最終章前編『無双無敵少女は諦めない その1』
――――全ての始まり。
あの日、あの時を語る前に。
少し先の話をしなければならない。
時系列的におかしいことだが、始まりの前に後の物語が先に来るのだ。
▽△▽
それは『ターニングポイント』
第二のエイドスドアルーム。
ニチさんとヒーちゃんの戦いの最中までさかのぼる。
▽△▽
「奥義ッ!!ホホジロザメェェッッ!!!」
ヒーちゃん!!
創造主さんの力によって動けもしない!
こんなはずじゃなかったのに!
ヒーちゃんを支えるんだって決めていたのにッ!!
なんで、そんなに真っ赤な肌になってまで止まらないの!?
――もう、やめようよ……。
歯車によって何もできずにこうやって悲しい思いをするなんて……。
アタシに力がないから?
それともこの世界が理不尽なせい?
アタシ達が見守っていると突然。
「05Idアビリティ!カースギフト!!」
「04Idアビリティ!モッシュピット!!」
――なぜエギレシアの2人がここに!?
あの創造主はなぜ彼らと?
やっぱりアタシ達は裏切られたの!?
「ヒーちゃんッ!」
アタシの声はなんで届いていない?
なんでアタシは無力なの!?
ああ、ヒーちゃんが眠ってしまう。
ニチさんも倒れ伏す。
我慢できない。
「何をしたの!?創造主アルゴニック!!
そしてエギレシアの2人!!
アタシの友達に何をした!!」
創造主が空間に穴をあけている中、必死にもがく。
動け!動け!アタシの身体!!
動けッ!!
「あー訳を言うから待ってな~!
今から能力の解除を……。」
「うおおおお!!」
「!?」
指が、動いた……!?
「……。
『行動を殺した』……はずだ。
何が起こってる??」
指と同じ要領で足を動かして、創造主へ一歩踏み出す。
「ヒーちゃんに何をした!!」
一歩一歩と創造主へと迫る。
弱弱しく創造主へ迫り、思い切り拙い動きでパンチを繰り出す。
「おっとそれまでだぜ、お嬢ちゃん。」
開けた空間から出てきた人物に腕を掴まれる。
「こいつは俺のダチなんだ。
ヒトメに触発されてそういう行動をとるのは感心しねぇな。」
その人物に柔道の要領で思い切り投げ飛ばされる。
投げ飛ばされ地面へ激突する!?
と、思ったが地面がふかふかとした感覚がする。
「カオスミックス、スポンジ!!
地面とあらかじめ持ってきていた食器用スポンジを混ぜた。
2つの性質を融合し、地面をフワフワさせておいた。」
な、なんだ?この能力は?
物質を混ぜた?
相当な距離を投げ飛ばされたぞ。
あの空間から出てきたのは一体……?
倒れ伏したこの状況の中のせいか、身長が高いのか顔が見えづらい。
あれは誰だ?
「まさか……。」
「やっぱりお前だったか!
依頼って言葉を聞いて察しがついたぜ!!」
ユウジさんこの反応誰だ?
「……サイム!!」
え?
アタシを投げ飛ばしたのが、ヒーちゃんの彼氏?
サイムさん?
何がどうなってる??
「サイムさん!久しぶり!」
「久しぶりだな!お前ら!
……っと!そうだそうだ……。」
サイムさんがアタシに近づく。
顔は見えないけど手を差し伸べている。
「ぶっ飛ばして悪かったな!
今、訳を説明するからよ!」
なんだこの長髪の彼は……?
ぶっ飛ばしたうえで助ける。
異様な行動をする。
これがヒーちゃんの彼氏。
――惚れるわけだ、悔しいけども。
ヒーちゃんの好みなわけだ。
アタシの好みじゃないけども。
無茶苦茶を体現にしたような人だ。
「……自分で、立てます。
アタシはヒーちゃんの……親友なので。」
「おや、そうかい?」
アタシは顔を見ないまま、項垂れてみんなと少し距離を置く。
みんなの停止状態が解除されて、サイムさんを囲んでいる。
「サイムさん!ニッちゃんさんどうするの!?」
「この馬鹿!」
「いやー悪い悪い。
まぁ再会の感動もあれだけどよ、ちょいとお前らにやってほしいことがあってな。」
眠りについたヒーちゃんをサイムさんは撫でる。
優しそうな顔で。
「懐かしいな……ヒトメ。
…………ん?こんな位置にほくろなんてあったっけ?
