第170話『僕と嘘付きの少女』
本当にギリギリだった!
危ない!何とか勝てたけど、先生の能力めちゃくちゃすぎるでしょ!!
死ぬかと思った。
チェンソーで攻撃されたときは本気で死ぬかと思った。
――先生はちゃんと強かった。
こうやって気を失わせるのに苦戦した相手もめちゃくちゃ珍しい。
Idを使ったのもニチ以来だし。
赤金魚モードを使わなければ、あの速度の攻撃に対応できなかった。
「ナオトッーー!!
大丈夫かアアーー!!」
ええ!?自爆したはずのタクローさんもう復活したの!?
タフすぎる!
よく考えたらタクローさんは、監獄でデメキンを耐えてたくらいだしなぁ。
先生の鼻や口に手をかざして呼吸を確認する。
「大丈夫です、先生は呼吸している!」
「……ふぅーーー、よかった。
豪快に……。」
「ニチ!生きてる?」
「生きてます!」
「クレイも一応、無事です。」
全員無事みたいだ……。
◆◆◆
しばらくしてリングや瓦礫で散らかった周辺を軽く掃除をしていると、ナオト先生が起き出す。
「う、うーーん……。あ、いててて。」
「先生、おはようございます。」
「…………負けたのか?」
「ええ、私達が勝ちました。」
「…………はぁ、負けたか。」
なんだか、先生がとても悔しそうだ。
こういうパターンは珍しい。
なぜなら、だいたい私の強さで圧倒してしまって悔しさなんて感じないからだ。
仕方がないといった印象で先生がゆっくりと立ち上がる。
「いってててて……高達。
カードを渡す前に少しいいか?」
「ん?なんですか?」
「ちょっとやることがあるんだ。
お前達がサイムさんに会いたいように僕にも同じくらいやることがさっきできたんだ。」
「へ?」
「すこし、待っててくれ。」
「ちょ、先生!?」
先生は足早にどこかへ行ってしまった。
群衆をかき分けて鬼気迫る表情で。
◆◆◆
城下町路地裏、ナオトの視点。
◆◆◆
どこだ!?どこにいる!?
「いるんだろ!!どこにいる!?」
絶対に探す!あの嘘つきはどこにいる!?
どこにいる!?どこにいる!?
UFOなんて、あんなわかりやすい嘘で人を簡単に騙せるのはお前だけだ!どこにいる!!
「出てこい!おい!!」
僕はお前に言いたいことがある。
彼女たちが純粋に恋を求める姿を見て、君に言いたいことがある!
体中が戦闘で痛い。
息が荒くなる。
だがここで見失いたくない。
「はぁ……はぁ……っはぁ……。
とっとと出てこい!!」
痛みで目がかすむ。
人気のない場所に彼女はいるはずだ。
あの嘘つきは人目を隠し、闇に紛れようとする。
確実にここら辺にいるはずだ。
それでも路地裏で叫ぶ。
「どこにいるッ!!
カオリッ!!」
「人の名前を……。
それも詐欺師の名前を、そうやすやすと語らないでほしいな。
ナオト君。」
僕の後ろ。
彼女がいる。
「カオリ。」
「さぁ?誰でしたっけね?
あなたが思っているガリガリにやせ細ったボロボロの女の子なんて、ただの嘘つきちゃんは知らないけどね?」
僕が名前を言うと、最悪の詐欺師。
二代目『虚飾の大罪』と名乗っている女性『カオリ』。
今となっては僕しか知らない本名『影坂 香織』。
僕が子供の頃。
母が死んで、葬式をしたあの日。
サイムさんが僕を助けてくれたあの日。
あの日、僕は飢えで死にかけていた、彼女を救った。
やせ細り、嘘ばかりついて人に恨まれ死にかけていた少女。
そして嘘で騙されている人しか愛せない人、そういう性癖の持ち主。
高校時代、世間すら騙すとんでもない嘘をついて世界を密かに危機に陥れた。
僕が解決しなかったら彼女の嘘に騙された結果、世界は大きく形を変えていただろう。
1人の少年を愛すために、世界中に被害が出るような嘘を平然とつき騙しつくそうとした狂気の詐欺師。
それが、カオリという女。
――僕の初恋の女の子だ。
「やあ、カオリ。」
「まぁそれが誰だか知らないけど、久しぶり。
ナオト君。」
「高達との戦闘中に強引に気を反らしたのはお前だな?」
「それを答えないのが悪党よ?正義大好き真実大好きな、ゲーマーのナオト君。」
ナオト君って名前を呼ぶのはお前だけだ。
そして戦闘中でも他者を『騙す』ことに特化した能力を保有しているのもお前だけだ。
「カオリ、君に確かめたいことがある。」
「なに?」
振り向かず言葉を紡ぐ。
振り向いたらきっと逃げてしまうから。
僕はこいつをよく知ってる。
騙された分。
真実を追い求めてきた。
僕、自身の中にある真実も。
彼女は悪意と嘘を。
僕は正義と真を。
2人は表裏一体。
でも本質は同じもの。
「もう、やめにしないか?」
「……なにを?」
「僕はこの十数年間、真実を探し続けてきた。
先生の権力を利用し、君が付いた嘘の被害者にも何人もあってきた。」
