第8話 守護獣ジンガロプス
友成はデバッグルームを出て、洞窟に戻った。
「なんか、プレイ999時間59分ぐらいのステータスになった気がする」
レベルMAX、所持金MAX、入手可能な装備品全て999個、魔法全取得、特技全取得など遊び終えた後の状態になっている。
装備もゲーム内最強の「灰炎」シリーズに変えている。
灰炎の剣の能力が凄い。霊体でも何でも斬れちゃう。攻撃が当たらなくて嫌な思いをしなくていい。
「難易度調整とかフラグ系がなかったの謎なんだけど」
千戸浦の声が聞こえる。
「まぁ、いいじゃねーか。これで魔王を倒せるだろ」
この状態で倒せないボスがいたなら攻略不可能だわ。無理ゲーだわ。
「う、うん。その状態ならいけると思うんだけど」
「じゃあ、ちょっくら魔王捻り潰して来ますわ」
「おい、グレイ。誰と話してるんだ」
友成の体内からヴァイルドの声が聞こえる。
「ひ、ひゃい。えーっとですね」
友成は突然の事で動揺している。
このタイミングで話しかけてくるかね。それに和紗の事をどう説明すればいいんだ。何も考えてなかった。てか、そこをついてくるって思わないじゃん。
もしかして、ヴァイルドは心を宿したAIだったりして。いや、そんな事ねぇよな。
「それにいつの間に魔法や特技などを習得したんだ」
「そ、それはですね」
考えろ。考えるんだ。
「所持金やアイテムの量も凄いじゃないか」
「あ、あれだよ。か、神様が与えてくれんたんだ」
我ながら苦し紛れな答えだ。
「そうか。神様が与えくださったのか。それなら納得出来る」
「お、おう。だから、突然会話を始めたら神様と話し合っていると思ってくれ」
これで納得してくれるのか。してくれるならありがとうけど。けど、それでいいのか。ヴァイルド。
「わかった。そうしよう」
「ありがとう」
まぁ、どうにかなってよかった。一件落着だな。
「神様である。よかったな」
千戸浦のふざけた声が聞こえる。
「うる、うん」
友成は「うるせぇ」と言いかけたが言い止まった。言えば、ヴァイルドがその口の聞き方は「無礼であるぞ」とか言いそうだし。
「うるうん?」
ヴァイルドは訊ねる。
「なんでもない」
「そうか。それならよい」
ヴァイルドは納得した。
「ごめんごめん。ちゃんとするから」
千戸浦の声が聞こえる。
友成は頭を縦に振る。
「じゃあ、魔王を倒しに行くぞ」
「このままでか」
「おう。倒せるだろ」
99レベだぞ。勝てるに決まってるだろ。
「……無理だ。復活した7匹の守護獣を倒さないと勝てない」
「復活した守護獣?」
そんな奴らがいるのかよ。
「魔王ラズルメルテの手下であり魔力増強装置としての役割を持っている獣達だ。俺達が一度倒したが魔王ラズルメルテの復活と同時に奴らも復活した」
「それじゃ、今の魔王ラズルメルテは最強の状態ってことか」
めんどくさいぞ。かなりめんどくさい事になってきたぞ。
「あぁ、そう言うことだ」
「じゃあ、一体ずつ倒して行かないとダメって事だな」
「ご名答」
「あーめんどくさい。倒しに行くぞ」
言う事聞いて倒していくのがクリアの最短ルートだな。このまま行けると思ってたのに。
「それじゃ、ジンガロプスから倒しに行こう。ここから一番近い」
「場所は?」
「オラン・ベルクヴェルクと言う鉱山だ」
「了解。それじゃ、リコレライゼ」
友成は移動魔法を唱えた。友成の身体が浮上していく。
デバッグルームで移動可能な場所は登録済みだ。
「おい、待て」
ヴァイルドの焦った声が聞こえる。
「なに?」
友成の頭は洞窟の天井に直撃した。
無茶苦茶痛てぇ。意識飛びそう。
その後、友成は地面に落下した。
忘れてた。洞窟の中だったの。
「しっかりしろ。焦りすぎだろ」
「悪い悪い。次はちゃんとするから」
「次?」
「トラス・リコレライゼ」
友成は魔法再び唱える。
デバッグルームで手に入れた制作者だけが使用可能な移動魔法。建物やダンジョンなどの障害物を身体を透過してすり抜けて、目標地まで移動できる。
友成の身体が透明になって、浮上していく。
身体が透明になるってなんか変な感覚だ。
友成の身体が洞窟の天井をすり抜けて、上空へ向かっていく。
な、なんだこれ。このにゅわーむにゃーっ感じ。気持ち悪い。気持ち悪すぎる。
友成の身体が上空で一度停止する。その後、オラン・ベルクヴェルクへ超高速で向かっていく。
ちょ、ちょい、ちょい。速すぎる。速すぎるって。こ、これ、上手く着地できる気がしないって。ど、どうするの。お、俺。
上空を超高速移動している友成の視界の先にオラン・ベルクヴェルクが見えてきた。
鉱山って聞いていたけど黒い雪のせいで雪山みたいになっているな。まぁ、それはいいとして。
やばい。本当にどうしよう。着地までの時間がない。
