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第3話 勇者殺しの勇者


「なんだ、この臭い。くせぇ」

近づいて来たビアンコウッフはハーブの匂いを振り払うように手を動かした。


「そっちはハーブが大量に生えてる場所だったはずだ。それ以上そっちには行くな。鼻が潰れるぞ」

「だな」


近づいて来ていたビアンコウッフは離れていく。

よし、そのままどっかに行ってくれ。頼む。頼むから。


「ここら辺には居ないな。ずらがるぞ」


ビアンコウッフの1匹が周りに指示を出す。

こいつがリーダーなのだろう。


他のビアンコウッフ達は頷く。

ビアンコウッフ達はアルブルシャルトに向かって走り出した。


た、助かったのか?


友成は足音が完全に聞こえなくなるを待ってから、被っていた透明マントを外して、立ち上がる。


ノワールが一緒に立ち上がろうとした。

「ノワールは少し待ってて」と、友成は言った。


ノワールは頷き、立ち上がるのを止めた。


友成は獣道に出て、ビアンコウッフ達が周りに居ないから確認する。


よし、もういないな。


「出て来て大丈夫」


ノワールは立ち上がり、透明マントを手に持ち、友成の方へ向かってくる。透明マントの影響で手や腕が消えている。


「助かってよかった」

「ビアンコウッフがすぐそばまで来た時は終わったと思った」


「本当にそう。死ぬかと思った。あ、これ」と、ノワールは友成に透明マントを手渡す。


「ありがとう」


友成は透明マントを受け取る。


「神様に感謝しないとね」


ノワールは首にかけているネックレスを外した。ネックレスは黒色の薔薇の形。


ノワールはネックレスを両手で握り、目を閉じて祈り始めた。


友成はノワールのその姿に見惚れてしまった。

やっぱり、王女様は絵になるな。


ノワールは祈りを終えてから目を開けて、ネックレスを首にかけ直して、「町に行こう」と言った。


「え、町の場所知ってるの?」

「知ってる。あっち」


ノワールはアルブルシャルトの逆方向を指差した。

「じゃあ、急ごう。敵がいつ来るか分からないし」


一分一秒でも早くここから離れたい。ゆっくり出来る場所でこのゲームの世界の事とかを考えたい。


「だね」


友成とノワールは町の方向へ歩き出し始めた。

その瞬間だった。背後から悍ましい威圧感がする。


友成は振り向く。すると、何かがこちらに猛スピードで向かって飛んで来ているのが見える。


な、なんなんだ。あれは。いや、そんな事考えている暇なんてない。逃げないと。でも、動けない。


なんだ、この感覚。今までこんな感覚を味わった事がない。も、もしかして、恐怖で動けなくなっているのか?


くそ、動けよ。俺の足。


「次は私が助ける番だね」


ノワールは友成を木々の方に押した。友成はバランスを崩して倒れた。


「何、何をする気だ」

「魔王は私を殺せないから。そこで伏せて隠れてて」

「ま、待てよ。俺が戦う」


友成の声は震えている。

勝てる気はまったくしない。でも、戦わないといけない。戦わないといけないんだ。


「無理だよ。勝てないよ、今は。だから、力をつけて助けに来て」

ノワールは優しい口調で言った。


「……ノワール」

「久しぶりに会えて嬉しかった。お願いだから隠れて」

「…………」


友成は何も答える事が出来なかった。

何を言っても不正解な気がして。


「ほら早く」


ノワールは友成が手に持っている透明マントを取り上げる。そして、友成をうつ伏せにさせてから透明マントをかけた。


「ごめん」

「謝らなくていいから」


ノワールは微笑んだ。


何か近くに着地した大きな音が聞こえた。それと同時に衝撃波が周りを襲い、木々などが倒れていく。

友成は透明マントが飛ばされないように必死に掴んだ。

「ダメじゃないか、姫。城から勝手に出たら」

 

