第149話『嵐を呼ぶ少女』
――翌日。
「ここから南へ数キロ歩いて山を越えると街が見えるらしいです。
そこを通って福音が言っていた魔国へたどり着いて地道に色々と聞いていきましょう。」
こいつのいうことを聞くのは癪だが離れられないし、地図とかよくわからないから聞かざるおえない。
すでに旅館を出て数分間。
持ち物のコンパスと地図を頼りに森の中を進んでいる。
雑草が多く非常に歩きづらい。
「こういう場所って歩くの大変だから嫌いなんですよねぇ。」
それはめっちゃわかる。
しかしこの森、迷いそうだな……。
この先の山の中まで移動出来たら、そのあと街に降りて一泊できればいいなぁ。
「しかし本当にあれから16年もたっているなんて信じられません。」
「私の場合は25年後なんだけど。」
進み続ける中、無言ということがなぜかできない。
なぜならば私達は女子だから!
3人よりば姦しい女子がすでに2人いる。
嫌いな相手と言えども、周囲の警戒をしつつ思わず雑談してしまうことだってある。
「……あんたなんかに聞くのは癪ですが、ショーワ町にいるはずの私のおじいちゃんはお元気でしたか?
権三郎って名前なんですけど。
起きた時、元気って言われていましたけど、一応あんたの口からもききたくて。」
どこかで聞いたことがあるような気がするが、よく覚えていない。
「さぁ?そこまで言うならサイムを諦めて帰れば?」
「誰が帰るものですか!」
チッ……。
って言った後で気が付いたけどこいつが帰ったらサイムを探せなくなるじゃん。
ほんとこの呪い厄介すぎる。
でも言葉で誘惑してサイムを諦めさせるチャンスかも?
「ただ私の頃のショーワ町とも今は違って本当に街って感じになっていたよ。
都市がきれいで、冒険社の街って感じではないかもなぁ~!」
「それはサイム君と返るのが楽しみですね。
もしかしたら子供も出来ちゃってたらうれしいかもですね~。」
キッモい!なに私と同じこと想像してるんだ?こいつ!
そんなこと許すつもりはないが?
そういえば私も聞きたいことあったんだった。
「どういう経緯でお前はサイムと知り合ったの?」
「ん~。
私、武山冒険社の最初のお客だったんですが。
その時ソライさんの間の手によって法外的な値段を請求されまして……。」
相変わらず馬鹿やってるわね、あのロリコン。
「その時のお金を返すために無理やりバイトにさせられた結果、冒険社で働くことになったんです。」
うん、私の彼氏は見ず知らずの女の子に法外的な値段付けて、借金を負わせて働かせる馬鹿です。
「でも結果として働けて良かったです。」
「自慢なら転職先の面接会場でやったら?」
なお転職先の住所は地獄の一丁目だろうけどね。
「では得意なことに金魚を裁くことができますと書きます。」
「あ?」
そう言って体をビリリと伝う、痛みとゲロゲロな苦痛の前兆がする。
思わず2人で口をふさいで立ち止まる。
「「いったんストップしましょう……。」」
こうして今回の言葉での対決は、ドローに終わった。
◆◆◆
そのあとは、なんだかぎこちなくなって口数が減っていった頃。
しかしここは森のいいにおいだ。
暇なので周りの木々を見てみると、ショーワ街近辺で見たこともない木々だと気付く。
「こういうのって何て言うんだっけ……たしか針葉樹だっけ?」
「ええ、ここはショーワ町……ではなくてショーワ街よりちょっぴり北に位置する緯度なんです。
雪が降るので、それに合わせた木なんです。
そして魔国は緯度的に言えばショーワ街と同じあたりにある場所です。」
ああ、だから涼しいんだ……。
クソ女が下に生えている赤くギトギトな感じのキノコを指差す。
「ちなみにそこに生えているキノコは絶品ですよ。」
「へーお前が食べれば?」
「チッ。」
どう見ても毒きのこでしょ?
隙あらば殺そうとしてくるなこいつ……いつかひねりつぶす。
ん?
何だこの臭い。
それに妙に視線を感じる。
モンスターじゃないこの臭い。
なんだっけ?
「あんたも気づきましたか?」
「当たり前でしょ?」
この感じ炎のような、肺がムカつくような臭い。
なんだか知ってる。
この臭いは確か……。
「「――……火薬!?」」
「撃てーーッ!!」
銃声がする!私達を取り囲むように銃弾が飛び交う!
