第154話『紅茶少女』
ん?アメキチさんの手に持ってるあれって……。
「それ!手に持ってるやつ!」
「あ!忌々しい『音』の歯車さん!お久しぶりです。」
なんで歯車にさん付けしてんだこいつ。
「とにかくアメキチさんはその場でその歯車を抱えてじっとしていてください。
これで妨害はされないはずですから。」
「しかし、こんな穴いつ仕掛けたんだろ?」
「おそらく夜から朝、無音になっていた時に穴を掘ったんでしょう。
こっそりやれば気が付かないはずですから。」
「ああ、なるほど。」
「さて、妨害をしないでくださいね。アメキチさん。」
アメキチさんに恋敵が尋ねると……。
「本当に妨害しないでいいのか?」
「え?」
すると何かのシャアーーーって音が聞こえ始める。
なんだっけ?この音。
地面を擦れるこの音。
「「まさか……。」」
塀を飛び越えてみてみると町中にどこからか現れたのかわからない、大量のゴーカートが走りまくってる!
遊園地のアトラクションみたいだ!
それもゴーカートの上にいるのは全員、ユウタロウさんだ!
な、なんで!?どうして!?
「やられた!ユウタロウさんは機械工学のスペシャリストです!」
「あ!ってことはこれは全部ラジコン!?」
「おそらくこの上にいるのは、ホログラムとかダミーの人形!
町の中でゴーカートを乗っている本物のユウタロウさんを捕まえなきゃダメです!」
たしかにゴーカートに追いつくことは私達なら簡単だろう。
問題は数が多いってこと。
なにせ渋滞が起きそうなレベルで道いっぱいに、大量のユウタロウさん&ゴーカートが結構な速度で走り回ってるんだ。
「なら!金魚モードを使わずともデメキンで全部をぶっ飛ばせば!」
「駄目です!」
え?金魚モードを使わずとも、装甲ちゅうの2トントラック程度なら吹っ飛ばせるデメキンが出せないわけでもあるまい。
相手はたかだかゴーカートなのに。
「ルールに抵触するんです!
器物損壊はダメなんですよ!馬鹿ガキ!」
「あ、そういえば……。」
どうやって、ゴーカートのユウタロウさんを……。
あ、そうか。
「ロープ貸して。」
「ん?はい。」
創造主さんの帽子からロープを渡される。
まず、私はスカーフをはずしてスカーフで石を包む。
スカーフにロープをくくり付ける。
「これでよしっと……。」
「どうするんですか?」
「まぁ、みてなさい。」
相手が道いっぱいに動いている。
そしてユウタロウさんがホログラムだとしたら本物を見分けるやり方は簡単。
「よっと!」
道の向こうロープをくくり付けたスカーフを投げ込む。
もし本物がいるというなら、ユウタロウさんがどうなるか……。
「うわ!?」
走行中の目の前に、それも自分の身体が当たる位置にロープなんて飛び出てきたら当然、よけようとする。
つまり、あそこであからさまに不自然な動きをしている。
「奥の方!前から4人目!」
「でかしました!」
ゴーカートをよけながら、きょどりまくっている本物へ接敵する。
「ユウタロウさん捕まえた~!」
「オ~ゥ負けてしまったようですね。」
すこし腹立つ顔をして笑いながらユウタロウさんを捕まえた。
残りはただ1人、マチルダさんのみだ。
「福音に洗脳されているとはいえ、その聡明さは健在でしょうね。
マチルダさんは相当賢い人ですよ。」
「私、友達のイチちゃんがかかわっていたから、いまいちわからないんだけどもマチルダさんはどう凄い人なの?」
「チェスのようなものなら確実に負けるレベルで頭が良くて、鑑定士の資格を持っている聡明な方です。」
鑑定士か……。
「行きそうな場所に心当たりは?」
「いえ、ひたすらに引きこもっているか喫茶店でお茶をたしなんでいるしか、イメージがわかないですけど。」
「とりあえず喫茶店探していってみようか。」
「ですね。」
――残り時間10分前。
「「いた。」」
本当に喫茶店の屋外席で、紅茶を優雅に飲んでる。
この町に喫茶店は2、3店あってそこ以外も探し回りつつ町を探し回った結果。
向こうの道の先、優雅にパラソルの下で紅茶をたしなむマチルダさんがいた。
「やれやれ。
残り10分。
少々ぎりぎり過ぎですね。ワタクシの観察眼もまだまだということですね。」
ため息をつき、紅茶を飲みほしカップをテーブルに置いてゆっくりと立ち上がる。
「あとは触れれば終わり!」
私達が道路を渡り、マチルダさんに触れようと手を伸ばす。
それと同時にマチルダさんはパラソルを倒して、勢いよく進んだ私達が急ブレーキを踏む。
あぶな、器物損壊のルールに背くところだった。
これがマチルダさんのやり方。
ルールを違反させるというやり方か!
