表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/50

第6話 もう一人の勇者とメニュー画面


友成は洞窟の前で倒れていた。

「グレイ、グレイ。目を覚ますんだ。グレイ」


友成の脳内に男性の声が直に語りかけている。

だ、誰だ。誰なんだ、君は。


友成は意識を取り戻した。


「ここはどこなんだ」


友成は立ち上がり、周りを見渡す。


洞窟、黒い雪に覆われた木々、背後には滝がある。

そうか。俺は橋から落ちて川に流されたんだ。


そして、途中で意識を失った。その後、ここに流れ着いたってところか。


「洞窟に奥に進むんだ。グレイ」

友成の脳内に男性の声が直に語りかけてくる。


誰か分からない奴を信じていいのか? けど、何をすればいいのかも分からない。だから、今は従った方がいいはずだ。


友成は男性の声に従い、洞窟の中に入る。


洞窟の中は暗いが何も見えない程でもない。敵の気配もしない。


友成は洞窟の奥へ進んでいく。


「何だ、あれ」


友成の視界の先に台座が二台見える。片方の台座には白色のオーブが乗っており、もう片方の台座には剣が刺さっている。


友成は台座の元へ走って向かう。


「オーブを触るんだ」


友成は男性の声に従い、オーブに触れた。


すると、友成の脳内に幼い少年二人と女の子が楽しそうに遊んでいる映像、青年二人が王に命令を受けている映像、青年二人が魔王らしきものを倒して封印している映像、ノワールが戦っている青年二人を見て泣き叫んでいる映像、青年一人がもう一人の青年を洞窟まで運んでいる映像、運ばれた青年の身体に魔王の魂が入り込み乗っ取られ、身体から弾き飛ばされた魂がこのオーブに封印される映像などが流れ込んで来た。


