第163話『神無き村と少女』
――ドソウ魔国。
ここは図書館から22時間のフライトを得て、さらに貨物用の馬車に揺られて2時間。
移民によって建国された国。
大地自体がやせ細っており荒れ地が多い。
そんな国の空港は閑散としていて、そこから城下町へ向かうための馬車へ乗る。
エギレシア王国の馬車と比べるとなんだか若干おんぼろだ。
空もどことなく遠く感じる。
なんだかパッと見て貧しさと引き換えに自由になったような、複雑な気分がする国だな。
せっかく差別のない国へ来ても貧しいなら貧富の差で、別の差別が起こっちゃうんじゃないかな?
そんなことをぼやーっと思いつつ馬車に揺られている。
「なんだか、ちょっとここ怖いところですね。」
「ええ。ニチ、お水頂戴。」
「どうぞ、ちょっとぬるいですけど。」
ニチから水筒を受け取り水を飲む。
いわれた通りちょっとぬるいけど。
馬車の騎手の人が後ろを振り向く。
「◎★▽◇%!」
「ニチ、何て言った?」
「う、うーーーん。訛りがウルトラ強いですけど恐らく『村に着く』だと思います。」
「ああ、そういえば城下町の前に村があるって言ってたわね。」
意外に空港から近いんだ。
流通がしっかりしてるってやつね。
まぁやせこけた大地で資源が少ないから、輸入に頼ってる感じなんだろうね。
なんだか社会の勉強になるな、テストでいい点数取れるかもしれない。
「★◎▽!」
騎手の人が指をさすとそこには、そこそこの大きさの村があった。
「◇□□◎#▽◎$▽★、◎$☆★▽◇!」
「え、えーーーっと。
『ここからは悪路になる、この馬じゃ無理だ』とおっしゃっています??」
「疑問形なのね。」
「なんていうか、舌と喉の感じが全然ほかの国と違って聞き取りづらいんですよ。
鼻もなんだかふさがっている感じで、話していますし。」
そんなに難しいんだ。
「村に行って馬を借りなければなりませんね。
この馬車も城下町にはいかないらしいし。」
馬……か。
今まで出会ってきた馬というと……。
小学5年生くらいに出会った『馬獣王セイントホースさん』とか、中1の夏休みにアイス食べているときにツッコんできた『巨大多角馬スパイクユニコーンさん』とか、それを追いかけてきた『粉砕馬ハイロードスカルバイコーンさん』とか、ロクな思いで無いんだよなぁ。
鼻息荒く無駄に脚力があって、キック避けるのが面倒だし。
ユニコーンさんとバイコーンさんは角の分、縦に引き裂くのが面倒くさいし。
馬に乗るのは怖いけど、こいつに運転させるのはもっと怖いし。
別の騎手さんを探さなければいけないなぁ。
「ともかく村で騎手さんを探してみよっか。」
「ええ。」
村の門をくぐると突然、村人と思わしき男性数名が私達に向かってきた。
「○○%□▽!?」
「□□、○○%□▽!?」
え!?何々!?すごい剣幕で何かを言われてる。
思わずビビってしまうほど、迫力がある。
何怖い!?
「ニ、ニチ!なんて言ってるの!?」
「え!?方言が強すぎてわからないんですけど……。」
すると彼らの奥から長身な男がこちらへとやってくる。
「キョクガ国カラノ、旅人デスネ。
ワタシ、ハナセマス。」
片言だが、私達の国の言葉だ。
長身な男はゆらり揺れて歩く。
「アナタガタハ、『神』ヲシンジマスカ?」
「「へ?」」
なんか変な風習がある村なのだろうか?
私達はただ乗り継ぎで立ち寄っただけなのだけども……。
「い、いえ……。」
それを聞いて男性はにこやかに微笑む。
これから勧誘でもされるのか?
私別に宗教とかどうでもいいんだけども、サイムの愛があれば……。
「あ、私は実家が神社でまれに手伝いで巫女やってます。
だから改宗する予定はないですが……。」
ニチの言葉を聞くと男性は驚いたような顔をして取り囲んでいた村人たちに何かを告げる。
「○○□ッ!!」
「○○▽▽、○○□ッ!!」
「○○□ッ!!」「○○□ッ!!」
「な、なになに!?」
驚きながらも村人たちが私達を勢いよく取り囲むのを強くし、明らかに怒号らしき何かを言ってる。
その怒号を長身の男性はなだめるように制する。
「教エヲ、コノ村ニ持チ込ムノハ、ダメデス!!」
「は、はい??」
「ココハ『宗教無キ村』、『信仰』ガ、オコナワレテハイケナイ村!
神殺シノ村デス!!
宗教的差別ニヨリ、故郷ヲ追ワレ宗教ニ恨ミヲ抱クモノニヨッテ作ラレタ村デス!!
神ハ殺ス!神無キ世界ヲッ!!」
すっごい複雑な事情がある村だったー!?
ヤバイ、ニチ何、余計なこと言ってんの!?
あんたなんで実家神社なの!?
ここで暴れらたら騎手を探せない!
「神無キ世界ヲッ!!」
「○○□ッ!!」「○○□ッ!!」「○○□ッ!!」
「信仰者ハ、帰レ!!」
「まって!私達は城下町へ行くための強い馬と、騎手を探し。」
「宗教ニ携ワルモノニ、与エルモノハナイ!!
