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第164話『絵画と友の少女』


 ◆◆◆

 ニチの視点

 ◆◆◆




 ムッチーとは冒険社に入る前くらいからの知り合いだ。

 もともと中学生くらいの時からの親友。

 女子中学生プログラマーとして天才的な能力を持っていたムッチーは、武山冒険社のヘルプとしてユミさんが加入するまでデジタル方面で支えてくれたりもした。

 ムッチーのいじめ問題も解決したり、アルさんの力の元である歯車を譲ってもらったりもした。

 何かと学校のお昼ご飯とかで一緒になったり、話が意外にあったのだ。

 ただ、この子といるのが楽しくて仕方がなかった。

 高校を中退し旅に出るまで一緒にいた大切な私の親友だ。



 でも……これは驚きだ。

 

 

「まさかニッちゃんと戦う、こんな日が来るなんてね。」

 私だって驚きだ。

 親友と勝負する時が来るなんて。

「……ムッチー、勝負って何?」

 そういえばムッチーはどこから現れたんだろう?

 ここは何もない荒野だし、アルさんが『空』の歯車で空間を切り貼りして転送させたんだろうか?

 疑問を重ねていると、ムッチーは何もない空気?を掴みはがす。

 どうやら私達の見ていたのは布に描かれたトリックアートだったようだ。

 布の奥から現れたのは絵画の額縁のような入口。



「ここはトリックアートの迷宮に繋がってるの。

この奥は『空』の歯車によって空間をねじ曲がっていて、ここを抜けると直接城下町へつけるの。

そしてこの迷宮は『絵』の歯車χ(カイ)ちゃんが作ってくれました。」

 なんかとんでもないショートカット迷宮出現したんだけど。

 でもトリックアートかぁ。

 私、苦手なんだよなぁ酔うというか……。

 そういうところも、ムッチーの計算に入っていそうなんだよなぁ。

 どうやら親友の試練は目が痛くなるみたいだ。



「さぁさぁ!入って入って!

福音の名のもとにいっぱい迷ってね!」

「ムッチー!?」

「ちょ、ちょっと!」

 ムッチーに背中を押されて、額縁の中に入っていく。

 どうやらトラベル額縁みたいなものだろうけど、これはトリックアート。

 気を引き締めて行こう。



 ◆◆◆



 額縁をくぐると俗にいう『ミルクパズル』みたいな廊下だった。

 ようは真っ白なパズル。

 何も柄が描いていないから時間がかかるあれだ。

 一面が白色のパズルで覆われた一本道の廊下。

 これのどこが迷宮なんだろう?

「とりあえず、速攻でこの迷宮をクリアするよ!」

「わかっています!」

 ヒトメと共に歩き出す。







 すると、いきなりだが足の踏み場がない。







「「へ?」」

 まさかこれって落とし穴!?

 これ床じゃない!壁に描かれた絵だ!!

 ミルクパズルで遠近感が掴めなかったのか!?

 まさにトリックアート!

 深さからして25mくらいか!?





 落ちながら思い出したことがある。


 

 そういえば19年前、封印から解かれたアルさんの歯車を集める旅の時、『絵』の歯車はムッチーが持っていたような覚えがある。

 つまり元の持ち主に戻ったからこそ、ムッチーは今歯車を使いこなしているって感じか。

 私達でも見分けがつかないほどのトリックアート、強敵だ。

「「よっと。」」




 

 なんとか着地をすると今度はミルクパズルじゃない。

 一見すると奇妙な部屋だ。

「なに、この量のドアは!?」

 大量のドアが部屋にまんべんなく敷き詰められた部屋だ。

 落ちてきた穴以外、すべてドア。

 なんなら床もドアで埋まっている。

 一面に大体10個以上のドアがある。

「この中のどれかが本物ですね。」

「全部ぶち壊せばいいんじゃない?」

「ですが空間をいじっている状態ですよ、そんな中で暴れたりしたら何が起こるかわかりません。やめた方がいいです。」

「……それもそうか。」

 この迷宮の中でうかつなことはしてはいけない。

 だけどもこのドアのどれかを開けなければならない。

 ムッチーのことから考えて間違えたものを選ぶとトラップ……。

「どれが正しいドアなんだ?ニチ、あんたあの人の親友でしょ?

