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第2話 ブラックスノウ・ファンタジー



黒い雪が降り積もる森の真ん中で友成は倒れていた。

友成の頬に黒い雪が当たる。

つ、冷たい。 



友成は目をゆっくり開けた。

ここはどこだ?



視界に映るのは黒い雪に覆われたものばかり。黒くないのは雲と視界の先に聳え立つ白い城だけ。なんとも寂しい光景。


黒い雪が降っているって事はゲームの世界なのか。でも、ゲーム・ゲートが人を吸い込む事なんて聞いた事ないぞ。真珠や和紗が無事なのか。


友成は立ち上がり、灰色の鎧に付いている黒い雪を払った。



ちょっと待てよ、なんだこの灰色の鎧は。

さっきまで着ていた半袖の黒Tシャツとグレーのスラックスはどうしたんだよ。訳がわかんねぇ。


友成は口を大きく開けて、声を出そうとしたが止めた。



真珠や和紗がいるか確かめたいけど、大声を出したら敵とか襲って来そうだ。このゲームの事全く分からないから用心した方がいい。


さて、どうしたものか。このまま、ここで居続けるのは得策じゃないよな。うーん、敵が居そうだけどあの白い城に行くしかないよな。黒い雪で何も見えないし。


友成は白い城に向かい始めた。

このゲームってログアウト出来ないのか。てか、どうやってメニュー開くんだ。


マジで意味分かんねぇ。これぽっちも状況が把握出来ねぇよ。


友成はある程度の距離を歩いたが、白い城までの距離は遠い。


おい、ちょい待ち。あれって人だよな。人が倒れてるよな。


友成の視線の先には白のドレスを身に纏った女性が倒れていた。

あのままだったら色々とまずい。


友成は白のドレスを身に纏った女性のもとに駆け寄る。

女性はとても美しい顔をしていた。肌は白く透き通っており、背中まで伸びた艶のある髪も真っ白。首にネックレスをかけている。履いているヒールは透明。ガラスの靴なのだろうか。


もしかして、どこかのお姫様か? それにしても、何か違和感を覚えるな。でも、それより先にすることがあるだろう。


友成は膝をつき、女性の後頭部を手で支えて、「大丈夫ですか。大丈夫ですか」と、身体を揺らしながら呼びかけた。


女性は意識を取り戻して、目を少し開けて、「誰?」と訊ねた。


「えーっとですね。それはですね」

友成はどう答えたらいいか迷った。


素直に名前を言っていいのか。世界観に合わせた名前を言うべきなのか。でも、答えた方がいいよな。

「グ、グレイ。グレイなのね」と、女性は目をしっかり開けて、友成の顔を見つめた。


「グ、グレイ?」


と、友成遊なんですけど。人違いだよな。いや、もしかしたら、このゲームの初期設定の主人公の名前が『グレイ』なのかもしれない。


「そのとぼけ方。やっぱり、グレイだわ」


女性は友成に抱きついてきた。

あ、当たってます。はい、当たってますよ。胸がね。


「す、すみません。記憶を失っていて貴方が誰か存じあげません」


友成は嘘をついた。

我ながらナイスアドリブ。これなら名前とか色々聞き出せるはず。


「……記憶喪失。そんな」

女性はとても悲しそうな表情を浮べた。

「すみません」


ちょっと申し訳ないな。そんな顔をされると。

でも、何も把握出来ていないこの状況では仕方ない。そう、仕方ない。


「分かりたくないけど分かったわ」

どうやら、納得したようだ。


「ありがとうございます。それで貴方の名前は?」

「ノワール・ロジネージュ。シュヴァルブランの王女よ」

「お、王女様?」


や、やっぱり、王女だったのね。でも、確かノワールって黒色だったよな。でも、髪は真っ白だよな。設定ミスか? そんなミスを制作者が見過ごすのか? やはり、違和感があるな。


「様はやめて。それにタメ口でいいわよ」

「そ、そうですか」


「タメ口は?」

「はい。いや、うん」


「よろしい。で、貴方は私の幼馴染でシュヴァルブランの勇者の一人・グレイ・ヴェレロサ」

ノワールは少し微笑む。



一瞬、見惚れてしまいそうになった。それだけ魅力的に見えたのだと思う。さすが、王女様だ。それと、グレイは幼馴染で勇者の一人か。てか、その言い方からすると勇者があと何人かいるのか?


