第151話『そこにいた少女』
「さてと……。」
彼らが洗脳されているのならそれの元になったものがあるはずだ。
どこかわかりやすい位置に洗脳を監視する装置が……。
ん?タマシイさんの胸に何かある。
「あった。」
「こっちにも。」
性格には埋め込まれているっていうよりかはぶら下がっていた。
なんていうか……破片?
が、大事そうに定期入れに入れられていた。
あからさまに怪しい。
それに普通にケースには、『第ⅩⅣ大罪』と書かれているし。
無理やり定期ケースを引きちぎりケースから破片を取り出す。
「なんだこれ?」
「ほかの人のも集めてみましょう。」
数分後、ほかの人の首にも部下がっていた破片を取り出す、全員分をひとまず集めてみて確認してみますか。
これが彼らを洗脳していたものなのかな?
危険なものかもしれないけど調べないことには、今後に関わるかもしれない。
福音の大罪が私達を拉致していかなかったから、多分この洗脳は私達には効かなかった可能性が高い。
そうじゃないと回りくどすぎる。
「ううーーん、まるでパズルみたいですね。」
パズル?そういえば。
「……こことここの破片の形が同じだ。」
組み合わせることができる。
それらを丁寧に倒れた木の上で組み合わせていくと、破片がくっついて1枚のカードになる。
カードをよく見てみると薄桃色の文字でこう書かれている。
「「H?」」
ただ薄桃色の『H』という文字のみしか書かれていない。
裏にも何も書かれていない。
「見て、周り……」
カードを組み合わせた瞬間、万歳ストームのみんなが砂のような粒子になってどこかへと消えて行く。
まるでアルさん達が唐突にテレポートさせられたのと同じような感じだ。
「突然消えてしまった……。テレポートかな?」
「このカードが洗脳の原因かどうかはわかりませんが、これを相手から引っぺがしてカードにすると相手はどこかへ転送?されるんだと思います。
死んだという感触がつかめないですし。」
つまりどうにもならない時はこの欠片を奪い去ってしまえば彼らは洗脳も解けて強制送還される?ってことなのかな。
「とにかくこれで脅威はいったん去ったわね?」
「……ところで、あんた金魚モード使えます?」
「……。」
実はなぜか使用しようとしても、瞬時に呼吸法が元に戻ってしまう。
3つの呪いの1つがめちゃくちゃ効いている。
「無理。」
「私もです。街について敵に襲撃されないことを祈るしかないようですね。」
はぁ、ここからこの女と徒歩か……。
ん?何やってんだアイツ……。
そこら辺に落ちてる瓦礫なんかあさっちゃって。
「やはり運がいいですね。」
「何が運がいいのよ?これから徒歩だってのに。」
「あんた、やはりオツムがあれのようですね?」
戦闘明けで苦痛を伴うのが嫌だから、言葉には出さないけどできることなら、こいつの頭を思い切り地面にぶっ刺したい。
「万歳ストームのみなさんはここまでどうやって移動してきたと思いますか?」
ん?
「そりゃ、徒歩?」
「なわけないですか!武山冒険社と双璧をなす元ショーワ町2大冒険社の1つです!
ならば、当然移動用のコレと食糧やテントがあるに決まってますよね?」
恋敵が手に持っているのは俗にいう『エアボード』と呼ばれるものだった。
空気と微量な磁気の力で宙を浮く乗り物で、速度はだいたい原付と同じくらい。
速度はそこそこだが小回りが利いて大変便利な代物で、速度を出すのにスケボー同様に結構な技術が必要らしい。
免許証が必要な乗り物で、それもだいたい原付と同じくらいの難易度で取れる代物だ。
「これに乗って山を進めば、金魚モードが無くても素早く行けるはずです。
ここにとどまる方が、危ないですから。」
まぁそれはわかるが、少しだけ問題がある。
「私免許ないよ。」
「ああ、あんた中学生でしたね。
仕方がありません。私のに相乗りしてください。
二人乗りは下手に見つかれば違反切符切られますが、見つからなければどうということはありません。」
そもそも、ここ私達の国じゃないけどね。
「まぁ~どんな危険運転して見つかっても、ケロッと何食わぬ顔をしておけばいいっていうのが、私の彼氏であるサイム君の教えですけど。」
お前の彼氏じゃないけど?
っていうか私の彼氏、大丈夫か?
