やり直したい
誤字報告、感想ありがとうございます。
フェンタニル王国との戦争が終わり、我がセレニカ王国は敗れその名前は消滅した。フェンタニル王国に国を取られてしまったのだ。国土を焼かれ、民は皆、殺された。
騎士団長だった俺はセレニカ軍を率い、国を守る為に最前線で戦っていたが、連絡網は破壊され情報が届かなかったので、王都がすでにフェンタニル軍によって制圧されていることなど知らなかった。
我が軍は全滅した。騎士としての訓練をいくら積んでいても戦争の経験のない寄せ集めの軍隊は、百戦錬磨のフェンタニル軍とでは力の差は明らかだった。長い間平和だった我が国は平和ボケしていて、攻め込まれるなど思ってもいなかった為、何の備えもしていなかったのだ。
「聖女が守ってくれているから大丈夫」
我が国には聖女がいるから神から護られている。皆がそんな寝言をほざいていた。聖女など祈るだけでなんの役にもたたないのに。
我が軍は俺以外は全員死んだ。何故だ? 何故俺は死ねない。皆、同じ場所で攻撃を受けたのに、戦っていたのに、俺は擦り傷くらいにしかならず、周りの仲間が血まみれになり事切れていくのを見ているしかなかった。
ひとりになり、帰る国もなく絶望した俺は傭兵となり死に場所を求めて彷徨っていた。
俺には愛する人がいた。その人はセレニカ王国の王太子妃ゾレア。ゾレアに会いたい。ゾレアはどうなったのだ? 国なんてどうでもいい。ゾレアさえ助かればよかった。国の為に戦っていたのではない。ゾレアのために戦っていた。こんなことになるのなら、ゾレアを連れて逃げればよかった。
ゾレアとの出会いは学生時代だった。貴族学校の3年の時に編入してきたのだ。最初はマナーも何もできないゾレアに嫌悪感を持っていたが、いつのまにか惹かれていた。ゾレアは黒い髪と大きな赤い瞳が印象的な令嬢だった。父親である男爵が昔、メイドに手をつけ産ませた娘だったという。市井で暮らしていたが、母親が亡くなり男爵に引き取られた。1年間、男爵家で淑女教育を家庭教師から受け、貴族学校に通うことになったと聞いた。つい1年前まで平民だったせいか、表情が豊かで距離感の近いゾレアは、取り澄ました貴族の令嬢達とは全然違っていた。
その頃、俺には家が決めた婚約者がいた。婚約者のジェミニーナはセレニカ国の聖女であった。母同士が仲が良く、子供達を結婚させようと約束していた。そのせいで、年が近い俺とジェミニーナが婚約することになった。俺が5歳、ジェミニーナが3歳の時だった。
ジェミニーナが王立学校を卒業したら結婚して、俺が家督を継ぎ、ジェミニーナは聖女として国の安寧を祈りながら、2人で穏やかに、幸せに暮らすはずだった。ホワイトブロンドの髪、スミレ色の瞳。肌は陶磁器のように白く、儚げで消えてしまいそうなジェミニーナを愛していた。
それなのにゾレアに出会ってから俺は彼女のことしか考えられなくなった。ゾレアの赤い瞳に見つめられると心も身体も熱くなり、ゾレア以外目に入らなくなる。ゾレアがいればそれでいい。ゾレアのためならなんでもする。それくらいゾレアに夢中になっていた。
ジェミニーナは顔を合わせるたびに「ゾレアと離れろ。目を覚ませ」とうるさいことを言うようになり、疎ましくて仕方なかった。なんでこんな女と婚約してしまったのかと、母を恨むようになり、母を罵倒し父に殴られたこともあった。そんなこともあり、俺と家族の関係は修復不可能になっていった。それなのにジェミニーナとの婚約を破棄できない。あいつは聖女という立場で俺とゾレアの仲を邪魔しているのか。ゾレアはジェミニーナは偽の聖女で、本当の聖女は自分だと言う。その通りだろう。ゾレアの方が余程聖女らしい。教会にそれを認めさせ、憎いジェミニーナと婚約を破棄してゾレアと結ばれたかった。
だがしかし、ゾレアは俺ではなく、王太子だったテオドール殿下を選んだ。
