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⑭大団円ですっ!(完)

計算屍の配備が終わり、稼働を開始したのは三日後のことである。

現在は試験運用中である。


ズィーは最上階のスイートのプールでぷかぷか浮いている。ガレスはプールサイドのデッキチェアで、魔導書を日除にして寝そべっている。


エステでぷるぷるもちもちお肌を取り戻したアリーは、今日のために用意した水着にビーチドレスを羽織り、ガレスの隣に腰掛けた。


「どう……ですかね……?」


上体を起こしたガレスはアリーの姿から目を離せなくなる。薄手のビーチドレスに水着が透けていて、灰色の脳細胞が無駄に高速回転を始める。


(水着だけよりむしろえっちだ……あと、お胸の部分の布がふわふわしていて……目がひきつけられる……やわらかそう……はっ、いかんいかん、胸ばかり見ていたらすけべだと思われてしまう……肩紐ほっそ!細い肩紐ってなぜかどきどきするんだよね……)


フリーズというかショートというか熱暴走寸前であった。


「あの……ガレスさん?そんなに熱く見つめられると……恥ずかしいんですけど……」


アリーがもじもじしながらつぶやくと、ようやく我に返り、

「たいへん、お綺麗です!アリーさん!」

そう叫ぶと、きりもみ回転で頭からプールに飛び込んだ。頭を緊急冷却するためである。


派手な水音と水飛沫にズィーが顔をしかめる。

「へたれガレスにしては頑張ったほう?」


「ふう、あぶないところでした」

水面に顔を出したガレスは、髪が濡れてオールバックになり、普段はぼさぼさの前髪に隠れて見えない額が出ている。


(ガレスさん、やっぱり、額を出しているほうがかっこいいですわよね。髪を短くしたら、けっこうモテてしまいそうです……)

たいていの男は短髪にしたほうが清潔感が出てモテるのが世の常である。


(帝国の雌猫みたいなのが寄ってきたら困りますね……)

アリーはプールサイドにしゃがみこみ、手を差し伸べて、ガレスの髪をかきまわす。


ガレスの瞳に、アリーの揃えた膝頭や、伸ばされた腕や、その付け根の腋の下や、フリルに隠されていた下乳が映りこんだ。


(これは……ちょっとまずいぞ……新しい嗜好に目覚めてしまいそうだ……!それもまたよし!よしじゃないが!?)

そんなことを考えながら、ガレスは親指を立て、ぶくぶくと沈んでいった。


「ちょっと、ガレスさん!?」

アリーはざぶんと水に潜る。

水中で目と目が合った。

手を繋ぎ、ふたりで水面に顔を出す。


「アリーさん……そ、その、水着、とてもよく似合っています……」

「ありがとうございます……」

ふたりは見つめ合い、そして目をそらした。


「ちゅーは?ちゅーしないの?」

ズィーが冷やかす。

「しませ……しますっ!」

アリーが顔を真っ赤に染めて宣言した。


「じゃあ、偽装結婚ごっこはそろそろおしまいにしないとね。結婚式、しよっか」

ズィーが告げた。


◇◇◇


王都女神教会大聖堂。

一組のカップルの結婚式がとりおこなわれようとしていた。


新郎側の列席者には死霊術師が目立つ。

新婦側の列席者は後宮占星班の肉食系女子たちが占めている。

十三階からはズィーとノクトとミランダが後方親族面で出席している。


ボーモンティア夫人がアリーのドレスを整えながら言う。

「だから言ったでしょう」

「知ってたんですね……」

「あなたたちのような若造を意のままに転がせなくて、後宮占星班の班長はつとまりません」


アリーは頬をふくらませる。

「……感謝しておりますわ」

「父親は呼ばなかったのね」

「はい」

「それが賢明だわ」


夫人はうなずくと、化粧筆を手に取った。


◇◇◇


誓いの言葉を唱え、女神像の下でキスを交わそうとした瞬間、大聖堂の扉が蹴破られた。


「ちょっと待ったー!」


漆黒のドレスをまとった妖艶な美女であった。

美魔女というべきかもしれない。

ボーモンティア夫人と同年代であった。


夫人の口から、驚愕の声が漏れる。

「エレーヌ!?あなた、生きていたの……エレーヌ・フォルモール……」


「ママ!」


アリーが叫んだ。

エレーヌ・フォルモール、アリーの実母である。


浮気性の夫を半殺して逃亡し、そのまま消息不明になっていた母である。魔導算盤事業が軌道に乗った途端、父は母を離縁し、若い巨乳美人に走った。ぶっ飛ばされて当然の父であるとアリーは思う。


「アリー、その男と結婚したいなら、私を倒してからにしてもらいましょう!私はエレーヌ・フォルモール。帝国四数姫シビュラが第二席『幻滅』のエレーヌ!」


「エレーヌ、私と同い年で姫って、ちょっと、いや、かなり……無理よ……」

ボーモンティア夫人のつっこみが静まり返った聖堂に響いた。


……

………


良識溢れる列席者の皆さんはそこんところをスルーした。だって、流れ素数が当たったら怖いじゃない?


