第1話 夢のような世界
どこから間違っているかと聞かれたら、最初からだったと答えるだろう。
昔からアニメやゲームは大好きで、特にラノベやMMOは大好物だった。小学校から高校まで、様々なジャンルのアニメやゲームに手をつけた。
友達もいた。放課後一緒にゲームができる友達だ。
でも少し遠い高校に入学してからか、人間関係リセットと高校デビュー失敗の板挟みで、俺は途端に1人になった。
ゲームやアニメ以外でも知り合いを作ろうとはした。
でも高校までなにもしてなかった俺は他でなじめるはずも無かった。
そして俺は入学早々引きこもった。
……なんで今こんな話をしているのか?
さあ?
時々来るフラッシュバックを誰かに共有したいだけかもしれない。
まぁ、今となってはどうでもいい過去だけど。
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「コウヘイ!起きてください!今日がなんの日か忘れたんですか!」
朦朧とした意識の外側から、かわいらしい高い声で勇者、コウヘイの名を呼んだ。
「……ステラ。おはよう、今日は授与式……でも午後からだぞ」
寝癖で髪がボサボサなコウヘイにステラは顔を顰める。
「全く…勇者たるもの市民さま等の模範になる姿をしてください。全くあなたはいつも」
「「おはよう!!ステラ!コウヘイのやつは起きてるか!!!?」」
ステラの小言は馬鹿でかい音量にかき消された。
「……お前が来るまでは寝てたよ。オルト」
「そうか!奇遇だな!!」
コウヘイはすっかり起きてしまったので仕方なく朝の支度を始めた。
「今日の衣装はどうします?やはり身なりをきちんとするためにこのスーツを……」
ステラが差し出すスーツを除け、コウヘイはベッドの下に落ちていた服を拾い上げた。
「えぇ…それ着るんですか?」
「俺はいいと思うぞ!コウヘイらしさがでていて好きだ!」
コウヘイはこの世界では見られない模様の入ったTシャツを着た。
そのTシャツは今までの戦いのせいか、ところどころほつれ、破けている。
「ステラとオルトも普段着で行こうぜ授与式。その方が民衆に喜ばれる」
「いや…でm」
「「だよな!俺もそう思う!スーツ動きづらいしな!」」
「……はぁ、分かったわよ」
そうして勇者達は壁に立てかけてあった杖、斧、そして剣を取り宿屋をあとにした。
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「……ねぇ見てあれ。もしかして勇者様じゃない?」
「本当だ!勇者様一行だ!魔王軍を討ち滅ぼしたあの!!」
コウヘイ達が宿屋から出た瞬間、そこら中から歓声が湧き上がった。
「なんか……」
「照れますね…」
コウヘイとステラが赤面する余所に、オルトは両腕を広げてアピールしていた。
「オルトさんだ!戦士の中でも最強の実力と言われているあの!」
「しかも隣にいるのはあらゆる魔法を使いこなす伝説の魔法使い!ステラさん!」
「めちゃくちゃロリっぽくてかわいい!」
「も……もうやめてくださいぃ」
「よーし!サイン欲しい奴らは俺のもとに来な!」
オルトの慣れた対応とは対称的にステラは頭上から凄まじい量の蒸気を噴出していた。
「お前らやっぱりすごい人気だな」
「?お前ほどじゃないけどな」
俯瞰しているコウヘイの周りにはオルトとステラの倍以上の人数が囲っていた。
「(……身体が緊張して動かん……)」
コウヘイは表には出さないがステラと同じくらい照れていて、緊張していた。
「(なにか……アピールを……っ)」
コウヘイはチラッとオルトを見た。
「お、おい!勇者様を見ろ!」
「勇者様が……拳を上げている!!勝利のスタンディングだ!!」
「「うぉぉぉぉぉぉ!!!!勇者様ぁぁ!!!」」
コウヘイのたった1つの仕草に人々は割れるような歓声を起こした。
「(は……早く移動してぇ)」
