第155話『トロッコでビュンビュン鉱山少女』
「ひゃっほーーー!!」
「速度出し過ぎです!!」
私達は今、廃坑道を直進している。
勝利したことによりマチルダさんに渡された経路に、町から2時間くらいの位置にあるこの廃坑道が道順にあったのだ。
ここを進むと、『空港』があるらしくそこからが魔国への最短ルートらしい。
ちなみにマチルダさん達は去り際に『良い旅を。』と残してカードを渡してくれて、万歳ストームさんたち同様に転送された。
万歳ストームの文字が『H』だったのに対して2枚目は『in』という黄緑の文字だった。
このカードの文字は一体何を指しているんだろ?
そんなこんなで今、マチルダさん達との闘いも終わり坑道を進み、面白半分でトロッコに乗ったら動いちゃったというわけだ。
まぁ、金魚モードまだ回復してなかったしちょうどいい移動手段でしょ。
たまーに半身を乗り出して蹴れば、勢いよく進んでいく、カーブの際はレバーを倒せばその方に進んでいく。
「やばいです!他人に運転されると怖いです!」
「お互い様でしょ!」
トロッコに恋敵と共に真っ暗な廃坑道を懐中電灯一つで突き進んでいく。
このままいけば、夕暮れ前までに空港に着けるはずだ。
そうすればすぐに魔国だ。
「こんなひどい運転はソライさん以来ですよ!」
「ソライ運転下手なんだ……。
うわーあいつと比べるられるのは……ちょっと……。」
流石にロリコンで子供にパパンとか呼ばれている元同級生と比べられるのはなんていうか、いやだ……。
少し速度を落とす。
「それでいいんですよ。
ここはただでさえ廃坑道なんだから下手に速度を出して崩れたら危ないですし。」
「う、うん……。」
恋敵に諭されるのは嫌だけども、ソライより運転が下手がグサッと来た。
……唐突だが少し気になることができた。
「ねぇ。」
「なんですか?」
「お前から聞くのはあれだけどさ。
自分で確かめた方がいいかもってのもわかるんだけどさ……。」
「だから、なんですか?よそ見運転ですか?」
「サイムの運転って……うまい?
違反切符がどうとかいってたけど。」
「う~~ん。
下手ではありませんけど、人並みって感じです。
調子乗って、荒れた運転をわざとすることはありますけど。」
「……そっか。」
少しそれを聞いてほほえましくなる。
「何かニヤついていませんか?」
「べつに~?」
「まあ私の彼氏のことを聞きたかったら、いつでも聞いてくださいね。」
「お前のじゃないよ、アバズレ。」
「は?」
「あ?」
おっとさすがにトロッコを走らせてゲロゲロと苦痛はまずい!
事故しちゃう。
いったん手で2人でストップのハンドサインを送りあう。
トロッコが傾き私達も重心を傾け元に戻る。
「そういえばさ、私も質問があるんだけど……。」
「なに?」
「サイムと屋上でご飯食べさせあったのって……ほんと?」
「うん、食べたよ。
サイムと屋上でお互いの卵焼きをあーんしたよ。
まぁ同じ孤児院の同じ卵焼きだったけどね。」
「へ、へぇ……。」
私はさっきの仕返しとばかりに得意げに語る。
「まぁ私の彼氏はお前の思っている以上に素敵な一面を私に多く見せるんだ。
お前と違ってね。」
「は?」
「あ?」
やば、苦しみのひりつく感じが今日は血管の方にぎゅうう~っと集まってるのを感じる。
気持ちわる!圧迫されてる感じ!
「ちょ、あんた!なんでこんな時に喧嘩するようなことを!」
「元はおまえのせいじゃん!オロロロロロロ!」
2人で廃坑道内にげろをぶちまけ、意識がもうろうとしていく……。
うげげげ……。
……。
…………。
………………。
イタッ!?
「は……!」
気が付いたらトロッコは停車しており、廃坑道を抜けたのかどこだかわからない岩山にいた。
岩壁を見てみると1メートルくらい上に穴が開いており廃坑道の出入り口らしくそこから制御を失った結果、私達はトロッコから放り出されこうして身体を打って起き上がったってわけだ。
あとめちゃくちゃ暗い。
すでに夜っぽい。
「むにゃ......さむいです~サイム君~!」
「起きろ!彼氏の名前を呟かないで!」
軽く叩いて起こす、本当は顔面をめり込ませるぐらい殴りたい。
「ふぇ?」
鬼は頑丈だと聞いていたが、この女も例にもれずだいぶ丈夫だわ。
「ここどこですか?」
「わからない。おそらく廃坑道の先。」
恋敵とあたりを見渡す。
マチルダさん達の対決、トロッコで意外に時間を使ってしまったのだろうか。
あたりは暗くて肌寒い。
見たあたりは感じは岩山って感じだ。
崖と岩で構成されたそんな場所だ。
殺風景すぎる。
金魚モードは恐らく使えるはず。
ここで野宿かぁ……。
なーんか、やだなぁ……。
おなか減ったな……。
「ユミさんの食料を食べましょう。」
「毒とか入れてないでしょうね?」
「死体を引きずりながら、サイム君に会いたくないんでやりませんよ。」
「それもそうね。」
枝すら近くにない完璧な岩山のようで、私達の乗ってきた横転したトロッコ以外は石ころしかないから炎を燃やすものがない。
「あんた服脱いで、火にくべてくれませんか?」
「おまえがそれやってくんない?」
と2人でたわいのない会話をするほど食料と寒さに困っていた。
なにぶん、モンスターの皆さんが寄り付かないってのも困りものだ。
――女が2人でひもじい思いをして夜空を眺める。
そういえばヨゾラちゃんたちは元気だろうか?