「レル、ごめんなさい。殿下に言われたら断れないわ。うちはしがない男爵家。殿下が一言言えば跡形もなく没落してしまう。私が愛しているのはあなただけ。私が殿下と結婚しても傍で私を守ってほしいの」
ゾレアは俺の首に両腕を絡ませて頭を引き寄せ、涙を流しながら口付けをした。
殿下が婚約者の公爵令嬢をゾレアに危害を加えた罪で断罪した。婚約を破棄し国外追放にした。もちろん公爵家も降格させ力を奪った。そして、地位にものをいわせ、無理やりゾレアを自分のものにした。可哀想なゾレア。男爵令嬢が王太子に逆らうわけにはいかない。俺が守らなければ。俺がゾレアを守る。
俺は王太子妃となったゾレアを守りたいとゾレアだけのために生きる決意をし、表向きはテオドール殿下の側近として、ゾレアの傍にいることを望んだ。それは俺だけではなく、当時の王太子殿下の側近だった、リドカイン、コンスタン、アローノも同じ気持ちだったようで、王太子妃になった後も皆、ゾレアを愛し続け、支えていた。ゾレアは素晴らしい。誰もが夢中になる。ゾレアのことしか考えられなくなり、ゾレアの言うことが全てだった。
俺以外の側近達は婚約者と婚約破棄し、それぞれを罰したのに、ジェミニーナだけは教会に守られ隠されてしまった。
あの日、礼拝堂の奥の隠し部屋にジェミニーナが隠れているとの情報が入り、俺達は礼拝堂に向かった。祭壇の奥の隠し扉の奥の小さな部屋でジェミニーナは祈りを捧げていた。全く偽の聖女のくせにどこまで嫌なやつなんだ。
ゾレアがジェミニーナを指差し俺達に向かって叫んだ。
「早く捕まえて! この女は偽者よ。聖女と偽りセレニカ王国を滅ぼそうとしているわ。今も国が滅ぶように祈っているのよ。この者は本当の聖女である私を殺そうとしたのよ」
王太子も冷ややかな目でジェミニーナを見下ろしていた。
「イグザレルト! この偽者を捕らえよ!」
俺は前に出て、祈るジェミニーナの腕を掴み捻り上げた。
「私は殺そうとなどしておりませんわ。国を滅ぼそうなんて言いがかりです。レルト様、目を覚まして下さいませ。いつまでこの者に惑わされているのですか」
俺が惑わされている。馬鹿を言え。お前などに騙されるものか。ゾレアは目を潤ませて俺を見る。
「レル! 早く捕らえて! この者は悪魔に祈り国を滅ぼし、私を殺そうとしてるのよ。早く!」
俺はジェミニーナの身体を縄で拘束した。
「ニーナ、お前には幻滅した。聖女と偽り、この国や王太子妃を害するなど許されない。何度もゾレア妃に従えと言ったはずだ。お前はすぐに処刑される。あの世で後悔するがいい」
バタバタと暴れるジェミニーナを肩に担ぎ、城に戻った。ジェミニーナはしばらく牢に入れられ、尋問を受けたが最後まで罪を認めなかった。聖女を騙り、国を滅ぼし、ゾレアを殺そうとした罪で処刑された。これですっきりした。
もう、ゾレアの憂いはなくなったと思ったのに、すぐにフェンタニル王国が我が国に攻め入ってきた。俺はゾレアを護るためにフェンタニル軍との戦いに参加した。だが、フェンタニル軍は強く、我が国の軍隊は赤子の手を捻るように簡単にフェンタニル王国に負けた。王族は全て捕らえられ処刑されたと聞いた。ゾレアも処刑されたのだろう。俺は助けられなかった。守れなかった。
「レル、私を守ってね。たとえあなたが死んでも私を守ってね」
「あぁ、約束する。この命に替えてもゾレアを守るよ」
あの時、そう約束したのに俺はのうのうと生きている。死にたいのに。死ねない。どうして死ねないんだ。苦しい。ゾレアのいない世界で生きていたくなかった。
戦争が終わってから2年経った。死ねないまま死に場所を探し続け気がつけばこんなに遠くまで来ていた。
ここはリルゾール王国か。この国は大国で平和だ。魔法に長けていて、騎士団も魔法を使いながら戦うので強いと聞いたことがある。フェンタニルもバカじゃない。リルゾールに戦いを挑むことはないだろう。戦いなど無いはず。ここにいても仕方ないな。今日は野宿をし、明日の朝、次の国へ向かおう。俺は野宿の準備をはじめた。