「ルール上、時間内に触れなければあなた方の負け。
貴女方が運動性能ではるか高みにいようと、このルールで戦う以上ワタクシにも勝機はあります。」
パラソルの向こうの影が笑いながら言う。
でもどうせこのパラソルの向こう側にマチルダさんはいるはず!
裏手に回り込み触ろうとしたところで気が付く。
マチルダさんはいない!あるのは紙とライト!
さきほどまで話していたマチルダさんは『影絵』だ!
どこ行った!?
そんなに遠く離れるわけ……。
「「テーブル!」」
2人して気が付く!
テーブルの下をくぐった、マチルダさんがカップを持ち直して歩いている。
「そこだ!」
今なら手が届く!
「ごめんあそばせ。」
マチルダさんはひょいとテーブルをこかして私達の手を遮る。
あぶな!テーブルを破壊するところだった!
「読み通り。
貴女方は力を出すことは得意でしょうけど、力を抑制するのは難しそうね。」
あともう少しで触れられそうなのに!
――そのもう少しが遠い!
テーブルを押しのけて、マチルダさんを目視する。
「これは!?」
「ガラス細工!?」
マチルダさんの目の前に、大量のガラスの枝の様なものが広がる。
ガラスの枝にさえぎられてマチルダさんに手を出せない!
なんだこれは!?
「ワタクシは鑑定士。
鑑定したものの中には、即席でガラス細工を生成する特殊なカップがありました。
ある遺跡で発見され、現在では5つもない遺物です。
お値段も結構するので壊さないでくださいね。」
物を壊さずに相手に触れるだけなのがこんなに難しいの!?
ジャンプしようにもこんな脆そうなガラスなんて風圧で割れちゃうじゃない!
恐ろしく難易度が高い!
さっきまで飲んでいたと思わしきカップは、こういう古代遺物だったのか!
裏手にまわって捕まえたいけど、呪いの影響で私だけが囮にできない。
ガラス細工の隙間を縫っていこうにも手の大きさ的に難しい。
「そうです。この手がありました!」
恋敵が叫んで、小石を拾う。
「コメットで攻撃しようにも金魚モードは今。」
「そんな必要ないです。そんなにも力を籠めなくていいんです。」
それってどういう……。
ん?恋敵のこの姿勢は確か……。
「模倣白野流銃術!」
あ、ユウジの技か!
そういえば私がコメットを、もとに作った系譜の技でもあるじゃん!
そりゃ高達流闘術を使えるわけだから、そこから分岐した系統の基礎をある程度使えないとおかしいじゃん!
「独奏!バレッツ!」
「イタ!?」
恋敵が飛ばした小石はマチルダさんのカップの持つ手に当たり、マチルダさんは驚きのあまり、カップを地面に落としカップ事ガラスが割れていく。
「ちょ!何やってんの!?」
「これでいいんですよ、だって……。」
恋敵はマチルダさんを指差す。
「『器物損壊をした時点で負け』なんでしょう?
私は『マチルダさんの手』に当てました。
よって、マチルダさんがそのカップを落して破壊したんです。
だからマチルダさんの負けなんです!」
「えええ!?それっていいの!?」
なんていうかひねくれていて、ものすごく当てつけみたいな言い回しだ。
「ええ構いません。マチルダさんはこう言いました。
『器物損壊をした時点で負け』と。
これが適用されるのは『私達だけ』とは明記されていません。
それに偶然、石が当たって物を壊してしまったのをマチルダさんは言い訳になんてしません。」
た、確かにそうだけども。
まぁ、相手も私達に色々と破壊させようとしてたし……。
相手に破壊させるのはアリなの……か?
「フフ、アハハ。
久しぶりね、この感じ。」
マチルダさんは笑いながらカップの破片を拾う。
「そう、武山冒険社と言えば、この無茶な難癖の付け方。
ソライやサイムが馬鹿みたいに揚げ足を取ろうとしてくるこのやり方。
懐かしいわ……。
いいでしょう。
この勝負ワタクシたちの負けです。」
マチルダさんのその言葉に恋敵は笑う。
「ええ、私だって武山冒険社。
みんなの背中を追って、ここまで来たんですから。」
こんな決着の付け方……アリ?
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