第146話『その時、最上/最高の一撃少女』
この技を使いたくはなかった。
だが今ある全てだ。
私の彼氏を取った存在の、細胞、生命の一片に至るまで駆逐するために。
これはデメキンの構え。
私のすべての技の始祖にて最上の到達点の構え。
右手に力を込めて腕の筋肉を圧縮。
それと同時に毛細血管の隅々まで血を通わせる。
赤い肌と血が混じった真っ赤な蒸気を出していく。
そしてその蒸気さえも筋肉の収縮の振動によってはじけるように霧散してく。
霧散した血が千の金魚のように空中に漂い集合していく。
小魚が群れで大きな魚のように擬態していくように、血と力が凝縮し固まっていく。
骨が悲鳴を上げ、筋細胞がブチブチと潰れていく。
痛みで気絶しそうになっていく。
それを感じなくなるまでひたすらに、力を爆発力をこの握りこぶしにため込む。
雷のような音が聞こえる。
やってやるッ!
「「高達流闘術!!」」
相手も私も進んでいく。
きっと同じように見ている、時が止まったような光景だ。
「壱匹目!」
相手はデメキンを出すだろう。
そう、それが最善策。
私もそうするだろう。
だが、私のこの攻撃は、お前のそれとは違う。
「戦壱匹目ッ!!」
相手のそれはデメキン。
金魚の技。
「デメキン!!」
私の懐に入って、最大のデメキン。
上等だ。
だが私の千の金魚が群がり形を成す、すべてを食らうこれは『鮫』の技。
そんな金魚一匹ではどうにもならない。
――死ね。
「奥義ッ!!ホホジロザメェェッッ!!!」
相手のデメキンごとホホジロザメが、食う。
熱と衝撃、力と理不尽、暴力。
それらが形を成して相手へと伝わっていく!!
――音と光が消える。
――。
――――。
――。
――――。
「ぁ…………。」
私の身体がおかしい。
あれ?動かない。
ああ、相手のデメキンが私にも当たっていたのか?
あれ?
な、なんだ?
音と光が消えた間に誰かが……。
「間に合ったな。」
「YES!」「はい!」
私達の間に誰かが割って入り込んでいる。
あれは創造主さんと。
そして、あの2人は確か。
「05Idアビリティ!カースギフト!!」
「04Idアビリティ!モッシュピット!!」
エギレシアの2人!執事ムケイさん!お嬢様クノレさん!
私達の国にいた2人!
なぜここに!?
なぜ創造主さんと共に私達の間に!?
彼らが割って入って私の技があの女に効いていない!?
そしてこの3人は何をしている!?
「呪え!!」
「YES!!」
「かしこまりました!」
創造主さんがあの女の方と私、双方へバリアの様なものを張っている。
さらに言えば空間を切り裂き私の奥義ホオジロザメを無理やり別の場所へ逃がしている!?
それと同時にクノレお嬢様が私達へ呪いを与えているし、ムケイさんが私達からやる気を搾取している!?
「アルゴニック様!さすがに抵抗されていますよ!!」
「Bad!!呪いの効きが悪いデス!!」
「今しかチャンスがない!
ならば、その抵抗値を消してやる!
俺、本来の能力でな!」
技を放って硬直した私の額に創造主さんの指が触れる。
いつかの夢で誰かにやってもらったのと同じような感じだ。
反動のせいか、まるで身体が動かない。
創造主は自身の額にも親指を置き、私に何かをしようとしている?
「00Idアビリティ!
イド・イマジナリティ!」
急に頭をすごい勢いで、殴られたかのようなめまいが私を包み込む。
急な脱力感で視界がぶれて膝をつ居ているのがわかる。
これはいったい!?
「呪いが効きマスッ!」
「こちらも!」
「ニッちゃんもだ!イド・イマジナリティ!!」
な、なんだ!?
だんだん、思考が……。
「これで何とかなった……。
あぶねぇあぶねぇ。
ペナルティ限界地点だ。」
う、うぐ……。
目がかすむ。
「さぁ、そろそろこっちにこい。
お前が願った通りに叶えてやった。」
あの人影は??
誰だ??
何故だか身体が落下していくような感覚がする。
最後に聴いたのは創造主アルゴニックさんの言葉だ。
「自分の中に落ちていけ、ヒトメさん。
無尽蔵自我知覚、俺がかつて本当に体験したことと同じように。
我思うゆえに我あり。
コギト・エルゴ・スムの世界にようこそ。」
◆◆◆
◆◆◆
◆◆◆
◆ ◆
◆
私は高達ひとめ。
私は私。
暗闇だ。
なぜここにいる?
私はどこだ?
ここは私だ。
私の中にいる私が私を見ているのを私が感じ取っている。
この世界にはだれもいない私しかいない。
暗闇の中、私がいるのを感じる。
サイムはどこ?
なんであの女の方を選んだの?
私を選んでくれているんじゃないの?
ああ、駄目だ。
私では答えが出ない。
サイムがわからない。
……会いたい。
会って確かめたい。
知りたい。
私の中にいる私は知りたい。
一方的に押し付けるだけじゃなくて、わかった気になるだけじゃなくて知りたい。
妄想じゃない本物を知りたい。
――彼を知りたい。知らなければならない。
サイムがなぜ裏切ったのかを。
サイムが私を本当に捨てたのかを。
サイムが私を愛しているのかを。
私がサイムを愛しているのかを。
知りたい。
私は私だ。
なんで私と同じ力を持つ奴に負けなければならない?
あの女と私は本当に違う存在なのだろうか?
