第148話『準備しながらいがみ合う少女』
「記憶があいまいですが、ここはどうやらエイドスドアルームのようですね。」
入り口へ戻る中、隣に歩く恋敵が何かを言ってら。
私の彼氏と長くいたマウントか何かですかァ?
本当にこの女、気に食わない。
「あんたがいない間に、ショーワ町は大変な目に合ったんですよ。」
「知ってるし、今は『ショーワ街』なんですけど?そんなこともわからないの?」
「ええ、16年近く封印されていたものですから!
こんな人を思いやることもできない人がサイム君の元カノなんですね!」
「今カノですがァ?」
と、口論し続けると強烈な不快感が頭に響く。
「「うげぇ……。」」
頭痛という強烈な不快感と痛み、苦しみが私達を襲い支配する。
相変わらず立ち尽くすほどの苦しみだ。
気持ち悪い、これが喧嘩すると苦しみを与える呪い。
聞いた話によると呪いという力は、クノレお嬢様の力らしいが福音は彼らも手ごまに加えたんだよね?
戦いたくないなぁ。
数分後、2人で壁にもたれかかり苦しみが引いてきたころ。
「下手に喋っていがみ合うのはやめておきましょう。」
「そうね、無駄に体力を削ると大罪に殺されかねない。」
ただし、すべてが終わったらこいつの顔面は執拗以上に、しこたま殴り続けてやる。
壁にもたれかかっているととなりにいた恋敵が、壁の模様をなぞる。
「しかしエイドスドアルームか……。
懐かしいですね。サイム君が活躍していたのを思い出します。」
「そりゃ私の彼氏だもの。」
舌打ちが聞こえたが、ひがみだろう。
「エイドスドアルームでの出来事はしっかり覚えています。
サイム君のことやアルさんのこと。あとレイトさんのことも。」
「私の自称弟子も知っているんだ?」
「自称だなんて言葉はひどいと思います。
レイトさんはエイドスドアルームに来る前に、襲撃してきた大罪に対して高達流闘術を使用して、反動で瀕死に追い込まれたんです。」
「……。」
私の弟子だからか、そりゃそれくらいするだろう。
「技の反動でボロボロの中、大罪達を退散させたまではよかったんです。
それでも無茶をしてなんとかエイドスドアルームまでたどり着き、ハナビちゃんのお母さんが作ってくれた最後のチャンスをもぎ取って帰りました。
あんなに立派な人を『自称』だなんて……。」
ん?
んん?
「それ、どういうこと?」
「は?何が?」
「私が戦った大罪達の中にレイトさんの遺体を燃やしたっていう大罪がいた。
お前のその発言は矛盾するし最後のチャンスって何?」
その言葉に初めて私に驚きの表情で見つめる。
「レ、レイトさんの遺体を燃やしたと言いましたか!?」
「う、うん。」
「それをサイム君やユウジさんに話しましたか!?
冒険社の誰かがレイトさんが死んだ状況を言っていましたか?」
「い、いや……。」
「…………まさか、あんた……。
いや、違うはず。
……だとしたら……?」
何を考えてるんだ?この鬼人?
「その大罪は近くに何か紙類も一緒に燃やしたなど言いませんでしたか?」
「ムカついて、ぶちのめしちゃったからわからない。」
恋敵は手で顔を覆い、ため息を吐く。
「カァーーーー!つっかえないですね!
それが一番重要だというのに!」
「だからそれは何よ?」
「またの機会にします!
それはサイム君に絶対に伝えなければならないことです。
あんたに言っても無駄です!」
恋敵は立ち上がり進もうとするが、呪いの影響で私が座ったままのせいで進めないでいる。
文字通り足踏み状態だ。
「とっとと立ってください!
先に進みますよ!」
「レイトさんのことを少しでも教えてほしいんだけど?」
「……あんたのその発言から、彼は『天筆』を使用した可能性があるんです。
サイム君に確かめたうえで、このことはできるだけ早く伝えなければなりません。
あんたに今教えられる状況はここまで!これを下手に他人に漏らすとサイム君にも迷惑がかかるんです!
ほら進む!」
そう言って私の襟を持ちずるずると引きずろうとする。
「ちょっと!自分で歩くって!引きずらないでよ!服が汚れるでしょ!」
「なら!歩くんです!」
レイトさんのことも気になるけど、こいつに引きずられるのは嫌だ。
レイトさんのことはサイムにでも聞こうっと!
もしかしたらサイムまでの道のりの最中にこの女が教えてくれるかもしれないし。
――しかし、『天筆』ってなんだ?
「あとでサイム君の自慢話でもしながら色々と教えてあげますから!
