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第180話『あの少女の名前は……。』


 ――イチちゃんがそう言って何も聞かないなら……。




 


 やるしかない!

 事故であったであろう数年で何があったか知らないけど、この世界を終わらせる発言しているんだ。

 お灸をすえなくちゃ!


 

「高達流闘術!」

 


 あれ?



「……い、壱匹目!」





 なんだ?





「デメ、キン……。」




 

 ……ペチン、という音がした。


 



 ……どういうこと?

 今イチちゃんに向けて放った拳は、力なく『ぺチン』という音と共に掌で受け止められた。

 友達だから?

 いや、違う気がする。

 脳が思考できていない。

 いつもの戦闘する時の感覚や、こうゾーン入ってるあの時間の流れてる感じが全くしない。

 まるでか弱い女の子の力で殴ったような。

「もうヒーちゃんに力はない。

これからはずぅーーーっと普通の女の子。

アタシが守るべき、ただの女の子。

保護すべきただの少女。」



「……え。」



「ヒーちゃんはサイムさんの戦いで満足した。

元々がサイムさんを危険から守るという幸福があったから、その『力』を手に入れた。

だが功利の怪物が、幸福を求めるべきところまで達した。

結果として幸せの形が変わった。

サイムさんが強くなってしまった結果、守るために求め続けた『力』という幸せが崩れた。

そして守られるという幸福を手に入れた。」

 なにそれ……私の磨いてきた技は?

 金魚モードは…………?

「もう、無駄な怪力も技も回復力もない。

全て人並み程度。

ありふれた形。」




 

「ヒーちゃん、おめでとう。

あなたがずっと望んでいたもの。

これからはただの青春を謳歌するアタシが大好きな『普通の少女』だよ。」

「そんな!?」

 嘘、嘘……。

 でも力が出ない、金魚モードも発動しない。

 骨もまだ回復し切ってない。

 肌もどことなく柔らかい気がする。

 


「ヒーちゃんはそこでゆっくりしていてほしいんだよね……。

だから、悪いけど無駄な足掻きをされる前に縛り上げさせてもらうね。

『鎖』の歯車M(エム)。」

 私の足元から大量の極太の鎖が生えてくる。

 それにハムみたいにギュッと巻き付けられて地面に倒される。

「ウグッ……!?な、なにこれ……。」

 それに地面にぶつかる衝撃がおもく骨折した骨に響く。

 なぜか涙が出てくる。

 たかだか地面にぶつかっただけなのに!

「痛いのごめんね。」

「イチ、ちゃん……。」




「こっちは終わったわ。」

 


 

 私が白い花に倒れ込むと同時に、その黒髪の女性は唐突に現れる。

 

 

 たしか夢に出てきた……。

「マ、マルさん!?」

「久しぶりね、ヒトメ。」

 それに隣にいるのはニチ!?



「ニ、ニチ!この鎖をほどいて!!」

「……。」

「ニチ?」

 待って……。



 


 何?





挿絵(By みてみん)

 

 なんだ!?その目!?

 ニチの目が、まるで三原色のような目をしている!?

「ニチ!!聞いているの!?

ねぇったら!!」

「無駄よ、ヒトメ。」

 夢であったマルさんが現実として言葉を発する。

「ニチは元に戻った。

そしてあなたは戦わずして負けた。

戦う力がなくね。」



 ――元に戻ったって何!?どう見ても正気には見えない!



「イチちゃん!やめて!!

マルさん!何でこんなことするの!?

ニチはどうなってるの!?

やめてよ!!やめなさいよ!!!

私のためって何よ!

私はこんな風に世界が壊れてほしいなんて一度も思ったことがない!!」

 倒れ伏してる中懸命に叫ぶ。



 

「他人の……。」

 イチちゃんが歯を噛みわなわなと震えて、地団駄を踏み、地面に伏せた私をにらむ。





 

 

「他人の気持ちも知らないヒーちゃんがアタシを止める権利なんかないんだよッ!!!」

 


 



 ……!?

 い、イチちゃんがここまで大きく怒鳴るなんて……。

「………………詳しくは後で話す。

まだやることは多い。」

「イチちゃん……、それが友達のすることなの?」

「友達以前にやるべきことがある。

理由を話すのはもうちょっと後でね。」

「……さぁ行きましょう。

イチジク。

こんな世界にもう、用はない。」

「ええ、そうね。」

 マルさんが指を上へあげると体が宙に浮く。

 まるで球体の何かに揺られるように。


 上昇していく球体の中、下を見てみると人々が走ってる。



 サイム達だ。

 


「ニッちゃん!!ヒトメェッ!!」

「サ、サイムッ!!」

「もうどれだけ叫んでも無駄だよ。

アタシ達の歯車の力で声は届きやしない。

ヒーちゃんはアタシ達に負けたんだ。

か弱い女の子であるヒーちゃんをどうしようとアタシ達の勝手よ。」



 ……。



「本当にイチちゃんなの?