あの女はなんだ?私はなんなんだ?
私にとっての私は本当にこれでいいの?
彼を思い、彼と共に生きたい。
でも本当にそれは彼にとって望んだ結果だったのだろうか?
私にとって本当に望むべき結論だったのだろうか?
私を振り返ってみると、私はきっと駄目な奴、なんだろう。
「そうやって答えを出すのは少し早いと思うぞ。」
誰の声?誰かの声が聞こえる。
「無茶苦茶やってここまできたならやり通すべきだ。
誰が何を選んだとかじゃあないんだ。
お前が何を選ぶかが一番重要なことだと思うぜ。
自己嫌悪に浸っている場合じゃあない。
そうだろ?ヒトメ。」
…………。
「何も変わっていなくて安心した。」
……ぁ。
……ああぁ!
「ありゃ、もしかしてこの感じ俺が誰かわかっちまったか。」
待って!!行かないで!!行かないでよ!!
私はあなたをずっと、ずっと……!!
「ちげぇな、お前が会いにくるんだ。
ニっちゃんと一緒に俺の元まで来るんだ。
そしたら教えてやるよ。」
ねぇ!お願い!教えて!待って!!
「またな、ヒトメ。
待ってるぜ。
いつも通り無茶苦茶やって俺に辿り着いてみせろ!」
「サイムっ!!」
◆◆◆
――。
――夢か。
――重たい瞼をゆっくり開く。
何時間も経ったようにも、何秒間しか経っていないようにも感じる。
身体中がちぎれそうなぐらい痛い。
さっきと同じ場所だ。
周りを見渡す。
誰も、誰もいない。
誰もいない!?
サイムは?
イチちゃんは?
私が周りを見渡していると、物音が聞こえる。
「なんであんただけ……。」
先程まで殺し合っていた女が私を睨む。
血だらけでボロボロのこいつ以外いないらしい。
私達は大きく息を吸い込み互いが金魚モードになる。
「つ、続きといこうじゃない。」
もう肉体が損傷し痛みとスタミナ切れで、ふらつく中、歩みだす。
ただ殺意がなぜか足りない。
まるで奪われたような脱力感覚だ。
あの時、何かをやられた?
「「高達流……。」」
「「うぐぇ!?」」
互いが技を出そうとした時、言われようのない激痛……。
いや、ただただ吐き気が出るような『苦しみ』が頭の中、肉体、魂の全てに至るまでに反響していく!
「な、なにこれ……。おぇ。」
呼吸が維持できない金魚モードが解除される……。
だがそれは相手も同じ。
「こ、これは、覚えています。
これは世界を終極に導く4つの歯車の1つ!
絶望という『支配』を司る究極の歯車!
『苦』の歯車の力、うぇぇえ……。」
究極の歯車??
創造主の保有している歯車か……?
とにかく視界が歪む。
立っていらえないほど、気持ちが悪い。
「うぐ、なんで、立てない?
恋敵が目の前にいるのに。」
「それはこちらのセリフです。」
駄目だ、体がもう限界をとうに超えている。
体がバラバラになってしまう。
――ザザ……。
なんだこの音?
奴の元に近づこうとすると先ほどにはないものが、この部屋の中央にあることに気がつく。
それは小さなブラウン管テレビだ。
それが私たちのちょうど間に置いてある。
相手を殺すことに夢中になりすぎていて何も気が付かなかった。
そのブラウン管テレビからザザ、ザとノイズ音がしている。
「ザザザ……あ、ザ……。
あーあー、テステス。」
ブラウン管テレビから流れていた音は、少しずつノイズから人の声へと変わっていく。
ただそれも普通の人の声じゃない。
なんていうか、テレビのドラマとかで聞こえる犯人の声みたいな加工された声。
恋敵と共に思わずテレビを覗き込む。
「あー、聞こえるかね?最上の少女、最高の少女。」
「だれだ!?」
「何者ですか!?」
テレビに映し出されたのは覆面に、ローブ姿のチープなデスゲームの主催者のようななりをしたような人物だ。
「我が名は!第ⅩⅣ大罪っ!!
貴様らの大切な人は皆連れさせてもらったッ!!」
「「はぁ〜!??」」
私達は戦闘によって互いを傷つけ合い、戦っている間に全てを奪われたのだと、この時初めて気がついたのだった。
◆◆◆
同時刻、マルの視点
◆◆◆
後少し、後少しで求めていたものに手が届く。
忌々しいコギト・エルゴ・ズム。
お前はどう足掻いても私には勝てない。
お前の世界の基準は私の哲学だ。
邪魔はさせない、この世界を徹底的に利用してやる。
◆◆◆
――第八章『心がぶつかり合う最上少女と最高少女』.end
――――→NEXT.STORY
第九章『心という道のりと仲の悪い少女』
※ブックマーク、評価、レビュー、いいね、やさしい感想待ってます!
この物語の『更新』は現状『毎週金、土、日』に各曜日1部ずつとなります。
――次章予告――
※セリフはあくまでなんとなく打っていますこの通りになる可能性はありません。
「「はぁ!?この女と旅をしろっての!?」」
「冗談じゃないわ!」
「隙を見て殺してやる!」
「なんで戦うことになっているんですか!?」
「まさかこうして戦うことになるなんて……。」
「万歳!」
「ボクの名前は2561」
「拾漆匹目!トサキン!!」
「ようこそ、飛行図書館へ。」
「サイム君に2人とも裏切られた?」
「これは試練だ。おそらく最後の。」
「ヒトメ、私はね。」
「行こう、ニチ。
魔国へ、答えを探しに。」