「これって。もしかして、ヴァイルドの記憶なのか」

「その通りだ、グレイ」 

「ヴァ、ヴァイルド」


ヴァイルドの霊体が目の前に現れた。


「久しぶりだな。と言っても、君は覚えていないか」

「な、なぜ。それを」


ここは記憶喪失で乗り切るしかない。それが一番いいはずだ。


「反応で分かる。兄弟のように育って来たんだから」

ヴァイルドの声はとても優しく聞こえる。


「そっか」

「ここまで来てくれてありがとう」


「……何で礼なんか言うんだよ。殺し合ったんだろ、俺達」


友成遊としてではなくグレイとして答えるならこれが正解だと思う。殺し合った相手に感謝なんかされたくないだろう。


「お前は俺を殺さず誰にもバレないように俺の身体を仮死状態にしてここまで運んでくれたんだ。治療する為に」

「でも、そのせいでお前の身体は魔王に奪われたんだろ」


「それは俺のミスだ」

「ノワールは魔王に連れて行かれた。この世界の人々はまた魔王の恐怖に怯えてる。何もかも俺のミスだ」

友成なグレイになりきって言った。

我ながら名演技だと思う。


「俺達のミスだ。だから、俺達がミスを取り返していこう」

「……でも」

「俺達はミスを知ってる。だから、もうミスはしない」

「……ヴァイルド」


あれ、やばい。泣きそうになってぞ、俺。グレイになりきりすぎてるのか。


「なぁ、グレイ」

「……わかった。でも、お前は身体がないんだぞ」

「お前の身体に憑依する」


「俺の身体に?」

「安心しろ。乗っ取ろうなんてしない。俺の魔法や特技が使えるようになるだけだ」


「わかった」

「じゃあ、憑依する」


友成の身体にヴァイルドの霊体が重なる。そして、身体の中に入っていく。


「気持ち悪いか」


身体の中からヴァイルドの声が聞こえる。けど、嫌な感じはしない。


「大丈夫」

「それならよかった。あと、そこにあるインジェクションソードを使ってくれ。今のお前なら扱えるはずだ」

「ありがとう」


友成は隣の台座に刺さっているインジェクションソードを引っこ抜いた。


「何だこれ」


友成はインジェクションソードの剣先を見て行った。剣先は注射針のようになっている。


「その剣は敵に剣先を刺して、状態異常や呪いなどを注入する事が出来るんだ」

「そ、そうなんだ」


使いづらい剣だな。でも、何かの役に立つかもしれないな。まぁ、今の段階ではどう使うか全然考えつかないけど。


「それじゃ、何かあったら気軽に呼んでくれ」

「わかった」


ヴァイルドが身体の奥に入って行った、そんな感じがする。


「この剣どうしまうんだ。鞘もないし」


ヴァイルドに聞くか。でも、いきなりは申し訳ないし。一回腰に当ててみるか。何か起こるかもしれない。


友成はインジェクションソードを腰に当ててみた。すると、目の前に画面が現れ「装備しますか」と言う文言とその下に「はい」と「いいえ」の選択肢が表示された。


ラッキーやってみるもんだな。  


友成は画面に表示されている「はい」を押した。

友成の腰に鞘が現れ、インジェクションソードが収納された。


す、すごいな。さすが、ゲームの世界。


友成は洞窟から出る為に歩き始める。


「おーい、おーい。遊ちゃん聞こえる」


千戸浦の声がどこからか聞こえてくる。


和紗の声だ。どこから聞こえるんだ。


「和紗。和紗なのか」

「うん。会話が出来てるからアクセス成功」

「もしかして、外部からこのゲームにアクセスしてるのか?」


「そう言う事。あたしの声は遊ちゃんの耳に直接語りかける天の声って思ってくれたら大丈夫だからね」


「わ、わかった。それより、和紗も真珠も無事なんだな」

「うん。遊ちゃんのおかげで無事だよ」

「……よかった。本当によかった」


友成は安堵の表情を浮かべた。

二人が無事だと知れて心のモヤモヤが一つ消えた気がする。


「真珠はそこにいるのか?」

「ここにはいないよ。けど、あともう少ししたら遊ちゃんを助ける為に必要なものを持って戻ってくる」


「どう言う事だ?」

「説明しないといけない事があるからまず話を聞いてもらってもいい」


「わ、わかった」


友成はその場に座り込んで、千戸浦から話を聞く事にした。


和紗は友成が『ブラックスノウ・ファンタジー』と言うゲームの世界にいる事、この作品のあらすじ、『ブラックスノウ・ファンタジー』が響野祥雲の没作品・トラッシュゲームである事、ゲームクリアしないとログアウト出来ない事、LBIが色々と動いている事、菱乃姉ちゃんが来ている事など色々な事を説明してくれた。


「説明は以上。質問はある?」

「あらすじは間違いないんだよな」


「そうだよ。主人公グレイと幼馴染のヴァイルドが力を合わせて魔王ラズルメルテを倒して、ノワール姫を助けるって書いてあるから間違いないはず」


「内容が全然違う」

「どう言う事?」


友成は『ブラックスノウ・ファンタジー』をプレイして体験した事を千戸浦に話した。


「何それ全然違うじゃん」

「そうなんだよ。ゲームの内容が勝手に変わるなんてあり得るか?」


「あり得るはずないと思うだけどな」

「だよな」


現実的にありえない。でも、ありえない事が現実になっている。それは事実だ。


「ちょっとこっちでも色々と調べてる」

「頼むわ。あとさ、もう一つ聞きたい事があるんだよ」


「何?」

「メニュー画面の出し方教えてくれ」

「冗談言ってる?」

そう言われると思ってました。


「マジで言ってる」

「なんて言うか、やっぱり、天才だわ。遊ちゃんは。よくメニュー画面一度も開かずにゲームオーバーにならないなんて」

「いや、今回ばかしは運がよかっただけだよ」


「まぁ、教えるからすぐ覚えてね」

「おう、分かった」

「どっちでもいいから手を胸に当てて」

友成は左手を胸に当てて「これでいいんだな」と、千戸浦に訊ねる。


「それでいいよ。その後、胸に当てた手を前に出して。そうしたら、メニュー画面が表示されるはずだから。


「前に手を出すんだな」と、友成は手を前に出した。すると、友成の前にメニュー画面が現れた。

「すげぇ、メニュー画面出た」

「メニュー画面で喜ばないでよ」


「いいんじゃん。あ、ありがとう」

「はいはい」


「ちょっとデータ見てもいい?」

「いいよ。こっちも色々と調べる事とか色々あるから何かあったら言って」

「わかった」


友成はメニュー画面を触り始めた。

自身のレベル42。これはきっとヴァイルドが身体に入っているからだろう。他にも所持品や使える魔法などを確認していく。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