ゴスペルポイント『彼の答え』
「ええーーーたぶん!今から後編だ!」
1分も経ってないけど何を言い出すんだサイム。
軽く水を飲んだだけじゃないか。
何言ってんだこいつ感がやばい。
「さて、俺はそうやって予言の少女に導かれるように色々とやっていったのだが……。
俺が福音を名乗りお前らとみんなを戦わせたのはとある問題を解決するためだったんだ。」
「「問題?」」
「今の様子を見て問題は解決されているみたいだし、ちょっと場所を変えて話し合おうか……。」
サイムはゆっくりとベッドから立ち上がり松葉杖をしながらこっちへ来いと扉の方へ手招きをする。
私達も身体がだいぶ重く傷だらけの痛みをこらえて魔王城を歩く。
「いったいどこに連れ出そうってのよ?」「こっちはけが人ですよ~!」
「ブーブー文句を言ってるが、ちょっとあそこで言うべきことじゃあねぇんだよ。
頼むからついてきてくれ。」
なに?場所でも関係あるの?
疑問と共にニチと顔を見合わせる。
「(小声で)あいつのことだから私達のご機嫌取りで、プリンとか驕ってくれるんじゃない?
実は会うのが恥ずかしかったから、みんなをけしかけたうえでプリンでご機嫌を取らせたうえで色々となぁなぁに使用って魂胆だよ。」
「(小声で)ありえますね。できるだけ高級な奴買わせましょう。」
「なんか言ったか?」
「「いいえ~何も~。」」
あいつが何かするときのご機嫌取りとかそういうのは読めてんのよ。
好きになった私らを舐めるな。
◆◆◆
――サイムが重たい扉を開ける。
そんなこんなで私達は魔王城の上層階。
演説とか行うベランダの上に移動させられる。
圧巻とする城下町と曇り一つない天気。
そして下の庭園の花の香りと、吹き付ける乾いた風。
遠方にある山々の氷雪が太陽を照らして煌めいている。
青と白、そして街並みの雑多な色と共に景色が虹色のように輝いて見えた。
目の中でそれが心地よい反射だとわかる。
空と自然と人、街すべてが心にグッときた景色だ。
「いいだろ、この景色。」
「ええ。」
「綺麗……。」
花が風に舞ってここまで上がってきていて、私達は思わず先ほどの会話を忘れて見とれてしまう。
サイムはベランダの手すりに寄りかかり、笑う。
「綺麗だろ?魔王様に折り入って頼んでみたんだ。
ここは魔国で1,2を争う超レア絶景スポットなんだと。」
その様を見てどこかかっこいいと思ってしまう。
いってることもやることなすことすべてめちゃくちゃ。
いくつになっても子供っぽいままだけど、芯が何も揺らがず真っすぐ歩み続けてきた男がいる。
ただだらだらと日々を過ごしつつ、毎日を懸命に歩み。
人情を信じ、多くの友達、ライバル、時には敵を作り、私が死んで悲哀を引きずりながらも人生を笑ってきたその人の横顔。
私が今でも信じ思わず笑ってしまう、この快晴の空のような顔。
私の好きな顔だ。
「俺が、な。
ニッちゃん、ヒトメにまた会えるって聞いてな。
不安に思ったことがある。」
「さっきの話の続き?」
サイムはうなずき、景色を見ている。
「お前ら、会ったら喧嘩するだろ。
互いにとって恋敵なんだし、会話より先に手が出るタイプだし。
いつもアクセルしか知らない2人が出会った瞬間にバチバチになっちまうだろ?」
まぁ実際喧嘩したし……。
殺しかけたし。
「これは遠からず2人が出会うであろう場合の対策を考えた。
喧嘩をするまではいいんだ。
喧嘩をしてお互い殴り合って仲良くなるっていうのはよくあるパターンだからな。」
「まぁ、サイムとユウジ、ソライのいつものパターンね。」
学生時代よくやってた気がする。
そして私が適当な骨を折って病院送りまでが流れ。
「だが、お前らの場合、威力とかの結果。
殺し合うだろ?
