第162話『最終章へ心境少女』
「ひどいっスよおおお!!いつになったらこの皿洗い終わるんスか!?」
「「ここでも掃除かよおおおお!!」」
「はぁ……。」
「いい経験と思っておこう、これはいい記事になると……。」
「ぶー!ぶー!」
天空図書館を荒らしまわった罰ゲームとして新聞部+白野家トラッパーズ達は掃除や皿洗いなどの最中だ。
さてと罰ゲーム中に聞いておかなきゃ。
「ヤヤさん掃除中悪いんだけども、あなた達って『洗脳』なんてされていないんでしょ?」
「……。」
「私わかってるんだからね。洗脳なんてされてないって。」
ヤヤさんは困ったように目を反らす。
そしてまた軽くため息を吐く。
「我々は確かに洗脳されていない。」
「だったらどうして……。」
「だがそれは教えることはできない。
何より記者は守秘義務が絶対だ。
例え、猛獣に襲われようと最上の少女に拷問にあおうと口を割らない。」
「悪戯っ子もおなじくー!」
なんて無駄にプライドが高いんだ。
ヤヤさんは私の顔を見てやれやれと言った様子で人差し指を唇に当てる。
「ただ教えることができることもある。」
「なんですか!?」
「おめでとう、2人とも。
うらやましいわ。」
「どういう……。」
「次の号外に載せてあげる、それまではおしえてあげない。
あと魔国の城下町にあなた達の望む答えがあるわ
そこへ行きなさい。
こっちはこっちであの子を全力で探してるから。」
「あの子?」
ヤヤさんは困惑する私の顔をシャッターに収めて微笑み、カードの破片を渡す。
そして程々のところで掃除を切り上げ消えてしまった。
カードの文字は意味不明な『y 』だった。
◆◆◆
――翌朝。
「すいません、このようなものしか残っておらず。」
「いえいえ、ありがとうございます、ネイビーさん。」
あれから仮眠室で一夜明け、食堂に残った長くて硬いパンを食べる。
イチゴジャムを塗りたくり、その甘さが味覚を包む。
昨日の晩御飯は生ハムとレーションだけだったから、甘さに敏感になってる。
これを食べたら飛空艇を使って、いよいよ魔国へ入国することになっている。
「「ごちそうさまでした!」」
「調べものはお済になられましたか?」
「「ええ!」」
その言葉にネイビーさんはゆっくりとほほ笑む。
「城下町までの地図と、魔国に着いたら当方の知り合いに、街の地形や情勢に詳しい人物がいます。
こちらの紹介状を渡してあげます。」
無駄に達筆な字で紹介状と地図を渡してくれる。
いい人だ……。
それに流石天空図書館の司書、そういう人とも知り合いなのか。
「彼は『トリガティ魔聖教会』で神父を務めています。
本社ではなく城下町の分社に努めています。
城下町へは空港から1つ村を挟んだ先にあります。
彼の名前は『クレイ』といいます。
顔を布で覆ってる生臭坊主ですが、彼は案内くらいはしてくれるでしょう。」
「クレイさん?」
私がその名前を復唱すると、ネイビーさんはなんだか眉をひそめて微妙な顔をする。
あまり心象が良くない人なのかな?
「とにかく空港について、村を抜けた先が城下町でございます。」
「「はい!」」
私達は身支度を始める。
「お気をつけてください。サイム様にまた会ったらよろしくお伝えください。」
「ええ、ネイビーさんも!」
「さよなら、またお会いしましょう!」
私達は手を振り食堂から出て飛空艇へ乗り込む。
――さようならネイビーさん、そして天空図書館。
◆◆◆
別れた後のネイビーさんの視点
◆◆◆
行ってしまわれましたね。
まぁこれも、ある意味計略通り。
彼は福音と名乗っているのですね。
まったく面倒な方々を送り込んでくれたものですよ。
――当方は応援していますよ。
――しかし、あの神父を紹介したのは失策ではないでしょうかね?
当方は『福音』を名乗っている彼からの依頼通り、彼女たちにクレイ様を紹介させていただきましたが……。
まさかとは思いますが、彼が今回のを……。
いえ、やりかねないでしょう。
少々豪華になってしまいますが、クレイ様にあとはお任せしましょう。
――少々不安は残りますが、無事を祈っていますよ。
◆◆◆
福音の視点
◆◆◆
あと4組……。
早くここまで来てくれ。
いや、やっぱりまだ来るな……。
暗い中、覚悟と言葉を紡いでいく。
◆◆◆
22時間後、飛空艇の中、ニチの視点
◆◆◆
しかし、今まで福音の刺客たちは我々の共通に知り合いが多かったですが、いよいよヒトメだけが知ってる知り合いが出てきましたね。
……ということは私の親友も……?
