第165話『町の少女』
ムッチーさんとニチと一緒にアイスを食べる。
ニチは歯磨き粉味ことミント味。
何がおいしいんだか……。
ここのは特に歯磨き粉感が強すぎていると、記憶しているので私は頼まなかった。
ちなみに私はチョコ味。
昔懐かしいあのアイス屋の前のベンチに座って食べる。
――懐かしい。
ほんとに私の知ってるショーワ町だ。
人は私達しかいないけど。
ショーワ町の味だ。
今あるショーワ街は石づくりの街だけども昔はこうだった。
バブル中期あたりらへんに冒険職たちが集まり、遺跡などの発掘作業で栄えた町だったけど、バブルがはじけたことで一気に没落し古くなっていった町だった。
なんとか再興しようと頑張った結果、違法建築が増えかつての古い栄光を思い出し、奇妙な住民たちが増えて行ったのがショーワ町だった。
私の知るほうの私の故郷だ。
「おいしいです……懐かしくてなんだか……。」
「だねー。ヒトメちゃんのもちょっと頂戴。」
「あ、はい。」
ムッチーさんにアーンして持っていく。
それでもどこか内心は複雑だ。
もう、本当はこの光景はないっていう哀しさと、この光景が消えなければイチちゃん達との日常がないってこと。
それが何だか私の中では複雑だ。
「ヒトメちゃん、ニッちゃん。
今あるこの光景は絵空事って思うんでしょ?
かつてあった絵空事のような感じ。」
「ええ。少なくとも私はもう見れないものだと思っていたって感じ。
今は石造りの街でどこか遠くに行ってしまった感じだった。」
少し、涙が出そうだ。
もう見れない故郷。
そこへ到達した、哀愁深くそしてうれしくもある。
――今までずっとイチちゃん達と同じ場所にいたはずなのになぁ。
不思議な感じだ。
「さてアイスも食べたし、何か欲しい服とかある?」
「え……いや……。」
「ヒトメも服くらい買ったらどうですか?
さすがに同じ人を好きなった身として言わせてもらいますけど、ずっと制服はなんだかもどかしいんですよ。」
私はずっと制服着てきたし……。
でもサイムとデートするときはしっかりした服を着たいなぁ。
「やっぱり、行ってみる。」
たしか、アイスクリーム屋さんから歩いて少ししたところにあったなぁ。
あ、でもここはあくまで雰囲気だけのためか、すぐ近くになじみの服屋さんがある。
――服屋に入ってみると今のショーワ街のファッションとは違うように見える。
一昔前のファッションだろうけど、私にとってはなじんだ服装だ。
「懐かしい服だわね。」
ニチが黒い服を手にする。
「昔、この服買いたかった奴です。」
「さすがにサイズ合わなくなってんじゃない?」
ニチがササっとサイズを確認する。
「あ、たしかに一回り大きくなってますね。」
「じゃあこっちだね。」
ムッチーさんが選んだのは、黒と白のワンピースだ。
喪服に見えるけど結構おしゃれな装飾が施されている。
かわいい……。
私が男だったら、近くにこんな人がいたらきっと惚れこんでしまうだろう。
「ほら、ヒトメも!」
「可愛いのにする?かっこいいの?」
「え、え?」
なんで2人とも手をワキワキしてるの……?
そのまま、試着室へ強引に押し込まれて、服を脱がされ採寸される。
「結構、スレンダーとしてスタイルいいですね……。」
「なに?胸がないって遠回しに馬鹿にしてんの?」
「いえ、少し羨ましい感じです。」
胸はあった方がサイム喜ぶでしょうが……。
…………いや待て、私の彼氏、貧乳フェチなのかも?