――ドドド……。
――ん?星空が揺れている?
地震?いや、違う。
「これは……。」
「何か来ますね……。」
周りの小石も揺れている、何かが地中から近づいている。
恋敵と息を合わせてその場から後方にジャンプする。
同時に私達がさっきまでいた場所からドリルがタケノコみたいに、にょきっと2本生えてくる!?
「なにこれ!?」
そのままドリルは地中から突き破りその全貌が見えてくる。
これはドリルだけじゃない、人だ!
「来ますよ!」
「わかってる!」
「六手解体!」
ドリルだけじゃない!ハンマーがその人物?に装備されている!
私達は大きく体をのけぞらせて空中宙返りでドリルとハンマーだけで2本?いや4本の腕の攻撃をさける!
――って待て待て!人間の腕は2本だけだ!なんで4本も腕があるんだ!?
大きく距離を取り地中から迫ってきた人物の腕の本数を数える。
背中から金属製の腕を生やしており、人間状の腕も合わせて6本の腕がある!
赤い金属の仮面に、ロングドレス姿の女性が地中から這い出てきた!?
だ、誰だっけ……?
「ま、まさか。またですか……。」
「お前の知り合い?」
「説明は後です。あと最低でもこの場に6~7人います!」
恋敵ははぁ~とため息をして、警戒態勢を取る。
すると左方向からまばゆい光がする。
「何か光った?」
「まっず!?伏せてください!」
「光線照射!」
直感を信じて、伏せると私の額があった位置を巨大なレーザーが横切る!
耳元に雷のようなチリチリという音がして明らかに間一髪だった。
「今のは4番目。
もしも来るとしたら昼間って思ってたんですけど、まさか夜に来るなんて……。」
「だから敵は誰よ!」
恋敵が口を開こうとしたとき、周囲の小石が浮き始める!
なんだこれ!?
「来ましたよ!3番目!」
「磁力巨砂!」
小石だけじゃない周囲の砂鉄も迫ってくる!
向かってくる先が一方向だけなら簡単に避けられる!
だが。
私達が避けた先にはすでに馬のひづめのような音が近づいてきていた。
砂の音に紛れていて接近を許してしまっていた!
その巨大な馬のようなものと、鋭くとがったランスが私達の腹部へ迫っていた。
「戦槍一点!」
力を加えて攻撃を反らす!
そのまま馬のようなものは先ほどある6本の腕の女性の元へ速度を緩めながら、移動していった。
――待てよ、嫌な予感がする。
こういう時油断はできない。
そう思ったのもつかの間、頭上から夜なのに太陽のような光が照らされる!
「太陽熱波ァ!!」
まずい!絶対にこれは!
デパートの屋上とかで見るでかいバルーンぐらいある巨大な太陽が目の前に差し迫る!
私は恋敵を手繰り寄せてデメキンの構えを取る!
恋敵も察したのか、大きく横にジャンプする!
「「デメキンカタパルト!!」」
恋敵は私の手を持ち大きくその場を離れる!
そして気が付く、私達の足元の数センチ先。
先ほどまであった一帯が溶けてしまっている。
「こ、これはいったい……。」
「ふふーーーん!!どんなもんでしょ!!
ヒトメちゃん!ニチさん!!」
そう言って眼前を見る。
目の前には仮面をかぶった女性が5人。
そのわきからさらに1人、同じく仮面をつけ、上着を羽織りなぜか競泳水着をはいている女性がとことこと歩いている。
よくみれば彼女は2本の斧が手に融合しており、足なんかも金属で構成されている。
「やっぱりあなた達でしたか!
お久しぶりです!大きくなりましたね!」
「でっしょ~!
こう見えて今はタマシイさんの奥さんで子供出来て、今では姓も『大和』ってなってね~。
今はスイミングスクールで子供にも、泳ぎを教えたりしてるんだよ~!」
水着仮面の女性は上機嫌にしゃべる。
それに対して6本腕のロングスカートの女性は肘で小突く。
「お姉様、子供自慢なら井戸端会議でさんざんやっているでしょ?
お姉様が口を滑らすといつもろくなことがありゃしないので、少し黙っていただけませんか?
あたしが代わりに話します。」
「でもボクの子供、お目目がかわいいし。
初めてまんまって言った時のお話とか。」
「それが無駄話って言っているでしょ?
だからハナビに粗大ゴミとか言われるんですよ?
あたしも言いますけど。」
「え~、妹よ~。
それはひどくない?」
「普段どおりの対応です。
さて、そこのポンコツじゃ話にならないので、あたしが話しましょう。」
「え~ボクが!2人に話すんだ!」
「ネジの1本まで解体されたくなかったら、お黙りなさいッ!馬鹿姉!!」
6本腕の女性はドリルで姉と思わしき競泳水着の女性を脅す。
「はぁ~い……。」
「たく……。」
何だこのやり取り……。
「改めてお久しぶりです。
あたしたちは『蒲公英七姉妹』。
……正確にはそこのバツイチ三女を除いて全員、結婚して姓は変わってますが。
六女であるハナビを除いたこの6名で、貴女方を討伐させていただきます。」
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トロッコ:大破