第176話『事情を知っていく少女』
ん……?
ああ、体が重い、頭が痛い。
あれから何が起こったんだ?
だいぶ疲れが出て寝てしまったのだろうか?
重い思い瞼を開くと私とニチ、そしてサイムは豪華なベッドに横たわっていた。
……。
私とニチ、そしてサイムは豪華なベッドに横たわっていた。
つ、つまり……一線超えちゃった!?
ってよく見ると別々のベッドか……。
よかった、さすがにその……まだ中学生だし、そういうのはしっかり覚えておいたもん。
ベッドはよく見ると純白のベッドで所々に金色の装飾とかがあってほのかな豪華さが漂っている。
天井は高く、黒を基調としていて所々赤と白色の美しいツタのような模様で彩られている。
扉に小さな机に花瓶、木製の丈夫そうな椅子。
日の光が気分良い。
「ぐが……。」
サイムのいびきが若干する。
なんだかほっとする寝覚めだ。
そしてあることに気が付く。
体中包帯を巻いている。
腕とか脚とか特にぎゅぎゅうに縛られているし、胸なんかさらしをされてペッタンコに……元からだった。
「なんだこれは……ここはどこなんだ?」
「う、う……ん?」
ニチが私の声に反応してゆっくりと目をこする。
「異様に身体が重いです……。」
そして数分前の私と同じように目をこする。
よく見れば点滴まで着いていて、時計の針は昼頃を指している。
「あれ?ヒトメに……サイム君?
ここはどこでしょうか……?」
お互いに首をかしげる。
「入るぞ。」
そうやってあたりを見回していると、ノックのあと扉が開く。
部屋に入ってきたのは看護師などではなく、異様な風貌の男性だった。
大きな黒い角、赤いマントを羽織り、その下に黒い鎧、赤い杖をしている。
そして全体が赤と金の装飾がしており、どこか優しげな笑み。
気品のあるたたずまいをしていて、糸目。
そして大きな王冠を頭にかぶっていた。
「2日間も寝ていたのだ、よほど疲れたのだな。」
「だ、誰??」
「おや?わからぬか?」
あれ?この声……。
「ク、クレイさん??」
私達と一緒に城下町を案内してくれた神父のクレイさん?
「それはかりそめの姿。
ボクの……いや……。
余の本名はネンド・トリガティ・キングコアス。
ドソウ魔国の統治者、魔王ネンド。
民草は余のことをクリア・デーモンキングともいうがね。」
「え……。」
魔王??
それってゲームのラスボスかに出てくる魔王??
ええ、ええええええ??
びっくりしすぎて声が出ない。
「驚きのあまり声が出ないようだね。」
「……え、ええ。」
「まぁ知らない人からしたらそうであろう。
基本、城下町で飲みに行く時なんかは生臭坊主のクレイとしているが、実際はこちらが余の本来あるべき姿なのだ。」
口調が荘厳すぎる。
一国の主として、私達を見ている。
「今回の福音事件のことは事情、正確には義があって魔国として全面支援している。
騙すような真似をしたことをここに謝罪する。」
「い、いえいえ……。」
私が動揺しているとニチが、サイムと魔王様を交互に見つめる。
「教えてほしいです、なんで彼と魔国がこのようなことをしたのかを。」
私も気になった。
寝起きだが、確かになぜサイムが私達を襲ったのか気になる。
「全貌などの理由は彼の口から説明してもらうとして、魔国が支援しているのは余の個人的な理由なんだ。」
「個人的??」
「数年前、魔国は結構内政に問題を抱えていた時期があってな。
側近ともども極めて忙しく深刻な問題が同時に発生した。
ただしそこからたった数ヶ月ほどでそのほとんどが消えて行ったのだ。
隣国の問題、重鎮の死、飢餓、様々な問題が一斉に消えた。」
魔王様は椅子に座り、なんだか歴史の教科書を読むように語る。
「ふと不思議に思い、何気なくクレイの姿でたまたま飲み屋に行った。
腑に落ちない思いを抱えながら一杯飲んでいると、そこで喧嘩が起こった。
その喧嘩の相手は、魔国でも極めて癖のあり懸賞金もかかっている筋骨隆々の犯罪者と……。」
魔王様はサイムを見る。
まさか……。
「そう……サイム殿だった。
何度か殴られ鼻血を出し、それでも立ち上がり戦うサイム殿を見て我も感極まって思わず笑ってしまった。
そしてその酒場ではいつの間にか、関係ない一般人、バーテンダーもつられて喧嘩をしてしまい乱闘騒ぎになってしまった。」
魔王様は懐から新聞を取り出す、文字は読めないがマヌケな乱闘騒ぎっぽい感じの見出しなんだろう。
「で、魔王様はどうされたんですか?」
「………よ、余も……酔ったいきおいでいつの間にか殴り合いに参加していた。
それもサイム殿と……。」
あーうん。
「喧嘩がひと段落ついて、それがいつの間にか楽しくなって、一晩中サイム殿と肩を組みながら城下町の酒場をはしごしてしまい。
行先々の店で酒を浴びるように飲み、乱闘を引き起こし、国家機密と部下のことを愚痴り、乱闘を起こし、酔ったはずみで一般人だけでなく犯罪者、なんかムカツクした顔のものすべてを2人で殴った……。」
やっちゃった感じか……。
酒の力こわ……。
「気が付いたときにはマヌケな体勢で、ゴミ捨て場で酒瓶と共に2人転がっており子供に笑われた。」
「それやばくないですか?」
「国家元首としてやばかった。
焦ったが、それ以上にやばいことを思い出したのだ。
酒の席で軽はずみで言ったことをよくよく思い返してみると、内情を解決していたのはサイム殿らしかったのだ。」
「は?」
「面白半分で、あるいは日銭を稼ぐために何気なくやったことが結果として魔国の内政を安定させていたことに貢献したのだと、この時初めて知ったのだ。」
えええ??サイムあんた何やってんの!?