まぁ……記憶がぼやけるまで、ずっと会えてなかったんだな……。」
――その背中は大きく、思わず嫉妬してしまう。
アタシもあんなのだったら見ていてくれるのかな…………。
少しその様に当た後ずさりしてしまう。
「いや、その恥ずかしい話なんだが、ヒトメとニッちゃんをどうにか仲良くさせてよ。」
どうしよう……ヒーちゃんが取られちゃう。
「何とかしてプロポーズするために手伝ってくれないか?」
――サイムさんの口からその言葉を聞いた瞬間。
――アタシの中の何か大きなヒビが入った。
――――そのヒビから少しずつ、何かの衝動があふれてきた。
――拒絶的な、泣きそうな、静かで激しい感じたことのない感情だ。
「え……。」
いやだ……嫌だ……ヒーちゃんはアタシのものでいてほしい。
アタシだけのヒーちゃんでいてほしい。
――この衝動は『独占欲』なのだろうか?
――だが、それ以上の何かとしか言えない、心だ。
心で小さくざわめく自分の欲望の声が聞こえる。
自分の心の声だ。
『ほぅら、そんなに欲しいなら手に入れちゃいなさい。』
駄目だよ、ヒーちゃんがずっと求めてきた人だよ。
『駄目なことなんかない、引き下がる必要はない。
そうやっていつまでも引き下がることが正しいことなの?』
いや、そんなわけない。
アタシだってヒーちゃんを独り占めしたい。
なんであったこともない人にとられなきゃダメなんだ?
でもヒーちゃんにとって彼はずっと求めていた人だ。
▽△▽
『……そうやってお前はずっと間違え続けてきたんじゃないのか?
求めてきて、くじいて、お前はそうやって目を背け続けるんだ。
大切な人の幸せを受け取って自らは何も受け取ろうとしない!
そういう卑しい女なんだ、お前は!』
▽△▽
うるさい、いじめっ子みたいなことを言わないで。
アタシの心がそう言うことを言いわないで。
なんで、親友の幸せがそこまで来ているのに、アタシはこんな風に自分で自分を責め立てているんだ?
『ほら、選びなさい。
留まって何もしないか。
前に進んで望まない結末を祝い呪うか。
…………あるいはいっそのこと後ろに下がって、真実を知るために飛び込むか?』
後ろに下がって……?
――アタシの心は何を指している?
後ろにあるのは謎のフラフープのような装置。
真実を知るために飛び込む……。
――な、なにか知れるのか……。
――いや待て!
――こ、この声はアタシの直観か?
――さっきから心がざわめくこの感じは何だ?
誰がアタシに話しかけてきている??
創造主が音や光を操ってアタシを騙そうとしているのか??
▽△▽
「ほーなるほど、ヒトメたちの仲を深めてからアタックをかけないと、こういう目に合うからお前はオレ達を招集してたわけね。」
「あいかわらず考えることがコスいわね。
だからその歳でネチネチしてんのよ。
女舐めるなー!」
「ユウジとユミに言われちゃあ俺もしまいだなぁ。
こう見えてまだ29歳なんだが!?」
「うぇ!?」
なぜサイムさんは29歳なんだ?
40歳は超えてないとおかしい。
声から若いことはわかる。
「ああ、そこにあるフラフープみたいなのがタイムマシンでな。
俺はわけあって落ちたんだ。」
「タイムマシン!?」
フラフープみたいなのって……もしかして後ろにあるこれ?
これがタイムマシン……。
……アタシの背中にタイムマシンがある。
サイムさんはここまで何とか生き延びてきた。
――もしも、ヒーちゃんとサイムさんを出会うことを阻止出来たら?
真実を知るとかどうでもいい。
アタシはこんな風に傷つけあうことを止めたい。
ヒーちゃんとサイムさんが会ってほしくない。
ここで友達として離れて生きたくなんてない。
誰にもとられたくないし、ヒーちゃんに傷付いてほしくない、ずっとアタシのそばにいてほしい。
それをやるくらいなら……。
いっそのこと……!
アタシがそう思った瞬間、後ろの装置は突如起動を始める。
アタシはその時。
そこへ自然と足が伸びていた。
――それは……不注意なんかじゃなかった。
「え!?」
「イチジク!?」
アタシは選んだのだ。
「イチジクちゃん!?」
ヒーちゃんの隣に立っていたい。
だから思わず、選んでしまった。
これが仮にタイムマシンだとして、もしもあまりにも超絶な青春の塊であるヒーちゃんがサイムさんを探し出す前に戻れてそれを止められたら……。
だから、この穴の中に落ちて行った。
一生アタシが親友として、彼女の隣にいられて。
――その愛を独占出来たら……。
――あの暗い過去をトラックと共にぶっ飛ばしてくれた彼女の、隣にずっといられるのなら……!!
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思えばこの時のアタシは愚かだった。
だが、真実を知ろうとしなければいけなかった。
それが正しいことだったのだから。
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