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1話

「みんなお昼ご飯の時間だよその女の人を苛めえええめるのはお休みして手を洗って血を落として先生の血で育てた愛情たっぷりの虫さんを食べようその後は『性きょういく』の時間だよ先生に漫画で女の人の遊び方を教えてもらおうその後は3000hzの子守歌でお昼寝しようねそうじて葬して躁してソウシテそしたら、そしたら井鳥の中だけの話ね私はわ、たし?オレ?ぼく?わたくくく」

「先生、霧原さんが発狂したので保健室に連れていって早退します。起立、気をつけ、礼。先生さようならみなさんさようなら」

 僕が荷物をまとめていると、彼女の頓服が切れていることに気づいた。まあいい僕の分を飲ませるだけだ。

 詩音はシャーペンを何度も何度も手の甲に突き刺してとろとろと流れる血の川がノートを赤く染めていた。僕は力づくでシャーペンを取り上げる。先端が曲がっていたので床に捨てて背中をさする。

「ほら、詩音。帰ろうね。頑張ったね」

「オトギ、オトギは大丈夫御伽だけは大丈夫気持ち分からない気が違ってないから御伽」

「うんうん、大丈夫だねー手出して——右手。はいお薬。お茶があるからね——うん。保健室で手当てしよう」

「病院入れよ、サイコが」

そんな言葉が舌打ち混じりに聞こえた。

病院は駄目なんだな。

ああいうところでは、詩音はお姫様になっちゃうんだ。

安定剤をほんの少し多めに飲ませ、寝かしつけた後、僕は視界のウィンドウを操作しニュースサイトを読む。

【それは愛か、呪いか】

考古学の研究者である五十二歳の男性の書斎からエンバーミング処理を施された容疑者の娘を含む五歳から七歳の少女の遺体が七体発見された。少女たちの死体は性的暴行の痕跡以外に損傷は見られず、なんらかの方法で損壊の無い死体を蒐集し続けていたとして捜査が続けられている。男性は二十年前に白血病で娘を亡くしており、妻と離婚していた。サイコミームは「ロザリア・ロンバルト」と診断。

【環境保護】

 三十代の女性が地下室に五人の男女を数年間監禁。廃棄される食糧を引き取り金銭を貰い、被害者に食べるよう命じていた。容疑者は被害者同士で性行為を行うことを強制しており、救出されたのは八名だった。「もっと食べ物が無駄にならないよう人を増やしたかった」と供述。フードロス関連の文脈のサイコミームが疑われている。

【子供の遊びと思ったら】

 十歳の少年が五歳の弟に対し、「お医者さんごっこ」と称し独学で身につけた薬学の知識で依存性薬物を投与していたことが、誤ってオーバードーズを起こし救急搬送されたことにより判明。被害者の五歳児は一命をとりとめたが、複数の薬物を長期間接種したことで回復は絶望的。少年がアクセスしていた匿名掲示板の薬物コミュニティにおいてサイコミームが検出された。



世界は狂ってしまった。

ARデバイスにより、インターネットが更に発達した少し過去、異常猟奇犯罪の増加が社会問題となっていた。

それらの原因を突き止めたのは専門の心理学者や社会学者ではなく、心理学の博士号も持つ言語学者だった。

彼はインターネット上でやり取りされる文章の中に、一見普通の文章に見えても人を狂気に陥れる文章、病質言語が隠されていることを発見した。

これらはミームとして拡散し、変質し、また拡散し、病質言語を発見次第削除するwebボットを放流してもすぐに定義から外れ変質した病質言語が生成され、イタチごっこの末、インターネットの利便性が低下したことによる民意、言論統制の手段であるという陰謀論、そして「キリが無い」ことから現代では病質言語のミーム、「サイコミーム」が野放しになっていた。

「サイコミーム」は通常そのミームに触れても感染しない。ストレス。トラウマ。なんらかの要因で心が不安定になっている人間が、その「要因」に入り込む「ミーム」に触れた時、感染、発症する。

だから自分の心が健康だと信じている大多数の人間はサイコミームなんて恐れてはいない。

殺人鬼は恐れているだろうが、それは山に登るとき「熊が出たらどうしよう」と考える程度の不安とも呼べない恐怖で、世界中が異常殺人に溢れても、人々は意外とのほほんと暮らしている。

本当に、この世界は狂ってしまったのだ。


今日も早退か、なんて思いながら、僕は狂ったニュース記事を読んでいた


僕は自宅でタッチグローブをはめ、フットトラッカーを付けてからレンズをVRモードに切り替える。タッチグローブという電気刺激で触覚を再現するグローブが実用化されたおかげで人々は遠く離れた恋人と手を繋ぎ、対戦相手と力比べが出来る様になった。銃撃ゲームやMMOも人気だが僕はいまいち好きじゃない。広大なVR空間を部屋の中で動くのに、片方どちらかのグローブをコントローラーに設定するか、フットコントローラーを使って足で操作する必要があるからだ。没入感もクソも無い。なにが仮想現実(VR)だ。フルダイブ技術が完成してから大仰な名前を付けて欲しい。

その点狭いリングで戦うボクシングやナイフファイトゲームは最高だ。部屋の中程の広さのリングを動き回る分にはレンズが移動を検知し、フットトラッカーが足の動きを再現してくれる。

僕が今ハマっているナイフファイトゲームはアバターに人体の構造が完璧にモデリングされており、どこを刺し、どこを切ったらどうなるか完全に再現されている。心臓を一突きしようが手首の腱を切ってナイフを持てなくしてからめった刺しにしようが相手を殺したら勝ちってワケだ。

僕は相手の突きをかわし、首を掴んで大外刈りをかけてから馬乗りになった。

相手の死亡判定が出てアバターが消えるまでのわずかのあいだに僕は笑いながら目の前の引き締まった体のアバターを滅多刺しにする。

刃物で殺さずにいたぶる術は身体が覚えている。

あの狂気の城で、子供の僕はそれだけをしていたのだから。

相手のアバターは血まみれで、もう両手両足の腱をぜんぶ切り飛ばしてやったからびくびく痙攣するだけだ。内臓や、太い血管を避けて、刺して、刺して、刺し続ける。

首に刃を当て、一閃すると血の噴水が吹き出す

死亡判定が出て、マッチ終了。僕は世界ランキング1位の文字を眺めている。


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