「一人? それじゃ、あと何人かいるの?」

「もう一人だけよ。貴方と私の幼馴染のヴァイルド・ヴァイスヴァルド」


「ヴァイルド・ヴァイスヴァルド。その人は今なにを」

厨二病満載の名前だな。でも、ちょっとかっこいいな。

名前変更できねぇーかな。グレイだぞ。灰色だぞ。

捻りもくそもないじゃないか。



「私の口からは言えないわ」


ノワールは俯いた。

この件についてはこれ以上深掘りしない方が得策に思える。


「そっか。じゃあ、ノワールは何故ここで倒れていたの?」


王女が雪降る森の中で倒れているなんて普通に考えておかしい。何か理由があるはずだ。いや、理由がない方がおかしい。


「逃げてきたの」

「逃げてきた? 何から」



「あのアルブルシャルトに居る魔王ラズルメルテから」


ノワールは白い城を指差した。


「……魔王ラズルメルテ」


そいつがこのゲームのラスボスっぽいな。でも、待てよ。待ってくれよ。じゃあ、この森ってラスボス前のステージの可能性大だよな。普通に考えたら雑魚モンスターでもレベルが高いよな。遭遇すればやばくねえ。



「何か思い出したの?」

「いや、ちょっと焦ってる」


ここから早く逃げないと。やばい。確実にやばい。


「何に?」

「全てに」


早く行動しないと。終わる。どう戦えばいいのかも分かってない状態なのに。


「大丈夫よ。こうやって再会出来たんだから。どうにかなる」


ノワールはニコッと笑った。

いやー楽観的すぎません。ちょっとは悲観的になりましょうよ。



「ちょい待ち。どうやって、魔王ラズルメルテの城から逃げ出してきたの?」


逃げてきたわりにドレスもヒールも汚れが少ない気がするし、この雪の中で倒れていたはずなのに埋もれていないのは違和感がある。


「気合いかな」

「気持ちの持ちようでどうにかなる問題?」 


メンタル次第でどうにか逃げられるなら勇者いらなくねぇ。でも、この王女ならいけそう気がする。それはそれで怖いな。


まぁ、ドレスの汚れとか埋もれていなかったとかはゲームの仕様の可能性もあるか。


「なるんじゃない」


ノワールは言い切った。 


「そっか。……そっか」


ここまで迷いなく言い切られると困るわ。


突然、アルブルシャルトの方からこちらに向かって近づく複数の足音が聞こえてきた。 

 


