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復讐の後宮妃 この恨み絶対に忘れない  私を殺した悪徳妃に復讐を ー処刑された貴妃は、二度目の人生で牙を剥く―  作者: 島崎紗都子
第1章 新たな人生を生きる

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8 なぜ私のことを信じてくれないの

 医者が屋敷から去っていくのを見届け、雪蘭は如琳の部屋へ走った。扉の前で控えている如琳の侍女を退け、雪蘭は部屋に押し入る。

 如嵐と慈桂は菓子を食べながらお喋りをし、笑っていた。

 雪蘭は握り締めた手を震わせる。

 母が死んだのは、長い間虐げられていたせい。子を身ごもっても、悪辣な環境のせいで身体が弱り子を産む力もなかった。

 険しい顔をする雪蘭の姿に気づいた慈桂は、不機嫌に眉を寄せた。

「怖い顔をして何? 何か用?」

「母親が死んでもおまえをこの屋敷に置いてやるんだ。感謝するんだよ」

 雪蘭は如琳の元に歩み寄る。

「あなたが母を虐げたせいで、母は死んだ」

 如琳は眉根を寄せた。

「この子ったら、なんてことを言い出すんだい。屋敷に置いてやっている恩も忘れてひどいことを言うのね!」

 頬にじんと痛みが走る。目がチカチカした。頬を叩かれたと分かったのは、目の前に手をかかげている如琳の姿があったから。

「母が死んだのは、おまえのせいよ!」

 雪蘭は如琳の肩をどんと押した。

「ああ!」

 如琳がわざとらしい声を上げ、その場に倒れ込む。大袈裟だ。倒れるほど強く押したわけではない。如琳は痛みを訴え、はらはらと涙を落とす。

「わざとらしいにもほどがあるわ!」

 しかし、如琳の大袈裟な態度の理由をすぐに雪蘭は知る。

「おまえという奴は、なんて恥知らずで思いやりのない娘だ」

 その声に雪蘭は振り返った。

 扉の入り口に父、黄渓が険しい顔で立っていたのだ。

 如琳がニヤリと笑う。

「側女とはいえ、如琳はれっきとした私の妻。おまえにとっても、母であることには変わりないのだぞ。なのに、その母を突き飛ばすとは乱暴な娘だ」

 如琳が泣きながら首を振る。

「旦那さま、私は大丈夫です。雪蘭も母を亡くして心を乱しております。だから雪蘭を叱らないであげてください。それに私は、前から雪蘭に嫌われていたから、気にしておりません」

 手巾を目元にあて、さめざめと泣く如琳に黄渓は手を差し伸べる。

「立てるか、如琳」

「はい。ありがとうございます、旦那様」

 如琳は潤んだ目で黄渓を見上げ、続けて言う。

「いたらないところばかりの私ですが、少しずつ、雪蘭に好かれる母になるべく努力をしてきました。ですが……」

「そなたはじゅうぶんによくしているではないか。聞き分けがないのは雪蘭だ」

 ここぞとばかりに、慈桂は膝をつき黄渓に訴える。

「父上お願いです、雪蘭を責めないで! 花憐さまを救おうと母は医者を呼び手を尽くしました。でも結局、助けられなかった。母は家の差配で忙しく、代わりに私がもっと花憐さまのことを気にかけていればよかったのです。だから、母を責めるのなら私を罰してください」

「慈桂は優しい子だ。雪蘭もおまえほど心遣いの出来る子であればよかったのに。さあ、立ちなさい。膝を痛めてしまう」

 黄渓は慈桂の腕に添え立たせた。

「父上、感謝いたします」

「おまえも如琳も悪くない。花憐が亡くなったのは、元々身体が弱かったため。おまえたちが何も気に病むことはないのだ」

「旦那さま」

「父上」

 如琳と慈桂は互いに抱き合い涙した。それが演技であるのは明白なのに、黄渓は気づかない。

 黄渓は鋭い目で雪蘭を睨みつける。

「母の死を他人のせいにするなど言語道断。花憐は娘の躾を誤ったようだな。徐家の人間として恥ずかしい。おまえは部屋に戻り、徐家家訓を百回書き写しご先祖様にお詫びをしなさい。反省し、心を入れ替えるまで、部屋から出てはならん」

「父上!」


 どうして私の言うことを信じてくださらないの。

 なぜ、私に辛くあたるのですか。

 母を見捨て、如琳と慈桂の嘘に騙され私の言葉を少しも聞こうとしてくれない。

 この屋敷に私の味方などいない。

 いいえ、このままではいずれ私も殺されるかもしれない。

 母のように。


 ちらりと如琳を見る。

 彼女は嘲笑うかのように、口元を歪めこちらを見つめていた。

「さっさと部屋に戻りなさい」

 父の厳しい声に雪蘭はそれ以上何も言えず、部屋に戻るしかなかった。


「母上、もう少し待っていてくれたら、お薬を飲ませてあげられたのに」

 寝台の側で膝をつき、雪蘭は母の手を握る。

 血管が浮き出た細い手。顔もげっそりして、骨と皮ばかりに痩せている。

「これは、なに?」

 雪蘭は握った母の手を見て眉を寄せる。母の袖をめくり目を見張らせた。さらに、布団をめくり裾をたくしあげ、身体中確かめる。

「どういうこと?」

 身体のあちこちに赤い発疹ができていた。あらめて顔を見ると、やはり、いたるところにブツブツができ皮膚が爛れていた。

 いつもはしっかり白粉をはたいていたから分からなかったが、汗で白粉が落ちたせいで気づいたのだ。

 父に化粧が濃いと言われながらも、母は白粉をはたき発疹を隠していた。


 どうして?

 なぜ、母はこのことを隠していたの?

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