道路交通法違反しても、堂々としすぎていて不安なんだけど。
◆◆◆
「さぁ!乗ってください!」
「安全運転で頼むわよ!」
食料や役に立ちそうなものを、バック代わりにしている創造主さんの帽子の中に詰め込む。
二人乗りで恋敵が前足で全面を蹴ってエンジンをかける。
ブロロロというエンジン音が足から伝わる。
なんていうかエンジンをかける、荒々しい感じが少しだけ伝わってくる。
大丈夫か?
「行きますよ!掴まってください!」
「待って待って!」
「それ!」
それじゃない!
ここ森であり山道で速度だすの難しい乗り物で、少なくとも3年以上ブランクのある女が操縦ってそれヤバイじゃん!
「おお!すごい馬力!」
私らの方が強いし、速いからこういうのは何ともないと思っていたけど、こいつの運転!めちゃくちゃ怖い!
「楽ちん楽ちん!」
「あんたの運転怖いんだけど!?」
次々と景色が流れていくが、木々があちらこちらへと避けるこの状況!めっちゃ怖い!
シュッという音ともに、私のほっぺを木々をかすめる。
「お願い!まともな運転して!」
「ソライさんに比べたらまともな運転です!」
いやいや、めっちゃ怖い!
山道だってこともあるせいか怖い!
これ以上にひどい運転してきたソライは何なの!?
馬鹿なの!?
運転に下方向の比較対象作っちゃダメだって!
ちょ!?目の前にハチの巣見えるんだけど!?
仕方がない!このままだとこの運転へたくそ女によってハチの巣へ突入する!
「デメキン!!」
その前に、デメキンで木々を吹っ飛ばしてハチの巣を撃ち落とす!
「お!道が開けましたね!ナイスです!」
「二度と!お前とこんな連携したくない!」
――こうして山を私達は登って行った。
――……はぁ~…………。
◆◆◆
「「ついた~!」」
また被った。
妙なタイミングでいつもハモる。
腹立つけど仕方がない。
半日とちょっとかかっちゃった。
すでに日はほとんど沈んでいる。
早く宿を見つけないと。
「ところであんたここら辺の言語喋れます?」
「肉体言語なら。」
「なさけないですね。語学なんて簡単でしょ?」
「普通に難しいし、私は国語とか語学関係は捨てた女だから。」
「やれやれ、とにかく宿を探しますよ。」
真っ暗で所々、ランタンの明かりがちらほらとあるけどこの国の村はなんていうか色々と暗い。
電気という文明が停滞しているのか旅館でも、少し薄暗い感じがしたし仕方がないと言えば仕方がないのだが。
十数分後、歩いていくと宿屋らしき建物が見える。
「うーん、所持金ギリギリですね。1泊が限界です。
あんただけを馬小屋に放り込みたいところですが、呪いがあるのでそれはできませんし。」
「私を馬小屋に放り込むのなら、お前は外にあった鳥小屋ね。」
「失礼、あんたは馬小屋の隣にあった糞の中にツッコむべきでしたね?」
「アァ?」
「ア?」
いつも通り呪いで気持ち悪くなりつつチェックインを済ませる。
地味に痛みを感じるから、この呪い本当に最悪。
部屋ですることもないので二段ベットの下に入り、目を閉じる。
「起きてますか?」
「起きてる。」
寝ようという時に話しかけるな、馬鹿女。
私はサイムを奪ったお前を許すつもりはない。
「少し気になったんですけど、これは夢じゃないですよね?」
妙なことを聞くな。
「知るか。
私だってお前と出会った事なんて、夢であってほしかった。」
「いえ、起きてから16年の年月が経ったことや、あんたが生きていること。
サイム君たちがさらわれたこと。
まるで夢みたいだなって……。」
……。
「それを言うなら私は蘇ってから25年間も経っていたんだ。
友達がおっさんになっているし、知り合いがどこにもいなかったんだ。
もう驚くのも、めんどくさくなったよ。」
「ははは、そうですね。」
「「……。」」
なんだ?寝たのか?