とっとと歩いてください!」
本当に死ね、寝取りクソ女。
でも仕方がないので歩く。
◆◆◆
「「外だー!」」
こいつと同じ反応を取ってしまった!屈辱!
疲れているせいか、行きよりも廊下が長く感じた。
空は夕焼けで暗くなっていた。
「あんたは知らないかもだけど、サイムは私のために旅館を取っておいてくれているのよ!
私のためにね!」
「はいはい、そーですか。
じゃあそこで一夜を明かしましょう。
もっともサイム君と私は何日も一緒にいましたけどね!」
「「あァ!?」」
駄目だ、喧嘩腰になっちゃう。
落ち着こう、またゲロゲロは勘弁だ。
とにかく私達は昨日の旅館に戻り、けもの道を進む。
暗くなるのと同時に、あたりにモンスターの気配がする。
だがいつものようにむやみやたらに、襲ってこない。
この隣にいる女の影響だろうか?
いつものドッカンバッゴンが起こらなくていいから楽だ。
昨日の部屋に案内される。
部屋には物寂しさが残っていた。
帰ってきた後に荷物を取りに行こうとしていたせいか、まだみんなの荷物がいくつも置いてある。
イチちゃんの本や、ヨゾラちゃんのゲームとか、ヒルさんの化粧道具とか置いてある。
「うわ、ハナビちゃんブラのサイズ相変わらず大きいですね……。」
え?ハナビさん子供のころからあのくらいのサイズ!?
ヨゾラちゃんが大きいのも納得がいくわ……。
じゃなくて……。
「使えそうなものは持っていきましょう。」
「さて、冒険社仕込みの必要な道具を見てみましょう。」
と言ってもロクな荷物がないんだよなぁ……。
ん?トラベル額縁がないぞ?
「そっちにトラベル額縁ない?」
「あー持ってきたんですね。ですが見当たりませんよ。
あんたの勘違いじゃないんですか?」
「どうやら、自称彼女さんは目が悪いご様子で……。」
と言いながら探すがなぜか見当たらない。
「元カノさんは頭が悪いようですねぇ~?」
「はぁ~?」
イチちゃん達の拉致と同時に奪われたのだろうか?
帰れないか。
店長さんたちにまた会いたいな……。
「あ、見つけた見つけた。
さすがユミさん。」
目が悪くても、何かを見つけたらしいクソ女が床の上に何かを並べる。
それはユミさんの持ち物らしかった。
「火をつけるためのジッポーに、旅用美容お手入れセット。
食器一式、簡易トイレ、太陽光電池、携帯食料数個、虫よけスプレー、ブラックライト、コンパス……。」
すごいな、ユミさん。
これサバイバルグッズじゃん。
これが冒険社か。
おもえばどこだかわからない場所からここまで来たって道中で言っていた気がする。
「隣の部屋に行って男子の皆さんの道具もかき集めましょう。」
「言われなくてもそうするよ。」
そういうわけで、事情を話し、男子部屋に行き荷物を回収し女子部屋にある荷物と統合して2人で見比べる。
「使えそうなのはユミさんの道具に加えて。
スポーツドリンク、軍手、ロープ。
ユウジさんのフライパン、抗生物質、懐中電灯。
ソライさんのトラップ解除アイテムは恐らく拉致られた時に失われましたね。」
「それにみーさんの針と糸、イチちゃんの図鑑と手帳、ヨゾラちゃんのここら一体の地図。
ざっとこんなものか。」
「いえ、最後にアルさんの予備の帽子がありました。」
「帽子なんてなんの役に立つわけでもないじゃない。馬鹿なの?」
それになんていうか、ごわごわしていてデカイ帽子だなぁ……。
そんな帽子じゃなかった気がする。
「無知って恐ろしいんですね~。
アルさんの帽子には空間をゆがませる効果があるんです。
かつてアルさんは自分の身体を、この帽子の中に潜り込ませながら寝ていました。
アルさん以外の人は自分の身体を収納できないし、どこぞの猫型ロボットが持つポケットのように空間がつながっているわけではないです。
が、ここにある荷物を収納してリュックサックのように扱うことだってできるんですよ。」
ふーん、さしずめ便利ななんでも入るカバン替わりってことか。
「ちなみにカバンの中にはレシートとか、カップラーメンの蓋とか、お菓子の袋とか入ってますね。
相変わらず汚い……。」
帽子の中にあるごみを捨てて、先ほどの荷物を詰める。
「これで準備はいいわね。」
――明日からいよいよ福音の大罪を倒すため、サイムへ会いに行くため最低女との旅が始まる。
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この物語の『更新』は現状『毎週金、土、日』に各曜日1部ずつとなります。
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本日のヒトメさんによる被害/買い物
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お互いのプライド:この女に取られてなる物か、寝首をかいてやる。