次のネタが思いつかないコウヘイはひたすらにそう思った。
「よーし!これで100人目だ!あと半分はサイン書いてやるぞ!」
「(っ……くっそ!オルトめ!)」
「大変だ!大変だ!!」
歓声の外側から悲痛な叫びが上がった。
その瞬間オルトとステラは即座に真剣な表情に変わった。
さっきまで上がっていた歓声は途端に静まり返る。
「落ち着いて……落ち着いて話してください。どうしましたか?」
落ち着いた市民はゆっくりと話し始めた。
「ここから遠くの街……カルトスの知り合いから緊急連絡が来ました……。魔王軍の残党と思われる魔族たちが街を占拠しようとしていると……!門は既に突破され交戦が起きていてカルトスが劣勢……」
市民の報告を聞いた途端、辺りは困惑のざわめきが起こった。
「もし占拠され籠城でもされたら……」
「また新しい軍を作られてしまう……」
カルトスは人口5万人……ここベルキア王国首都の人口に近い巨大な街だ。
「ステラ!出発の準備をするぞ!」
「……無理ですオルト。ここからだとカルトスは遠すぎる。転移魔法を使っても最低1日はかかる距離です。着いた頃にはカルトスは……」
「クソッ……!どうにかならないのか!」
ステラとオルトが苦悩しているのを余所に、コウヘイは剣を引き抜いた。
「……コウヘイ?」
「完全特殊転移魔法、発動しろ」
剣先が地面に触れた瞬間、剣の周りから青白い領域が現れた。
「ステラ、オルト、悪いが1人で行かせてもらうぜ。すぐに終わらせるからな」
「で、でも!!」
ステラの心配に対し、コウヘイは不敵な笑顔を送った。
「ああ、信じて待つぜ。こっちは任せな」
オルトの言葉にコウヘイは頷き、青白い領域とともにその場から姿を消した。
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青白い領域は何もない大空に突如として姿を現わした。
その中からコウヘイは飛び出しカルトスの上空を滑空する。
「うわ、ひどいな」
カルトスはそこら中で火災や建物の倒壊が起きていて地獄絵図だ。
「神眼、発動。超身体強化、発動。聖力圧縮、開始……!」
「おい!お前達!あっちを見ろ!」
「あれは……魔王を倒したとされる勇者様だ!!」
絶望に満ちていた兵士達に活力が戻る。
『グギ……?何故勇者がここに!?ベルキアにいるはず……!』
『我々で勝てるのカ?』
『……!魔王様のカタキだ!この際だからやるぞ!お前達!』
ドラキュラのような羽を生やした魔族達が空中のコウヘイに襲いかかる。
『クタバレ!人間風情ガァ!!』
「無駄だ」
しかし、コウヘイに触れようとした瞬間、魔族達は跡形も無く消滅した。
『そんな馬鹿な!!……近距離戦は危険だ!遠距離魔法の準備をしろ!!』
今まで交戦していた魔族達は兵士から離れ、合体遠距離魔法を組み立て始める。
「神眼で場所は割れている。合計20箇所で合体魔法を放とうとしているのもお見通しだ。俺の目的は魔族達を集合させて効率よく倒すこと……強い種族はハイゴブリンとカーススケルトン、アークバットくらいか」
コウヘイは超身体強化で空中を蹴り飛ばし、空高くまで上昇する。
そして片腕を上げて手の先から目映い光があふれ出た。
『マズイ!お前ラ!防御スルンダ!!!』
「なんだ……あの魔法は…」
「魔法杖を無しに、たった1人であの規模の魔法…人間とは思えない」
驚愕しているのは魔族だけではなかった。
この規模の魔法を1人で扱えるのはコウヘイ以外にはいない。
「分裂し射砕け、ホーリーメイス!!」
カルトスを包み込む目映い光はあらゆる闇を残さなかった。
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「さて、そろそろサイン300人目だが、コウヘイはそろそろか?」
「……そうですね」
