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序章

 大きく開けた入り江。

 太陽も沈み、空には満月がでている。

 月の光が明るいため、月の周りの星は見えない。

 洞窟のように周りは高い岩壁で囲まれているが、天井部分は丸い穴が開いている。

 下にたまっている海水に、月の光が反射した様子は、神秘的なものを漂わせていた。

 岩肌も明るい薄茶色のため、朝や昼間は十分明るい。

 その入り江に、一人の少女が佇んでいる。

 淡いピンクの生地に、白いフリルがついたネグリジェを(まと)っている。

 ピンク色の瞳に、水色の髪を腰まで流した可憐な少女だ。

 その少女は、海面を見ていた。

 いや。正確には、海面から姿を見せている人物達を見ていたのだ。

 そこには、少女の姉六人がいた。皆、髪型がベリーショートカットかショートカットをしている。

 彼女達は人魚だ。

 上半身は海面から出ていて、ビキニを着ているようだが、下半身は魚だ。

『アクア。このナイフで王子の胸を刺しなさい』

 青色のベリーショートカットの髪型に、ピンクの瞳の一番上の姉カエルラが内部を差し出し、テレパシーで伝えてきた。

 人魚はテレパシーを使える。

 誰もいない入り江とはいえ、どこで誰が聞いているかわからない。

 この世界は魔法も存在するため、誰かが魔法を使い襲ってきたり、見聞きをしているかもしれないと用心して、カエルラはあえてテレパシーを使った。

 アクアと呼ばれた少女は、ピンクの瞳を見開いて息をのむ。

 アクアにとって、王子は初恋の人だ。

 今も王子を(した)う心は消えない。

 王子の心が自分ではなく、違う女性にあってもだ。

 人間だけではなく、この世の生き物は、急所を狙えば死ぬ。

 胸を刺せば、人間の王子は死ぬのだ。

 例え、それが自分の意思とは関係なく、操られている状態でもだ。

 水色の髪と水色の大きな瞳の幼少の頃の王子と、背も伸び、声変りして大人びた今の王子の顔がよぎる。

 アクアは、ギュッと瞳を閉じる。

 ナイフを取るのをためらうアクアを見て、カエルラは言った。

『貴女がまだ、王子を想っているのはわかってるわ。でも、王子を殺さないと貴女を泡になって消えてしまうのよ。人魚にとって、それは死。私達は貴女に死んでほしくないの!お願い、アクア!このナイフで王子の胸を刺しなさい!!』

 青色のベリーショートカットに、ピンク色の瞳の二番目の姉シーニーと、藍色のベリーショートカットに赤色の瞳の三番目の姉ルラキも訴える。

『あたし達が王子を殺せるものなら殺してやるわ!例え、貴女に恨まれてもね!』

『そうよ!でも、私達では王子を殺しても意味がないの!アクア……貴女本人が…王子を愛している貴女本人が王子を殺さないと意味がないの!』

 青色のショートカットに、赤い瞳の四番目の姉ランセは、瞳に涙をためて言った。

『あの女が悪いのよ……。あの女が現れて、王子に魅力の魔法をかけたから』

『ランセ…』

 ルラキがランセの頭をそっと抱き寄せた。

『あの女が現れなければ、アクアは声を失うこともなかったのに…』

 青色のショートカットに、赤い瞳の五番目の姉シアンも瞳にたまった涙を手で拭いながら言った。

 人魚にも男性はいる。だが、昔から人魚は他種族とも(つがい)になり子孫を残してきた。

 他種族に嫁いだ女性の人魚は、一族に富と繁栄をもたらすとされている。

 また、人魚の歌声には治癒(ちゆ)と癒しの力がある。

 そして、人魚の女性は魔力も高いため、寿命が短い種族であれば、その伴侶は長生きできるという。

 ただし、その伴侶が人魚を心から愛し、(うやま)い、幸せにすればーーだ。

 伴侶が人魚を愛さず、(しいた)げ、(ないがし)ろにすれば人魚の心は傷つき声を失う。

 そして心を失い、やがて泡となって消滅する。

『アクア…。貴女にとても残酷なことを言ってるのはわかってる。でも……あの女の魅力から王子を救うには、もうこれしかないの……』

 アクアの一つ上の六番目の姉、ラピスが祈るように手を組んで泣きそうな顔で言った。

 シアンとラピスは、アクアとは年齢も近く、結婚もしていなかったため、姉妹の中では特に仲が良かった。

 他の姉達とも仲は悪くなかったが、他の海域の王族の男性人魚と結婚をして、家庭を持ち王族としての勤めなどもあり、安易に会える機会も徐々に減ってきていた。

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