「あらそう?私はそんなの誰だったか、覚えていないけどね。」
「それでも被害者はお前に騙されたことを覚えていた。
最も騙されたと気付いていたのは、ごく一部だったけどね。」
「でも騙される奴が悪いわ。」
そりゃ詐欺師からしたらそうだろう。
路地裏に冷たいそよ風が通る。
「自首してくれ。」
「断るわ。」
ああ、そういうやつだ。
お前は。
「言いたいことはそれだけ?」
「まだある。
僕は君の真実を知りたい。」
「どの真実?」
聞きたいことは1つ。
たった1つ知りたいのは彼女の気持ちだ。
「君は今でも僕のことが好きなのか?」
「……。」
風は冷たく僕から彼女の方へ吹き付けた。
「うん、好きだよ。これだけは嘘にできなかった。」
「……僕もだ。」
「「でも。」」
「僕と君は別の世界の存在だ。
僕と君はどうせ光と影のように交わらない。
だけど、いつまでも君を思って生きているよ。」
「そうね。私達は一緒になれない。
だけど、カオリちゃんはナオト君が好きでよかった。」
少しの沈黙の後、ゆっくり言葉を紡ぐ。
「「ありがとう。大好きだよ。」」
彼女の足音がコツコツと路地裏から消えて行った。
物悲しいけど、これでいい。
彼女ともう会うことはないと思う。
それでいい。
そう思っていた矢先。
去ったと思った彼女が、いつの間にか路地裏を回り込まれたのかスッと僕の前に現れる。
そして耳に口を近づけ、ただ小声で。
「いつの日か。
カオリちゃん達の子孫か遺志を受け継ぐもの達が、悪も正義もないそういう心を持った子たちが手を繋いで生きていけると面白いかもね。」
「ああ、そうだな。
そういう奇跡もアリだな。」
僕がそう言うとカオリが、僕のほっぺに口づけをする。
「もう会うことはないでしょう。
でもナオト君は意外にモテるから、近くにある恋に早く気が付きなさいね。」
「は?」
「その鈍感さで、心に敏感な詐欺師を捕まえようたって不可能よ。
フフフ。」
悪戯に笑う彼女は、僕を素通りして手を振り路地裏の闇へと消えて行く。
「さよなら!ナオト君!!いつまでもあなたが大好きだよ!!
二度と会うことはないだろうけど、また会えたらいっぱい騙してやるからね!!」
「さようなら!カオリ!!お前を好きでよかったよ!!
二度と会わないけど、会ったら真実を暴いてやる!!」
――じゃあな、僕の初恋。
楽しかったぞ。
◆◆◆
闇の中、二代目『虚飾』カオリの視点。
◆◆◆
――目に見えるものを信用せずにはいられない。
だから世界は楽しい。
嘘をついて騙して踏みにじって、それが『良い』と騙し続ける。
こういう興奮がある。
騙されている人は好き。
でもナオト君と恋をして真実を探す滑稽な人をおちょくるのも悪くない。
――じゅあね、カオリちゃんの大好きな人。
本当に楽しかった。
――さて、これからは2度と使えわない本名であるカオリちゃんじゃなくて、虚飾ちゃんとして人を悪に陥れていきますか。
いっぱい嗤おう!
人間の滑稽で無様な真実を嘘つきとして、誠意を悪意で踏みにじって私の笑顔に変えて生きて行こ~!
騙される馬鹿を見るのは愉しいぞ~!アハハハ!!
◆◆◆
置いてけぼりのヒトメの視点。
◆◆◆
まだなの!?
私も早くサイムといちゃいちゃちゅちゅむへへしたいんだけど!?
そう思ってほどなくして帰ってきた先生のほっぺにはなんだか涙?らしい筋があった。
ただ、ちょっと笑って私に『d』のカードを渡す。
「改めておめでとうだ。高達、ニチさん。先生は喜ばしいぞ。」
「豪快にな!」
「あのそれはどういう意味なんですか?」
「この先に行けばわかる。
最も次の敵はお前たちもわかってると思うが強いぞ。」
次の敵……『武山冒険社』か……。
「あと先生も頑張って、あいつのことを探しておく。」
「先生、あいつって何があったんですか?」
「聞いていないのか?あの事故のことを。」
事故?何かあったのか?
そもそもあいつって……。
「とにかく現状を知らせたいから、あとで魔王城の地下に来てくれ。」
そう言って先生達は転送されていった。
――あいつって誰だ?
それを含めて、魔王城へ行けばわかることだ。
「クレイさんこの先に、魔王城があるんですね?」
「ええ。」
「ニチ準備は?」
「かすり傷はありました。ですがこの程度で弱音は吐きません!」
次の敵が一番強敵だ。
わかる。
一番強い。
私達の技を知られているってのもやばい。
先生のダメージがまだ残ってるのもやばい。
「覚悟していこう。」
「ええ。」
「こちらです。あの建物が魔王城です。」
魔王城へ歩みだす。
禍々しく黒く棘のような城へ。
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