第三章幕間『少年少女を探すせわしない保護者』
◇◇◇
とある母の視点
◇◇◇
あぁぁぁあああ~~ーーーー!!
この十字路の先のどこかにいるはず……。
どこ行ったああああああああ!!
ニッショク!ゲッショク!ユーガタちゃん!
あの悪ガキ共!
許さん!!お使いサボって、このあたしの工具!財布!買ったばかりの商品開発用パーツ!
おまけに税務署に対する決算報告書!!
どこ隠したッ!?悪戯好きのガキンチョ共!!
絶対あの人の血だ!!
間違いない!!
――――聞いた話だとあの人、25年前某金魚少女と一緒にやらかしたって言ってたし……。
お客さんが来るっていう時に……。
それもタマシイのバカと知り合い数名って……。
知り合いっていうあいまいな表現だし……。
誰が来るのかわからないっていう状況に子供達は何してるのよ!!
アサとあの人も帰ってこないこの緊急時に……。
どうしよう……お店番しているヒルちゃんに応援頼もうかしら……?
でもお客さんが来たときの案内がいないし……。
小さい子たちの面倒を見ることもできないってのもまずいしなぁ……。
とにかく!ユーガタちゃん達悪ガキたちをちゃっちゃと捕まえてお客さんを出迎えないと!!
…………みんながいてくれたらあいつらの連携くずして捕まえられるんだけどなぁ……。
ダメだ。持ってる手札で考えるのよ。
考えないと、ユーガタちゃんは特に賢い。
利用しているつもりが利用される。
あの人の最も得意とする駆け引き。
あたしの最も得意とする工作。
あたしとあの人、両方のいいところを取り入れて最悪の結果になっている。
親子頭脳戦ね……。
街中をトラップだらけにして絶妙ないたずらを仕掛けるが今回はやりすぎだ!
規模も被害も最大すぎる可能性がある!
お母ちゃん、警察に呼ばれるのはごめんよ!!
――――止めてやる!!あたしはこれでも武山冒険社No.6!!
あんたたちのお母ちゃんなのだから。
トラップだらけの道のど真ん中。
工具箱を広げる。
サーモグラフィカメラ、赤外線スコープ、ペンチ、スパナ、ドライバー、ネジ、バーナー、電気ケーブル、電圧計、モーター、タブレット、ガジェット、ギア。
ありとあらゆる道具が入ってる中で、ネジを取り出してそこらへんに思いっきりぶちまける。
あたしたち冒険社の『斥候』をやっていた馬鹿ならこうするだろうから。
思った通り、ネジは糸に引っかかったのか不自然な方向で曲がって落ちる。
引っかかった糸の先を見てみるとその先には車。
もし糸を引っ張ったら車が発進する……?
――妙ね。
赤外線スコープもつけてみる。
あたしが通ってきたところ以外、見事に赤い線ばかりだ。
すでにこの道に誘い込まれている。
あの三人がここまでの物を仕掛けるなんてさすがに奇妙すぎる。
ただわかることは、あまりにも悪辣なトラップがそこらへんに張られている。
すでに被害も大きい(と思う)。
あたしは今、追い込まれた。
これは恐らく『逆境』ってやつね。
――冒険社時代から慣れっこだけども……。
問題は赤外線センサーに当たるとやばいってこと。
――――なぜならば、これはあたしの子供のいたずらではないはずなのだから。
明らかにこの量のセンサーは我が家の在庫にはない。
誰かが提供した?
それにトラップの量やそのエグさ……。
人が死にかねない非道さ……。
違和感を感じる…………。
――子供達以外にも、何者かが技術提供…………あるいはトラップそのものを紛れ込ませるように仕掛けている?
もしそうだとしたらこのままだとユーガタちゃんたちが、人を殺したトラップを仕掛けたことになって大変なことになる……。
誰かに罪をなすりつけられる。
考えろ、あたしの夫ならどう切り抜ける?
あたしの仲間達ならどう……。
いや敵ならどこで仕掛ける?
――……。
――今かッ!?
こうやって硬直状態の今が一番危険なんだわ!
誘い込まれた身動きが取れない!つまり今が最も隙だらけのタイミング!
あたしの仲間ならそう考える!
すでに頭上から影!
何かが降ってくる!
