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第173話『福音少女』

 

 別館に入り、奥へ進む。



 この奥の闘技場に福音の大罪がいる。



「そろそろつきますよ。」

「ええ。」

 長い長い廊下。

 気の遠くなるような長い道を抜けて歩いていく。


 

 ここまで長かった。



 ずっとずっと、ここまで歩いて来た。

 足だけじゃなく身体も何もかもボロボロだ。

 それでもここまできたんだ。



 こいつを倒してサイムに会う。

 ニチとどちらが彼女かを確認する。

 そしてイチャイチャする。




 


 

 ――全部、目の前にある未来だ。

 



 



 長い廊下の先に光が漏れる。

 奥から風が吹きつける。

 ボロボロの身体を引きずって、2人で進む。



 


 心の中で苦労の涙が出てきそうになるのをぐっとこらえて闘技場の入り口をくぐる。




 ◆◆◆




 そこは体育館2つほどの広さ。

 円形の土と岩の舞台に赤と黒の客席。

 空は少しずつ日が傾き始めたあたりであり、澄んだ空気があたりを包む。

 どこからか花の香りがしていて、私達の眼前に人が1人いる。

 その人物はフードに仮面姿。

 かつてエイドスドアルームで旅立った時に見た人物。

 ブラウン管に映った姿と全く同じ存在。



挿絵(By みてみん)



「ようこそ。

2人とも、よく来たな。」

「「福音……!」」



 知り合いをけしかけ、サイムを連れ去った宿敵。

 どこか落ち着いた口調で言うローブ姿になぜか胸がざわつく。

 その名前は第ⅩⅣ大罪『福音』。



「ここまでよく来た。」

 のんきに拍手なんかしやがって……。

「サイム君を放せ!」

「そうよ!それにお前は何者だ!」

 私達がそう言うと肩で笑っているのがよくわかる。

「ずいぶんとまぁ、愛されたものだな。

喜ばしいことだ。

正体や目的はおいおい明かすとしよう。」

 



 

 ――なんだ?こいつから発せられるこの懐かしい感じ。




 

 喋り方、一挙手一投足。

 すべてに心当たりがある。

 変声器を使っていてもイントネーションや呼吸。

 すべてになつかしさと安堵感がある。

「その前に聞かせてくれ。

お前らにとってこの旅はどんなのだった?」

「どんなのって……。」


 

「ただただ過酷なだけだったか?

ただただ心苦しいものだったか?

隣に立つそいつは、ただただ嫌な奴だったか?

故郷であるショーワ町は、ただの土地だったか?

訪れた町は、人が暮らしているだけだったか?

そこの土地の歴史や人の考えはお前らにとって何も感じないものだけだったか?

戦ってきた相手は、今のお前らにとってどう見えた?」



 ……。

 


 確かに、この敵へ向かっていただけの旅とはいいがたい。

 色々なものを食べたし、敵もただただ倒されるだけじゃなかった。

 軍団、知略、個性、好奇心、友情、確執、強者、仲間。

 色々なものが彼らから伝わってきた。

 訪れた町、坑道、天空図書館、宗教を廃止した村もあった。

 その隣にはいつもニチがいた。

 過酷だったけど、いつもいるこいつの気持ちも戦闘や謎解き、歩いて来た一歩一歩を通じて少しずつ分かってきた。

 そう思い思わず、口を開く。

「私は、少なくともここまで、ニチとこれてよかった。

過酷でもあったけど、楽しかった。

色々と知れたし、色々と見てきた。

多少気に食わないこともあったけど、それも大事なことだって言える。

なによりニチと出会えてよかったと思えるような旅だった。」

 ニチもうなずき口を開く。

「私も同様に思います。

大人になって変わったところもあったけど変わらない皆さんや。

新しいことや新しい土地を踏みしめてここまで来ました。

見てきた景色やヒトメとの会話が今ではかけがえのないものになっていったと思います。」



 福音はゆっくり頷き、私達をにらむ。



「それならよかった。

安心したよ。

それじゃあ。」



 福音の手にはガジェットと呼ばれる冒険社の武器が握られている。

 私の国の特有の武器だ。

 瞬時に様々な武器を取り出せる小型で持ち運びに便利なものだ。

「ガジェットギア・セット。」

 ガジェットの中にギアが入り、くるくる回る。

 ガジェットがギアに合わせて変形していく。



 出てきたのは赤と銀のハルバード。

 簡単に言うと斧と槍が合体した武器だ。




 