私の知ってるイチちゃんは……そんなんじゃ……。」

「アタシはイチジク。

信谷 無花果。

そして……。」




 イチちゃんは私の顎をあげる。




 




 

「あなたの元弟子、あの丘の上の石碑に刻まれたもの。

安藤(アンドウ) 礼徒(レイト)でもある。」

「え……。」

 ど、どうしてレイトさんの名前が……!?

 困惑で頭が働かない。










 

 ――イチちゃんで、レイトさん……。

 25年前、稽古を付けた元弟子。

 そして、彼は19年前死亡したはず。

 







「さぁエイドスドアルームへ向かいましょう。

話したいことはいっぱいあるから。

もっともただの女の子にヒーちゃんは戻ったから、無駄に暴れず。

ゆっくりお茶でも飲みながらね。」

「ニチは私が好きにさせてもらう。

下にいる奴らは邪魔だから、適当なタイミングであいつらを迎え討つわ。

あの男の保有する歯車を奪うことなんて造作もない。」

「好きにしなさい。」

 ニチもニチだ。

 なんで反抗しない?

 わからない。



 


 何も私はわからないよ……。

 




 こうして悩んでいる間にも。

 空が割れて大地が裂けていく。

 頑張って力を出して鎖をほどいて2人を止めるんだ!

 懸命に力を振り絞れ……!




 

 ――必死になってよぎるのは猜疑心だけだ。




 


 ――――何か私、間違えたのかな……。





 ▲▼▲

 


 

 

 

 どうしてこうなったんだろう?


 

 こんな結果をだれも望んじゃいなかった。




 

 彼女も私も。




 

「サ、イム……。」



 手を伸ばし声をかける。

 そこにいる。

 でも、届かない。



 立ち上がろうとするが、力が入らない。



「負けたんだよ……ヒーちゃん。」

 傍にいる私の友達が声をかける。

 どこか悲しそうな表情で。


 

 ――わかってる。そんなことは。



 ――遠くにあるエイドスドアルームが起動をし始めてる。

 


 


 幸せになるはずだったのに。


 


 

 どうしてこんな結果になったんだ?





 


 ――近くにいるその人を見る。


 

 ああ、あなたは私をずっと思っていたんだ。

 25年前からずっと。

 この結果はきっと、私が撒いた過ちだ。

 


 舞台が倒され、みんなが遠くなっていく。



挿絵(By みてみん)


 

 エイドスドアルームを中心として、空に亀裂が入っていく。

 青、赤、緑と空が壊れていく。

 大地が崩壊していく。

「ヒトメエエエエエ!!」

 サイムの声が聞こえる。

 みんなが手を伸ばす。



 白い花が舞っていく。

 

 

 私も何が何だかわからない。

 ただわかってることもある。



 


 ――私は負けたんだ。





 ――――おそらく、ここまですべて彼女によって仕組まれていた。






 

 ――――全員利用されたのだ。



 ――――死んだ魚のような瞳が私を見つめる。



 

「さぁ始めるわよ。すべてを創りなおす。」



 あんなにも幸せだった時間が嘘みたいだ。

 ニチとの時間、イチちゃんとの時間。

 活劇隊、冒険社。

 多くのみんなの時間。



「さぁ行こう。」



 いやだ、こんなの。



 私の青春じゃない。



 私が望んでいたものじゃない。



 



 無理やりにでも力を込めて拘束を振りほどき立ち上がる。

「私は諦めない!私の青春を!」

「ヒーちゃん……。」

 イチちゃんが私を心配している。

 何があろうと私だって譲れないものがあるんだ。

 諦めない!



 


「非常に残念ね。」

「うぐッ」


 

 ――また力が入らなくなった……。



 ――意識が遠くなる。

 


「ヒーちゃん。

もう、もういいんだよ……!

