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第178話『望郷の式場の少女』



 ――3日後。



 ――朝。

 


 なんだか傷の治りが遅い。

 骨なんて1日あったらくっつくはずなのに……。

 まぁその間病室で式の段取りとか、今後の拠点どうするとか色々と話し合えたし、まれに創造主さんが捜索の連絡をしてくれる。







 

「さて、ヒトメ、ニッちゃん。おはよう。」

「おはようサイム君……旦那様って言った方が言い?」

「いや、今はいつも通りでいい。式の後ならいいけど。」

 ニチが挨拶する中。

 私は寝ぼけて、歯ブラシを落す。

「おっとと。」

「大丈夫ですか?」

「ごめーん。」

 ニチが歯ブラシを拾う。

 おかしいな?

 いつものように力を抜いてしっかり歯磨きをしていたはずなのに、歯ブラシを落すなんて。

 力を抜きすぎたのかな?

「珍しいな、ヒトメの骨折が治ってないなんて。」

「確かにね。」

「私はなんだかすぐに治っちゃいました。」

 ニチですらすぐに治ってるし、サイムも私が幼少期に殴りまくったおかげで回復は早い方だから少しずつリハビリが始まってるのに……。

 まぁみんなこんな体調だからアダルトなことはなかった3日間だった。

 ただ骨折で面倒なのは時間がかかることだ。

 イチちゃんを探し出したいのに……。

「そうだ、アルに頼んで結婚式場を見てもらう予定なんだが、行けそうか?」

「車椅子があるだろうし、何とかって感じ!」

「私が引きます。

同じ人の妻なわけですし。」

 まぁここ3日でニチとの仲も依然として深まった。

 サイム曰く、結婚式場に予約しているのは、教会の総本山らしい。

 曰く魔王様のクレイとしての姿であまりに神父として何もしていないから、ちょっと大きな仕事をしてやったようにみせたいとのこと。

「飯食ったら行こうか。」

「行きましょう。」「おー!」

 その日だされた朝ごはんはベーコンと目玉焼きだった。




 



 ――なぜか、味がしなかった。


 



 私は妙に薄味だと感じながらも、こんなものだろうとなぜか納得してしまった。




「「「ごちそうさまでした!」」」

 両手に合わせて家族3人で食事を終える。

 するとサイムは軽く着替えて、私も病院服の上から制服を羽織る。

「行くか。」

 そう言うと同時に空間に亀裂が走り、私達はその中へ移動する。



 ◆◆◆



「よう、お三人。」

 創造主さんは仮面を二やつかせているが、少しぐったりしている。

「あれから、エイドスドアルームの攻略は芳しくない。

せめて動力室と制御コンピューター室が分かればいいんだが、俺のところとだいぶ構造が違っててな。」

「大丈夫!私が回復次第、すぐにイチちゃんを救出して見せるから!」

「冒険社として私達も協力します。」

「頼もしい限りだ。

一応、ユウジ達やヒトメさんのお仲間である活劇隊も呼んどいたから。」

「ありがと、創造主さん。」

「あいよ~。おれはそろそろ眠らせてもらうぜ。」

 創造主さんはゆっくりと宙へ横たわり、目を閉じた。



 会話を終えて改めてあたりを見回すと、白い世界って印象だった。

 小高い山の上に真っ白な教会が作られていて、あたりには白い花。

 ユリっぽい感じの花だ。

 風に揺られているその花に囲まれているようにレッドカーペットと、美しく荘厳な結婚式の会場が見える。



「きれい……。」

「あとでドレスの採寸しておこうな。」

 私達に向けてそういう新郎であるサイムは照れくさそうに笑う。

 


 ――ウェディングドレスかぁ……。



 私が求めていた服だ。








 ――あれ?





 私が求めていたもの……だよね?

 うん、そうだ。

 そう、だ。





 ――なんだろう?




 これが高達ひとめ()だっけ?

 なんだ?今朝から調子が変だ。



 ――まぁ、いいや。



 ……??



「ヒトメ?大丈夫ですか?」

 私の車椅子を引いていた、ニチが言葉をかける。

「え、ええ……。」

 教会のそば、向こうに活劇隊のみんなが見える。



 ▲▼▲


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

「みんな!」

「ヒトメ!イチジクが……。」

 イチちゃん以外のみんなが揃っていて浮かない顔だ。

 特に久々にあったヨゾラちゃんは今にも泣きだしそうだ。

「大丈夫、私が回復次第全力で探す。

そしてここで結婚式だから。」

 二かッと笑って見せると、ヒルさんもほほ笑む。

「そうね。

先に結婚して悔しいところだけども、その悔しさをイチジクにも分け与えてやりましょう。」

「うん。」

「いい顔になったっしょ。」

 薄暗い中にほのかに光が差し込んだ気がした。

「オレっちも捜査しているけど、少し妙な点があるだろだろ。」

「妙な点?」

 アサくんが資料を渡す、指紋とかそういうのが載った資料だ。

「イチジクちゃんが装置へ足を滑らしたと聞いて、少し気になってさぐってみたんだが、たまたま起動したっていうわけじゃなさそうなんだ。」

「え?」

「あまりこういう風に言うのはよくないんだがな……。」

 アサくんは呼吸を整える。

 