「やるか。

殺すつもりで全力でかかってこい!」

「ええ!」

「はい!」

 私達は金魚モードになって構える。

 福音はゆっくりと呼吸をし、ハルバードの柄で地面をたたく。

 


「「ぶっ倒しますッ!!」」

「こい!」



 


 ◆◆◆

 


 相手は長物。

 リーチがある。

 まずは私が地面を崩す!



「高達流闘術ッ!!拾肆匹目!!」

 地面を蹴り上げて思いっきり衝撃波を発生させる。

 衝撃波で地面が割れてフィールドを崩す!

「タンチョウ!!」

 長物を扱う時に腰を入れて踏ん張らないと威力は出ない!

 だからこそ、床を破壊するのは重要だ!

 そしてその床の瓦礫が出た瞬間、隣にいたニチが瓦礫を拾い上げて、指ではじく。

「高達流!コメット!」

 瓦礫が一直線上に進んでいく。

 瓦礫は空気ごとをぶっ壊していく。

 2人のコンビネーション攻撃だ!

 遠距離で一気に仕留める!

 


 私達の攻撃が迫る中、相手は左手で右腕を抑えながらハルバードを勢いよく縦回転させ瓦礫をはじく。

「ん?」「え?」

 いや?瓦礫がハルバードに触れた瞬間消えた?

 威力の痕跡も残さずどこかへ行った?

 いやいやそれよりも……。



 ――なんかさっきのハルバードを回転させる動き方に既視感がある。

 


 あの動きを誰かに対して何か言った気がする。

 ……今は戦闘に集中しなければ!

「高達流闘術!」

 こうなったらパンダチョウビでツッコんで強襲する!

 パンダチョウビの素早さなら対処はできない!その仮面ごと頭蓋骨を貫く!

「拾伍匹目!パンダチョウビッ!!」

 地面を蹴り、空中を蹴り、福音へと迫るッ!

 この一撃は回避不能!反応速度は対応できない!

 ソニックブームが出る速度で穿つ!

「え!?」

 奴に差し迫った時、気が付く。

 奴はすでに回避し終わっている。

 私の狙いがずれたのか?

 違う。

 奴が強襲特化型攻撃であるパンダチョウビを予測したうえで回避したんだ。

 

 

 そして攻撃してきた私ではなく、後ろにいるニチへ走っている!


 

 まずい!逆に虚を突かれた!

「リュウキン!」

 ニチが手刀で福音を貫く気か!?

 この一撃で決まればいいけど……。

「よっと!」

「「!?」」

 え?この技は!?

 


 ハルバードの柄を地面に押し付けてそれを支点にして蹴りを繰り出す!

 ポールダンスのように放つ蹴り技。

 手刀はかすりもせず、綺麗に避けられる。

「うぐっ!?」

 ニチは蹴り飛ばされて、大きく後退する。


 

 この技を私は知っている。

 ニチも心当たりがあるようで、吹っ飛ばされ困惑の表情を浮かべている。

 どういうことだ?なぜ、福音がこの技を使える?



「おいおい、この程度か?」

 このセリフにいつか誰かに、私が放ったであろう言葉が重なる。

 それを見て、私の見知った構えを取る。

 この突きの構え。

 前段階の構え。

 腰を低く落し連続突きをする前段階の構えだ。

「いくぜ!」

 ニチの方から切り替えし、私の方へ走りだす。

 来る!

