第88話『剣士少女の正体と極北への航海少女』
こうして拠点を離れて、私達は船に乗ってセキギを目指していた。
と、言ってもこの真っ赤な額縁でいつでも拠点に戻れるらしい。
この額縁は創造主さんが失踪する前、ハナビさん達のために創った置き土産らしく、離れた位置にある同じ額縁と空間を繋げてくれるらしい。
名前を『トラベル額縁』というらしい。
『河童の抜け道』だとか『天狗の抜け穴』だとかと同じ代物で、早い話どこでも繋がるドアとほぼ同じで、空間を司る歯車の力を練り込まれた額縁。
回数制限付きだが離れた場所にある同じ額縁へと移動することができるらしい。
ようは『ワープ装置』とかそういうものだ。
脱出や危険なことがあったらこれで移動できるように船に搭載してもらった。
船の甲板で優雅な朝ごはん~~!
やっぱ素敵じゃん。
イチちゃんの料理の腕はさすがだ~。
「ヒーちゃん、朝ご飯の支度で来たよ~!」
「はーい。」
ちなみに船ということで、今日は私が昨晩引きちぎった大きなお魚さんが朝食だ。
「「「「「「いただきます!」」」」」
「いただきます……。」
そうそう言い忘れていた、新しく旅にハナビさんとリュフォーさんの猫以外にも、もう1人だけ加わることになった。
マチルダさんやハナビさんの姉妹やエギレシア王国の大使たちは各地に散ったが、彼女だけが残った。
「あの……これ、食べて大丈夫なものであるか?」
ネリィさんというフード姿の人だ。
エギレシア王国の2人が護衛にと紹介してくれたらしい。
まぁ、これで全力で戦っても一応安心だね。
私の流れ弾に当たる確率が減って。
「大丈夫!毒攻撃をしてこなかったし!」
「そ、そういうものでござるか?」
古風な話し方をしている獣人の女性だ。
魚をあまり食べたことがないらしくクンクンにおいを嗅ぐ。
「それがしの産まれた土地は内陸であるが故、魚にあまり触れたことはないのだ。
それも生で食べるなんて……。」
拙い持ち方の箸で、魚をすくうように食べる。
ちなみにがっつり刺身だ!
朝からなんて豪勢なんだろう!
さらに言えば遠くにある都市を眺めながら朝の潮風の中、船のデッキの上でみんなで囲んでご飯を食べる。
しかもこの船、そこそこ豪華な帆船で居心地がいい。
ベッド、ふかふかだし。
フードの奥からモチャモチャという咀嚼音の後。
喉を通り、息をはく。
ネリィさんは、一呼吸間をおいて。
「な、なんたる美味!!
それがしの故郷に海がないのが悔やまれる!!
魚とは形容しがたき味であるな!!」
フード越しでおいしそうな表情が見れないのが悔やまれるな!!
フード取ったら怒られるかな?
こういうお堅い口調をしている女性の可愛い食事風景を見れないのは割と悔やまれる。
だってサイムをもっと好きにさせる参考になるじゃん。
可愛い系の顔?それとも口調通りかっこいい系の顔?
箸の使い方がちゃんとしてないけど、こう言うのも可愛いって思われる要素なのかな?
「身が引き締まっていてぷりぷりとした感じにこの独特なソースも実に味わい深い!」
その口調で、醤油をソースというと脳がバグるんだけども……。
「このソース実に気に入った!これだけでも……。」
あ、醤油をそのままって……。
「醤油をそのまま舐めちゃダメ~!塩分が高くなって最悪死んじゃう!」
ナイス!イチちゃん!
「な、美味なのに!?」
あ、待てよ……。
尻尾!!尻尾で表情がわかる!!ローブからはみ出ている尻尾で表情がわかる!!
さっきまでパタパタしてたのが、今しょんぼりした!!
かわいい~~!!
エギレシア王国の人達……こんなかわいい人を同行させてくれるとはやるじゃん!
私からしたら護衛ではなく愛玩用だけども!!
