第157話『ある疑念と空港の少女』
「カードカードっと……。」
戦闘が終わってロボット主婦姉妹に近寄りカードの破片を回収する。
私がゆっくりと長女ケムリさんの懐をまさぐっていると、突如としてケムリさんの瞼が開く。
「再起動開始。」
「!?」
ケムリさんからチチチという、極めて微弱な機械音が聞こえる。
ロボだから、起きるのが早い!
「……あれ?ヒトメちゃん?」
「もう起きた!?」
「このかけらを取ったら向こうの方に、ボク達が作ったご飯とテント張っておいたから利用してね。」
……??
洗脳されているのに、ごはんとテントを利用して?
――なんだ?おかしいぞ?
「あ、そうだ。
もし味付けが足りなかったように、あるものを用意してたんだ。
上着のポケットさぐってみて……。」
「え……あ、はい……。」
さっきまで壮絶な戦いをしていたのになぜか指示通りパーカーを探ってみる。
あったのはびちょびちょに濡れた瓶だった。
ラベルには塩と書いている。
「あの……びちょびちょなんですけど。」
「え?なんで!?あ、ボクが泳いでいたからか!
食塩水になっちゃったけど、まぁ……食べてね~。」
「あ、はい……。」
瓶の蓋が開いていたのだろうか?中までびちゃびちゃに水が入ってる。
本当に食塩水になっている。
正直食欲はそそらない。
ケムリさんは笑いながら欠片を手渡す。
その姿を見て疑念が大きくなっていく。
――この人は本当に洗脳されているのだろうか?
そしてケムリさんは倒れたままの状態でニカッと笑い。
「こっちはこっちでなんとか見つけるから安心して!
そしておめでとう!ヒトメちゃん!ニチさん!」
と謎にほめたたえて消えてしまった。
見つけるって何をだろう?
周りを見てみると姉妹達も消えていた。
手元に残ったのは『ed』というカード。
これで手に入れたのは『H』『in』『ed』。
これは何の意味なんだ?
「何だったんだ?今の言葉は?」
「さぁ?」
◆◆◆
先ほどの言葉に首をかしげながら用意してくれたご飯を食べる。
久々のお米だ!唐揚げもある!サラダもある!きんぴらごぼうもある!
だけども所々つまみ食いした形跡が見られる……。
歯型ががっつり残ってる。
あの姉妹、食いしん坊過ぎない?
「「いただきます!」」
きんぴらごぼうを食べてみる。
甘辛い!ちょっと味付けが濃いけどなかなかおいしい!
唐揚げも香ばしくておいしい!
でも所々食べられてる!けどやっぱり美味しい~~!
「食べながら聞いてほしいことがあるんです。」
「なに?」
アバズレが私に話しかける。
「福音に洗脳された人たちのことです。
彼らの様子に関してあんたはどう思いましたか?」
「とてもじゃないけど、洗脳されているとは思えない。
こうして料理を作ったことも、なんていうか本気じゃない気がした。」
「同感です。
マチルダさんがゲームを誘ったことも。
万歳ストームの皆さんも洗脳しているんだったら、人間爆弾にでもして特攻させて私達の精神を傷つければいいんです。」
その通りだ、いままで3回襲われてきたがなんだか福音の大罪っていうやつの洗脳は何かおかしいんだ。
それに……。
「さっきケムリさんが言ったんだ『おめでとう』って。」
「なんで祝ったんでしょうね……。」
ご飯を口に運びながら、考える。
「仮に洗脳でないとして、なぜ私達を襲うんでしょう?」
「それに気になるのはもう1つある。」
「もう1つですか?」
ほっぺについた米を口に運ぶ。
「私がある大罪を倒した時、最後に残った第0大罪は逃げ惑うだろう。
と言っていた、きっと14番目の大罪『福音』なんて存在しない。」
「なるほどね……。」
だが襲ってきているのは事実だ。
「とりあえず私が言えることは、なんとか次の襲撃の時に敵となってしまった人をひっとらえて聞き出さなければなりませんね。」
「だね。」
ソライとかユウジとか来てくれたらしこたま、ぶん殴れば情報ゲロりそうなんだけどなぁ……。
いっぱい殴るから来てくれないかなぁ……?
「「ごちそうさまでした。」」
なによりもサイム……あなたはどうかこの不可解な状況だけど無事でいて。
私とあとついでに、この隣の恋敵と一緒にあなたへたどり着いて見せるから。
◆◆◆
――翌日、昼
「はぁ!?魔国行が欠航ってどういうことよ!」
空港で私達は想像だにしないことに立ち往生していた。
山を下りて見えた空港は見るからに残念そうなものだった。
空港と言っても整備の行き届えていない滑走路に、飛行機と竜が数体。
内装も鉄板を組み合わせたものの簡素なもので近くに町すらないことから主に、中継地点として使われているらしい、この小さな空港。
どうやら魔国行がただでさえ少なく、おまけに諸々の整備不全でまともに飛行機が飛ばないらしい。
「受付を憂さ晴らしにぶん殴ってきていい!?」
「駄目です。
余計飛ばなくなりますし、立ち往生はごめんです。」
「じゃあどうしろってのよ!泥棒猫!」
「はいはい、少し考えるから黙りなさい、クソガキ。
……そーですねぇ……。」
恋敵は少し考えた後、指を鳴らす。
「思いつきました。経由していけばいいんですよ。」
「経由?」
「ここから南方向にある魔国。
魔国に一番近い発着場は、私とサイム君がお世話になったことのある『天空図書館』と呼ばれる巨大な飛行建造物です。」
なんか無駄に強調した部分は軽く聞き逃すとして、飛行建造物ってなんだ?