「よぉ、にいちゃん。お前、魅了魔法がかかってるぜ。それも強烈に強いヤツだ。解いてやろうか?」
後ろから男の声がした。
「魅了魔法? なんだそれは?」
俺は反射的に振り返り、その男に答えていた。
我が国にも魔法はあるが、簡単な生活魔法を使う程度で、魔導士でも無いかぎり魔法など遠い世界のものだ。魅了魔法と言われても何のことだかよくわからない。男は片方だけ口角を上げた。
「魅了魔法とは、女に魔法で惚れさせられて、精神を拘束されるのさ。かけられた男はかけた女に意のままに操られる。女には効かないし、男は使えない魔法だ。多分かけたのは魔女だな。お前はそいつに夢中になり、そいつの言う事が全てになり、そいつの言うがままになった。お前はそんな魔法にかかってるんだ」
こいつ何を言っているんだ。馬鹿馬鹿しい。
「そんな魔法がある訳ない。聞いた事もない!」
俺は腹が立ってその男を怒鳴りつけた。
「お前まさか、セレニカ王国の人間か?」
「ああそうだ。死に損ないだ」
「そう言うことか……」
その男は何か呟いて、俺を憐れむ様に見た。
「セレニカ王国は魔法が普及していない国だったな。きっとフェンタニル王国はセレニカ王国に工作員を入れ、国の主要な男達に魅了魔法をかけて骨抜きにし、国の守りを緩ませて一気に攻め込んだんだな。フェンタニル王国が禁忌の魅了魔法を使っていると噂で聞いた事はあったが……」
「何を言っているんだ」
男はゾレアがフェンタニル王国の工作員で俺達に魅了魔法をかけて骨抜きにして、フェンタニル軍がセレニカに攻め入る手引きをしたと言っているのか? 馬鹿らしい。ゾレアがそんなことをする訳がない。憤る俺を男は上から下まで、舐めるように見て男は大きくため息をついた。
「解かない方が幸せかもしれんな。これだけ強く深くかけられているということは、お前は国の主要メンバーだったのだろう。傭兵になっているということは騎士か。その年からいくと王太子の側近、護衛騎士ってとこか。魅了魔法がかかっている間に取り返しのつかないことをやっているかもしれないな」
取り返しのつかないこと。ゾレアと離れてしまったことだろうか。よくわからないがそんな魔法をかけられたままでは気持ちが悪い。俺はその男を睨みつけたまま聞いた。
「あんたはその魔法を解けるのか?」
男はふんと鼻を鳴らす。
「朝飯前だ。俺はリルゾールの魔法騎士団長だ。魔法と剣の腕は誰にも負けないぜ」
「頼む。解いてくれ」
「後悔しても知らないぜ」
「後悔ならもうとっくにしている」
男はニヤリと笑う。
「そんなどころじゃない後悔だ。いいな?」
俺が頷くと、魔法騎士団長だというその男は俺の頭の上に手をかざし、ブツブツと呪文を唱えはじめた。
10分くらい経っただろうか。俺は身体や頭の中から何か重いものが抜け出していくような気がした。それは目でも確認できた。大量の黒いもやの様なものが放出されて消えていく。目もよく見えるし、身体も軽い。
「終了だ。どうだ?身体も頭もスッキリしているだろう?」
男の言うとおり、今までの俺は何だったのかと思うくらいスッキリしている。気が抜けたのだろうか、足に力が入らずその場にヘナヘナと座り込んでしまった。その瞬間、魔法をかけられていた間の記憶が頭の中に凄いスピードで戻ってきた。
「嘘だぁぁぁぁぁ!」
俺は絶望し、絶叫すると同時に剣を抜き、自分の首に当て一気に引いた。
「何故だ?何故死ねない」
頸動脈を斬りつけ血が噴き出したはずなのに、一瞬で血は止まった。
男は腕組みをしたまま苦笑いをしている。
「残念だけど寿命まで死ねないぜ。お前には加護の魔法がかかっている。加護の魔法は強力で寿命以外では死なないように、怪我や病気になっても直ぐに回復するようにかけられている。誰かがお前を思ってかけたんだろうな。もちろん魅了魔法をかけた魔女とは別人だぜ」