コウヘイが消えた後のベルキアでは、ステラとオルトが皆を安心させるためにサイン会及び握手会をしていた。
「ど、どうぞ」
「ほらサインだ。これからも応援してくれよな!」
「ありがとうございますっ!!オルト様!!大切に保管させていただきます!!……あ、その……ステラ様もサイン……ありがとうございます」
サインを受け取り握手をした市民は嬉しそうに去っていた。
「はははははは!!ステラお前気を遣われてるな!!」
「だ、黙ってください」
「気にすんなよ!サイン下手なのは慣れてないだけだしな!!」
「~~!!本当に黙ってください!!」
ステラがオルトの胸ぐらを掴もうとしても、背丈の差が大きすぎて届かない。
それを見てオルトがさらに爆笑していると……
「遅くなってすまん。今戻った」
青白い領域からコウヘイが戻ってきた。
「コウヘイ!戦いは終わったんですか?」
「え、ああ。10分くらい前に終わったよ」
「じゃあ今まで何を?」
「街がボロボロだし、けが人も多かったから修繕作業をしていた。さっき終わったところだから戻ってきたんだ」
コウヘイの言葉に市民含めステラとオルトも絶句してしまった。
とても信じられない言葉にあたりはしんとしてしまう。
「さ……さすが勇者様だ!!この方がいる限り人類に脅威は訪れない!!」
「うおおおおおおお!!!!」
静寂からぽつりぽつりと歓声が溢れる。
「うっ……(またこの雰囲気か……!)」
そこら中から湧き出る歓声にまたコウヘイは固まってしまった。
「こ、コウヘイ!そろそろ授与式の準備しないとです!行きますよ!」
それに気づいたステラはオルトとコウヘイを引っ張って王宮の方へ向かっていった。
「ステラ、寄り道したいところがあるんだけどいいか?」
「ええ?寄り道?時間ないって言ってるじゃないですか」
「頼む!すぐ終わるから!」
「いいぜ行こう!大体場所も検討つくしな!」
「ちょ、ちょっとー!!」
勇者3人は駆け足でその場所へと駆けていった。
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「ここは……展望台?」
「ああ、登ろう」
「……いいですよ」
ステラは時間がないと言おうとしたが、それを言わずに登り始めた。
「初めて会った日を思い出すな。コウヘイ」
「ああ」
オルトは懐かしそうな顔をして話し始める。
「お前が急に、優秀な戦士を探している。俺の仲間になれ~。とか言い出すから正直びっくりしたぜ。その時は近くの広場で決闘したよな」
「ああ、あれか。唐突で申し訳ない」
コウヘイは自分のコミュ障っぷりに苦笑する。
「私も同じような流れで会いましたね。コウヘイ服装変だし普通に不審者かと疑いました」
「そ、それは……すみません」
そうして話していると、展望台の頂上に着いた。
「……やっぱりこの街は綺麗だ。初日と同じで」
「初日……?」
「……あ、あ、初日ってのは俺がこの街に来たのがって意味ね」
展望台から見える街は中世らしい建築が立ち並び、オレンジかかった明るい色合いが平和を醸し出すような安心する景色だった。
「旅立った当日もここに来たよな!」
コウヘイは頷き、静かにオルトとステラの方を向いた。
「……コウヘイ?」
コウヘイは小さく口を開いた。
「オルト、ステラ。俺はお前達と出会えて良かった。お前達と出会えて、変われた気がする」
「ああ!俺もだ!」
「……うん、私も!」
「……ありが」
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「ありがとう………?……え」
康平は自分が横たわっていることに気づき、困惑した。
そして辺りを見つめてみると、机があり、その下には大量の積みゲーがある。
上を見れば、天井で、久しぶりにみるシミ汚れ。
康平は動きにぎこちなさのある身体を無理やり起こし、冷静に辺りを見て絶望した。
ここは、現実だ。
次回に続く