘭は顔を青ざめる。まさか母が毒を盛られ続けていたとは。
いったい誰に?
いいえ、と雪蘭は首を振る。
そんなことをする人物はたった一人しかいない。
「お母様の症状から、毎日お化粧をかかさずしていたと聞いて、もしかしたらと思ったのだけれど、これらの品には問題はなかったわ。お母さまの周りで何か疑わしいことはなかった? 食事とか身につけるもの何か。例えば日常的に身体によくないものを口にしていたか、触れていたか。心あたりはあるかしら?」
母が誤って毒物を口にするはずがない。
だとすると……。




