第169話『フロントデバッカーズVS少女』
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ナオトの視点。
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「ニチ!相手は私達をかき回してくるよ!」
「わかってます!
でもあのタクローって人が邪魔で、相手の予備動作を止められないんです!」
ああ、そうだろう。
Idは予備動作を止めれば発動できない。
僕の場合は右手の親指と人差し指で対象を指ささなければ、能力が発動できない。
だからタクローとのコンビネーション。
リュフォーの指示が必要だ。
本当は防御専門と撹乱専門が必要なんだけど仕方がない。
その役割は、タクローの嫁と……詐欺師だったからな……。
だがゲームで一定人数集まらなくってマッチングしないザラにあることだ。
むしろ2on2ならば僕らにだって分がある。
僕らは勝てる可能性0の状況だろうがグリッチを使ってでも勝利する!
それが僕らのやり方だ。
インカムからリュフォーの指示が聞こえる。
『ナオト、ヒトメさんが飛び越えてくる。』
リュフォーの指示は的確だ。
リュフォーはある程度人の動きを予測してくれる。
なにせリュフォーはハナビさん達の従兄弟。
『機械猫』だからな。
あくまで予測で少し先の行動を支持してくれる。
1秒にも満たない行動だがありがたい。
おそらくタクローをジャンプで超えてくるね。
つまりはジャンプしてくるってことはだいたいこの辺り……。
「うお!?きやがった!?」
「タクローさんさえ超えればナオト先生に……。」
「ファウストミラクル。
0.005秒後、アイアンメイデンにぶつかる。」
「!?」
僕が指さすと同時にその位置にノータイムで鉄の処女とよばれる拷問器具。
アイアンメイデンがボクシングのリングになぜか投げつけられ、僕の生徒へ衝突される。
ぶつかった時、開けた状態じゃなくてよかったな。
その拷問器具の内部は針だらけだぞ。
『タクロー、ニチさんがアイアンメイデンを蹴り上げるぞ、よけろ。』
「喰らえ!!」
「そこ、だな。」
ササっとタクローが迫るアイアンメイデンを体をねじり躱す。
針などの部品が飛び散る中、彼女たちの猛攻が加速していく。
『ナオトッ!!』
リュフォーの焦る声が聞こえる。
「わかってる、落ち着いて。」
何秒後に何の攻撃が来ることは、もう全て知ってる。
わるいな、高達。
お前の内申点はせいぜい『及第点一歩手前』止まりだ。
社会人としてそれでは一歩届かずだ。
「高達流!タンチョウ!」
知ってる。
お前はこのリング自体を破壊するレベルの衝撃波を繰り出す。
地面をえぐるレベルの衝撃波と空圧。
「高達流!トサキン!」
知ってる。
そこへすかさずニチさんが衝撃波を利用して僕らを踏み荒らすように蹴りまくる。
観客は衝撃波によって霧散するから被害は最小限にとどまる。
その隙に2人の攻撃が合体して、強力な全体攻撃技になる。
リングが跡形もないような状態になるレベルの攻撃。
この状態なら僕が何かを追突させようが、タクローが何か防御や攻撃に転じようが無駄。
回避はできない。
力が圧倒的過ぎて物をぶつけて、被害を反らすこともできないが……。
――でもそれ出来るの君らだけじゃないんだわ。
圧倒的な力で被害を反らすことにできないもの。
そして君らがおこした地面の隆起すら切断させるもの。
自然界のどこにでもあって破壊不能の強靭な刃物。
それは……H2O、水だ。
因果をゆがめる。
ここは文明が遅れているが、工房などで使うカッターとして水流カッターを使用しているところがある。
君らが起こした地面の隆起や衝撃音、野次馬達はまわりまわって、蝶の羽ばたきが地震を起こすように工場にあったと思わしき水流カッターの暴走を起こし、迫っている。
衝撃によって君らはそれの探知が遅れている。
0.1秒後に水流カッターが彼女たち、それぞれへ差し迫っていて、すでに回避の反応速度を上回っていることも。
――それも知っている。
「な!?」「え!?」
こっちも殺す気でやらせてもらう。
舐めるな。
この水流カッターで終わりだよ。
ん?チラッと高達の身体が赤く光ったような……。
わずか一瞬……ラプラスの悪魔の知らない何かが起こった。
0.1秒にもない何かが。
――今の一瞬で何が起こった……!?