 私も飛び上がる!

 私の予想が正しければこの攻撃の最善策はこれしかない。

「ハナフサ!!」

 私はジャンプから空中連続蹴りをして、下にいる奴へ向かって攻撃を開始する。

「おらあっらあああああああ!!」

 そして予想通り、連続突きを開始する!



 ――私が押さえつけている間に、ニチが拳を固めて奴に迫る!



「高達流!ワキン!!」

 ニチの連続ラッシュが福音へ迫る。

 これなら勝てる!





「「はぁ!?」」

 私達の目の前で信じられないことが起きる。

 連続突きをしていた奴が一瞬だけしゃがみ、私の蹴りを食らう前に地面へ触れた。

 


 ――ただ触れた。



 問題は触れた地面が、渦を巻きぐにゃッと曲がる。

 そして奴が触れた地面の遠心力でニチの進行方向とは、別方向に吹っ飛ばされる。

「ウワっ!?」

 さらにニチも地面にできた渦巻で遠心力で福音とは別方向へぶっ飛ばされる。

 


 な、なんだ今の現象は?

 意味が分からない!

 地面のあの渦巻は何だ?

 一瞬で超高速回転したぞ!?

 しかもアリジゴクさんみたいな内向きではない外向きにぐるぐると渦を巻いていた。

 自然現象とかそんなちゃちなものではない!

 


 それにニチの攻撃を予測したうえで回避している。





 この仮面の男。

 よくよく考えればさっきからなんだかおかしい。

 さっきの連続突きの攻撃、動きは間違いなく『桜島』。

 あの武器を支点にした蹴りの攻撃、『伊吹』。

 


 あれらは私が開発した技だ。

 かつて()を守るための自衛として創った技。

 高達流闘術から派生した支流の技。




 

 その流派の名前は……。

 『武山流(たけしやまりゅう)槍術(そうじゅつ)』。

 



「な、なぜ。

あなたがサイムの技を……。」

「なぜかと言われたら……。

そうだなぁ……。」



 福音は深呼吸をしたのち、ゆっくりと自身の羽織っているローブと仮面に手を取る。






「え……。」「あ……。」







 

「お前が作ってくれた技だからかな?ヒトメ?」

 






 ――ローブの下。





 

 

 それは長身で、赤く歴史の授業に出てきそうな服。

 青く炎のようなズボン。

 




 白と黒のつややかで赤いメッシュが入った長い髪。

 特徴のあるとさかのようなくせ毛。

 利発そうな縦に長い顔立ちに、青と黒のオッドアイで吸い込まれそうなまっすぐな瞳。

 


 赤くオレンジのバンダナを左腕に巻き付けて、炎のようにたなびくその姿。

 


 大きな身体で、そしてよく見知った大好きな笑顔だ。

 成長しているとはいえ年を取っているようには見えない。

 







 

 彼はどこか感動しているのか涙目であり、それをぬぐう。

 歯を見せて、クソガキのように笑い、地面を踏みしめて私達をゆっくりと見つめる。







 


「サ、サ……。」

「サ……。」

 私も目頭が徐々に暑くなっていくのを感じる。


 

 張り詰めた思いが一気にほだされて、どんな顔をしているのかわからなくなっていく。


 

 ただ胸が痛く、愛おしさがこみあげていく。


 

 唇が震え、腕が震える。






 

 ――頬に雫が伝う。


 




 

 その名前を言うために全身で呼吸をする。







 

 

「サイムッ!!!」「サイムくんッ!!!」






挿絵(By みてみん)





 

 ――それは私達の彼氏だった。




 







 

 

「………………よう!

ずいぶんと、ひさしぶりだな。

ニッちゃんッ!!ヒトメェ!!

俺が福音の正体!

武山冒険社!代表取締役社長!

武山(タケシヤマ) 才無(サイム)

会いたかったぜ、2人とも!!」

 

 


 

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