心当たりはない?」

 




 ムッチーの考えそうなこと……。





 この扉はいろんな種類がある。

 明らかにコンビニっぽいのに不透明なドア。

 地面には引き戸、後ろには玄関ドア。

 いろんなドアがある。

 考えなければならないのはこの中のどれか。

 どれかが進むことができる……。



「うーーん?」

「わからないならとりあえず開けてみるね!」

「ちょ、ヒトメ!?」

 ヒトメがドアを開けると火炎放射器らしきものがドアから噴き出す。

 急いで回避をしてドアを閉じる。

「危ないですよ!明らかに!」

「なんでこんなのも心当たりがないのよ!」

 うぅ……。

 ずっと会ってなかったし、いきなりなんて思い当たるわけないじゃない……。





 


 ――まて、これはトリックアートの迷宮だ。



 逆にドアではないものが、出入り口なんじゃないだろうか。

 ドアのように見えてドアではない……。

 引き戸!ドアというよりかは『戸』!

 思えば取っ手とかの突起物が無くて不自然じゃないのは引き戸だ。

 床に埋まった引き戸へ恐る恐る手を伸ばす。

 そして気が付く。

 これは床に描かれた絵だ。

 奥の方に道がある。

 扉に見えるだけでここ自体には何もない。


 

「ありました!次へ行きましょう。」

「おっけー!」

 淡々と解いてはいるがなぜか不安感がある。

 トリックアートってのを昔から見るとなぜか妙な不安感に襲われることがある。


 



 ――この状況と同じ、うまく出来過ぎている。




 

 サイム君たちならきっと『油断するな。』っていう状況だ。

 警戒した方がいい。

 ムッチーは中学時代から天才プログラマーだった。

 計算や計略ではマチルダさんに匹敵する知将だ。

 恐れるな、怯えるな。

 私は武山冒険社だ。




 

 

 次の部屋は……な、なんだ?

 ワイングラス?

 少し遠くの方に大きなワイングラスと中くらいのワイングラスと小さいワイングラスがそこにある?

 いや、絵かもしれない。

 あるいは遠くに距離があったり近くに距離があったりして大きさは同じかもしれない。

 ……他にもワイングラスを阻むように柵と、立て札もあるぞ?



『ワインの量を均一にしたとき扉は開かれる。

ps.この部屋含めてあと2部屋だよ!がんばって!』





 応援されちゃった。試練っぽいのになんだかほんわかしてる。

「ニチ、愛されてんじゃん。」

「ええ、確かにですね。

ただ均一にするって何でしょう?」

 そう私がつぶやくとそれを見越したかのように、木製で均一の大きさのワイングラスに見立てた置物がテーブルと共にせりあがってくる。

 木製のワイングラスは目の前にあるワイングラスと同じく3つ。

 木製のほうには中身がない。

 これは何なのかと、試しに端に置いてある木製のワイングラスを取ると柵の向こうのワイングラスも動く。

「これは……プロジェクションマッピングってやつですかね?」

「なにそれ?」

「プロジェクターとかで建物に映像を投影する奴です。

どうやら木製のワイングラスと連動して向こうにあるワイングラスも動く仕組みのようです。」

 私が木製のワインをふってみると遠くに、映し出された端にある大きなワイングラスも動く。




 

「へー面白いじゃん。」

 ヒトメがなんとなく一番小さなワイングラスを傾けて中のワイングラスにワインを注ぐ動作をすると、遠くのワイングラスも同じように傾いてワインが動いていく。





 方法はわかった。

 だけど、このワインの量を均一にするって何でしょう?

