第6話『ラーメンと就寝少女』
――ラーメン。
私の中で一番ではないけど割とこだわりがある好きな食べ物の一つ。
学校帰りに食べた記憶があるような感じがする。
たぶん!
こだわりポイントはいくつかある。
食べさせてもらうとはいえ、そういうところは割り切って評価させてもらうわ。
まずは客にラーメンを出す速度。
こいつが駄目なラーメンはすでに、評価はビリから数えたほうが早い。
さてこの店は……。
「ヘイお待ちィッ!」
そこそこ早い!グッジョブ!
だがまだ!香りを堪能させてもらうわ。
スンスンと鼻を動かすと大体入っているものはわかる。
鶏がらと豚骨をベースに、玉ねぎ、醤油、それとたぶんニンニクの粉末かな……?
醤油豚骨ラーメンね。
具はメンマ、煮卵、なると、チャーシューが2枚、ネギ。
「いただきます!」
イイじゃない!オーソドックスで王道の醤油ラーメン!
じゃ、早速スープからいただこうかしら。
「……ッ」
この濃厚さはすごい!
一口で煮込む時間が完ぺきに計算されつくしているのがわかる!
うまい!普通に期待以上だわ!
この店長さんのにやけ顔からして相当自信があるものね。
じゃあ続いて麺を…………。
…………私は麺を勢いよくすする。
……………………………………
……………………………………
……………………………………
…………はぁあぁぁぁ~~!!?
ボッサボサじゃないの!!
麺ていうより小麦を食べている感じに近い!
コシが入ってない!
スープがいい分、麺のがっかり感が半端じゃアない!!
まずい!普通に麺がまずい!!
ふざけてるの!?どう打ったらこんなまずい麵ができるの!?
市販の格安で半額シール張り付けている麵の方が確実にうまい!
スープはうまいのに!
麺がマズイっていうこのアンバランスさがはっきり言って気持ち悪い!
なんか悔しい!!
いや、待て。待つのよ私。
具!トッピング!それで名誉挽回するかもしれない……!
落ち着け!焦るな!
チャーシュー、ネギ、煮卵、メンマ、なると…………。
とりあえず一つずつ食べてから考えよう……。
…………超フツーーーー!
普通の具だ。
普通にまずくはないんだけど、まぁこんなもんかな感が半端ない。
だけど煮卵は別だ。
スープのうまみが染み込んでいてこれだけはぶっちぎりで合格を出せる。
あとは普通だ。
な、なんてちぐはぐなラーメンなんだ……。
正直、どう評価をすればいいかと言われれば。
麺が最悪、スープは上出来という、いびつなラーメンだ。
お金は取れるような代物だろうけど、評価しづらいものだ。
ここに客がこれだけしかいない理由か……。
断言できる。
恐らく他のお客さんはこのスープだけを飲みに来ている。
まぁ出されたからには最後まで食べるけども……。
◇◇◇
「ご、ごちそうさまでした。」
「どうよ!このフメツ様の醤油ラーメンは!」
「はい、スープがよかったです。」
こんなに自信もたれちゃスープだけよかったなんて言えない。
「だろーー!」
と、フメツの店長さんの頭へ、バシィ!と思いっきりハリセンで叩かれる。
「いでぇ!?」
「なーーに調子に乗ってんだいあんた!
いつも通りスープだけじゃねいかい!
早くうまい麺を作らないと倒産だよ!
と・う・さ・ん!!」
ハリセンで叩いたのは割烹着にパーマで、背中に赤ちゃんを背負った気の強そうな輪郭が四角めのおばさんだ。
「あ、こんにちは~初めまして~。イチジクの友達だね?
あたしゃこいつの嫁。佐藤 蜜。
ミツおばさんって呼んでくれ、背中の赤ん坊は適滅っていうんだ。」
「だーぁ!」
気は強そうだけど根が優しそうだ。
あと背中のテキメツちゃんがかわいい。
赤ちゃんの笑顔ってほんと最高〜!
赤ちゃんてなんでこんなにかわいいんだろ~~!
母性本能爆発しそう!
私に子供生まれたらお肌触りたい!
「店が終わるまでちょっと待っておくれよ。
イチジクに仕込みを手伝ってもらわにゃならん。」
「ええ、全然かまいません。」
ミツおばさんがスープをかき回しながら言うと、店の奥からイチちゃんがハートエプロン姿でお玉を持ってやってきた。
私がラーメンに夢中になっている間、着替えたらしい。
ロングヘアーをくくって頭巾の中に入れるとまた印象が変わっていい感じに可愛い~~!!