もっとこの国の文化を教えて一喜一憂しているさまを見せたいなぁ。
しかも普段割と低めのかっこいい声だけど、喜んでいるときだけ女子の中でもかなり可愛い声になる。
「少し聞きたい。これは何でござるか?このドロドロしたスープは?」
ネリィさんは初めて見る味噌汁を箸で指す。
「味噌汁だけど?」
「味噌汁スープ……?見たこともない植物が入っているが……。」
「わかめだよ?」
「この細くてヒョロヒョロしたものは?」
「油揚げっしょ?」
「何とも珍妙な香りだが、これは人が食うものか?」
「う、うん……。」
この国の言語が堪能なのになぜこうも味噌汁に警戒する……?
なんだか、こういうギャップで脳がバグる。
恐る恐る味噌汁を飲む様子を見てこの場の全員が注目してしまう。
「むむ!?なんだ!?この優しさは!?
それがしの故郷にも厳しい冬を超えるため暖を取るために生まれたかぼちゃスープはあるがこれは別だ!?
どことなく嗅いだことのないやさしさが口から鼻へとなだれ込む!!
スープがホロホロとしていて旨い!」
まぁ味噌汁っていうものはそういうものだし……。
でもイチちゃんが用意してくれた味噌汁を気に入ってくれるのは嬉しいな。
「う~~ん!!おいしい!!」
そのかっこいいと可愛いのちょうどいい感じで言われると、甘やかしたくなるなぁ……。
この子の親は心を掴むっていうことをわかってる教育をしたに違いない。
海と遠くの街をバックに、謎のフードの少女の顔をおがみたーい!
「そういえば思い出しただけど……。」
ヒルさんが同じく味噌汁をすすりながらネリィさんを見る。
「ネリィ、おまえは確か。
サイムさんや創造主、ソライさんのことを知っているってエギレシアの館で言ったっしょ?」
「ああ。」
え!?サイムのこと知ってんの!?
……ああ、そうか。
確かエギレシア王国のクノレさんがサイムに救われたからその伝手かな?
「それってクノレお嬢様経由で知ったことなのっしょ?」
「いや、違うが?クノレお嬢様系列じゃない。
そもそも、それがしは雇われサムライだ。
あの2名とは程々の関係なり。」
なるほどーちがうのかー……。
……って、はぁ!?
「それどこの情報!?クノレさん系列じゃないならサイムをどこでどうやって知ったの!?」
私の声でびっくりしてネリィさんは刺身と米をほおばり、胸を叩き喉に思いっきり押し込む。
「いきなりの大きな声でびっくりしたぞ、ヒトメ殿。」
「それってどこ情報!?サイムをどうやって知ったの!?」
ネリィさんは深く考える。
「え、それは……。
お、親から…………。」
「親??」
ん?どうして親?
「親が昔話に色々と聞かせてくれたのだ。
ハナビ殿のことも聞かされた。
たくましく非常にかわいらしい幼子として冒険社の仲間だったと聞かされております。」
ハナビさんもきょとんと自分を指差す。
「ママが非常に可愛い幼子?」
「確かにそうだったけど......?」
少しハナビさんが照れているのを横目に私も気になってきた。
「じゃあサイムは?」
「たしか……頼れるリーダーだけども、いざっていうとき以外はほぼほぼ役に立たないと。」
う、うーーーん。
なんかそんな気がする。
悪いけども否定できない……。
「みーの義兄、創造主アルゴニックはなんて?」
「その方はこう言っていた……。
いざっていう時に役に立たなくて、何かとトラブルメイカーだと。」
「よくわかってるみ。」
みー君が頷く中ヒルさんが入れ替わるように身を乗り出す。
「おかーちゃ……ユミって人は?」
「胸がでかくて、いなかったら困る。」
「おとーちゃん……ユウジって人は?」
「賢い馬鹿。カードゲームが強いけど、下心の塊の変態。」
なんだか結構、的を射抜いている気がする。
記憶があやふやでもなんとなくわかる。
それぞれに抱いていた感じ方と合点がいくような……。
ついでだしソライについても聞いておくか……。
この逃避行の原因はソライをユウジが迎えに行ったというのも原因の一つだし。
「ソライに関してはどう聞かされてきたの?」
「どうも何も、さっきまでの話をしてくれた本人だから、さすがにここはそれがしの評価なのだが……。
しいて言うなら交渉上手って感じだ。色々と物知りで素早い。」
ま、まぁ当たっているな。
なんだかソライはそういう奴だった感じがする……。
話をしてくれた本人なんだからそりゃ知ってて……。
ん?
