第153話『かくれんぼ少女』
「「受けるに決まっているじゃない!」」
「上等です。」
「それで?ルールは?」
マチルダさんはてくてくと2階から1階へ階段を下りる。
「ルールは……『かくれんぼ』です。」
「かくれんぼ?」
てっきりチェスとかそういうのかと……。
「チェスや将棋など、卓上遊戯も考えたのですがそれだとこちらが有利すぎます。
圧倒的な勝利だと面白くないでしょう?
現在あなた方は呼吸を検知できる金魚モードが使えないこのゲームは、フェアではございませんか?」
な、なるほど……。
マチルダさんはどこからか砂時計とオルゴールを取り出す。
「ゲームに期限は、この砂時計が落ちる1時間30分。。
隠れる時間はそのうち30分。探す時間は残り1時間。
30分経つとこっちのオルゴールが自動で鳴り響く。
鬼はあなた達、2人。
隠れるのはワタクシ、アメキチさん、ユウタロウさん、3人。
範囲はこの館を出た町の中。
家屋には入ってはならない。
退場したら妨害はなし。
鬼であるあなた達はオルゴールが鳴りやむまでここで待機。」
なるほど、外でやるかくれんぼってことね。
「あと器物損壊をした時点で負けです。
町の方々に迷惑をかけるのはやめましょう。」
いや、私の恋路を邪魔してんのにそれってありなの?
「最後のルールとして、見つけた場合相手に触れて『みーつけた』と言ってください。
それが見つけたという判定になります。
質問はございますか?」
特にないな……。
2人して首を横に振る。
「では開始と参りましょう。」
マチルダさんが砂時計をひっくり返し、3人が玄関扉をくぐっていく。
「ごきげんよう。」
そして扉は閉められて、恋敵と共にへたり込む。
◆◆◆
恋敵と背中合わせで30分間、座り込む。
「はぁ……まさかこんなことになるなんて。」
「それはこっちのセリフです。
鬼人なので、子供のころから『鬼役』には慣れているんですけどね。」
そういえば、鬼人の子供って基本的に鬼役になることが多かったような気がする。
こいつの過去、ちょっと気になるな。
「お前は昔どんな子供だったの?」
「私ですか?うーーーん、実家が神社なのでお正月はこき使われましたね。」
「はぁ?実家が神社?」
どんな萌えポイントよ?
「はい、小さい神社ですけど。一応巫女としての祭事はほどほどにできます。
ただ、今の家に拾われる前は散々だったことは覚えてます。」
「今の家?」
背中にいる恋敵はため息を吐く。
「私、お母さんとお父さんが離婚したんです。
それで一時期、小学生低学年ごろまでお母さんの家にいたんです。
でもお母さんは私を見向きもしないし、若干ネグレクトみたいな状態で怒るときはすぐ怒鳴られてました。」
……私も親が小さい時に事故で死んでいる。
親のことがわからないけどサイムと一緒に孤児院で育った。
だが、親がいてこんな目に合ってるやつがいたんだな。
サイムと一緒にいたことがどれだけ幸福だったか、と後ろにいる女と比較してしまう。
「それでお父さんに引き取られて、お母さんとは絶縁しました。
そんなお父さんも死んじゃって、それ以降はお父さんの方のおじいちゃんに育てられました。」
「それで引き取られた先が神社ってわけね。」
「そういうわけです。
まぁお母さんはなんだかんだで不安定でしたし、離れてよかったです。
二度と会わないことを私は願っています。」
ふぅ~~ん……。
「そういえばお前のその苗字は、父親の方?」
「ええ、『草島』はお父さんの方です。
私、苗字もすでに2回変わっているんですけど、母親の方は確か……。」
その時、私は確かな既視感を覚えた。恋敵の話すその苗字に。
「『■■』っていうんです。
■■■の■に、■■と同じ■で『■■』って読む、変わった苗字なんですけど。」
「………………え?それって……。」
どこか聞いたことがある。
誰かと同じ苗字。
こいつは誰かと同じ血を持っている。
…………誰の苗字だっけ?
