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魔法vs弓士、距離2メートルの地獄

作者: 霧原零時

ファンタジー小説の書き手なら、一度は頭を悩ませる問いがあるでしょう。

それは、「もし魔法使いと弓士が戦ったら、どちらが勝つのか?」という、シンプルにして奥深い問いです。

弓士は狙撃、奇襲、そして静粛性に長けた戦士。姿を見せず敵を仕留めることを得意とし、間合いを保つことで生を繋ぐ職能です。

一方、魔法使いは圧倒的な火力と範囲攻撃に加え、バリアや感知能力で防御も兼ね備えています。

通常の戦場であれば、弓は届かず、当たらず、無力に見えることすらあるでしょう。


しかし、もしその戦場が、極限まで絞り込まれた状況だったらどうなるでしょうか?


遮蔽物なし、逃げ場なし、両者の距離はわずか2メートル。

弓士は弓を引く暇さえ与えられず、魔法使いも詠唱の時間を奪われる。

お互いに得意分野を奪われた究極の状況――そんな中で、なお「勝つ者」がいるとしたら、それは純粋な技術か、生への執念か、それとも運か。


今回はその問いに、正面から向き合ってみました。

この戦いは、ただのバトルではありません。

魔法と弓、戦略と本能、理と情――それらすべてを削ぎ落とした、「生き残り」の物語です。


◇◇◇

【決闘】2メートルの地獄

広大なスタジアムの中央。

静寂の中央に立つ、たった二つの影。黒衣を身につけ、長杖を構える魔導士ロア。

革鎧をまとい、弓を逆手に握る弓士ダイン。弓は背負ったまま、手にはありません。


弓士にとって、弓は遠距離で真価を発揮する武器です。この決闘の距離はたったの2メートル。

弓を引くことさえ困難な、絶望的な近さに見えます。弓は無力――そう思われたでしょう。

しかし、ダインは知っていました。この極限の距離でこそ、常識を覆す別の勝機が生まれることを。

そして、魔導士ロアもまた、この近距離が己の魔法を封じ、肉弾戦を強いる**「地獄」**であることを理解していました。


踏み出せば、死が待つ。けれど、退けば生きる術はない。

相手を殺す。それだけが最優先事項でした。


審判の声が響く。


「……始めッ!」


【1】 一拍目:接近と応酬


ダインが突っ込みます。

矢を刃のように逆手に握り、腹を狙って踏み込む。

矢はただの飛び道具ではなく、先端が鋭利な得物として機能する。

それに合わせ、ロアの杖が鳩尾を突きに来る――魔力ではなく、純粋な武器としての一撃だ。


「っ……!」


ダインは肩をねじって矢先で受け、火花が散る。

そのままロアの懐に身体を預け、腹部に肘を叩き込む。

ロアは苦悶の息を漏らし、杖で払い返す。脛がえぐれる。


【2】二拍目:倒れ、詠唱の兆し


ロアが転がりながら後退。距離、1.5メートル。


「ティア――ッ!」


詠唱だ。瞬時に相手を拘束するスタン魔法か。

ダインは躊躇なく地面を蹴り、全体重を矢に乗せてロアの足首に突き刺す。


「うあああっ!!」


ロアが悲鳴を上げ、魔力が空に逸れる。詠唱失敗。そのまま地面に押し倒され、もつれ合う。


【3】 三拍目:獣の殴り合い


「殺されるか……殺すか……!」


ダインが矢をもう一度握るが、ロアが手首を掴んで阻止する。

頭突き、肘、体当たり。どちらも殺す技術ではなく、生き延びるため、相手を無力化するための本能的な攻撃しか持っていない。


「死にたくねぇんだよ!!」


ロアが渾身で膝蹴りを叩き込む。ダインがのけぞる。


【4】 四拍目:最後の距離、最後の射


隙を突いてロアが転がり、距離を取る。杖を杖代わりに立ち上がり、詠唱を再開する。

その瞳には、死への恐怖と、生き残ることへの異常なまでの執念が宿っていた。


ダインもよろめきながら背負った弓を構える。弦に矢を番える手は震えていた。


「……終わりにしようぜ……」


二人が同時に構えた。だが――


ロアは、自らの命を繋ぐために、近くにいた審判の腕を掴み、盾にした。


矢が放たれる。審判が倒れる。血飛沫。


「ラグナ・エルヴィナ!!」


雷光。轟音。焼け焦げた肉の匂い。

ロアが放ったのは、周囲の空間を焼き払うような広範囲の攻撃魔法だった。


【5】 終拍:沈黙


崩れ落ちるダイン。その目は、「まさか」という色に染まったままだった。


ロアが膝をつく。勝った――そう言えた者は、いなかった。


◇◇◇


【戦いの真実】――勝利ではなく、生への執念

弓士と魔法使いが命を懸けて戦ったら。

現実に即して考えれば、それは華麗な技の応酬ではなく、このような、泥臭く、醜く、暴力的な生存競争になるのかもしれません。

そして――この戦いに、絶対的な「答え」はあったのでしょうか?

いや、たぶん――答えなど、最初からなかったのでしょう。

魔法使いと弓士。どちらが強いかではなく、どちらが最後まで**「生きたい」と願ったか。

ロアの審判を盾にするという選択は、倫理を度外視した、極限の状況における生への執着**を象徴しています。

物語は、常に“勝利”よりも、“生き残り”のリアリティを描くことで、より深みを持つのだと、私はそう信じています。


そしてこの考察が、あなたの創作に、ほんの少しでもヒントを与えることができたなら――

それは、私にとって何よりの喜びです。


――◇――◇――◇――◇――

同様の視点の以下のエッセイもついでにどうでしょうか。

『ファンタジー小説における“剣士vs魔法使い”問題――なぜ剣士は勝てるのか?』

https://ncode.syosetu.com/n7543km/


そして、わたしのファンタジー作品も読んでもらえると嬉しいです!

『アデン大戦記 ―反逆の血盟ネオフリーダム―』

https://ncode.syosetu.com/n1448ko/



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