「誰かが人為的に装置を起動させてイチジクを落した可能性がある。

()()()()()()()()()が。」


 

 その真剣なまなざし、から思わず困惑してしまう。

「じゃあみんな容疑者……?」

「それはないと思っていいだろだろ。

あの時、オレっち達はアルゴニックさんの歯車の力で身動きできなかった。

そしてイチジクはいつの間にか装置の近くにいて、誰かによって装置が作動された。」

 あまりに急な事態の告白で困惑してしまう。

 どういう展開でそうなったのか、まだ不鮮明だ。



 ――あれ?歯車の力で動けなくなっていたのに、いつの間に動いていたイチちゃんは一体……?



「とにかく、起動させたのが誰かさえ分かればイチジクちゃんを救出できるかもしれない。

これがただ1つの希望だろだろ。

オレっち達はもう少しあの場所を科学的研究をつづけるだろだろ。」

「頼みます。」

 アサくんはうなずいて、手元のタブレットに目を戻す。

 その顔は真剣そのものだ。



 その言葉を聞いてもヨゾラちゃんはいまだに泣きそうだ。

「ヒトメ、イチジク何とかなるの?」

「何とかしてみる。」

「何とかって……。

何ができるの?」

「回復したらエイドスドアルームを殴り飛ばしてでもイチちゃんを迎えに行く。

ウェディングドレスを見せたいし。」

「……ウチは、そこまで理想的な考えはできない。

ゲーマーは理想を見ることもあるけど、極めていくと利己的なんだよ。

そこまで理想的ではいられないから、ウチはウチでできることをやるよ。

イチジクが仮に過去に行ったなら、とる行動を考えてショーワ街を散策する。」

「うん。」

「じゃあ、それまでウチは祝わない。

祝う時はイチジクと一緒だから。」

 ヨゾラちゃんは、真剣な顔で私に伝えて、アサくんと共にタブレットの資料に目を通す。

 どうやら資料にはエイドスドアルームの詳細な地図と調査結果が映し出されているようだった。



 横からみーさんが手を引く。

「みー!ヒトメちゃん達、こっち来てほしいみ。」

「ど、どこへ?」

 みーさんに案内されてニチと共に、向かうと教会の手前そこには一面のお花畑があった。

 きれいな白い花だ。

 


 ただ、呆然とみーさんは花畑を見る。





「みーくんはね、お花畑に行きたかった時期があったみ。

義兄がつらかった時期、みーはお花畑に行くのが夢だったみ。」



 みーさんはどこか泣きそうな顔で花を見ている。

「こういう形で、ここに来たのは内心複雑み。」

「どうしてお花畑に行きたかったの?」

「……みーくんは生きてないから。」

 ……。


 

 ぬいぐるみだもんね……。

「人間も動物も植物だって生きているみ。

でもみーは生きていないみ。

…………それがまれにとても悲しくなるみ。」

「……人と違うから?」

「違うみ、こうありたいと願っても動けないから。

それだけで無性に悲しく思うみ。

だから、動けなくても風に揺られているお花に囲まれて、生きていることを実感したかった時があったみ。」

「……でも、みーさんはこの世界では動けている。」

「そう。

でもこの世界で動けていても、あっちの世界でお義母さんとお義父さんに『ありがとう』も伝えられていない。

ここでお花を見てもしょうがないみ。

()()()で見ておくべきだと少しわかったみ。」

 


 みーさんは虚空を見つめて、ゆっくり笑う。


 

読者(みんな)は動けるんだから、お花を見ている人に手を差し伸べてほしいみ。

みーくんはこれが終わったら、一度実家のほうに帰るみ。」

「うん。」

「だからみーも、イチジクちゃんを必ず見つけるみ。

こっちでは手を伸ばせるんだから。

歩けるんだから。

やれるだけのことをやるみ。」

 私もうなずき、花畑に目を向ける。

 みーさんと一緒に見ていた花畑。

 結婚式までの準備が着々と進む教会のすぐそばの白い花が輝くその場所。



 そこになんだか異様な色がある。






 

 ――影がある。





 
















 ――花畑に誰かがいる。










 

 ――白い花畑に赤い髪をした人物が立っている。



 黒いマントを羽織っている少し年上の女性?



 待って……。









 


 まさか……。

「――――イチ、ちゃん?」


 

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