我々ハモウナニモ、取ラレナイ!与エラレタクナイ!
帰レ!帰レ!」
明らかに村人たちの顔は怒りに満ち溢れている。
「ヒトメ、逃げますよ。」
「うん。」
「○○□ーーッ!!」
私達が逃げると同時に後ろの村人たちは歓声をあげる。
村が見えないあたりまで戻る。
空港と、村までの間あたりまで戻ってどうするか顔を突き合わせる。
今日には城下町にたどり着きたい。
「万歳ストームさんから奪ったエアボードは?」
「燃料がやばいので途中までしか進めそうにないかもです。
それに燃料が持ったとしても道がわからないんです。
ここは一本道のように見えますけど、分かれ道が来た場合、迷子確定です。」
「ああ、そうか……。」
うわ、これ相当まずい状況なんじゃない?
あと少しでたどりつくのに。
万歳ストームさんから奪ったエアボードの燃料も不安だし。
「村のすぐそばまではエアボードを走らせますが、村の中には入りません、迂回して進んでそこから先は運試しです。」
「わかった。」
ニチがエアボードを出して、それに乗り込む。
はぁ、またこいつのへたくそ運転に付き合うのか。
いや、サイムが教えたらしいから強くは言えないけど。
これよりひどいらしいソライは何なんだ?
大きな岩がぽつんとあってそれを境に道が枝分かれしている。
◆◆◆
――1時間後。
そろそろ酔ってきた。
「燃料があとちょっとになりつつあります。
それに見てください。」
荒野の中、3本の分かれ道が見える。
「休憩しよう。さすがに疲れた。」
「ですね。」
フライトに22時間、馬車で1時間、そしてエアボードに1時間。
すでに天空図書館から1日経っている。
なんだかつかれた。
フライト中ずっと寝ていたとはいえ、疲労はたまるものだ。
思えば最後にショーワ街でラーメンを食べたことが遠くのように感じる。
……。
「ニチ、ショーワ町時代に好きだった店ってない?」
「私ですか……。
あ、あれ好きでしたね〜第八商店街下層のアクセサリー売ってる露天商とか。」
「あそこらへんゴチャゴチャしてたもんね。
今は、あそこらへんはクレープ屋さんとかワッフル屋さんとかあった気がする。」
ニチが目を輝かせて、飛び跳ねるように笑う。
「クレープ屋さん、ワッフル屋さん!?いいですね!私も行きたいです!クレープの味は何があるんですか?」
「イチゴ練乳とかバナナチョコレート、あとはアーモンドチョコとかがお勧めね!
あとは、おしゃれがしたいなら婦人用品店がデパートに結構な数があったはず。」
「ショーワ町にデパート!?
街に変わった分大きくなりましたね。」
「わかる~。あと、私の友達にイチちゃんっていう人がいてね。
その子の家に居候してたんだけど、その子の家ラーメン屋さんなの!」
「いいですね!塩ラーメンはありますか?」
「あるけど、スープはいいけど麺はまずいんだ。
クレープとか食べるなら後の方がいいよ。」
「ああ、そういう無駄に偏ったところがあるのは私達の街らしいですね。
慣れてます。
私も食べてみたいですね。」
「そうね、わたしも久々にニッちゃんとご相伴にあずかろうかしら?」
その声の人物は枝分かれの道の分岐。
目印のようにある岩にぽつんと座っていた。
桃色の髪の毛に、緑の目、デザイナーって感じの桃色の服に深緑のズボンスカート。
水糸の直角の模様、恐らくこの人の人種は石流人という私達の国特有の人種だった気がする。
優しそうな人だ。微笑みから邪気を感じない。
誰だ?私の知り合いじゃないということは……。
「ムッチー……。」
「やっほ!ニッちゃん!だいたい19年ぶりだね~!会えてうれしい!」
ムッチーと呼ばれた彼女はゆっくりと立ち上がる。
なんだか、フワフワな感じの喋り方をする人だな。
そしてそのふわふわで、豊満なお胸でニチに抱き着く。
締まってるところは締まってて、ちょっとうらやましい。
年齢は30~40くらいか?
「私も会えてうれしい!友達だもん!ずっと会えなくてごめんね。」
「いいよいいよ!またあそぼうね~!」
あ、ニチが敬語じゃない。
不思議な感じ~!
「そういえばムッチーは今でもプログラマーなの?」
「うん、今はプログラマーと趣味で絵を売って、お母さんを兼任してるんだ。」
「あ……結婚したんだ。」
「うん、でもいい人だよ。
安心して、たまに旦那のことを愚痴りたいし、子供を見せびらかしたいから、カフェに一緒に行こうね。」
「うん!」
ニチがそう笑い、そしてムッチーと呼ばれた人はスンと少し落ち着いた顔になって、歩いていく。
「楽しいこともいいけど今回ばかりは、わたしもニッちゃんの敵だよ。」
「え……。」
そりゃそうだろう、それ以外に来る理由ないだろうし。
「遅くなったけどもはじめまして、ヒトメちゃん。
わたしの名前は睦月 夕立、旧姓だけどね。
愛称はムッチー、ニッちゃんの親友。
わたしは戦わない。
ちょっとした勝負に勝ったら、ニッちゃん達にご飯と城下町まで送り届けてあげるよ。」
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