 ワインの量を均一にしようにも、ちょっと厄介だな。

「大きいほうを小さい方に移したら溢れますよね?これ。」

 見た感じ全てのワインは小さいほうはすでにギチギチに詰まっていて、大きい方は並だ。

 中くらいの方は極めて浅い。

 どうすれば均一になるんだ……?

 小さいのから中くらいへ移動してみても少し足らない。

 時間かかりそうだな……。

「あ、わかった!」

 ヒトメはわかったらしく木製ワイングラスをすべて持ち……。





 ――すべてひっくり返す。





「ちょ、何やってるんですか!?」

「均一にすればいいんでしょ?」

 あ、そうか。



 全部ひっくり返すとワインの量は均一に『0』になる。

 その手があったか。

「ニチがマチルダさんと戦った時、私の彼ならどうするか?を見てピンときたの。

つまり、憎たらしいけどあんたの功績でもある。」

「それはヒトメが自分で考えたんだから、ヒトメのですよ。

思いあがらないでください。

あとサイム君は私の彼氏です。」

 写し出されたワイングラスの壁に亀裂が走る。

 亀裂が大きくなって開いていく。

 この亀裂の中に進めってことね。

 


 ここからが最後の部屋だ……。









 

 ◆◆◆





「え……。」

「ここは……。」

 とても広く雑多な風景。

 見慣れた風景。

 木でつくられた町並み。

 いたるところにある空中回廊にどこか埃っぽい感じ。

 建物を伝う洗濯物や、塗装されていない道路、違法建築、道路の端で行われている賭場、怪しげな飲食店、ごみ袋、野良ネコ、ラクガキ、路地裏、飲み屋、ゴミ、絶妙な汚さとバブル時代に置いて来た哀愁にしがみつくこの雰囲気、人情溢れる人々の風景。

 スラムと言っていい、小汚い見慣れた町並み。

「「ショーワ()だ……。」」



 私達のよく知るショーワ町の街並みが壁に描かれている。

 一部は立体物だ。


 

「あ……ああ。」

「懐かしい。」

 とても思い出深くなんだか泣きそうになってくる。

 私の大好きなアイスクリーム屋さんがある。

 あそこでよくムッチーとアイスを食べた。

 サイム君がおごってくれた時、ソライさんが勝手に私のアイスを奪って怒ったなぁ……。

 ムッチーと何度も一緒にこの通りを歩いた。

 ホームレスさん達と一緒にゴミ拾いという名目で3人で、売れそうなものを必死に探しながらゴミ箱を探したこともあった。

 炒飯専門店で変な炒飯を頼んでがっかりした思い出もある。

 タマシイさんとそこの賭場のチンチロリンで勝負した時もあった。

 借金して商店街の人達、全員に追われたこともあった。

 歯医者を嫌がるソライさんをサイムさんと共に強引に蹴り飛ばして押し込んだこともあった。

 路地裏でムッチーにたかる不良たちとサイム君が戦ったこともあった。

 事務所の掃除をさぼるサイム君たちを追い回していたら、向こうの公園でハナビちゃんを拾った時はとても驚いたなぁ。





 ……。



 ――エイドスドアルームが地下から出現して街ごと吹っ飛ばされ、失われたこの光景に涙が出てくる。






 

 ――私はこの汚く、マヌケで、すぐに肩を組んで泣いて笑ってくれる人情深い町が大好きだった。





 それはたぶん、隣にいるヒトメも同じことだろう。

 胸にこみあげてくる故郷の風景と衝動はきっと同じだ。







 


 思わず呆然としてしまった。



「つ、次の試練は……何でしょうかね……。」

「あ、そういえば……。」

 私がそう言うと行きつけのアイスクリーム屋さんの扉が開く。



 ムッチーが出てくる。

 どうやら先回りされていたらしい。

「ムッチー……。」






 

「最後の試練は……2人でわたしとデートすることです!」

「「え……。」」


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この物語の『更新』は現状『毎週金、土、日』に各曜日1部ずつとなります。

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