「よもや酒の席であったこのとんでもない男がすべての好機を作り出すことに気が付いた。
思い返せば犯罪者をムカつくからという理由で突っかかった現場を目撃した。
そこで余は酒の席で友となったこの男に個人的に頼みごとをして、色々と助けてもらい。
政治としても、趣味のことであろうと言葉を交わすうちに友となったというわけだ。」
「だからサイムに協力していたんですね?」
「ああ、さて。」
魔王様は杖でトントンとサイムの布団を叩く。
「サイムよ、いつまで狸寝入りを決め込んでおるのだ?
いびきが聞こえてないから起きているのはとうにバレている。」
「いつつ、ネンド様よ~、いってぇっての~!」
寝たふりだったんかい。
こいつ話を聞いていたな~。
サイムも身体を起き上げる。
「あまり褒められた話を聞いている場合ではないぞ~。
こういう情報はのちのち手玉に取られるからな。」
「ご忠告ド~モ。
だけども酒におぼれた時に城下町中を覆面、上裸の姿で奇声を発しながら、全力ダッシュしていたどこぞの魔王様には言われたくはない。」
「ほぼ同じことをして余のケツを叩いて酒場にいる皆を煽った貴様にだけは言われたくない。」
この国と彼氏、終わってない?
何?この国でお酒を呑むと馬鹿をしたくなるの?
それとも彼氏が単純な馬鹿なの?
「酒の席で暴れられた貴様という友のためにここを離れるとしよう。」
「もう行っちまうのか?」
「余は貴様らが起きたかどうかを確認しに来ただけ。
無理はするなよ。
特にサイム。」
「はいはい。」
魔王様は笑い、親指をサイムに突き立てる。
「お前はこれから最も重要な仕事が一つあるだろうが。」
「…………ああ。」
そう言い残して魔王様は、手を振り振り向かず部屋を後にする。
なんだろう?今のやり取り。
◆◆◆
「さて、サイム。」
「なんでこんなことをやったのか教えてもらいましょうか?」
「え、あ~~……。」
サイムは項垂れるようにベッドに突っ伏する。
「まず、だ。
先に言っておくが俺だってずっと会いたかったっていうのは本当で本気だ。」
「「うん。」」
「で、大罪はあくまで、その、だな……。」
「「いいから最初に何かあったか言って!」」
サイムはげんなりとした様子で語りだす。
「あーうん。
なんやかんやあってヒトメが死んでげんなりしたり冒険社設立したり、それでもあきらめきれず外国に出たり……。」
「それはもう知ってる。」
「具体的には私がなぜエイドスドアルームにいたあたりらへんからで、お願いします。」
「ん?そこからか。
俺とニッちゃんはヒトメ復活のカギを探るべく、第二のエイドスドアルームへ乗り込んだ。
そこで俺達は『無限の願望器』マルの強襲にあっちまったんだ。」
「『無限の願望器』?」
「マル?」
あれ?どこかで聞いた気がする名前だ……。
サイムは俯き頭をぽりぽりかく。
「マルはこの世界の外の存在。
でもアルとは別の世界の住民だ。
そいつが唐突にニッちゃんを人質にしたんだ。
そこで何とかあらがったが、マルの策略によって俺は第二のエイドスドアルーム内にあった『次元世界線改変装置』の中に落っこちちまったんだ。」
「何?その次元……なんとかって?」
「『次元世界線改変装置』
形状はフラフープになんらかの入力装置が取り付けられているものだ。
タイムマシンみたいなものだが、ただのタイムマシンじゃない。
アルの歯車で以前時間旅行したことがあるんだが。
その時は別の世界、あったかもしれないパラレルワールドに行くっていうものだった。
だがこの装置は俺の調査によって判明したんだが、まったく『同一の世界線』を改変するっていうやべー代物だったんだ。」
へぇ、SF映画とかに出てきそう。
そういうの結構好きかも。
「あのサイム君、私SFとかって苦手なんですが。」
「まぁ聞いてくれ。
ようは過去とか改変した結果が、確実に『因果的に反映されるタイムマシン』だ。
アルの時間遡行のように因果が反映されず歯車によって『別の世界線に行く危険性がない』、結構チートな装置の中に俺は落っこちちまったってわけだ。」
「なるほど……。」
「?」
つまり過去改変をしたら反映されるってことね。
ニチは小首をかしげているがサイムは話を続ける。
「俺はそのタイムマシンによってな。
実は過去から未来へ時を超えてきちまった。
結果として俺は5年ほど前2035年の魔国の2番目くらい大きな湖に打ち上げられたんだ。」
「え、じゃあサイム。年齢は?」
「……29歳くらい。」
う、うわぁ。
イケオジっていうより三十路手前で何とも言えないビミョーーーな年齢だ。
だいたいハナビさんくらいの年齢かな?