ニチもそこまで大きくないだろうし。
「パーカーでクールに決めるとかどう?」
「いや、ヒトメは私と同じ方向性で……。」
話し合いが行われているが、なんだか複雑だ。
だって下着姿になるまで脱がされて着せ替え人形にされるなんて初めてだもん。
今まで周りにいたのが不良(アホのサイム、馬鹿のソライ、ろくでなしユウジ)とか、孤児院の院長さんとか、世界の脅威の皆さんやヤクザや半グレさん(野生のお財布さん)とかくらいだった、
だからこういう女性のお友達はイチちゃんとか新聞部くらいなもので、こういう関係にどこか新鮮さがある気がする。
そしてこの時代のファッションについて語れる女友達なんて、本当に誰もいなかった。
とりあえずパーカーを着てみたけど、なんていうかラッパーみたいな感じでダボダボだ。
サングラスもかけられて完全にそういう感じになっちゃった。
「おもちゃにされてない?」
「行けてますね。」
「うーーん、わたしはかわいいほうがいいかな。これとか……。」
そう言ってムッチーさんはゴシックロリータ系統の服をテキパキと着けていく。
ヘッドドレスも着けてだいぶ気合入ってる。
たぶん、子供にも同じことやってる手つきだ。
「ほら、こういうの……。」
「えー、ムッチー、この人内面筋肉だるまなんだよ。」
「誰が筋肉だるまよ。」
「やっぱりちょっとアウトロー入ってないとだめだと、私は思う。」
「いやいや、ロリータも混ぜたほうがギャップがあっていいってば。」
制服でいい気がする。
と、口が裂けても言えない気がする。
状況的に。
「ヒトメはどうなんですか!?」
「そうだよ~!」
「え……。」
私のファッションセンスが問われているのか!?
わ、私の!?
ただ、私が服を選ぶとなんかセンスがないとか、言われたような言われてなかったような気がする。
誰に言われたのかは思い出せないけど、ともかくセンスがない。
制服は選ばなくていいし……私服を着るのは苦手だ。
じゃ、じゃあ……。
「そこのトラ柄のズボンと赤ちゃんの顔がプリントされたTシャツ……。」
「絶対やめてください。そんなクソコーデの人と隣を歩きたくないです。」
「……わたし、子供がそう言う服着ていたらごめんだけど破くわ……。」
うん、私の先鋭的ファッションはやっぱり受け入れられないみたいだ……。
だって赤ちゃん、可愛いし。
そうやって2人で遊ばれに遊ばれて、レジにお金を置いて何着か購入してもらった。
◆◆◆
あれからいっぱい遊んだ。
駄菓子屋のゲーム機や、路上でサンマを焼いて、ウィンドウショッピングとかしたりした。
……ずっとここにいたいなぁ。
胸が締め付けられるような思いがする。
ここはあまりにも私が知っている場所で。
そしてずっと過ごしてきた場所で。
愛していた場所だ。
ふるさとだ。
でもここは、絵だ。
トリックアートだ。
騙し絵だ。
ずっと過ごしていた素敵な場所の絵なんだ……。
私とニチだけがここに取り残されているそういう騙し絵だ。
ムッチーさん。
あなたは今まで戦ってきた強敵たちの中でも、かなり手ごわい部類の敵だよ。
ここまで心に来るのはそうそうないよ。
もうここには戻れないもん。
少し泣きそうな声になるけど声を出す……。
「そろそろ……行かなきゃ……。」
「……。」
「……。」
「うん。行かなきゃね。」
ムッチーさんは、そう言うと壁の隅の方へ連れて行く。
扉があった。
空の絵にぽつんと置いてある鉄の扉。
「……もう、私の知ってるショーワ町はこの扉の先にはないんですよね?」
ニチ、それは……。
「…………うん。」
「…………です、よね。」
私も死んでなぜか蘇って、ずっと似たような街にはいた。
そこが故郷ではあったが私の知る故郷じゃなかった。
それがどういう寂しさがあるのかを知ってるのは私とニチだけだ。
時代の流れは残酷だ。
どこまでも寂しく、取り残され続ける。
「大丈夫、また会おうね。
場所は違っても、わたしやみんながいる。
全てが終わったら帰ってきて。
服はわたしが家に送ってあげる。」
その言葉を聞いてニチが大きくなった親友に抱き着く。
「ムッチー!ありがとう!