「どうしたんですか?」
「いや、それって……。」
私が聞こうとした瞬間、オルゴールが鳴り響く。
どうやらかくれんぼの開始の合図らしい。
「話は後です!1時間しかないんですよ!行きますよ!」
「あ、ああ……。」
駄目だ、あと少しで思い出しそうなのに誰の苗字だったか思い出せない。
仕方がないし、かくれんぼするかぁ……。
◆◆◆
町に出てみると、住民は家に入っているのか人はいない。
この町の広さはそんなに広くない。
町全体は白い石畳で家屋の屋根はどれも青い。
似たような統一感のある建物ばかり、観光できたしたとしても迷いそうな町だ。
だが、思った以上に隠れられそうな場所は多い。
石畳のタイルの裏、ポスト、建物の裏、あるいはトリックアートなんてこじゃれたものに擬態して隠れているかもしれない。
「……ふぅむ。冷静になって考えるべきことはいくつかありますね。」
「考えるべきこと?手あたり次第怪しいところをひっぺ替えしていけば。」
「そんなの、あの3人が読み切ってるに決まってるじゃないですか、バカガキ。」
「バカガキっていうな~~イラァ~~~!」
「まぁ解説してあげましょう。」
イチちゃんの手帳を開き、今までのやり取りを指差す。
「まず、ここに来るまでにわざわざ『音』の歯車を使って誘導してきたことです。」
「そうか、別におびき出すためだけだったら『福音の刺客が洋館にいる。』っていう、立て札があればいいだけだもんね。」
「そう、だからブラフとはいえ『音』の歯車を利用しない手立てはない。
かくれんぼの最中に音を利用して、注意をひきつけることだってあり得る。」
そうか、かくれんぼのルールの中に『隠れている最中の移動は禁止』は無いわけだ。
だから私達が近づいて来たなって思ったら、五感の1つを狂わせて自分はこっそり移動していればまず見つからない。
それに建物を粉砕はルール的に不可能だ、負けたら強制転送させられる。
んん……?この感じ……。
これって相手が『音』を利用してくるってことは、それ相応に音に異常が無いとおかしい場所にいるんじゃない?
今さっき何かの違和感がした気がする。
あるいは音を利用して、おびき寄せるか。
運がいいのか悪いのか、ここら辺は風や動物などの自然音にあふれている。
石畳に落ちている小石を拾う。
そして恋敵の口元を抑える。
耳を澄ませとジェスチャーをして、道路を指差す。
音を司る歯車なら、音を察知することもできるでしょ?
大体目測で、30mくらい先。
小石を道路に投げ入れる。
この音を探知して、どこかの音が消えた時点でその方角にいる。
石を投げたことにより風を切る音、小鳥のさえずり……普通に聞こえる。
数秒間耳を澄ましてみると、一瞬私達から見て右前。
風で木の揺れの音が消える。
だいたい位置からして石を投げた場所の手前の家!
恐らく塀の裏にいる!
家屋に入らなくても塀の裏手はアリなのね!
「そこです!」
「逃すか!」
速攻で詰め寄って捕まえる!
塀の上に2人でジャンプする。
「「なにぃ~!?」」
塀の裏手が一面、煙!?スモッグ!?
とにかく煙に覆われていて何も見えない!
これはあくまでも、かくれんぼ。
見えなければ意味がない。
見えていない間に音を消して逃げる。
これだけで、十分なんだ。
音を消して、逃げるしかない。
わかりやすい状況だ。
だって相手の選択肢が見えるんだから。
塀という限られた空間。
こういう時の逃げる出入口は基本、門を探してそこから逃げる。
これが定石だろうけど、今回の場合は恐らく違う。
さっき感づいた違和感の正体がわかった。
「地面!」
おそらく地中を移動している!
音は消しても地面から伝わる微弱な振動が消せてなかったんだ!
地中にいれば、さっきの小石を投げた音にも敏感になるわけだ。
私達は煙の中、互いに地面に手を当てる。
……ここだ!
器物を破壊しない程度にドン!と地面をたたく!
地面が右往左往している。
音だけだ。振動そのものは消せない。
煙も長時間作用するわけじゃない。
そろそろ晴れる。
「捕まえましたよ~!」
「さき越された!?」
恋敵がすでにアメキチさんを手に持ってる!
「はぁ……パンチの振動にビビったタイミングを狙われるなんて……。」
うぐぐ、なんか腑に落ちない。
恋敵に手柄を取られた感じがして。
「おあいにく様、子供のころからやってきた鬼役で鬼人に敵うわけないんです!」
「ようは、外れ役をやってきただけでしょ?」
「外れ役もできない甘ちゃんのガキとは違うんです。」
「は?」
「は?」
いや、喧嘩して呪いを受けている場合じゃないや。
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