「解いてくれ! 今すぐ死にたい!」
その言葉を受け俺は懇願した。魔法にかかっていたとはいえ、あんなことをしてしまった俺はもう、生きてなんていられない。死ぬくらいでは償えないほど酷いことをした。
「無理だな。善意の魔法は解けないんだ」
男は小さくため息をつき、話を続ける。
「それにこれは神レベルの崇高な魔法だ。俺みたいな人間には絶対解けない。お前を大事に思っていて、神レベルの魔法を使える清らかな魂の者がかけた魔法。聖女とか、そういうような……」
「聖女……」
「そうだ、お前の国には聖女がいたな。それなのになんで滅びたんだ。聖女がいれば国は安泰なはずなのに」
「処刑した。俺が捕らえた……」
言葉にならなかった。俺は絶叫しながら号泣しつづけた。俺は何てことをしたんだ。魔法で操られていたとはいえ、愛するジェミニーナを殺してしまった。あの女のあんな言葉を信じてしまったのだ。
ジェミニーナは何も悪くない。何もしていない。俺のことをいつも思っていてくれた。心配してくれていた。なのに俺は……。
やり直したい。戻りたい。あの女が来る前に戻ってやり直したい。そして、ジェミニーナと生きたい。ジェミニーナを守りたい。
「戻れないのか? 魔法で時間を巻き戻す事はできないのか?」
俺は隣にいる男に詰め寄った。
「時間を巻き戻す魔法はあるが、お前には多分無理だ」
魔法があるならなぜできないんだ! なんでもできるんじゃないのか! 男は何か考えているようだった。しばらくして顔を上げた。
「時間を戻す魔法は難しい魔法なので、かなりの魔力がある者しか使えない。しかも、女神に認められた者しか使えないんだ。お前の時間を戻したいのなら、お前が魔法をかけないといけない。お前は魔力があるが、そんなもんではまだまだ足りない。地獄のような訓練を受け、魔力を増やしても女神が認めるかどうかわからない。でもまぁ、本気で戻したいならやるしかないな。認められるまで血反吐を吐きながら頑張れるならな」
「訓練を受ける! 頼む! 俺にその魔法を教えてくれ!! なんとしてでも女神に認めてもらう! このまま寿命が尽きるまで何もしないで生きているなんて俺にはできない。どんなキツい訓練でも受ける。頼む」
俺は男の足に縋りつき頭を地べたに擦り付け何度も何度も頼んだ。
「分かった。仕方ないな。ただ本当に辛いぞ。生き地獄みたいな修行だぜ。やれるか?」
「やる! 絶対やる! 俺にはもうそれしか無い」
それから俺の魔法修行が始まった。
その男はジオトリフと名乗った。ジオトリフの屋敷に行くと彼の妻が迎えてくれた。彼の妻はミオナールと名乗り、この国の聖女で、女神の眷属だと言った。
ミオナールの鑑定によると、俺の魔力は弱くは無いが、時を巻き戻す魔法を使える程の力は無い。時を巻き戻す魔法は女神に認められないと使えない。認めてもらえる魔力をつけるためにジオトリフとミオナールのふたりが俺を鍛えてくれるという。有難い。
魔力を増やすための修行が始まった。修行は思っていたよりもずっとキツいものだった。加護の魔法がなかったら何度も死んでいただろう。生きているのが信じられないくらいの凄まじさだった。戦場の方がましなくらいだ。寝る間も惜しみ血を吐き、何度も死ぬ寸前までいき、満身創痍になりながら毎日鍛錬した。
鍛錬している間だけは辛いことを忘れられた。1日も早く時間を戻し、ゾレアが現れる前に戻りたい。もう魅了魔法になどかからない。時間が戻ったらジェミニーナの為に生きる。赦してもらおうなんて思わない。赦してもらえないことをした。今度こそ命をかけて護るのはジェミニーナだ。ジェミニーナに一生尽くそう。ジェミニーナのために生きよう。俺はそう思っていた。
そして3年が経った。
「よく頑張ったな。見ている方が辛くなったぜ」