絶対私帰るからね!
サイム君やみんなの元へ。」
「ニッちゃん、ありがとう。今日は楽しかったよ。
ヒトメちゃんも。」
頭をポンポンされる。
なんだか恥ずかしいけど、うれしい。
「安心して、きっとみんなで帰れるように。
今、みんな必死だから。」
「?」
洗脳されていないのに必死?
ま、いっか。
「じゃあ2人とも。
わたしがカードを渡したら、2人でこの扉を両手いっぱいに思いっきり開けて!」
「うん!やりましょう!ヒトメ!」
「ええ!」
疑問に思う中、ムッチーさんからニチへ『g!』という今までにない訳の分からないカードが渡される。
持ち手がなぜか柔らかい鉄扉に触れる。
こういうのもアートなのだろうか?
「開けた先は城下町!行っておいで!」
重苦しい鉄の扉に手をかざし2人で思いっきり扉を押して、飛び出す。
振り返るとムッチーさんは手を振り見送ってくれている。
「それではまた、会いましょう!ムッチーさん!」
「またね!ムッチー!会いに行くから!元気で!」
「またね!2人とも!そしておめでとうね!」
鉄の扉は自動的に締まり、笑顔のままムッチーさんと素敵な騙し絵を後にした。
しかし、また、なぜか祝われたぞ……?
疑問と哀愁を残し、城下町へ歩みだす。
絶対に福音を倒し、サイムに会ってやる!
終わりは近いぞ!たぶん!
◆◆◆
ムッチーの視点。
◆◆◆
「さて……と、もう出てきて大丈夫ですよ。」
わたしがそう言うと、天井裏に隠れていた創造主アルゴニックさんがいそいそと降りてくる。
「うまくいった?いった?」
「ええ!ばっちり!」
わたしは創造主さんが見る中、ガコっと鉄扉の持ち手の部分を外す。
これが今回のメインミッション!
この持ち手が最も必要なもの!
「ほら、ちゃんとくっきりお目当てのものが!」
「ようやった!これで色々とわかるな!」
「ただ選ぶのなら、ニッちゃんはともかくヒトメちゃんはまだ成長期では?」
「それは、まぁ成長したら成長したらで考えるだろうよ。」
のんきな様子けど、これって結構大事なことな気がする。
いや、まぁ当の本人じゃないし何も言えないだろうけど。
「あ、『空』の歯車返して~、空間を司るそいつがいないとカードがうまく作動しなくなっちゃうから。
そいつ、『絵』の歯車は自宅に帰るまで持っていていいから。」
やったー!この子ともう少しだけ描きたかったんだよなぁ。
内心喜びながら『空』の歯車を返す。
「そういえば帰る前に少し聞きたいんですけど、会場の方は?」
「そっちは順調。
ただ、例の事故の処理がなぜかなかなか片付いていない。
探しても見当たらない。
まるで時空が不自然に切り取られてみたいにブッコ抜かれてる感じ。」
ん?そうなの?てっきりこの創造主さんなら余裕のはずだと……。
「正直ちょいと焦っとる。
例の事故の原因もわからん。
時空のどこを探してもあの穴の先が見当たらない。
なんか、おかしいんだ。」
「それじゃあ見つからないってことですか!?」
「どこかに繋がってることは知ってる。
見つけなきゃあかん。
ただ間に合うかどうかは本当にわからない。
とにかく帰るぞ。捜索を続ける。」
「転送するぞー!」
少し不安はあるけど、こっちの方はうまく進んでいる。
願い、祝おう。
見つかると祈り、できることをこなしながら。
そう思い準備場所へ転送される。
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本日のヒトメさんによる被害/買い物
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懐かしのアイス:すべてプライスレス
服:涙が出そうだった