あとエプロン姿のイチちゃん目当てで来るお客さんいるでしょ。
ほらそこにいる人とか、そっちの席のおじさんも厨房のイチちゃんガン見してるし。
麺が台無しだけどイチちゃんがかわいいので良しとします。
っていうか、無茶苦茶テキパキ仕事してかっこいいな~~!
「家の裏でシャワー浴びれるから汗流してきな!」
「は~~い!」
◇◇◇
シャワーから上がりさっぱりし終わると、ちょうどイチジクちゃん達も仕事終えたばかりらしく我ながらナイスタイミングだった。
「お待たせ~。」
イチちゃんたちに連れられてラーメン屋の二階へと昇る。
二階はテレビとちゃぶ台、座布団が置かれた居間と夫婦の部屋。
あとイチちゃんの部屋があった。
私はイチちゃんの部屋に案内され今日はここで二人きりで寝ることにワクワクしていた。
イチちゃんの部屋はだいたい4畳半ほどで学習机と布団。
小さな窓から吹く風で桃色のカーテンが揺れる。
あと今、私が着ているセーラー服と同じものがハンガーにかかっていた。
そして、何よりもその大きな本棚に目が奪われる。
分厚い辞典から、小説、雑誌。
いろんな本が置かれていた。
小説は私の好きそうな恋愛小説もあるけど、どちらかと言えば冒険小説が多そうだった。
あとりんごのいいにおいがする。このにおい好き。
「待っててね。確か押し入れにもう一つお布団あるから。」
イチちゃんは押し入れからお布団を取り出す。
どうやら私の布団はいちごのお布団らしい。
「ありがとー。お言葉に甘えて、ここで寝させてもらうね。」
「…………うん。」
少し照れてる~~きゃわいい~。
私は初めて会ったばかりでキョドっているイチちゃんに微笑みながら、ふとずっと気になっていたことを聞いてみる。
「ねぇイチちゃん。ちょっとずっと気になっていたんだけど。」
「なぁに?」
「窓の外にあるあの大きな球体ってなに……??」
私がずっと気になっているもの。
お墓にいたときや、ビルの屋上を駆け回っているとき。
いろんなところからずっと見えていた雲を突き抜けるほどの超巨大な建造物。
全体的に球体で大きな謎の物体。
暗い中でもその存在感は大きく怪しい光がそれを照らしている。
「あれは『エイドスドアルーム』っていう物らしいよ。」
「『エイドスドアルーム』?何それ?」
「歴史の先生曰く19年ほど前。
地底から現れたもので『この世界を創造し壊す装置』らしいよ。
よくわからないけど、19年前に暴走してこの国の人種を問わず、何百ものの会社があれを攻略し暴走を止めたんだって。
歴史の先生曰く、アレの攻略をしたのはアウトローで当時、最底辺の冒険社達だって言ってたよ。」
「へーーー。」
私がいない間に大事件起きてたんだ。
この国を駆け回り、モンスターの退治や護衛遺跡の調査などのいろんな依頼をこなす業種、冒険社。
彼らがあそこに挑んだのか……。
…………恐らく護身用の稽古をつけたサイムは大丈夫だとは思うけど……。
でもこの25年でいろんなことが起きているんだなぁ~~。
それに地底からあんなバカでかいものが現れたんじゃあ、町の地形そのものがだいぶ変わっちゃったのかな?
そこからこんな大きな街になったんだね。
「えーーーと、歴史の教科書は……。
あ、学校に置き勉してたんだった。」
「あるあるだね~~。
またいずれ見せてもらうよ。
ただ今日はいろいろとあったしもう寝よっか。」
「うん。そうだね、ヒーちゃん。」
「おやすみなさーい。」
私がお布団に入り、イチちゃんが電気を消す。
窓からこぼれる街灯がほのかに顔を照らす。
「おやすみヒーちゃん。」
――――……エイドスドアルーム。
世界の創世と破壊を司る装置。
いつか、どこか、誰かの口から聞いたことのある言葉をかみしめながら目を閉じる。
こうして、私の長い最初の1日が終わる。
◇◇◇
同時刻、フメツ店長の視点
◇◇◇
―――イチジクの友達のあの子。
なんか見覚えがある。
恐ろしい何かの感覚、それを体が覚えている。
子供の頃の古い記憶に………………ん~~~~なんだっけなぁ……。
忘れちまったなぁ…………。
……………………ただイチジクの奴がようやく友達を家に連れてきたことを今は喜ぼう。
…………本を読むばかりで、友達なんていないと思ってたけど。
…………よーくやったよ、イチジク。
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この物語の『更新』は現状『毎週金、土、日』に各曜日1部ずつとなります。
ですが初回の9話まで8月6日まで一気に投稿します!
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本日のヒトメさんによる被害/買い物
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フメツ店長の醤油ラーメン:すべてがチグハグ……。完食