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復讐の後宮妃 この恨み絶対に忘れない  私を殺した悪徳妃に復讐を ー処刑された貴妃は、二度目の人生で牙を剥く―  作者: 島崎紗都子
第1章 新たな人生を生きる

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10 うわべだけの立派な葬儀

 母の位牌の前に座り雪蘭は肩を落として泣いた。

 徐家の正妻という立場ゆえ、葬儀は立派に出してもらえた。葬儀の手配をしたのはすべて如琳であった。

 葬儀に参列した者は、みな口を揃えて如琳を褒め称えた。

 側女でありながら如琳はできた側女だ。正妻に心を尽くす優しい女だと。

 だが、どんなに豪華で立派な葬儀でも、それは形ばかりで、父も世間体を気にしてただ形式にのっとって式に参列しただけ。

 声をあげて泣いていたが、涙は流していなかった。

 ただ悲しんでいる振りをしていただけ。

 側女の如琳も、義理の姉である慈桂も、泣き声を発しながら母が旅立つのを見送っていた。

 だが、雪蘭は見ていた。

 二人の口元に笑みが刻まれていたことを。

 誰も母の死に不審に思う者はいない。たとえいたとしても、それを口にすることは絶対にできない。もしそんなことをすれば、如琳によって悲惨な目にあい、屋敷を追い出されるから。

「雪蘭」

 背後から声をかけられ、雪蘭は振り返った。

 戸口に黎飛が立っていた。

 すでに陽も落ち、辺りが暗くなっていることに気づく。

 葬儀が終わってからずっと、飲まず食わずで雪蘭は母の位牌の前で座っていたのだ。

「朝から何も食べていないんだろう?」

 黎飛は手にしていた煎餅(ジェンビン)を雪蘭に差し出した。煎餅とは、緑豆粉や小麦粉を水で溶き、生地を鉄板で薄くのばして焼いたものだ。

 何も食べたくないと首を振る雪蘭の手に、黎飛は強引に煎餅を押しつけた。

「そんなんじゃ、雪蘭が倒れてしまう。食べたくなくても食べろ。雪蘭が倒れたら花憐さまが悲しむ」


 母が悲しむ。

 黎飛の言葉に雪蘭は泣きながら煎餅を一口かじる。途端、涙がこぼれた。

 食欲などなかったのに、身体は正直であった。

 一口かじった途端、自分が空腹だったことに気づく。思えば、昨日から何も口にしていなかったのだ。

 煎餅を貪り、喉を詰まらせてむせる雪蘭に、黎飛は無言で水を差し出す。

 喉を潤し、雪蘭は一息つく。

 母を失った悲しみは癒えることはない。だが、ほんの少し冷静さを取り戻せた気がした。

「母上……」

 嗚咽する雪蘭の肩を黎飛は抱き寄せた。

 黎飛に抱きしめられ、雪蘭は母のことを思う。

「母が亡くなったのは私のせい。私が薬草を持って帰るのが間に合わなかったから」

「雪蘭、そんなことを言ってはだめだ。花憐さまが亡くなったのは雪蘭のせいではない。だから、自分を責めるな」

 雪蘭は手にしていた煎餅に視線を落とす。

 だけど、母の身体中に出来ていた発疹はなんだったのだろう。いつも丁寧にお化粧をしていたから、顔にも発疹があったことに気づかなかった。そして、どうして急に逝ってしまったのか。あの発疹と何か関係があるのだろうか。

「……? 雪蘭?」

 黎飛に名前を呼ばれ、雪蘭は思考の底から我に返る。そして、自分が黎飛の腕に抱きしめられていたことに気づき、顔を赤くする。

「黎飛、あの……」

「あ! ごめん!」

 黎飛も慌てて雪蘭の身体から両手を離した。

「ううん……」

「その……大丈夫か?」

「黎飛、あのね私、どうしても母の死に納得がいかないの」

 ああ、と黎飛は頷く。

「確かに母はあまり体調がよくなかった。だけど、母の身体を見たら赤い発疹があちこちに出来ていたの」

 雪蘭は母のお化粧のことも黎飛に話す。黎飛は眉根を寄せた。

「確かにおかしいな。実は俺も花憐さまの白粉のことが気になっていた。俺はてっきり旦那さまに振り向いて欲しいからきれいに化粧をしていたのだと思っていた。俺もバカだよな」

 ううん、と雪蘭は首を振る。

「それで、もう一度医者のところに行って聞いてみようと思うの」

「いや」

 黎飛は否と首を振る。

「あらためて医者に聞いてももうどうにもならないだろう。それに、花憐さまが亡くなった時点で発疹があったことに医者は気づかなかった。自分の見落としを認めるはずがない」

「そうね……あの時も申し訳なさそうにしていたけれど、できることなら、これ以上このことに関わりたくないという雰囲気だった」

 黎飛は腕を組む。

「なあ雪蘭、この間薬草を分けてくれた、李慧雪さんのところを訊ねてみたらどうだろうか」

 あ、と声をもらし雪蘭は顔をあげた。

「あの方なら、もしかしたら花憐さまの発疹の原因が何か分かるんじゃないか?」

 黎飛の言葉に雪蘭は頷く。

「慧雪さまなら、何か手がかりを教えてくださるかも。ありがとう黎飛」

「お礼を言われるほどのことではないよ。そうだ、花憐さまが使っていたお化粧道具はあるか?」

「え? ええ」

 雪蘭は母が使っていた化粧箱の引き出しを開ける。そこに、いつも毎日かかさず塗っていた白粉や頬紅の容器を手に取る。

「それを持っていって慧雪さんに見せたらどうだろう」

「うん、そうだね! ありがとう。そこまで考える余裕がなかったわ」

 雪蘭は白粉の容器に視線を落とす。

 脳裏に、先日親切にしてくれた慧雪の姿を思い浮かべる。


 慧雪さんなら、何か教えてくださるかも。

 もう一度、慧雪さまの元を訪ねてみよう。


 本当は今すぐにでも慧雪の屋敷に飛んでいきたいところだが、母の葬儀が済むまでは難しい。急く気持ちを抑え、雪蘭は母の位牌を見つめた。

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