「ほんとに凄かったわ加護の魔法がなかったらすぐに死んでいたわね。余程魂が美しい聖女だったのね。でないとあそこまで強い加護の魔法はかけられないわ。そんな凄い魔法を使える聖女を殺して、国を潰しちゃったのね。イグザレルト、もう、頭は冷えた?」
ミオナールは辛辣だ。訓練の間中、俺の心にぐさりぐさりと目に見えないナイフを差し込んできた。悪いのは俺だ。仕方がない。ジェミニーナの気持ちを考えてみたらこんなことくらいなんでもない。俺は愛するジェミニーナの心も身体も傷つけたのだから。
そして俺はようやく女神に認められた。女神が俺の前に現れたのだ。
「よく頑張ったわね。この魔法は、魔法を使った者に近く、魔力が強い者や強い心残りがある者の魂が巻き込まれて引っ張られることがあるの。時間が戻る前の世界の記憶がある者がきっといるから、見つけだして、皆で協力して未来を変えなさい!」
女神は神々しく輝いている。
「今度は聖女を大切にしなさいよ」
「はい」
「では、また会いましょう」
女神は消えた。
ジオトリフが俺の肩を掴んだ。
「セレニカ王国を取り戻せ。フェンタニル王国の好きにさせるな。お前は時間を戻し、聖女を取り戻す。そしてセレニカ王国も取り戻すんだ」
目を見て力強く言う。俺は大きく頷いた。
「あぁ。フェンタニル王国の好きにはさせない。色々ありがとうございました」
「おぅ、いいってことよ。そうだ、必ず会いに来いよ。時間が戻った世界でも俺はお前を助けてやる。お前は子供の頃に戻るはずだから、戻ったらすぐに手紙を寄越せ。リルゾール王国魔法騎士団のジオトリフで手紙は届くはずだ。分かったな!」
「必ず会いに行く。手紙も書く。待っていてくれ。それじゃあ行くよ。またな」
俺は時間を戻す魔法の呪文を唱えはじめた。目の前のジオトリフ達の姿がだんだん薄れていき、消えると同時に俺の意識も途絶えた。
「レルト、おかえりなさい。今からフローラの赤ちゃんに会いに行くんだけどあなたも行かない? 1歳になったので領地から王都に戻ってきたの」
母だ。フローラの赤ちゃん?
「どうしたの? ぼーっとして。剣の稽古でつかれたの? やっぱり行かないわよね。赤ちゃんなんて興味な……」
「行きましゅ!」
母の言葉を遮り返事をした。フローラの赤ちゃんとはジェミニーナのことだ。
上手くいった。魔法が成功した。上手く時間が巻き戻ったんだ。良かった。本当に良かった。ジェミニーナが1歳なら俺は3歳か。だから言葉がまだちゃんと喋れていないのだな。
この格好だと剣の稽古の帰りか。確か俺は3歳になる前から騎士団長だった父から剣の手解きを受けていた。時間が戻る前に、ジェミニーナと初めて会ったのは俺が5歳の時だから、今日会えば過去が変わる。前はこの時の母の誘いを断ったのだ。
俺は母と共に馬車に乗りジェミニーナの屋敷に向かった。
ジェミニーナの屋敷に到着すると、子供部屋に通された。白いベビーベッドの中にジェミニーナはいるようだ。
フローラおばさまが俺に手招きをする。
「レルト君、ジェミニーナよ。こちらに来てニーナの顔を見てあげて」
声をかけられ、ジェミニーナの傍に行き、ベビーベッドを覗き込んだ。
天使のようなジェミニーナがすやすや眠っている。ふくふくとした薔薇色の頬を撫でた。温かい。ジェミニーナは生きている。
この人生では、婚約者になどならず、聖騎士となりジェミニーナに一生仕えるつもりだ。魅了魔法にはかからない無効の魔法も身につけた。もう二度とジェミニーナを失いたくない。
「今度は絶対護るよ」
気がつくとジェミニーナにそう言っていた。もう、間違わない。俺はジェミニーナの為だけに生きる。
あの時、女神に誓った。時間を巻き戻し、ジェミニーナを幸せにすると。今度は絶対護り抜く。
俺はいきなりジェミニーナに騎士の誓いをし、母達をびっくりさせた。
さぁ、仲間を探そう。未来を変えるんだ。
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