友成はアルブルシャルトの方に視線を向ける。視線の先には白い狼男達がこちらに向かって走っているのが見える。


白い狼男達の頭の上には《ビアンコウッフ 63レベル》と表示されている。 


ビアンコウッフはこの白い狼男の名前だろう。


63レベルはこいつらのレベルだな。それにしても、中途半端なレベルだな。このゲームが1〜99か100レベルまでのゲームなのか。


それとも、1〜999レベルのゲームなのかまだ分からない。だから、強いか判断するのがむずい。でも、前者の場合は、ラストボス手前の雑魚のレベルなら妥当な気がする。



「ノワール。ねぇ、ノワール様」


やばいやばいやばい。やばすぎる。


「タメ口は?」

「そんなの後々」

「何をそんなに慌ててるの?」

「見て。見てごらんなさい」


友成遊はビアンコウッフを指差した。


ノワールは友成が指さした方を見て、「あ、ヤッバ」と言った。



逃げるしかない。でも、どうやって、ノワールと逃げる。

あー、考えている暇が惜しい。


友成は立ち上がり、「ノワール。怒るなら後にして」と、ノワールを抱き抱えた。


「お、怒らないよ」

ノワールは顔を赤らめた。



「じゃあ、行くよ」

「は、はい」


ノワールは友成の首に腕を回した。

友成はノワールを抱き抱えたまま全力で走り出す。

いや、ゲームでよかった。腕の疲れがない。


体力はどうなるか分からないけど。逃げるしかない。


「あいつら追って来てる?」

友成はノワールに訊ねた。


「うん。スピードは落ちてるけど追いかけて来てる」と、ノワールは答える。


「ごめん。枝とかに当たるかも分からないけど」

「わ、分かった」


友成は急ブレーキして、進行方向を木々の方向に変える。そして、木々の間に入って行く。


進めば進む程、木々の枝が顔や身体に当たる。

痛ってぇ。痛いと感じるって事はダメージがあるって事だよな。


くそ。どうHPを確かめたらいいんだよ。いつゼロになるかも分からねぇのに。


友成はノワールを抱き抱えたまま、木々の間を抜けて、獣道に出た。


「さらにスピードは落ちてるけど追いかけて来てる」


ノワールがビアンコウッフ達の現状を伝えた。

ビアンコウッフの奴ら、持久力はないんだな。


でも、気を抜いたらダメだ。あいつらの作戦かもしれない。


友成はアルブルシャルトの場所を確認する。そして、アルブルシャルトの逆の方に向かって走る。



あの城から出来るだけ離れるんだ。そうしたら、どうにかなるはずだ。


友成の膝に何が当たって、バランスを崩す。

やばい。このまま転がってしまったら、ノワールがそのまま地面に当たってしまう。


友成遊は咄嗟に身体を回転させて、自分の背中が地面に当たるようにした。 


受け身は出来ねぇ。



友成の背中は地面に思いっきり直撃した。

やべぇ。死ぬほど痛い。現実と変わらない痛みじゃねぇかよ。


「大丈夫?」

ノワールが心配そうに訊ねてきた。

「大丈夫。ノワールは?」


本音は大丈夫じゃない。でも、この状況で心配させるのはよくない。我慢だ。我慢すれば大丈夫だ。


「私は大丈夫」


どうやら、ノワールは大丈夫のようだ。咄嗟の判断が上手くいってよかった。それにしても、何だ。膝に当たるものって。

友成は来た道を見る。そこには宝箱があった。

道の真ん中に宝箱って。制作者は何を考えてるんだ。


「ごめん、一回立ってもらえる」


友成はノワールに言った。


「わかった」


ノワールは自分で立ち上がった。

友成も急いで立ち上がる。


ビアンコウッフ達の足音が近づいて来ているのがわかる。でも、宝箱の中身だけは確認したい。中身次第でビアンコウッフ達を追い払う事が出来るかもしれない。


友成は宝箱の方に向かう。 


「ビアンコウッフが近づいて来てるんだよ」

「分かってる」 


友成は宝箱を開けて、中を見る。

何も入っていない。

くそ。この宝箱を武器にするしかねぇか。


「この宝箱を武器にして戦う」

「無茶よ。囲まれたらお終いじゃない」


友成は宝箱を持ち上げた。すると、何かがサッと落ちた微かな音が聞こえた。


「今何か落ちた」

「え?」

「今何か落ちたんだよ」


友成は宝箱をそこら辺に投げて、何かが落ちたであろう場所を触る。


「何かって何よ」

「分からない。けど、何かが落ちたんだよ」と言って、何かが落ちたであろう場所をさらに調べる。すると、手に布が当たったような感触がした。



「も、もしかして」


友成は見えない何かを掴んだ。すると、見えない何かを掴んでいる手が消えた。


「グ、グレイ、手が消えてる」

「大丈夫。透明マントだ」


友成が掴んだ見えない何かの正体は透明マントだった。

「透明マント?」

「いいからこっちに」


友成とノワールは木々の間に急いで入っていく。

ビアンコウッフ達の足音がすぐそこまで来ている。


「伏せて」

「わ、分かった」


友成とノワールはその場に伏せた。そして、友成は自分自身とノワールに透明マントをかけた。

雪の黒さではっきりは見えないがハーブが生えている気がする。ハーブ独特の匂いがするから。


「息を押し殺すんだ」

「うん」


友成は透明マントの隙間から獣道の方を見る。すると、正面方向の木々からビアンコウッフ達が出て来た。



「逃げたのはこっちだよな」

「あぁ、臭いがしてるから間違い」


ビアンコウッフ達は周りの臭いを嗅いでいる。


くそ。そうだった。狼男だったら鼻が効くかもしれない事を考慮してなかった。


万事休すか。頼む、どうか立ち去れ。


ビアンコウッフの一体がこちらに向かってくる。

友成達との距離が近くなっていく。


友成の心臓はビアンコウッフとの距離が近づくにつれて速くなっていく。


終わるのか。ここで終わるのか。

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