第167話『呪いと感謝の少女』
クノレお嬢様がクレイさんへ駆け出す!
やば!?クレイさんがやられたら案内役が消えちゃうじゃん!
「ニチ!」
「わかってます!高達流闘術!」
ニチが駆け出しリュウキンの構えと共にお嬢様に接敵していくのを確認すると、同時に私もニシキを構え執事に接敵する!
「リュウキン!」
「ニシキ!」
2人が技を放つと同時に、気が付く。
敵対していたお嬢様たちの姿がいない!?
いや、違う……。
「私達は動いていない!?」
さっき入口の方まで移動したはず!?
それよりも驚きなのが……。
放った技すら放っていないこと。
「05Idアビリティ『カースギフト』。
危ないところデシタ。『白昼夢の呪い』をかけて攻撃を放たれる前に辞めさせていただきマシタ。」
白昼夢の呪い?
つまり技を放ったと思ったのは夢の中か!
いつの間に……。
動いてすらいないのはそういうことか。
夢の中で攻撃を放っていた。
「そしてこちらにはこのコンボがございます。
04Idアビリティ『モッシュピット』。
ニチ様へこちらをプレゼントいたします。」
ムケイさんがニチを見て、冷静かつ執事らしく丁寧に手を2回たたく。
私はニチをちらっと見る。
なんだか不機嫌そうな顔だけど大丈夫かな?
「ニチ?大丈夫?」
「……何?」
「え?」
「何、足を引っ張ってるんですか!!ヒトメはいつもこうですね!!」
「は!?足を引っ張ってる以前に何もできないのは仕方がないじゃない!」
「あんたの知り合いでしょうが!」
なんだ!?ニチの様子がおかしい!?
さっきまで冷静だったのに目が血走って何かがおかしい!?
「わがモッシュピットの能力は、『洗脳』『応動』。
他者の感情の増幅や思考の方向性を変化させる能力でございます。
そして貴女方は互いが喧嘩したら……。」
「「うっ……。」」
まずい吐き気がする。
気持ち悪い苦痛が全身を伝う。
気持ち悪い気持ち悪い!尋常じゃないくらい気持ち悪くて、苦しい!
呼吸をするのも気持ち悪い!
立てない……!
「貴女方はお嬢様の呪いの力によって、地面へと膝をつく。」
この2人!強い!!相性が悪すぎる!!
戦闘の基本は『攻撃』だ。
攻撃があるから『防御』や『回避』といった選択肢が生まれ駆け引きが起こる。
だからそもそも『攻撃』をさせなければ一方的に蹂躙できる。
こちらも彼らのIdを発動前に事前動作を封じて抑えたいけど、完全に一手遅れた。
気持ち悪い中。
動けない、肺や脳が圧迫されるような苦しみが体を包んでいる。
支配されそうな苦痛だ。
「クノレ式殴打術!二打目!」
ハンマーが回転して迫っている!まるでドリルみたいに!
「サハラインパクトォ!!」
立ち上がれない私達に向かって一気に攻撃して一網打尽てわけね。
なるほど……。
クノレお嬢様。
あなたは箱入りお嬢様だよ。
攻撃ができない時は主に蹂躙される。
回避も防御もできない状況。
普通なら、勝てないだろう。
だけども戦闘を積めばこの状況を打開できる方法はある。
――そしてそれが今やってきた。
気持ち悪くて倒れそうになりたくなるなら、倒れてしまえばいい。
私は腰を落として寝技の要領で後ろへ倒れ込む。
そして倒れ込むと同時に相手の持つハンマー。
攻撃が当たるギリギリで、その持ち手へ蹴りを入れる要領で足を引っかける。
「!?」
これだけを攻撃を鈍らせる。
その一瞬を狙い倒れながら、ハンマーを腕力でわしづかみにして相手を、こっちへ引き寄せる。
「Wha」
もう遅い。
攻撃を決めるのは私じゃない。
すでにあなたの後ろにいる。
あなた達の策謀によって、私へ怒りを抱き私を狙い攻撃を放っている。
最高の恋敵が私の攻撃手段だ!
「高達流!拾玖匹目ぇ!」
このタイミングで私の見たことのない技。
19番目の技だ。
それに相当素早い動きだ。
リュウキンと同じくらい素早い動きだ。
クノレお嬢様に隠れていてわかりづらいけど、この動きはパンチ技に近い動き……。
「アズマ!!」
「GOhu……!!?」
クノレお嬢様の背中に放たれた攻撃が私にも伝わる。
だがこの攻撃の位置と威力の伝わり方。
範囲を絞り、威力を直線的に伝えるやり方……。
この手の構えは……『掌底』か!