「ママ、どうして、帝国なんかにっ!?」

「私、気づいたの……あなたの父親みたいなモラハラクズ浮気男が生まれたのは王国の社会制度のせいだって!そんな国、滅ぼしてしまおうって」

「過激思想すぎる!?」


「あと、アリーだけまともな男つかまえるなんてずるいわ!」

「最悪な理由すぎる!?」


「これ以上、言葉は不要!さあフリースタイル数理決闘よ!!」

「受けて立つわ……あっ!?」

「気づいたようね。どうして私がこのタイミングを選んだか。アリー、あなたはこの瞬間、数理令嬢でも数理夫人でもない宙ぶらりんの存在!数理淑女魔導を使えない!」


「な、なんですって……!」

「実戦経験の差を教えてあげる……内呪うちのろい!」

叫びとともにエレーヌは五百六十一枚の銅貨を投げつけた。


五百六十一は擬素数である。

素数っぽくて素数じゃない数である。

三で割れるのであった。


分かたれる金額の御祝儀は重大な数理淑女礼則違反である。すなわち、内祝を転じて内呪なのだ。

殺到する五百六十一枚の銅貨を前に動いたのは、アリーでなく、ガレスであった。


「死霊術師相手に逆転呪術とは舐められたものですね……」

タキシードのポケットから取り出したのは四枚の金貨である。金貨一枚は銅貨千枚の価値を持つ。合計すれば、四千五百六十一。

素数である。


「ふふふ、逆転呪術を逆転させれば、これすなわち祝福。お祝いありがとうございます、お義母様!」

ガレスが不敵に笑ったとき、アリーはウェディングドレスのすそをつまんで駆け出している。


数理淑女魔導が使えないのであれば——格闘戦である!


ズィーが通路に出て腰を落とす。アリーはその両手を踏み台に高く舞い上がる。ズィーのゾンビパワーで四十五度で打ち上げられたアリーは、殺意の放物線を描く。


「往生なさいませえぇぇっ!」


数理淑女格闘術の要諦は、高速な物理演算と精妙な身体制御にある。そのために計算メイド養成所では血を吐くまでお辞儀を叩き込まれるのだ。


空中にあって、アリーは自身の重心を完全に制御していた。


加えて、今日のアリーは花嫁である。いつものぺたんこ靴でなく、ヒールの高いブライダルシューズを履いている。ヒールの直径はおよそ八ミリメートル、面積はおよそ五十平方ミリメートルである。


鉛筆の断面くらいの面積に運動エネルギーを集中させた必殺の飛び蹴りだ。エンシェントゾンビクイーンの膂力で打ち込まれる人間大の銛である。


エレーヌは咄嗟に漆黒の扇をかざし、数理魔導防御を展開する。しかし、

「遅すぎますわ!弱すぎますわ!脆すぎですわああぁぁっ!」

絶叫と共に、アリーのヒールが扇の要をぶち抜く。


扇が壊れ、黒孔雀の羽が宙を舞う。両足を揃えて着地したアリーはドレスの裾を払うと、高らかに勝利を宣言した。


「鈍ったわね、ママ。悪の数理魔導淑女は必ず愛の力の前に敗北するのよ。それが世界の真理なのよ……」


「ぐはっ」エレーヌは吐血する。「強くなったわね……アリー……最期に……孫の顔が見たかった……がくっ」


「死んだ?スケルトンとゾンビ、どっち?」

ズィーの言葉にはね起きるエレーヌである。死んだふりでうやむやにする作戦だったのだ。


「ママ、ちゃんと刑期をつとめあげたら、孫抱かせてあげますから」

「ちっ」


ようやく到着した教会騎士団に連行されていくエレーヌを見送っていると、ズィーが催促した。


「ブーケトスはよ」


◇◇◇


この後、披露宴にシビュラ四数姫筆頭『無名少女』クリプトアリスが襲来して、すったもんだの末、和睦協定を結ぶことになるのだが、それはまた別の話である。


ともあれ、こうしてふたりは出会って結ばれ、末長く幸せに暮らした。だから、その墓碑にはこう刻まれている。


「双子素数の年齢のふたりが出会い、年齢の合計が二の冪乗引く一の素数になった年、連れ立って天に昇った」


(おしまい)

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