まずいッ!!明らかにまずいッ!!
僕の判断能力を超え……。
「先生、私を舐めてたの?」
いる!?
いつの間にか目の前に!?
タ、タクローはどうした!?
アイツは一体どうした!?
水流カッターによってお前らは躱さなければならないと判断し、そのまま技の出力が弱まり、タクローはうまいこと受け身を取り完全に油断したお前らを当て身で気絶させるんじゃなかったのか!?
それになんだ?
この高達の異常な体温は!?
熱い。
熱気が体から出ている……。
「た、高達……。」
「はぁ……はぁ……危ないところでしたよ。
一瞬だけ私の必殺モード、『赤金魚モード』になって。
バク転で水をよけて、ニチをタクローさんに投げ飛ばしてここまで来ました。」
あの一瞬でそこまで動いたのか、恐るべき身体能力だ。
……だがしかし、異常な体力の消耗をしているな。
……これは何度も使えないものだな。
ほんの一瞬で疲弊しすぎている。
だが、僕らもこれまでのようだ。
ここまで接敵されたら敗北と思わざる終えない。
今がチャンスなのに。
あとちょっと勝てるはずなのに……。
光明が見えたのに……。
『……ナオト、おい……あれは……。』
ゲームオーバー……か。
降参しよう。
「僕らの負」
「あ、UFO!!」
ん?誰だ?UFOなんて……。
どこにも……。
いや、まて。
「え?どこ……。」
観客席の方からの……声……?
――……まさか彼女か?
いや、ともかく、ここだな!
「……ファウストミラクル。」
0.08秒後、気を取られた結果、自身の技の影響により生まれた急激な上昇気流が高達を巻き込んで、飛び上がる。
「うわっ!?」
浮く高さは3m。
これ幸いに高達が高所からの攻撃をしてくるのも知ってる。
「ヒトメ!行きま……!?」
「逃がすかあああ!!自分ボンバーーー!!」
そしてタクローがニチさんの足を掴み手りゅう弾のピンを抜いて時間を稼ぐ。
ニチさんがキョドっている、ここがチャンスだ。
タクローなら自爆に耐えれる。
ここまではわかってる。
問題はその赤金魚モードで疲弊しているこの状態で有効な手段。
何かをぶつける攻撃させるなんて方法ではおそらく勝てない。
……癪だけど、君からもらったこのわずかな隙。
このわずかな隙を逃さない確実な方法。
こういう勝てないっていう状況を、僕はデバックする。
こういう時は……。
――それは純粋で単純な攻撃。
あらかじめリング外に持ってきて置いていた、チェンソーを手に取る。
戦闘の衝撃で瓦礫と一緒に来たようだな。
僕は手に取りエンジンを一気に吹かして走り出す!
高達の目を見る。
金魚の目は僕をとらえている。
タクローの自爆の音と衝撃が伝わる。
――この一瞬に全てかける。
自分の武器を持ち思いっきりジャンプする。
「高達流!ハナフサ!」
高達の高所からの連続蹴りが僕へと迫る。
思い出すなぁ。
高校時代、師匠とやりあった時。
『せめて一太刀、一矢報いたい』って思いながらコテンパンにやられて植物状態になって、1か月ほど眠ってしまったんだっけ?
だが、いまなら届くよ。
ファウストミラクルで蹴りの位置、被害が最も最小となる位置へ移動する。
そのまま、チェンソーを思い切り振り上げる!
「いっけええええええぇぇ!!」
「!?」
――手と腕でガードされたか!!左手で掴み、右腕でガードされた!
――でも、ここで終わらない!!
僕も思いっきり踏ん張り、右腕を思い切り伸ばしストレートパンチをかます!
これで偶然君は脳震盪を起こしてチェックメイトだ!
それも知ってる!!
「12Idアビリティ リベリオン。」
!?
何だこの熱は!?
高達の肌が赤い!?
マズイ!!赤金魚モードの硬直時間が終わった!!
こうなったら蹴りを!!
「!?」
いつの間に地面に!?それに足を踏まれてる!?
痛みや感覚が伝わる前に、僕がロックされてる!!
「マジかよ。」
「……先生、やっぱり強かったです。
高達流闘術 壱匹目!!
デメキンッ!!」
――……景色が一瞬で白に染まる。
――はは、ゲームオーバーだ。
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