第4話 恐怖を乗り切れ元勇者!
「もう終わりにしよう。魔王レイス」
そこには三人の人間と一匹の魔物がいた。
魔王が根城としていた巨大な魔王城はほとんど原型をとどめず、城にいた魔物達は全て掃討された。
「コウヘイ、トドメは任せていいか?俺とステラは捕虜にされていた人々を探す」
「ありがとう。頼んだ」
「魔王のこと、お願いします」
オルトとステラはそう言い、コウヘイのもとから離れた。
「さて、魔王レイス」
「……!!」
魔王レイスは右腕が飛ばされていて、全身中に聖剣による切り傷ができている。
呼吸をするのも激痛のようで、両膝は無様にも地面についている。
「愛すべき民のために、俺はお前をここで殺す」
コウヘイの聖剣が強烈にまばゆく。
魔王は苦しそうな表情で口を開いた。
「全ては邪神様の導きの通りに。私が朽ち果てようとも、魔族の栄光がつきることはないわ……」
「……そうか」
「なんてな」
バキッ…!!!
「な!!」
その瞬間、足場としていた魔王城が完全に崩れた。
それに合わせレイスは翼を生やす。
「残念だったわね!勇者コウヘイ!私はまだ死ねない!」
落下していくコウヘイを見て嘲笑し、魔王は上空に飛び立つ。
「ありがとう魔王。これで罪悪感なくお前を殺せる」
魔王が飛び立った直後、既に上にコウヘイはいた。
「そんな…馬鹿な!」
「拡散し闇を刺せ!!ラ・リュミエール・フィナーレ!!」
その瞬間、魔界の黒い空は砕けた。
コウヘイの剣先から放たれる光は何千本にも分かれ、それぞれが弓矢のような起動を描く。
死した魔物達が残したあらゆる痕跡をその光は許さない。
分裂した光は崩れた魔王城をさらに塵に変える。
魔王城から逃げ出した魔族の肉体を射貫く。
当然、魔王とて例外ではない。
「コウヘイィィィ!!!勇者コウヘイィィィィィィ!!」
光が晴れたあと、そこに魔王はいなかった。
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「あら久しぶり。君に倒されて以来だね、勇者コウヘイ」
「ま、魔王レイス…!なんで生きている!なぜここにいる!」
レイスは汗をだらだらと流すコウヘイを見て高笑いする。
「私の方が聞きたいわ。ここがどこかとかね」
「はぁ…はぁ…」
コウヘイは頭がいっぱいになりつつも必死に優先順位を整理した。
まず、絶対に確認しないといけないことは…
「…ここは地球だ。お前がいた世界とは違う。ここには魔力、能力を使える人はいない。そして魔族はお前だけだ」
「へえ不思議。私は力を使えるのに」
「(……最悪だな)」
「なんで生きてるかって聞いたわね。教えてあげる。君が私を殺そうとした瞬間、私は自身の生命エネルギーで転移魔法を発動した。君の手が届かない場所、という条件でね」
「そうか……」
康平がうつむくとレイスは左手を康平の方に向ける。
「君を殺す。今ここで」
今の康平に力はない。
仮に以前のレイスより弱体化しているにせよ、魔力を操れるレイスに勝ち目はない。
「…………」
康平は目を閉じ、つばを飲み込み、顔をあげた。
「……お前、弱体化しているだろ。わかるぞ俺には」
「うん弱体化してる。前と比べたら1%にも満たないかな。でも君ほどではないと思うよ。君からは魔力を全く感じない」
康平ははったりの笑顔を作り、胸に手をあてて答えた。
「そりゃ、抑えてるからな。こっちの世界は俺がもともといた世界だ。だからこそ、力を使えばここにいられなくなるんだ」
「ふふ、嘘くさい。私はここで力を使っても何の問題はないのよ?」
「……お前を殺したと思ったからこっちに帰ってきたのに、よりにもよってこっちで殺さないといけないのか」
「………」
康平は唇をかみしめて、吠えた。
「レイス!来るならこい!今度こそぶっ殺してやる!!」
「…………」
康平の挑発にレイスは数分くらい黙っていた。
彼女の鋭い目は康平の真意を探っているようだ。
康平もそれを承知ではったりの笑みを崩さない。
そして、レイスは静かに口を開いた。
「分かった。ここで君は殺さない。たとえ君に力がなくてもね。でも覚悟しなよ、力が再生したら、真っ先に殺しに向かうから」
レイスはそういい残し、その場から一瞬にして消えた。
レイスがいなくなったのを確認した康平は、無気力に膝をついた。
「あいつ…最後の最後で嘘言いやがって」
レイスが仮に全盛期レベルに回復したとしても、異世界の俺なら負けることはまずありえない。
レイス自身もそれは分かっているだろう。
であればレイスが俺を殺すタイミングは俺に力がないと確信したときだ。
「おまけに転移できるのは確定、と。どうすりゃいいんだよこれ」
先ほどより弱々しく吹く風は、康平の苦悩な未来を密かに暗示していた。
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―1週間後―
「さ、さてついにこの日がやってきた」
康平はしわ1つないポロシャツを身につける。
小綺麗な革靴を履き、新品の教科書ばかりが入った鞄を持ち上げる。
「康平、本当に気をつけてね」
「うん」
「友達には挨拶するのよ」
「うん」
「電車、降りる駅分かってるよね?」
「うんって」
「康平」
「かあさんちょっと!」
康平が少し不満そうな表情で見上げると、母の目は涙でたまっていた。
「頑張ってね……!学校」
そんな顔を見て康平は咄嗟に目を背けたが、すぐに向き直りドアを開けた。
「行ってきます。かあさん」
次回に続く。