これくらいなら金魚モードを使わずとも回避できる!
だが回避しようとしたところで、隣にいた恋敵と頭をぶつける!
「ちょっと!!」
「どきなさいよ!!」
口論しようと差し迫っていたところで銃弾を頬をかすめる。
危ない危ない。
「今はそんなことをしている場合じゃないですね。」
「ごもっともね。」
この敵、私達が火薬に気づいたタイミングで弾丸を放った。
少なくとも複数。
さらにいえば木々に溶け込むように、連携して弾丸を放ち私達の頬をかすめるほど精度がいい。
並の実力ではない。
「次弾てーー!!」
来る!
この動き、弾丸の大きさからして複数種類の銃での攻撃!
避ける順番を見誤れば終わるってことね!
そんなのは殺し屋で経験済みなんだよ!
太ももめがけてくるライフル弾を体をよじり回避する。
死角になっていた後頭部の弾丸を首を傾けて回避する。
次に肩へ向かっているこれは炸裂弾か!?
これくらいジャンプして……。
ん?あれ?思った以上に飛ばない?
って?恋敵がしゃがんで避けていてうまく飛んでない!?
呪いが磁石のように互いを引っ張って思うように避けられていないのか!?
「「ちょっと邪魔ァ!!」」
アイツもうまくしゃがみ切れずにいるようで、最後の弾丸を私は左足にあいつは右肩に弾丸が浅く当たる。
「「ぐぉ!?」」
「あんたのせいでよけられなかったでしょうが!痛いじゃないですか!」
「それはこっちのセリフ!!お前さえいなければこんなの簡単に避けられるんだけど!!」
やば、喧嘩したことで呪いが発動してさっきの痛みがより激しくなってきた。
この戦い、今までみたいに有利な戦いじゃない。
圧倒できない。
隠れて銃撃してくるこの敵。
そして何よりも厄介なのはこの恋敵と引っ張り合う呪い。
クソ、おのれ福音。
「せめてこの敵の正体がわかれば……。」
「……あんた、もしかしてこの敵が誰なのかわからないんですか?」
「え!?」
隣の恋敵は、鬼らしく豪快に笑う。
腰に手を当てて、木々を見つめる。
「軍のように異様に統率の取れた動き、そしてこの異様な銃の練度。
よく知った動きなのですぐにわかりましたよ。
いきなり来ましたね。
万歳ストームのみなさん。」
そう言うと木から顔をのぞかせたのは、かつてショーワ街のエイドスドアルームであったタマシイさん達だ。
かつて私と共闘しオドロと共闘したエイドスドアルームを案内し、サイムが世界を救ってくれたことを教えてくれた彼だ。
「まさか、あなたのような方も洗脳されているなんて驚きです。
しかし、だいぶ老けましたね。
おひげ似合ってますよ。」
「よう、武山冒険社のバイト、ヒトメのお嬢さん。久しいな。」
洗脳されていてもある程度会話が成立するのか。
「ちょいと訳アリでな、福音の名のもとに倒されてくれねぇかな?」
「御断り申し上げます。」
「絶対にヤダ。」
「はぁ~~、しゃぁない。
じゃあこっちも本気でお前さん方を討伐させてもらう。
『殺す気でやれ』って命令なんでな。」
マガジンを交換しセーフティを外す。
恋敵のクソ女がため息をする。
「本気みたいですね。タマシイさん。
ライバル冒険社として言いますけど、あなた最後負け越しましたよね?
まさか今なら勝てるなどと思っているんですか?」
「……。」
その言葉に妙に顔が険しくなる。
「洗脳されて答えられませんかね?
まぁどうでもいいです。
少なくともあなた方は負けたんです。
勝たせるのはサイム君にとって『恥』ですので、おとなしくぶちのめされてください。」
恋敵のこの言葉にタマシイさんはフハハハと、歯を見せて笑う。
「ガッハッハ!!我々が負けるだとォ~!?
昔から武山冒険社は『個』の存在!
万歳ストームは『群』の存在!
チームワークでは昔より貴様らを凌駕してきた!
我々のようなチームワークのない貴様らが勝利?笑わせてくれる!
この19年間でどこまで行ったかを、サイムを含めて貴様らに知らしめてやる!!
大和魂を見せてやる!!
状況開始ィ!!」
「どいて!ここが私の恋路だ!!」
「ぶちのめしてやります!!」
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