もう、よく頑張ったよ。」

 そう言ってイチちゃんが私を止めようとする言葉を振りほどく。

 でも、諦めきれない。

 こんな結果は認めない。



 天変地異が訪れる中、手を伸ばそうとあがく。



 焦燥感と諦めが心を包む。



 これが私の終わり。


 

 涙が出てくる。



 ここまで歩いて来た終わりの光景。



「悪いけど、計画は果たされた。

全員そろった。全部の歯車が手元にあるといってもいい。

『超越』『究極』『開闢』

そして『無限』を含む()()もね……。

この場にいる全員で、役者はそろった。

ヒトメ、貴女にできることはもう何もない。」


 

 嫌だ。



「すべてはこのためにやってきた。この何千兆年も。

何度の輪廻、創造と崩壊を繰り返し続けてね。」

 


 そんなのはどうでもいい。




 

 動け、終わりたくない。

 


 


 ▲▼▲

 



 

 諦めない。

 

 



 ▲▼▲


 

 


 絶対に。



 こんなのは……。



 ▲▼▲



「ヒーちゃん。」

「イチちゃん……。」





 イチちゃんは睨み、私の目をよく見る。

 もう金魚の目になれない目を。



挿絵(By みてみん)



「あなたが諦めたくないように、アタシも諦めたくない。

諦めない。

絶対に諦めない。

どんなことをしてでもどんな非道と言われようと、諦めない。

決して、決してね……!」

「……イチちゃん!やめようよ!」

 世界が壊れていくのを感じる。

 イチちゃん達に拘束された中、空中もひりついていく。

「何度も言わせないでよ……!

ヒーちゃんは何も知らない。

何も知らない人にアタシを語る権利も、止める権利も有してない!」

 声を震わしたイチちゃんが私へと近づく。

 


「ン!?」







 ――イチちゃんは何かがこらえきれなくなったのか、顔を近づけてゆっくり乱暴に私の唇を奪う。



 




「え…………。」

 


 




「……さてヒーちゃん、たしか『最上の少女』って名乗ってたね。

で、ニチさんが『最高の少女』か…………。

アタシずっと考えていたんだ。

ヒーちゃんに対等、あるいはそれを上回ることができたらなんて名乗るべきか。

この『予定調和』の中、何気なしに自分の在り方を簡単に説明できる二つ名みたいなのを。

キスを奪えたように、ヒーちゃんよりアタシが上だと証明して畏怖させる言葉をね。」

 イチちゃんはローブを取り、赤い衣を身にまとった姿を見せる。



 




 




 








挿絵(By みてみん)


 

「――――ヒーちゃんが『最上の少女』なら。

アタシは、『無双無敵少女』だ。」












 




 

「無双……無敵……。」

「安直だけども、もうヒーちゃんのように下だとか上だとか気にしない。

そういう領域にない『無』って感じまでアタシは来たもん。

すでに差は圧倒的なところまで来たんだよ。

だからもう何もせずに、この世界を諦めて欲しいんだよ。

アタシは絶対にあなたを諦めないからさ。」



挿絵(By みてみん)



 最後に見たのは彼女の憎しみにも愛にも似た、毒々しい瞳だ。

「…………わ、私だって……。」

「そういう超がいくつも付くような青春を追い求める、あなたが大好きだけどね。」

「……だったら。」

「……だから…………どんなことをしてでも!

アタシはヒーちゃんを手に入れる!

この衝動のままに世界を壊そうが、創りなおすことになろうが、どんなことになっても諦めないッ!」

 力なく項垂れている中、イチちゃんは蛇のような眼で私を見下ろす。

 私は鎖の中、途切れそうな意識の中イチちゃんへ反抗しようとするが、むなしく瞼が下りていく……。



 


 ▲▼▲




 ああ、言い忘れてた。

 これは私、ヒトメの物語ではない。

 これは『信谷 無花果』の物語。

 25年の時を超えて、蘇った普通の彼女の物語。

 いや、正確には無双無敵少女が

 恋と心と絆そして力の先、”青春”で彩られた道を突き進む。




 

 『最上への勝利の物語』






 

 ――私の”大切な親友”の物語だ。



 


 ▲▼▲



 瞼が降りる中、いつかの自分と重なる。

 天に吠え、そして決してあきらめない強い決意をした少女がそこにはいた。

 




 

 

無双無敵少女(アタシ)超超超絶な青春(高達 ひとめ)を諦めないッ!!」

 





 

 ▲▼▲





 

 ――第十章『心が躍る花嫁少女』.end

 



挿絵(By みてみん)




 

 ――――→NEXT.STORY

      最終章『心から愛している無双無敵少女』


 


※ブックマーク、評価、レビュー、いいね、やさしい感想待ってます!

この物語の『更新』は現状『毎週金、土、日』に各曜日1部ずつとなります。



 ――次章予告なし――


 =皆様へ連絡=

 さて、続きが気になるところでございますが少し駆け足でやりすぎたので1,2か月間ほど休養を取らせてください。

 実はもう書きだめのストックがないのと、私事ではございますが副業などを始めることになりまして、少し準備やら何やらで忙しくなりそうなんです。

 2か月たったら最終章行きましょう!

 というよりも私本人がこの続きの展開が気になるので書くしかないんです。

 お楽しみに!

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