「飛行図書館行の飛行機は2,3本出てますし格安ですのであそこを経由して魔国に行きましょう。」
「まってさっきから言う飛行図書館て何なのよ?」
私がそう言うといかにも無知な子供っていう腹立つ顔で、こっちを見てくる。
「ええ~知らないんですか?教えてあげましょうねぇ~?」
「呪い外れたら覚えてなさいよ。」
「はいはい、飛行図書館は『トパーズ家』という、世界でも数少ない長命種である『エルフ』の方々が管理している特殊で巨大な図書館です。」
へ~エルフ……なんか珍しい人種何だっけ?
社会の授業でやったけど本当にいたんだ。
ドードーと共に絶滅したと思ってた。
「飛行図書館は主に世界中の書籍、その中でも珍しい稀覯本や魔術など特殊なものが記された本を保全するための図書館です。」
「え?そんなところに飛行機飛ばしていいの?
強盗さんとかが来て荒しちゃわない?」
「いいえ、実はそういう重要な部分もありますが、主に観光や私達のように経由していく人達や物資のためにも結構オープンだったりします。
セキュリティもすごいですし。
普通に地図や辞書、色々な本もありますし、結構便利ですよ。」
へ~、世界は広いんだなぁ。
あ、そうだ。
「ついでにそこで魔国のこととか色々と調べていい?
私達、魔国のどこに行けばいいのかわからないし。」
「ああ、そう言えばそうですね。
ちょっとトパーズさんに頼んで、魔国に関する本を拝見させてもらいましょう。」
ふぅ~ん天空図書館か……。
もしかしたらデートスポットの本やいろんな本があるかもしれない!
楽しみだなぁ~!
「ちなみに天空図書館行はあと20分で離陸ですよ。」
「なんでそれを先に言わないのよ!」
そそくさと今にも壊れそうな10人乗りの飛空艇へ乗り込む。
目指すは飛行図書館!
◆◆◆
――22時間後、長距離フライト中。
「は……。」
思いっきり寝てた。
飛空艇がきしむのが聞こえる。
どうやらこの国の航空産業はあまり発展しておらず、程よく揺れた結果ずいぶんと寝てしまっていたようだ。
見た感じ、ここは仮眠室らしい。
あ~思い出してきた、最初こそ飛空艇を楽しんでいたけどあまりにも、トロいのでいつの間にか寝ていたんだった。
仮眠室の二段ベッドを降りて眠気眼に窓を見てみる。
――そこには雲から競り出てくる巨大な建造物が見えてきた。
虹色でできた外壁に、巨大な風車。
所々、風船のようなものが周りにまとわりついている。
これで天空に浮いているんだ。
それに所々エアコンとかについている蛇腹タイプのパイプが、エンジンらしき場所に繋がってる。
草木がいろんなところに生えていて、すごくきれいで神秘的だ。
「そろそろつくよ!起きな!」
私は軽くビンタをして恋敵を起こす。
「う、う~~ん……朝から痛いですねぇ……。
この馬鹿ガキ……。」
正直こんな光景を見せられて、なんでこのアバズレオバサンはボケーッとしているんだ?
天空に虹でできた場所へ到着するってのに!
旅慣れしすぎてロマンが消えたのかな?
「ああ、着いたんですね。
降りる準備をしましょう。」
のっそりと恋敵は立ち上がる。
なんていうか、最初にあった時よりも動きがぎこちない。
多分、気のせいだろう。
◆◆◆
空気が少ないのに不思議と不快感が少ない。
足元が柔らかめの木の素材でなんだかフワフワした感覚に陥る。
ここが天空にあるって考えると、ちょっと怖い。
デメキン一発でここが崩落する気がする。
弁償できないもん、そういう意味合いで怖い。
「お待ちしておりました。金魚の力を持つ方々。」
「「?」」
飛空艇から降りると、誰かから声をかけられる。
クールな女性の声だ。
その声の持ち主はロングスカートでもわかるモデル歩きをしながら、紺色の髪を揺らしている。
鋭い目つきに長い耳、黄色の目をしていてきれいだ。
法衣?らしきものを着ていて、優雅で品のあるたたずまい。
天秤のような本を抱えている。
「ようこそ、天空図書館へ。
雄大なる世界の叡智が納められし、書物の聖地へ。」
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