いえ、ありえませんね。
彼女には戦闘力もありません。
でも……もう彼女からしたら19年もあっていないんですね。
本当は旅に出て5、6年くらいでサイム君と結婚してショーワ町へ帰るはずだったのに。
でも記憶も一部思い出せないし。
サイム君に会わない限り不安で仕方がありません。
――もしも彼女が刺客として私達を襲いに来たらどうしよう。
――友達に手をあげることなんて、私にはできるんだろうか?
いや、もしものこととかよそう。
私は隣に座っている恋敵を見る。
彼女は飛空艇に揺られながら窓の外の雲を見ていた。
その様を見て、昔の自分に重ねてしまう。
サイム君に出会う前は私もこんな感じだったのかもしれない。
世界をつまんなさそうに見ていた。
この恋敵は嫌いだ。
サイム君に私と同じくらい愛情を注がれている。
昔からそのことを聞かされて悔しかった。
でも実際にぶつかり合って、過ごしてみてわかったことがある。
意外に気が合うのだ。
そりゃ同じ人が好きなんだから似た者同士というか。
簡単に言うと同族嫌悪な一面と、好きな人が同じっていうのが嫌いなだけで2人ともめちゃくちゃ気が合う。
食べ物を食べた時の反応が一緒だったり、ヒトメの顔を見ていると自分を重ねてしまうところだった。
戦闘中も呼吸を合わせやすくて、下手したら冒険社の誰よりもいい連携を取れている気がする。
きっと心の中では互いにいがみ合いつつも、ヒトメのことをどこか好きなんだと思う。
でも恋心がそれを否定しているから、まだ受け入れられないや……。
サイム君次第だ。
私達のどっちを取るかだ。
それで心に決着がつく気がする。
私を選んでほしいけど大好きなサイム君がヒトメが、フラれるところを見るのも嫌だなぁ。
でも私だってサイム君が好きだ。
ずっと愛していてほしい。
なんだか複雑なジレンマが、胸の内から湧き上がってくる。
「どうしたの?」
当の本人はケロッとした様子で私の顔を不思議そうに見てくる。
「なんでもないです。」
「?」
首をかしげて、ヒトメはぽけーッと見つめている。
飛空艇で空を眺める。
この2人で。
「さぁいよいよ魔国だ。覚悟はいい?ニチ?」
私は当然といった顔で頷く。
ヒトメもテンションが上がっているのを感じる。
「これは試練だ。おそらく最後の。
これで決着がつく。
私とニチ、どちらがサイムの彼女か。
覚悟をしていこう。」
……ゆっくり頷く。
どうしようフラれたくない、そしてフラれているところを見たくない。
でも私を選んでほしい。
覚悟をしよう。
……。
「……ヒトメ、私はね。
どちらが選ばれても、あるがままに受け入れる。
私もサイム君を好きになったものとして、覚悟を決めているから。
だけども何があってもそれが彼の選択なら、受け入れる。」
それを聞いて、長くも短く沈黙を得た後ヒトメは口を開く。
「……私も、サイムの言葉なら信じられることだけは確か。
だからニチ、一緒に行こう。
ここ数日一緒にいてすこしだけ覚悟が決まった。
背中は任せた。」
「わかった。」
眼下の雲が晴れていく、下には荒廃した魔国の領土が広がっている。
「行こう、ニチ。
魔国へ、答えを探しに。」
「ええ、サイム君に会いに。」
この短い旅も終わりに近づく。
サイム君の元へ。
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???、???、????の視点
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――――――――――――…………まだだよ。まだ。
……でも準備してて、出し抜けるのは最後の最後。
◆◆◆
――第九章『心という道のりと仲の悪い少女』.end
――――→NEXT.STORY
第十章『心が○○る○○少女』
※ブックマーク、評価、レビュー、いいね、やさしい感想待ってます!
この物語の『更新』は現状『毎週金、土、日』に各曜日1部ずつとなります。
――次章予告――
※セリフはあくまでなんとなく打っていますこの通りになる可能性はありません。
「ボクの名前はクレイ。祈りに来たのでしたか?」
「神のいない世界をぉッ!!」
「久しぶり、ニッちゃん。」
「ムッチー……。」
「問題児には、教育的指導が必要だな。デバック開始だ。」
「豪快にな!我々は荒波の家!」
「嘘だよ。」
「もしも勝てたらその呪いを解いてアゲマショウ。」
「クレイ様、まさかあなた様は……!!」
「ああ、やっぱり戦うことになるんですね。」
「これが最後の手前の試練だよ、ヒトメさん、ニッちゃん。
武山冒険社の5人が相手だ。」
「あなたに会うために。」
「ようやく、あなたの元に。」
「俺と!!」
「「せーの!」」
「……ありがとう。」
「んん?」
「あれ?あの人って?」
「あの事故からどうして?」
「なんで?」
「はい?」
「もしかして……。」
「何かがおかしい?」
「やっと会えた。ずっとずっとずっと、会いたかった。」