掌底で一気に相手を打撲させる技か!
ここまで威力が伝わるなんて凶悪すぎるでしょ!
腹筋が無かったらやばかった。
ただの掌底突きだからこそ、シンプルな威力を相手に与えたってわけね。
人間相手だからこれだけども、この技の本気の威力を直撃したら恐らく死ぬより悲惨な目に合うわね。
「よくもお嬢様をオオオッ!!!」
さて、クノレお嬢様がダウンしたところで、執事であるムケイさんが突っ込んできてる。
意外にアツい男だ。
ここまで激昂した姿は初めて見た。
こんなの技を使うまでもない。
ムケイさんが私達に殴りかかってくる前。
「!?」
パンチの射線上に気絶したクノレお嬢様を突きだせばいい。
自分の主人は殴れないだろうし。
「!?」
「もうやめましょう。」
「……。」
ムケイさんは大事な主人を殴るまいと腕を引っ込め。
一歩引く。
「……確かに。
わかりました。」
ムケイさんにお嬢様を渡して、お嬢様はお姫様抱っこをされる。
◆◆◆
戦闘が終わり、協会の長椅子に腰かける。
ニチは気持ち悪さから、私の方に肩を預けてグロッキーになり。
お嬢様は長身の執事に膝枕されるという、一見すると不思議な光景だろう。
「すいません。感情的になってしまいました。」
「いや、私達も少し感情的になっちゃった。
お嬢様が大切なんですね。」
あそこまで感情をあらわにされたのは少しビビった。
ムケイさんはお嬢様の顔を眺める。
「お嬢様はボクを救ってくれた恩人なんです。」
「恩人?」
「ボクは、昔あなた方と同じ、キョクガ国で生まれました。
ですが母と父は金に困り幼いボクを外国に売り飛ばし、数年間奴隷として生きていました。」
そんなことが……。
「そこに来たのが、クノレお嬢様?」
「はい。
と言っても、そのころはお嬢様ではありませんでした。
貴族でもなければ一般市民でもましてや奴隷ですらない。」
「え?」
「お嬢様はもともと足さえ使えない車いす生活。
サイム様が助けてくれて、ようやく歩けるようになったとは言え元は動くことすらままならない人だった。
偏見と差別、『今までお荷物だった』という人からの視線。
体中に刻まれた異常な数の『呪い』。
『道端にいる、邪魔なもの』と表現したほうがいいですね。
そんなお嬢様は有り金をすべて使ってボクを買ってくださいました。」
「……。」
「最初は不信感や、呪いによる恐怖もありましたが。
彼女事態を見てしまえば、何ら変わらない普通の少女でした。
そしてその普通の少女が数々の遺跡を巡り、呪いを解きながら様々な冒険をしていき成り上がる。
ボクは素晴らしい背中を見させていただいた、感謝しかないのです。」
「ごめんなさい。傷つけてしまって。」
「いえいえ、このようなこともあります。」
私達の話を聞いてかニチが肩から離れる。
「……思い出した。
この子、あの時の孤児院の子供で。
あなたはあの時の奴隷市場の子ね?」
「ようやく思い出していただきましたか。
ニチ様。」
そういえばこいつ数年間、サイムと旅してたな。
「まったく別の場所にいたけど、サイム君の手ほどきで会えたんですね。」
「ええ、後から知ったらボクをお嬢様に紹介してくれたのが、サイム様だったらしく少しほっこりしています。」
「当たり前です。サイム君は人を見る目がありますから。」
ムケイさんは少し腰をかがめ、神妙な面持ちで頭を下げる。
「その節は本当にありがとうございました!
あなた方は感謝してもしきれません!」
ニチと顔を見合わせ、少し笑う。
「感謝されたわね。」
「ええ、そうですね。」
もう少しでお嬢様が起きる。
サイムの元へ行こう。
そしてこう言ってやろう。
『とても立派なことをしてありがとう』って。
私達の後ろ、ステンドグラスに照らされたクレイ神父様が小声で。
「(小声)やれやれ少々癪ですが、領土のことちょっとは考えてあげますかねぇ。」
なんてぼやいているのを聞いた気がする。
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