「で、適当に日銭稼いで、ニッちゃんもいないこととかタイムスリップしたこととかで、やけ酒で酔って魔王様が言った通りのことが起こった。」
「「それは純粋に馬鹿だと思う。」」
「へ、へい……。」
「で?そのあとは?」
サイムは腕を組みゆっくり思い出す。
「そのあとは魔王様の助けを借りて、今から3年ほど前にエイドスドアルームに戻ってみると、ニッちゃんが水晶に封印されていることに気が付いたんだ。
どうにかニッちゃんをドリル、ツルハシ、ダイナマイト、電気、時にはあぶってみたけど封印が解けなかったんだ。」
「私そんなことされたんですか!?馬鹿じゃないの!?」
「ニッちゃんに会えるためならそれくらいするに決まってんだろ!」
「へぁ!?」
あ、ニチが恋する乙女の瞳してる。羨まし。
「俺は1,2か月粘った結果どーしようもできなかったから。
ニッちゃんの封印を解くため、ヒトメを生き返らせるために第二のエイドスドアルームの調査に乗り出すことにしたんだ。」
「うんうん。」
「そして、エイドスドアルームの調査で、何日も結果を得られなかったある日!
調査から帰るとこの手紙が……。」
サイムが自分の服のポケットをまさぐる。
それが1分間くらい探った結果……。
「あ、これ病院服だ。
自分の服のポケットに入れてたんだった。」
「何さぐっていたの?」
「ある日、手紙があったんだ。
それも写真付きのな。
その写真にはヒトメが写っていてな。
なにか予言めいた言葉があってだな。
ニッちゃんが馬鹿みたいな力を持って復活したとか、ヒトメが蘇ることが書いてあってだな。
それが妙に細かい状況描写で書いていたんだ。」
なにそれ、予言?
「宛名は書いてあったんですか?」
「書いてない。何か黒く塗りつぶされていたんだ。
写真もヒトメ以外が破かれていて、手紙もなんだかくしゃくしゃで少し不思議でな。
丸文字だったから俺はそいつを勝手に女だと決めつけて、その書き手のことを『予言の少女』って呼んでる。」
「……サイム。
その丸文字が50代半ばのハゲデブで10分に1回おならをするおじさんだったらどうするの?」
「………………そ、それはともかく!」
はぐらかすな。
まさか妄想した結果、ほんとかどうかもわからない写真と手紙だけでその予言を信じたの?
手紙の文字が丸文字で、女っぽくなかったら信じてないってことなの?
頭、下半身か?馬鹿なのか?馬鹿だわ。
飽きれるけど、それが私の彼氏だわ。
何となく心のどこかで納得する。
「まぁ実は、それ以外にも手紙でエイドスドアルームの隠し通路をいくつか教えてもらったりしたんだよ。
内部にあったのは牧場みたいな、食料生産施設だけだったけど。
ダンジョンの新しい入口を発見するなんて、まるで熟練の冒険社並みの功績だったぜ。」
エイドスドアルームに詳しい人?
なんだかその予言の少女ってのがよくわからないな。
謎が多すぎる。
「誰なのかわからないけど、その言葉を半信半疑にしつつ俺の方でもエイドスドアルームの調査、封印の解除方法、復活の方法を調べつつ、たまに魔国でドタバタ暴れつつ日々を生活していったんだ。」
魔国で暴れている理由はないけど、あの様子の魔王様からしたらなんか大助かりなんだろうなぁ。
「さて、話も盛り上がってきたところでな……。
長くなりそうなんで後半へ続くッ!!」
後半って何!?
「あとついでに言っておくが、俺はアルといろいろあって読者がいること知ってるからな!!」
お前らって誰!?
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この物語の『更新』は現状『毎週金、土、日』に各曜日1部ずつとなります。
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作者の独り言
さんきゅサイム。ナイス話の区切り。