愛している2人が殺し合うのはさすがにやばいと感じた結果。
俺はソライに手紙を送り、ソライを通じてアルを始めとした冒険社全員に声をかけた。」
ソライが私達の国に来てた理由ってニチが復活して私も復活する。
そういう謎の予言があって、来たのか。
「まぁ、もしも蘇らなかったとしても近況報告はしたかったし、みんなに会いたかったからな。
『無限の願望器』の件もあるし。
ここいらで集合をかけるべきだと判断したんだ。」
なるほどね、これでつながったって感じね。
「で、何かあった時用のトラベル額縁やら、色々と近況報告と命令を書いて俺はさらに捻りを加えることにした。」
「捻りって何ですか?」
「アルが来るってことはあのなんでも能力を使えるってことだ。
そこで手紙を送った後、作戦を変更した。
よりいい結果に導くためのプランを思いついた。
お前達の喧嘩を止めるだけじゃなくて仲良くなるための結果をな。」
…………仲良く。
そういえばいつの間にかニチとのわだかまりが消えていた。
いつの間にか背中合わせで戦っていたし、いつの間にか隣にいた。
いつの間にか自分がフラれるのも嫌だし、ニチがフラれるのも嫌になっていた。
いろんな一面が見えて気がなぜか合った。
この数日間。
とても仲が深まった気がする。
「お前たちをどうにか争いを止めて離れさせ無くしたうえで、強敵を出現させる。
出来るだけ思いれのある強敵。
どちらか片方が情報を持っていれば必然的にコミュニケーションや連携が必要になるだろ?
敵を倒すってなったら互いの考えを読まないと仲良くはできない。」
一応、理にかなってる。
「そしてたびたび飯の機会、敵は誰なのか考察要素をちりばめてここまでお前達を追わせたんだ。
敵としてけしかけたみんなと会話もはさんでな。」
そういえば蒲公英姉妹とか、クレイさんじゃなくて魔王様とかご飯を用意してくれたりムッチーさんとかまんまそれだったし。
……まぁ新聞部と白野ツイントラップ隊はたぶん例外だろうけど。
「できるだけ話し合うような機会、そして乗り越えることをしないとお前らはここまでこれない。
その間にバチバチしすぎていたら理解をし合わない。
挫折してしまう。
だから俺はこの計画を練った。」
「サイム君は最初からそのつもりで……。」
「まぁ相談しあうために一番最初の旅館にこっそり移動して、前日にアルが風呂に入っているときにこっそり話しかけて、時間を止めてもらって会議したりしたけどな。」
私達が喧嘩している間に割って入れた裏側そういうことしてたのか。
「アルの助けを得られなければソライとかユウジがお前らの喧嘩に巻き込まれていて命を落としていてもおかしくなかった。
それにアルのおかげでエギレシアのお嬢さんたちに協力を得られたしな。」
「あれもサイムの仕業なの!?」
「意外に黒幕ポジションも楽しめたぜ。」
こいつ、私とニチをくっつけて結局何がしたかったんだ?
もしかして、私達に殴られないようにするためだけに?