ほ、本人??
待て待て待て……。
さっきこう言っていたよね?
親から聞かせてもらったって。
で、本人……??
「えーーーーーーーーー。
ちょっと待って。
脳が受け付けないんだけどさ。
さっきまでの話、ソライ本人から?」
「あ、ああ。」
「ソライが親?」
「そうだが?」
…………。
箸で、米を食べるネリィさんをみんなが淡々と見る。
「「「えええええええええええええええ!!?」」」
「なんだ?騒々しい、敵が来たわけでもなかろう。」
「違う違う!!ネリィさんってソライの娘なの!?」
「そうだが?まさか、それがしが男とでも思ったのか?」
「そうじゃなくて……!!」
私が挙動不審にしていると、ネリィさんが首をかしげる。
だが私の前にハナビさんが箸をからーんと落し、ふらついたようにネリィさんを見る。
「お、お、お兄ちゃんのソ、ソ、ソライお兄ちゃんの、むすめ……。
あ、あ……あ……。」
「マ、ママ?」
なんだか、ハナビさんの体から蒸気の様な熱が出ている?
明らかにくらくらしていて顔を真っ赤にしてやばい。
「あ、ああ……。うそ……嘘嘘嘘……。
お、お兄ちゃんが結婚して、子供……。」
「マ、ママ?大丈夫?ウチのほっぺムニムニする?」
「ふぇ……あ……ぁ……う、う、うん。」
ハナビさんがくらくらしながら娘であるヨゾラちゃんに駆け寄り、ほっぺをムニムニし始める。
可愛いけど、だいぶもみくちゃにされているようだ。
「あーうん。落ち着いてきたわヨゾラ……。
そうよね。うん。そうよね。うん。
お兄ちゃんほんとにけっこんしちゃったんだね。うん。
うんうん。うん?」
どう見てもまだ動揺しているようだ。
眼光が開いていてめっちゃ怖い。
「あー食事中で悪いが今更ながら自己紹介をする。
このフードももう貴様らの前では不要だろうしな。」
ネリィさんはフードを外す。
茶髪でダックスフンド特有のたれ耳。
八重歯がかわいく、尻尾がかわいい。
緑色の服を着ていて、メガネをかけていた。
年齢は私と同じくらいで、しゅっとした目つきだが意外に優しそうな顔をしてる。
見た目が綺麗と可愛いの間の様な優しい感じ。
彼女は丁寧に頭を下げる。
「それがしの名前は、応木 ネリィ。
本名はネリィ・オウキ・セレスプルトと申す。
エギレシア王国セレスプルト領の女領主クリファ・セレスプルトと、武山冒険社の応木 空井の間に生まれた娘。
他にも弟が1人おります。
親から聞かされたこの地に住むサムライに憧れています。
父の用事で同行しつつ母と弟、領民を襲った放火の大罪『嫉妬』を討つべくして、サムライらしく天誅しに来ました。
今後ともどうぞ、よろしくお願いします。」
「おにいちゃんにこ、こ、こ、こ、こ、こどもが2人……。
……………………………………ヴぇぁーーーーーーー…………。」
「ママァーーー!??」
「にゃお!?」
それを聞いてヨゾラちゃんのほっぺをムニムニしていた、ハナビさんが白目を向きドンという大きな音をして仰向けに倒れる。
痙攣して気絶してしまった。
リュフォーさん猫が猫パンチしても起きる気配がない。
すでにネリィさんの自己紹介の時点でカオスだが、船はそろそろセキギへつきそうだ。
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この物語の『更新』は現状『毎週金、土、日』に各曜日1部ずつとなります。
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本日のヒトメさんによる被害/買い物
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巨大鯛:死滅、軽く焼いて醤油に浸すとおいしい




