第175話『本気の少女』
「今度はこっちからいくぞ!武山流槍術ッ!」
サイムが数歩出ながら、ハルバードを横に振るうこの構えは間違いない。
肉体をねじるようにスイングして私が駆けつけるまでに、敵を蹴散らすことを目的にした攻撃。
「伍合目!箱根ッ!」
だがそれは避けれる!
そう思った矢先。
「アーーンド!カオスミックス!」
「え!?」
何!なになに!?
ハルバードにサイムの肩から先が吸い込まれた、と思ったら柄を伝うように肉体の方が刃の方へ引っ張られるように移動してきた!?
自分の認識が困惑する!
まさか腕と武器を混ぜたの!?
アホなの!?
って、やばい!
慣性が武器をスイングした状態のままだ!
箱根で放ったスイングの慣性が武器と混ざったことで、サイムの肉体にそのままのっかったんだ!
瞬間的だが、パンダチョウビ並みの速度が出ている!
――こうなったら……。
――彼氏だから傷つけたくないとセーブしていた。
――でも、それは侮辱に当たる。
「12Idアビリティ!
リベリオンッ!!」
私の身体がサイムの攻撃をよけるために、皮膚が赤く染まり、血が沸騰するように高熱を発する。
赤金魚モードなら避けられる!!
何とか回避するが……。
私が避けようと左へ飛んだ時、サイムが私を目で追っている。
「01Idアビリティ!ワールドカオスミックス!」
そのわずかな回避行動の合間をぬって異様なものが目に映る。
本来そこにないはずのパンチ。
そこへと私の頬をかすめる。
一瞬で視覚に出現したアレは何だ?
「石?」
いや、拳に確かに見えた……。
まさか、そう思ってサイムのハルバードを見てみる。
ハルバードから細い糸のようなものが伸びていて、先ほどの拳に伸びている。
サイムは混ざった武器を経由して周囲にある塵と自分の腕をさらに混ぜたな!
つまり塵や空気、『原子』がそこにある限り自分の身体を構築できる!
射程無限と言っていいレベルで、どこからでもノータイムで拳が飛んでくる!
さらに自分の肉体を塵から混ぜれるってことは、無限に回復されるってことだよね?
無限の回復!攻撃が通るかどうか、あやしい問題だ。
転がり身体中が土だらけの中起き上がり、再認識する。
サイムの能力やばいな。
「アレをよけるのか……これがヒトメの能力か……。」
「サイム君!私を見てください!行きますよ!!」
ニチ!?この状況で!?
「高達流闘術!ニシキ!!」
ニチが蹴りを繰り出す!
「カオスミッ……。
じゃなくて比叡!!」
サイムがニチの蹴りをハルバードを縦回転させて防御した。
――ん?なんでカオスミックスをやめたんだ?
サイムが大きくノックバックし、両足の跡が地面に残る。
「なんちゅー、一撃だよ……。」
流石に疲労してきたのか肩で息をしている。
サイムはもともと弱い、パワー自体は強いスポーツ選手レベル程度の力しかない。
1人でやってクマさんごときを倒せるのがやっとだろうし。
つまり、本来苦戦するような相手じゃないけど戦闘の経験値と技と能力でカバーしている。
この疲弊した状態で戦えているのはこの技と能力の恩恵がでかい。
ならなぜ……。
――そうか、能力を使いすぎて『ペナルティ』が発生し始めているんだ。
そして疲弊ができてきた。
さらに本来サイムの技は自衛の技であり、仲間と連携してこそ攻撃への効果を発揮する技。
1人でやるとスタミナ不足で精度が落ちる。
――だからサイムからしても勝負を決めたいのはここだ。
「ニチ!」
「ヒトメ!」
ニチも同じことを感じたのだろう、自然と横に並び立ち、背中を預けて拳を向ける。
「「覚悟しろ!!」」
私達の彼氏はにっこり笑って息を吸って吐く。
「やってやるさ!!」
笑顔は消えて真剣な顔でハルバードを構える。
その目からは私達に勝つという覚悟が見える。
――日が沈む。
ここのところ苦戦続きだった。
だが、サイムのこの戦いで何か満たされそうな気がする。
何かが満たされたその時。
私は『幸せ』なんだろう。
そう願い、呼吸を整える。
「「「いくぞッ!!」」」
私達は互いに駆け出す。
「カオスミックス+武山流槍術!」
「「高達流闘術!」」
サイムが早い!
だがそれでもいい!
ねじ伏せるんだから!!