いや、でもそうだとするとこの前の戦闘の意味が分からないし……。
「さて、いよいよ本題だ。
なぜ、俺がこんなことをしたのか。
ここからが計画の〆だ。
そしてお前らも気になっていることを答えよう。」
サイムは私達へと向き、それぞれの目を十秒間ほど見る。
「俺はな、恥ずかしい話なんだが、お前らと少しでも『対等』でいたいと思ったんだ。」
「対等ですか?」
「ああ、巷じゃあ『最上』だの『最高』だの言われているが、『普通の女の子』として扱いたかった。」
「普通の。」「女の子。」
そう言えばそういう風に扱ってくれる人ってそんなにいないや。
あえて言うならイチちゃんくらいだ。
あとは畏怖や尊敬、好感を持ってくれる人も多いけど、それは私が強いからだだと思う。
だからこそこういう風に扱おうという姿勢があるサイムがたまらなく好きになった。
その心は孤児院時代から全く変わっていない。
そういう風に見てくれている彼がたまらなく好きになった。
◆◆◆
サイムは少し息を吸う。
「だから、な。
答えを出すべき時が来たんだ。
どちらを選ぶべきかの……な。」
サイムはいつになく真剣な顔をする。
中学時代には見れなかった大人になった彼の顔。
そしてここからが彼なりの考えなんだ。
私はフラれたくない。
でもニチもフラれてほしくないんだ。
結論を遅らせることはできるだろう。
でもそうやって過ごすことはきっとできない。
この答えを聞くためにここまでやってきた。
――なのに言ってほしくない。
一番知りたがっていたはずの答え。
彼に求め続けてきた答え。
恋と愛情の答え。
――今一番知りたくない答え。
思わず息をのんでしまう。
誰も傷付いてほしくない。
自分もニチもサイムも。
誰かが不幸せになるのは嫌だ。
――絶対的な幸福だけがあればいい。
「俺はな……。」
どうか。
どうか……。
「サイム君……。」
「なんだ……?」
話を切り出したのはニチからだった。
「それを言うってことは……誰かが傷つくってことですか?」
「…………。」
「だとしたら私を切り捨てて……。」
「何……言ってるのよ。わ、わ、私でいい!!」
私は思わず口走ってしまった。
だって……。
だってニチがこんなにもボロボロって大きな涙を見てそんな言葉を放って言うなんて黙っておけるわけないじゃないじゃない!
「あなただって泣いてるのに何言ってるんですか!!」
「うっさい!だまれ!!だまれぇ……。」
「あなたこそ……あなたこそ…………。」
2人してフラれる覚悟を決めてしまってる。
でも嫌だもん。
純粋に同じ恋を求めていた隣にいた人が、むなしくフラれるのは嫌だもん!
背中合わせでここまで頑張ってきたのに!!
「「うわあああああーーーんッ!!!」」
でも私だってフラれたくないよおおおおおおおおお!!!
もう泣く以外のできないもん!!!
嫌だもん!!そんなの嫌だもん!!!
好きになった人に見限られたくないよ!!!
ここまで頑張ってきたのにそんなの嫌だもん!!!
全部嫌だ!!諦めたくない!!何もかも諦めたくない!!
感情がいっぱいいっぱいになって2人して腕を引っ掴み合ってボロボロと近れなくへたり込む。
目のあたりが涙でにじんで見えなくなり、ぼやけている中、どうしようもなさ過ぎて唇が揺れる。
喉が震えて、行がしずらくなって自然とニチの裾を引っ張る力が強くなってる。
――互いが引っ付き合い泣きながら自分がフラれるといった様子を見て、サイムは一瞬険しい顔になって少し微笑む。
「俺の答えはな。」
――視界がかすむ中。
サイムが小さな黒い箱を取り出す。
手のひらサイズの小さな黒い箱。
――それを手に持って片膝をついて私達を見つめて息を整える。
「お、俺と結婚してください!!」
箱を開けて頭を下げる。
――箱に入っていたのは指輪。
――――オレンジと紫、赤色の近似色でできた2つの指輪だった。
「「……………………え。」」
「ニッちゃん、ヒトメ!俺と結婚してくれ!2人ともだ!!」
泣くのをやめて数分間くらい硬直していた。
そして言葉を放たず、ニチと見つめてそして過呼吸になる。
思わず口が開いてなんだかポカーンとして、手が震えて抱き着く。
「「ヤッタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」」
――この空いっぱいに喜びの声が響き渡る。
「あの……返事は?」
「うん!!うん!!」
「いいに決まってるじゃないですか!!」
喜びで胸が詰まる!
心から何かが吹き飛んでいくのを感じる。
プロポーズ!彼からプロポーズ!!結婚!!
いろんな喜びが頭からドバっと出てきて、涙が頬を伝う。
ニチの体温と脈が心に伝わり、うれしさで顔が歪む。
「ああ、あはは……よかった。」
サイムは指輪を手に取り、私とニチの左手の薬指にそっとはめる。
ぴったりのサイズだった。
――――私達はようやく、ようやく報われたのだった。
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