動いたらトラップに引っかかる!
走るべきなの!?
――あたりを見渡す。
十字路、一つは車で埋まってる!
もう一方は行き止まり!
進むと恐らくもっと厄介なトラップがある可能性が高い。
引き返す。
いや、なんだか嫌な予感がする……。
帰る時のみに作用するトラップとか。
――なら頭上から降ってくるものを回避する!!
見上げると巨大な鉄球があたしめがけて接近していた。
どう見ても道幅のほとんどを埋め尽くす大きさだ。
車のトラップをスパナで無理やり作動させて発射される。
恐らく鉄球の方が早めに地面と、あたしの寿命の底へ到達する。
そうなる前にドライバーへ道具を持ち換えて車の方面にある壁に突き立てる。
壁へ走りドライバーを階段代わりにして、二段ジャンプする。
車も迫ってきているから、それを飛び越えて十字路の端の方へ飛びながら移動する。
「よっと……!」
鉄球が地面に落ちると同時に目標地点へ転がりながら受け身を取る。
地面が衝撃で揺れるが、直接当たっていないから大丈夫。
トラックと鉄球が衝突し大きな音を立てる。
――目の前に巨大な鉄球が地面にヒビを走らせて、えぐっているのがわかる。
「ふぅーー。」
流石に腰が痛い……。
もう歳ね……あるいは家庭頑張りすぎだから普段の疲れが出ちゃったかもね……。
――さて、明らかにやばいトラップね。
これ……娘たちの心配が強くなってきた。
子供たちにとられた書類よりも、本人達のがね……。
子供達の協力者、あるいは便乗者。
明らかにトラップに介入した何者かを、どうにかしなければ。
誰かが死にかねない被害が出る前に……。
ヒルに連絡をしなければ……子供たちが緊急事態なんだし……。
――――本当にあの時の仲間がいてくれたら……せめてあの人だけでもいてくれたら、こんなことにはならずに済んだのに!
――あるいは……。
――――セーラー服が真っ赤な血に染まった、伝説の金魚の少女がいてくれたら。
とりあえず、手札を補充すべくあたしの頼もしい長女に電話をかける。
数回のコール音の後、ようやく出る。
「ヒルちゃん?今すぐ3丁目の交差点に来て。きな臭いことに巻き込まれたんだけど、警戒してこっちに来てくれない?」
『…………。』
なんだ?繋がってるはずなのに……。
風の音?
「ヒルちゃん?」
『…………。』
「ヒル!!」
『おかあちゃーー……。』
ん?
ちっ、通話中に!また頭上から影が……。
何かが落っこちてくる!!
さっきの数倍速い!!
「ゃーーーーーん!!」
は?ヒルの声が、聞こえる?
電話からじゃないところから?
ていうか上から!!?
上を向くと、重機みたいにでかい鋼鉄のへ、蛇!?が目の前に高速で降ってくる!!?
「ぴゅぎゅるあああああああ!!?」
という悲鳴をたてその蛇?は絶命する。
土埃と瓦礫の破片を先ほど落下してきた鉄球を盾にしてガードする。
あたしは驚くべきものを目にする。
その蛇の死体の上。空中から蹴り砕いたその存在。
制服を着た少女、うねるような長髪。
発達した筋肉と、すべてを屈服してきた腕。
全ての生命を踏みつけ砕いてきた脚。
殲滅と青春を生きていた彼女。
最上の生命体『女子中学生』。
彼女は靴の下で体液を吐いている蛇を睨みつけ。
大昔、かつて聞いた口癖?をつぶやくのだった。
「そして私は、敵の存在を鮮やかに処理し、対象は絶命した。」
決して生き返りなどないはずのこの世界で、よもやまた見られるとは……。
彼女は『血濡れセーラー服の赤金魚』。
あたしは彼女に再会した。彼女はあたしを見つめる。
かつていたこの町にいたその少女。
――高達ひとめ。
「ヒ、ヒトメちゃん?」
「はい!!来ました!!」
あの日々を超え再会した、あたしが最も必要としているその真っすぐな瞳と変わらない笑顔に、少し胸が高まった。
※ブックマーク、評価、レビュー、いいね、やさしい感想待ってます!
この物語の『更新』は現状『毎週金、土、日』に各曜日1部ずつとなります。




