9 側女と義姉のたくらみ
「ねえ母さま、もし雪蘭があの女の死因に疑問を抱いて医者のところに行ったらどうする? これまでずっとあの女にまともな食事を与えず身体を弱らせ、さらに……」
心配そうに言う慈桂の口元に、如琳は手を当てた。そして、周りに誰もいないことを確認し、如琳は小声で言う。
「安心しなさい。花憐の葬儀は早々に済ませるわ。そうすれば、あの女の死因を確かめるすべはなくなる。それに、たとえ雪蘭が医者の所に行ったとしても、医者だって、わざわざ他人の屋敷の面倒事にわざわざ首を突っ込みたがらないはずよ」
「でも、あの産婆は? お産の最中に逃げ出すよう母様が指示したと誰かにばらしたら?」
「言うわけがないわ。仕事を放棄したと知られて罰せられるのは、あの産婆なのだから。それに、産婆には銀子を渡し、この町から出て行くよう命じた。慎ましく暮らせば、しばらく金に困らない生活ができるはず」
「さすが母様」
如琳はふふ、と笑い椅子にふんぞり返る。
「ようやく邪魔だった正妻を始末できたのよ。これからは、黄渓の正妻として私がこの屋敷の女主人になる。やっとね」
如琳は手を伸ばし、愛娘の両頬に添えた。
「おまえは何も心配しなくてもいいのよ。全部この母に任せればいいのだから」
「そうは言っても、やっぱり正妻の子には勝てないわ」
それほど、正妻と側女の立場は大きいのだ。
「それに、あの女にお願いされたのでしょう? もし自分に何かあったら、雪蘭には将来、よい夫を見つけ嫁がせて欲しいと。あたしはどうなるの?」
「ふん、そんな約束など守ってやる必要ないでしょう」
「そうだけど、あたしよりも雪蘭の方がいいところに嫁ぐなんて許せないのよ。ねえ母様、このさいだから雪蘭も始末しちゃおうよ」
何でもないことのように、慈桂は義理の妹を始末しようと言う。
「そうね。旦那さまもあの子を嫌っている。いなくなったところで誰も気に止める者もいないわね。だけど、あの女が亡くなったばかりだから今はまだだめ。頃合いを見て雪蘭も殺しましょう」
慈桂は嬉しそうに母に抱きつく。
「これでようやく肩身の狭い思いから抜け出せるのね。ああ……ずっとこの日が来ることを待ち望んでいたわ」
「そうよ。おまえもようやく正妻の子として、この屋敷で堂々としていられるの。誰もおまえを側女の子と言って蔑む者はいなくなるわ」
まるで祝杯だというように、如琳は酒杯に酒をなみなみと注ぎ一気に飲み干した。