男の声がする。

友成は透明マントの隙間から何が起こっているかを確認する。


禍々しい黒色の鎧を身に纏った男がノワールの肩に手を置いた。

友成は禍々しい黒色の鎧を身に纏った男がどんな奴かを確認する。


顔立ちはかなりいい。艶のある黒髪ロングも似合っている。俗に言うイケメン。

威圧感が凄い。圧倒的強者の風格がある。


頭の上に《魔王ラズルメルテ・レベル99》と表示されている。


こ、こいつがラスボス。倒さないといけない敵。

「戻りますよ。姫」


魔王ラズルメルテはノワールを抱き抱えて、宙に浮かんだ。そして、友成の方向を見て、嘲笑った。

見えているのか。それだったら、わざと逃してやると言う事か。それとも、戦う価値もないと思っているのか。


魔王ラズルメルテはノワールを抱き抱えたまま、アルブルシャルトへ飛んで行ってしまった。


友成はその場で苦虫を噛んだ。


今までこんなに無力だった事なんてない。情けない。情けなさすぎる。いくら、ゲームだったとしても、ここまでコケにされたらやりかえさないと気がすまない。


友成は立ち上がり、透明マントを手に持ち、獣道の真ん中に行き、アルブルシャルトを見つめる。


絶対に倒してやる。倒してやるからな、魔王ラズルメルテ。そして、絶対に助けるから。ノワール。


友成は胸に悔しさを抱いたまま、町へ向かい始めた。






友成は町の前で透明マントを脱いだ。町の入り口のアーチ上部には「ムートヌーラ」と書かれている。町の中の建物はRPGゲームで出てくる洋風な建物ばかり。

友成は胸を撫で下ろした。


これでようやく休める。魔王を倒す為に何をすべきか考えられるし、武器なども調達できるはず。


友成はアーチを通り、ムートヌーラの町へ入った。


町の住人達が友成遊を冷たい視線で見つめる。

それは歓迎はしていない事を意味すると思う。


「人殺し。町から出ていけ」

少年が飛び出して来て言った。


「人殺し?」

友成は理由が分からず聞き返した。


「しらばっくれるなよ。お前が勇者ヴァイルド様を殺したんだ。あんな仲良くしてたくせに。幼馴染だったくせに」


「俺がヴァイルドを」

「頭おかしくなったのか。ノワール姫の婿を決める為に殺し合ったんだろ。それでアンタがヴァイルド様を殺したんだ」


「知らない。そんな事知らない」

友成は首を横に振った。

情報量が多すぎる。キャパオーバーだ。


「そのせいでアンタとヴァイルド様が封印した魔王がヴァイルド様の遺体を魂の拠り所にして復活した。そのせいで、またこの世界は魔王の恐怖に怯えてるんだ」


「……あれはヴァイルドだったのか」

友成遊は自身が見た魔王ラズルメルテの身体はヴァイルド・ヴァイスヴァルドのものだったと知った。


「おいらはヴァイルド様に助けられたんだ。ヴァイルド様がおいらの命の恩人なんだ。その命の恩人の命を奪った奴は許さない。だから、この町から出ていけ」


少年は落ちていた石を友成に投げた。

友成は避けれるスピードだったのに避けなかった。


グレイ・ヴェレロサと言う男はどんな男なのだろうか。勇者なのに勇者を殺してしまうなんて。それは魔王と変わらないんじゃないか。


「消えろ」

「勇者殺し」


次第に周りに居た町の住人達も石を投げ始めた。

友成のおでこに石が当たった。


痛みがじわーと広がる。


この町の住人達は平和を一度取り戻したはずの勇者に失望しているのだろう。希望の存在が絶望を振り撒いてしまったのだから。


石を投げるのも仕方ないだろ。


友成は何も仕返しもせず、町から出て行く。

このゲーム、辛いな。世界観に入り込みすぎてるのか。それとも、違う何かがあるのか?


分からない。


友成は透明マントを被り、森の中へ入っていく。

高レベルモンスターがそこら中にいる。

透明マントがなかったらゲームオーバーになっているだろ。


セーブもろくに出来てないのにゲームオーバーは避けたい。ゲームの始め方が特殊だったんだ。どんな仕様になっているか分からない。


ある程度進むと、木製の橋が見えて来た。木製の橋の両側にはロープが付いている。

橋の下には川が流れている。


これだけ黒い雪が降っているのに川の水は凍っていない。


あの橋を渡れば休める場所があるかもしれない。


友成は木製の橋を渡ろうと進む。木製の橋の真ん中に着くと、急に強風が吹いた。


友成はその場で踏ん張った。すると、そのせいで橋の床が抜けた。


「マジかよ」


友成は咄嗟に橋のロープを掴んだ。しかし、そのロープも解けた。


「はぁ? ふざけんなよ」


友成はそのまま川に落下していく。


もしかして、このままゲームオーバーになるのか。なんなんだよ、このゲーム。



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