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第2話 全てが事実

「うそだ」


康平は久々に見る自分の部屋を見て現実を受け入れられずにいた。


机の下に積まれた積みゲーの数々、机の上に転がったエナジードリンクの缶。ふけにまみれた枕。そして、張りのない康平自身の顔。




ここは間違いなく現実で、異世界なんかではない。




「俺……どうすればいいんだ。夢だったのか?今までの旅の全てが。嫌だ。オルトとステラが俺の妄想なんて嫌だ!」


康平は自分があの時言った言葉を思い出していた。




『オルト、ステラ。俺はお前達と出会えて良かった。お前達と出会えて、変われた気がする』




「何が…変われた、だ!俺は何にも変わってないじゃないか!引きこもりのクズになった瞬間すべて元通りだ!」




変われた気がした。


異世界転生した気になってチート能力を駆使して解決できる問題だけに取り組み、精神面も成長した気になってた。


いや、変わりたかったんだ。


高校でなじめず引きこもりになって2ヶ月、人生詰んでいた俺が、異世界転生とかで、環境から変わりたかったんだ。




「……俺、諦めたくないな」


康平は内側から鍵をかけられた扉を見てつぶやいた。


扉までよたよたと歩き、鍵を開けようと試みる。


でも開ける直前までいって、指がこわばって動かない。


指に力を入れようとしても、視界がゆがんでうまく動かせない。




もう今日は十分頑張ったと言い聞かせたくなる。




扉から目をそらした先には本棚があった。


今年使うはずだった、ほこりを被った教科書。


「何が…勇者だよ。指を捻るだけのことができないクズのどこが勇者なんだ」


苦しくて吐きそうで、自己嫌悪でどうにかなってしまいそう。


こんな時、どうしていただろう。


……そうだ。机の下にあるゲームだ。ゲームして考えないようにしていたんだ。




康平は扉に背を向けた。


今は無理だ。


今だけはダメだ。


またいつかの俺が、この扉を自主的に開けてくれる。


それを願って今日は……




『コウヘイ……』


「!!!」


康平は声がした方に即座に振り返った。


しかし、そこにあるのは茶色の扉のみ。


「ステラ……」


これは多分幻聴だ。


自分を活気づけるために作り出した偽のステラの声だ。


でも、それでも。


偽物でも。




俺が偽物の勇者でも。




ガチャリ……




力を貸してくれるなら応えたい。




「……今って朝だったんだな」


扉を開けた真正面にはレースカーテンでひらひらと光る眩しさがあった。


康平の自室はカーテンで閉め切っていて、日光が部屋に入り込むことはなかった。


「……行くか」


康平は手すりを伝い、静かに階段を降りていく。


この先には、リビングがある。


「………」


康平はつばを飲み込みながら見えてくるリビングをおそるおそる見つめていた。


少しずつ足が重くなってくる。


呼吸も少し窮屈だ。




でも、康平は歩むのを止めなかった。




「…………康平?」


「ぉ…はよう。かあさん」


ここが超えるべき未来だと信じて。




康平の母は状況を理解しきれてないのか、無言で立ち尽くしている。


康平もだ。


次にしゃべるべきことが分からなくなる。


でも、やっぱりはじめに言うべきことは。




「かあさん、今ま…」


ギュッ……!


康平が言い切る前に力強く抱きしめられた。




「ごめんね康平!今まで出してあげられ無くて!!!本当にごめんね!」




母からの突然の謝罪に、康平は困惑した。


久しぶりにまともに話す母。


今まで好きにしてきたのは自分の方なのに、なんで謝られるんだ、と。


でも抱擁から伝わる母の温かさに、康平は何もできず、


静かに、ボロボロと涙をこぼした。




「かあさん……俺の方こそ、ごめんなさい……ごめんなさい!!」




康平と母の抱擁はその後も5分程度続き、泣きつかれた康平から身体を離した。


「かあさん、俺、いつから行けるか分からないけど、絶対学校行くよ」


「うん。うん。康平、焦らないで頑張っていこうね……」




康平は感謝していた。


偽物でも力をくれた仲間達に。


もう会えない…というか存在してすらいない。


それでも背中を押してくれた仲間達に。




「ところで……康平」


母は遠慮がちに、聞いてよいのか迷っているような表情で尋ねた。




「Tシャツボロボロだけど…どうかしたの?」


「………え?」




次回に続く

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