第6話「スライム野郎、ゴブリンテイムに挑戦する」
昨日のことを思い出すたび、胃のあたりが重くなる。
初めてのテイム。初めての授業。そして、初めての──スライム。
(ああ、なんでよりにもよってスライムだったんだ)
登校の足取りは重い。教室の戸を開けると、すぐに声が飛んできた。
「おいおい、スライム野郎が来たぞ!」
貴族の生徒たちが、こちらを見て口々に笑う。指をさす者、膝を抱えて左右にゆれる者までいる。
席に着くと、担任が入ってきて、棒読みで授業を始めた。
「本日は、“魂の分類”について。既に知っている者も多いと思うが……」
話し方に熱はない。板書すらせず、羊皮紙をそのまま読み上げるだけ。
周囲の貴族たちは、まるで聞いていない。ひそひそと、俺の話ばかりしている。
「……一度“テイム”をしたものの魂は、以降、別の種族をテイムすることができない。これが“魂の結びつき”というものだ。よって、テイマーが最初に結びついた種が、その者の一生を決定づける。慎重に選ぶように」
淡々とした教師の声が、乾いた空気に吸い込まれていく。
(これ、めっちゃ重要なこと言ってないか……?)
だが、そんな俺の戸惑いとは裏腹に、周囲の貴族たちはまったく聞く気配がない。
耳を澄ませば、俺へのあてこすりの計画が丸聞こえだった。
「次の実技、模擬魂だってよ。おい、あいつスライムに続いてゴブリンにでもなるんじゃね?」
「似合いすぎてて笑えるな」
笑い声が湧き上がる。教師はといえば、無視を決め込んだままだ。
「では次の時間、“模擬魂”の実践に入る。今日の魂は、ゴブリンだ」
嫌な予感しかしない。だが、逃げるわけにもいかない。
(くそっ……こうなったら、やるしかない)
昨日の夜のことを、思い返す。 ——あの黒い模擬魂。あれが俺に語った言葉。
俺が最初にテイムしたのは、ただのスライムじゃなかった。スライムキング——高位存在の模擬魂だったのだ。
恒例行事の冗談枠として、俺が“はずれ役”に仕立てられ、出されたのがそれだったらしい。
(……つまり、だしにされたってことだ、くそっ)
だが今回の実践は違う。今回は貴族たちも見せ場をつくらされるため、誰か一人に無茶振りをすることはできない。
そして、黒い模擬魂が昨日俺に教えてくれたこと——
『お前は、スライムキングとやりあったんだぜ?』
『ゴブリンなんて雑魚さ。心配するな』
何のアドバイスにもなってない。結局は気の持ちようってことか。
『その通りだ。知性の低い魔物は、魂と肉体のつながりの外に出られない。だから、それ以上のものにはならない』
『お前は、もうそれ以上の存在と戦った。だから、もう負けない』
そのときは、まだ半信半疑だった。だが、実際に模擬魂と相対すれば——きっと、わかるはずだ。
チャイムが鳴った。
実技訓練室へと向かう生徒たちの足音が、廊下に響く。
俺は深呼吸をひとつして、立ち上がった。
(今度こそ、やってやる)