友成の身体が地面に向かって落ちていく。
このままじゃ、足が突き刺さるぞ。それで大丈夫なのか。絶対痛いぞ。痛いレベルじゃないぞ。でも、何も思いつかない。あー痛いのは仕方ない。だったら、一番痛みが少ない部位で着地するしかない。
友成は身体を折り曲げて、お尻から着地するように体勢を整えた。
尻が剥ける。確実に剥けて赤くなっちゃう。ゲームだからよしとするか。でも、このゲームの痛いは本当の痛いと変わらないし。
友成の身体が地面に直撃しそうになった瞬間、全ての動きのスピードが急激に遅くなった。そのおかげで友成はお尻から地面にゆっくり着地した。
なにこれ、焦って色々と考えたのに。普通に着地できるのかよ。まぁ、そりゃそうだよな。制作者がちゃんと着地できないもの使わないよな。あー、馬鹿だな、俺。
「大丈夫か、グレイ」
ヴァイルドは心配そうに訊ねる。
「お、おう。大丈夫。ジンガロプスを探そう」
友成は立ち上がって言った。
「誰を探すだって」
友成の背後から野太い声がする。
「だから、ジンガロプスだよ」
「そうか。そいつならお前の後ろにいるぜ」
「え?」と、友成は振り向く。そこには不適な笑みを浮かべながら棍棒を振りかぶっている一目の橙色の巨人がいた。
「死ねぇ」
一目の巨人は振りかぶっていた棍棒を友成に向かって振り落とした。
「危ねぇ」
友成は即座に反応して避けた。
マジで死ぬかと思った。避けられない速度じゃないけど、かなり速いぞ。
一目の巨人が振り下ろした棍棒が地面に直撃した。
地面はクレーターみたいに抉れている。
1発当たるだけで大ダメージだな。
友成は一目の巨人の頭上に視線を向ける。頭上には《ジンガロプスLV85》と表示されている。
「レ、レベル高すぎじゃありませんか」
ラスボスと14レベルしか変わらねぇじゃねーか。
「逃げんなよ。遊ぼうぜ」
ジンガロプスは棍棒をフェンシングの剣のように使って超高速で連続突きをする。
友成はそれを最小限の動きで全て避ける。
危ねぇわ。棍棒で連続突きすんなよ。避けらない速度じゃないからいいけど。
友成は隙を見て、ジンガロプスを灰炎剣で斬る。
「痛てぇ、痛てぇよ」
ジンガロプスは痛みに悶えている。
ダメージは与えられているみたいだ。
「ヴァイルド、ちょっといいか?」
「なんだ?」
友成の身体の中からヴァイルドの声が聞こえる。
「こいつを倒したんだよな」
「倒したがこんなに強くなかった」
「え? マジで」
「あぁ、超高速突きなんてなかった」
「じゃあ、ほぼ別人? いや、ほぼ別獣?」
「そう言う事だな。役に立てなくてすまん」
ヴァイルドは謝る。
「別にいいけどさ」
ヴァイルドが知っているジンガロプスなら簡単に倒せると思ってたんだけどな。やっぱり、そんなに上手くはいかないよな。
「お前は俺を怒らせた。本気でお前を殺してやる」
ジンガロプスは棍棒を地面に突き刺す。その後、左手を地面に置く。すると、地面に魔法陣が現れた。
ジンガロプスは魔法陣に左手を突き刺して、何かを掴みあげた。
掴み上げたのは棍棒だった。
ジンガロプスは地面に突き刺した棍棒を右手で引っこ抜く。
「両手棍棒かよ」
いやいやダブル棍棒って。どんな攻撃仕掛けてくるんだ。
ジンガロプスは友成に駆け寄る。その後、「処刑の時間だ」と、左手の棍棒は突き上げて、右手は突きの構えをしている。
どっちから先にしてくるんだ。分からねぇ。避けるか。いや、避けるより攻めよう。
「攻めあるのみ」
友成は超高速でジンガロプスの背後に周り込む。
「な、なんだと」
ジンガロプスは動揺してしまったのか、左手で突き上げていた棍棒を振り落としてしまった。
「チャンス」
友成はジンガロプスの背中を灰炎剣で斬りまくる。
ジンガロプスは灰炎剣のダメージで両手の棍棒を手から離してしまった。
ここしかない。攻撃を止めるなよ。
友成はジンガロプスの前に回り込み、灰炎剣で斬り続ける。
ジンガロプスはダメージで何も出来ていない。
友成はジンガロプスが倒れるまで灰炎剣で斬り続ける。
「申し訳ありません。ラズルメルテ様」と、ジンガロプスは叫んで背中から地面に倒れ込んだ。
ジンガロプスの身体は煙のように消えて行った。
「……倒したんだな」
友成は息を切らしている。
一瞬でも気を抜いたらお終いだったかもしれない。
難易度高すぎだろ。それにこの戦いが初バトルよ。
少しは手加減してくれよ。99レベルでも余裕はないぞ。
「よくやったな。グレイ」
「ありがとう。でも、これで分かったな。他の守護獣も同じように強い」
「そうだな。すまないが頑張ってくれ」
「わかってるよ」
あと6体か。考えるだけでゾッとする。けど、倒さないとクリア出来ないからするしかない。