狂気の祭り
次の日の朝、大広間でバラバラ死体が見つかった。殺されていたのは、メイドのミッチェル。生きている本人が居ない事から、そう判断された。
その遺体の奇異な所は、手腕や首が、「引き千切られていた事」だ。
刃で切り取ったのではなく、腕力で、ミッチェルをバラバラにしたと考えられた。
「ゴーレム……」と、ユゲットが言う。「やっぱり、ゴーレムが実在しているのでは?」
「早まるな。もしかしたら、熊にでも襲われたのかもしれない」と、私は発作的なパニックを避けようと、言葉を続けた。「テレサ。昨日の、屋敷の戸締りは?」
「広間の鍵はしっかりかけました。鍵は、執事室に」と、テレサも青ざめている。「遺体を片付ける必要は?」
「ああ。頼む」と私は答えた。
ちらっと、ギルバートがこっちを見た。
「何だ?」と聞くと、「いや?」と返ってきた。
遺体をシートに包んで片付ける間、アンリーはずっと泣いていた。
「大袈裟な子ね」と、小さくマルガリータが言う。「もしかしたら、彼女が……」
「マルガリータ」と、ギルバートが同じく小声で諫める。「滅多な事を言うもんじゃない」
「貴方だって、犯人の候補よ?」と、マルガリータ。「人を引き千切るくらいの腕力を、お持ちでしょう?」
「よしてくれ」と、ギルバートは呻く。「幾らなんでも、そんな腕力は無い」
「どうだか」と、マルガリータは異様にギルバートに冷たい。
「トリスタン」と、セザーヌが呼び掛けてきた。「ユゲットが、自分の所にあった『テープ』を聞いてほしいと」
セザーヌの隣にいたユゲットは、私を見てこくりと頷いた。
私達は三人でユゲットの部屋へ行った。
呼びかける言葉は無かったが、テープの内容は非常に重要だった。
「お前に任されるのは、『制裁者』としての役割だ。枕元の鍵を、大事に取って起きたまえ。その鍵を使うのは、私の部屋の金庫の前で、だ。
もし、誰かが命の危機にさらされる事と成ったら、躊躇わずに相手の額を撃ち抜くのだ。
そして、『EMETH』の頭文字を消し取る。それが、お前の成すべき事だ」と続いた。
「枕元の鍵と言うのは?」と、私はユゲットに訊ねた。ユゲットは、「これです」と、銀色の鍵を取り出す。
「何故、今まで自分の役割を黙っていたんだ?」と問うと、ユゲットは深呼吸をしてから、「私が誰かを制裁するなんて……あんまりにも、荷が重すぎます」と述べる。
確かにまだ若すぎるユゲットには、誰かを断罪する係は困難だろう。
私達は、実際にアーカム氏の部屋に行ってみる事にした。
アーカム氏が、人を騒がせたがるお祭り好きかと言ったら、確かにお祭り好きだろう。
此処で、本当に銃と言う道具が出てきたら、そのお祭り好きは狂気の沙汰であると言える。
ユゲットに持って居てもらった鍵を借り、アーカム氏の部屋の金庫を開ける。ぎぃっと重い音が響いた。そして私は眉間によった皴を、指で撫でる事になった。
そこには、確かに六連式のリボルバーが置かれていたのだ。
私達は確認しただけで金庫を元に戻した。
そして、問題の鍵を誰が管理するかと言う所だが。
「トリスタン。貴方が持って居て下さい」と、ユゲットは言う。「私や他の人は、少し、落ち着きがないみたいだから」
「僕からもお願いします」と、セザーヌも言う。
私は、二人の意見を汲んで、金庫の鍵の管理を請け負う事にした。
遅い朝食を済ませ、私達は夫々の部屋に戻った。
この狂気の祭りを、後四日間生き延びられるだろうか。
考えれば考えるほど、「夜に眠らないほうが良い」気がしてくる。
大きな殺人や仕掛けが成されるのは、大抵夜間だ。そして私は銃のある場所を知っており、それを取り出すための鍵を持って居る。
コニャックを飲んで眠ってしまってから、その鍵が、恐慌に陥りやすい誰かの手に渡ってしまったら危うい。
私は、その日は昼食の後から眠っておく事にした。
夕食の前。私を呼びに来たセザーヌに、思いついた責任を話した。
セザーヌは、「今日の昼に起こった事を、知っておく必要は?」と聞いてくる。
「頼むよ」と、私は申し出た。
セザーヌが語る所によれば、マルガリータとギルバートは、互いに憎まれ口を叩き合う仲になりつつある。
セザーヌは、取り残されたユゲットに話しかけ、彼等は彼等で仲も良くなって来たそうだ。
「徹夜をするんだったら、僕とユゲットもお供します」と言うので、三人で私の部屋に集まる事にした。
誰かが眠りそうになったら、別の誰かが起こすと言うのを繰り返せば、夜間に眠ってしまうのを避けられる。
昼寝をしてあっても、流石に頭が重い気がし始めた頃。
「今、何か……」と、ユゲットが呟いた。
私も、客室の並ぶ廊下を、パタパタと走って行く足音を聞いた。
何かが起こったようだ。
私達は、廊下に飛び出した。
廊下の所々に、赤い滴りが落ちている。
足音の消えたほうを追って行くと、滴りもそちらへ向かっている。やがて、使用人達の部屋に辿り着いた。
半分だけ空いたドアの向こうで、ランタン明かりが燈っている。
私は空いているドアにノックをして、「失礼」と声をかけ、ドアを潜った。
白い壁紙が血濡れになっている。それは壁を伝って、床に流れ落ちて行っていた。
ベッドの上には、胸や腹部を切り刻まれたテレサが横たわっており、そのベッドの隣で、アンリーが座り込んでいた。腹にナイフが突き立っている。
「どう言う事だ……?」と、私は絶句した。