間合いに入ったッ!!
やってやる!!
「焔ノ頂ッ!!」
槍をしたから上へと振り上げるッ!
炎を纏い、ありとあらゆる元素を合成しながら放つ始まりの技だ!
こっちも大きく息を吸い込んでニチと同時に拳を放つ!
原初にて頂点!私とサイムとユウジの技、全ての始まり!
極めに極めた私達の奥義だッ!!
「「戦壱+壱匹目!!」」
それは、わずか一瞬だけだったが音が消え、光も消え、空間が歪む。
その後……。
――互いの奥義がぶつかり合い地面が割れて、空気を壊していく!
「富士大噴火ッ!!!」
「「デメキンホオジロザメッ!!!」」
火炎と力が体中の血と肉を震わせる!
燃え盛る炎の中、血が噴き出し歯を食いしばる!
サイムも必死の様子で私達の攻撃を耐えている!
「負けてたまるかあああ!!」
サイムが叫び、涙目で骨が震えるような音が聞こえる。
サイムに力で張り合えられている!!
押し返されてなるもんか!!
「絶対に勝つ!!勝つんだ!!」
「サイム君に私だって勝ちたいもん!!」
今までの戦いでの傷で肉体がボロボロになってるぶん、こっちの力が十分に発揮できていない!
ここで押し返されるわけにはいかない!
私とニチが少しずつ後ずさりを始めてきているッ!!
力で少しずつ負け始めているッ!!
大きく押し返されるッ!!
「俺の勝ちだああああああッ!!」
負けるのか?
サイムの力、技量、能力。
私たちが弱くなっていたというのもそうだが。
彼の成長は私達が想定していたどれよりも上だった。
――――いや……。
「な、なに!?」
ハルバードが無茶な使い方をし始めたのかひび割れ始めている!
ありとあらゆる元素で構成して、硬く鋭く強くしても、それらを突破できるだけの力があれば何も問題ない!
単純な力の押し合いに武器の方が根を上げている!
ミシミシと音を立てて歪んでいくよ!サイム!!
「「ウオオオオオオオオッッ!!!」」
ハルバードが折れると同時に私達の拳がサイムをとらえる!
「へへ……。」
――瞬間見たのは、笑い。
――攻撃と同時にサイムは笑顔と同時に吹っ飛ばされる。
「はぁ……はぁっ…………。」
「はぁ……っぁ……。」
やった。
勝てた。
今までの旅で相当削られていたせいか、相当苦戦させられた。
思えば、今までの旅そのものがすべてサイム戦の布石だったんだ。
削らされていたんだ、対等に戦えるように。
私は肩で息をしている。
転がって大の字になったサイムを見ると同時に、私達は同時に両膝を地面につく。
汗と血と傷の痛みでどうにかなってる。
体中が余熱でからからになってる。
筋肉の痛みと吐き気がこみあげてきてなお、吐くための筋肉が動かせない。
心臓は動いている、やり切ったという心で自分が満たされる。
頭がほとんど働いていない。
――――何かがようやく自分に満たされたのを感じる。
あー、そうだ、あれ言いたい……。
「……すぅー…………はぁー……。
そして、わた、しはッ!彼をあざ、けほっけほ!!」
思わず、たんがからまわる。
血と唾液でぐちゃぐちゃになっていたんだ。
言葉が出ない。
私の様子を見て、ニチが駆け寄る。
私の手を握る。
「い、いっしょに……。」
「?」
「い、一緒に言いましょう!」
私は何とか頷く。
――ニチと一緒に大きく息を吸い込み天へ向かう。
「「そして私達はッ!
彼氏を鮮やかに処理しッ!!
最上最高のッ!!
勝利をしたァァッ!!!」」
――天へ向かって吠えた声が闘技場にこだまして、そのまま私達は疲れから、ゆっくり倒れる。
◆◆◆
???の視点。
◆◆◆
――準備はできた。
もう少し。
もう少しでまた会える。
会場に急ごう。
できることはすべてやった。
自らが起こした罪は自らで果たさなければならない。
あの時の絶望を忘れてはならない。
この能力は残酷極まりなかった。
どこまでも泣いていたあの数か月前。
あの墓所での出来事。
残酷なすべてを知ったあの時。
今まで過ごしてきた全部、掌の上。
あそこからここまで決意した。
――だから絶対に終わらせるんだ。
――君を迎えに行く。
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本日のヒトメさんによる被害/買い物
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サイム:なんかもうボロボロ