いや、寝てない感じがする。
「そう、ですよね。
この世界で孤独じゃないって思っても、私達だけはどこか孤独なんですよね。」
「……ああ。」
瞼の闇の中、どこかあっけらかんとした声が聞こえる。
そうだ。
どうあがいても『孤独』なんだ。
誰よりも。
だから……。
「だから、私は友達と共にサイムを探しにここまで来たんだ。
過去を求め、今を生き、未来を歩むために。
私はあきらめないし、変わらない。」
「……。」
上から少しため息がする。
「だから、私はあんたのそういうところが憎たらしくて、羨ましい。
まっすぐすぎるところが、いつまでも誰かの心に残ってしまうから。」
――……それは私が心の隅でお前に対して向けているのと、どこか似ている言葉だった。
――私をここまで超えようとしてきたのはお前だけだ。
――どこまでもまっすぐやってこないと、そこまでこれなかっただろうから。
「……お前のことは嫌いだけど、否定はしない。」
「私も少しだけ認めてやります。」
……。
「……とっとと寝ろ。」
「……そっちこそ、眠ってください。」
◆◆◆
ここはどこだ?ショーワ街のエイドスドアルームの中?
あ、エイドスドアルームってことは夢?
じゃあここにはもしかして……。
「ヒトメ、今回の目的はわかってる?」
マルさんだ。
よく見てみると恋敵と輪郭とか、なぜか似ている気がする。
夢の中にこの人はたびたび現れるけど、実際に再会したことがない。
このよくわからない明晰夢の中だけだ。
ただ前回のエイドスドアルームの場所とは違うように見える。
なんていうか恋敵が、封印されていたような場所に近い気がする。
「……目的ならわかってるけど、うまくいくの?」
夢の中の私がつぶやく、なぜか息切れしている?
どうやら目的はわかってるらしい。
何だろ?エイドスドアルームの中にアイスクリーム製造工場があって、そこでしこたまチョコミントアイスを食べまくることとかじゃないよね?
あるいはサイムとのデートコースの、下見とかでもないだろうし……。
「さて、ではうまくいく根拠を説明しましょう。」
「あるの?」
マルさんは真顔で淡々と装置を動かし続ける。
「創造主と魔神は対で、2つの存在を合わせて『願望器』と呼ばれる。
この世界は『有限の願望器』が創造した世界。
私が研究した結果から、創造主になるためにはとある条件が必要になることが判明したの。」
「創造主になるための条件?」
「それは、『鍵』を保有していること。
エイドスドアと呼ばれる大扉を開け閉めするための鍵。
そしてその鍵を保有するためには第二次成長期、いわゆる思春期に『自分でない自分に救われる』ことなの。
再現性があるはずことも知ってる。」
エイドスドア、鍵?自分でない自分に救われる?
マルさんはカチャカチャ、キーボードを慣れた手つきでいじくっている。
「わからなくていいわ。
いずれ実感するのは決まっていること。」
「まるで未来がわかっているみたいだね。」
「そりゃ、次の行やページを読むのなんて、大した労力なんて必要ないもの。」
――?
一瞬マルさんの目が俗にいう『三原色』のような形や色に見えた気がした。
「今回、貴女に頼みたいのは限りなく似せるために『保存』すること。
貴女の能力の真価はそういうものだもの。
出力は別の方法が必要だけどね。」
「それがさっき言っていた人の役割?」
「そう。
鍵のためにも必要なものだもの。」
さっき言っていた人って誰だ?
創造主と魔神……アルゴニックさんとみーさん達のこと?
マルさんの操作していたパネルのそばから、スタンプ台みたいなものが出てくる。
な、なんだ?これは……。
「ここに手をのせて、少しくすぐったくなると思うけど。」
「手を?」
「ええ、その状態でIdを発動すれば保存は完了する。
体調悪い中、連れ出してごめんなさい。
これで全て終わるから。」
「う、うん。」
過去の私がビビりながら手を置こうとする前に、マルさんが少し微笑む。
「そういえば言い忘れていたことがあるの。」
「何?」
「創造主と魔神はどんな状況であれ必ず『対』として存在する。
一心同体みたいなもの。
創造主は必ず魔神によって救われる。
『自分でない自分に救われる』の。
創造主が歩みだした先に『鍵』を手に入れることができる。
そしてあなたの役割も、この行動も『鍵』のための必要条件。」
私の手が光り、心臓が高鳴る感覚がする。
「これは『天筆』より強力なもの。
私が『有限』を観測した時から、ずっと考えていたこと。
さぁ、Idを使って……本当の能力を。」
マルさんは微笑む。
私を安心させるように。
全身を鳥肌が包む。
――夢の中で妙にリアルな感触がする。
「12Idアビリティ『リマインド』……!」
「…………ありがとう、ヒトメ。」
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この物語の『更新』は現状『毎週金、土、日』に各曜日1部ずつとなります。
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本日のヒトメさんによる被害/買い物
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『H』のカード:使用用途不明