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悲劇と言われる現象

 異変は女性達の間で話題になっていた。

「それじゃぁ、ユゲットの所にも?」と、マルガリータが緊張した声を出す。

「ええ。気味の悪い」と、ユゲットは口を押さえながら言う。

「二人とも、同じ内容だったの?」と、クレアが問い質す。

 女性二人は首を縦に振る。私は話に参加した。

「何かありましたか?」

「ベイリーさん。貴方の所には、テープレコーダーは?」と、マルガリータ。

 私は、「ええ。ありました」と二つ返事で答えた。「セザーヌとも話していた所です。屋敷の主人の趣向の様だと」

「趣向……」と呟いて、ユゲットは言葉を失う。

 マルガリータは、眉間に皴を寄せ、目を吊り上がらせている。

「あんな、呪いめいたテープが、何の趣向だと?」

「呪いめいた?」と聞くと、二人は囁くような声で答えた。

 どうやら、若い女性達の所に置かれていたテープには、「ギルバートが怪しい」と言う言葉だけが、何度も何度も、テープを切るまで繰り返し録音されていたそうなのだ。

「怪しいと言うのは?」と、重ねて尋ねると、マルガリータが「何の事かは分かりません」と答える。

 そのタイミングで、話題の人物が登場した。彼の眼は赤く、まだ眠たそうだった。

 その場に居る全員から、視線を受けたギルバートは、寝ぼけ眼を瞬いた。

「おはよう。何か?」

 私は、インタビュアーに成る事を決意した。

「おはよう、ギルバート。君は、自分の部屋のテープを聞いたかい?」

「テープ?」と、ギルバートは語尾を上げる。

 私は問い重ねた。

「ベッドの上に、テープレコーダーは無かったのか?」

「ああ、あったね。だけど、ちょっとチェストの上に避けて眠っちゃったな」

「ジョナサンからのメッセージカードは?」

 そう問うと、ギルバートは考える顔になった。

「確かに、黒いレコーダーの上に、白い紙が置いてあった気がする」

「見てないのか?」

「ああ。それが……。何か、重大な事なのか?」

 ギルバートも、段々と様子が分かり始めて来たらしい。

 私は提案した。

「分かった。ギルバート。すぐに、君の部屋のレコーダーを確認しよう。何か重要な事が録音されているかもしれない」

「私達も行って良いかしら?」と、クレアが言い出した。

 私はギルバートの方を見て、「女性に観られて恥ずかしい事は?」と囁いた。

「無いよ」と、ギルバートは嫌そうに応じる。

「了解」と答えてから、「それでは、三人ともついて来て下さい」と促した。


「見られて恥ずかしい事は無い」と言っていた割には、ギルバートの部屋はだいぶ荒れていた。

 テーブルの上には、インク瓶と紙とペンが一つ。どうやら原稿を書いて居たらしい。

 靴音が多いと思って振り返ると、セザーヌも女性達の後に付いて来ていた。

 今はそれより重要な事がある。

「レコーダーは?」と、私はチェストの上を見て言う。其処に無かったからだ。

「何処だろう。書いている途中で、何処かに動かしたかもしれない」と、部屋の主も周りを見回す。

 男二人で探し物をすると、黒いレコーダーはベッドの下から見つかった。


 ジョナサンの声がギルバートに呼び掛け、「これが二つ目の言葉になる」と言う、今の所、男達の間では共通している挨拶を聞いた。

「君にだけ聞かせたい、有益な情報がある」と、テープの中のジョナサンは言う。

「ジーン・ヘイワードに気を付けろ。奴の頭はイカレている。奴が屋敷に来た時の、異常な様子は見ているだろう? 常に緊張して、周りの様子を見てビクビクしている。もう一度言う。ジーン・ヘイワードに気を付けろ」

 私とセザーヌの所にあったテープとは、全く違う内容だった。

 私は左右を見ながら、「ジーンはどうした?」と聞いた。

 セザーヌが答える。

「食堂には来ていませんでした。僕、皆さんが食堂を出るまで見ていたけど、全然姿が無かったです」

 その言葉の次に、廊下からヨーゼフの助けを求める声が聞こえた。

「誰か。誰か、警察を!」


 ジーン・ヘイワードは、客室の中で死体に成っていた。

 全く起きてこないジーンの部屋を、執事が訪れ、鍵を開けたのだが、その時には既に部屋中血まみれだった。

 頭を殴られた痕があり、血液の固まり方からして、死後三時間以上は経過している。

 そして異変はもう一つあった。屋敷の中に一台だけある電話の、電話線が切られていた。

「ヨーゼフ。車はあるのか?」と、ギルバートが尋ねる。

 執事は「ええ。一台だけ。それで町まで移動できます」と返す。「すぐにでも、異常を伝えなければ」

「運転の技術に覚えのある者は?」と問うと、ギルバートと執事とマルガリータが手を挙げた。

「お嬢さんが運転を?」と、ギルバートは聞く。

「見くびらないで」と、マルガリータは強い口調で言う。「男に任せて居られないわ」

 マルガリータは執事の方に片手を差し出して、「車の鍵を」と命じる。

 しかし、執事も譲らない。

「山道の運転は険しい物です。レンガが敷いてあるわけでもない。此処は、私にお任せ下さい」

 マルガリータは暫くの間、唇を噛んでいたが、「そうね」と、執事の提案を受け入れた。

「頼んだわ、ヨーゼフ」と言って、手を引っ込める。

 執事は一礼し、「きっとやり遂げます」と述べると、外に出た。

 車庫の扉を開ける音と、車のドアを開閉する音がする。

 そして、恐らく、キーを回したのだろう。爆発音が響いた。車が、一瞬で火だるまになる。

 全員が、瞬く間に火炎が舐め始めた車庫を、窓から見つめる。

「ヨーゼフ……」と、セザーヌが呼び掛けながら、外に出ようとした。

「よせ。火が強い」と、私は彼の肩に手をかけ、呼び止めた。

 ギルバートも言う。「この炎じゃ、無理だ」

 火炎はパチパチと爆ぜる音を残し、車庫を丸ごと一つ焼き尽くした。


 ジーンの部屋を掃除し終えたメイド達に、事情を説明した。

「ジーンの部屋に、テープレコーダーはあったか?」と聞くと、年かさのメイドが、一歩踏み出して言う。

「ありましたが、壊されていました。まるで、石で叩き潰したように」

「中のテープは?」と、問うと、「機械がへしゃげていて、取り出せません」と、返ってくる。

「レコーダーを解体しよう」と、ギルバートが言い出した。「形が変形しているだけなら、テープを取り出して、別のレコーダーで聴ける」

「手伝います」と、セザーヌが申し出る。

 ギルバートは頷くと、メイドの方を見た。「この屋敷に、工具は?」

「あります。こちらへ」と、先のメイドが言い、ギルバートとセザーヌを連れて行った。

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