ターニングポイント『その少女の名は草島日』
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ここから先、ターニングポイントになります。
皆さま、覚悟をしてください。
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――――この人は誰だ?
何故冒険社のみんなが駆け寄っているんだ?
このボロボロの遺跡の水晶に入っていた謎の少女。
私が水晶に触れると同時に、彼女が出てきた。
サイムは何故かいなくて。
エイドスドアルームにいた少女。
彼女は咳き込み倒れている。
それを冒険社の5人が囲み、顔をあげて気道を確保したり開放している。
彼女はオレンジの服に身を包み、赤いバンダナと長いスカート。
白い包帯を腕に巻き付けた二本角の鬼人の女性だ。
歳は高校生か大学生くらい?
肩を出した服に、セミロングのオレンジ色の髪の毛。
オレンジのリボンに長いブーツ。
どこか幼さが残る顔にオレンジの瞳。
――なぜか既視感、親近感を覚えた。
「ニッちゃん!しっかりしろ!息できるか!?」
「えっほ……できます、よ。
まったくそんなに寄ってたかって、なに……?
ん?」
ニッちゃんと呼ばれた人はソライや冒険社の顔を見て、表情をゆがませる。
「皆さん……老けましたか?けほ……。」
「……逆になんでニッちゃんはそんなに若いまんまなんだ?」
「は?」
創造主の言葉に小首をかしげている。
ちょっとしぐさがかわいらしい。
「アルさんは、相変わらずわけわからないことを言いますね。
まったくもって何が何やらですよ。いつつ……。」
「どこか痛むの?ニッちゃんさん。」
「え、ええ……。
なんだか体がぎこちないです。
………………………………もしかしてハナビちゃん!!?」
「そ、そうだけども……。」
「お、大きくなりましたねぇ……。
い、色々と……。」
ハナビさんを見て何かぽかんと口を開けている。
「シンママやってます!」
「なるほど、とうとうこのロリコンが手を出しましたか、体力が回復したらしっかり殴ったほうがいいですね。」
「ちが、違う!僕じゃない!あいつ!あいつが父親!」
「そうそう!それにシンママやってるのはハナビの意思だから!殴るのは待って待って!」
大慌てでアメキチさんを指差し、当の本人はバツが悪そうに、部屋の隅へと下がる。
「へ、へぇ……?
と、とにかく何がどうなってるのか理解ができません。
ここはどこですか?ここ数週間の記憶があいまいです。」
みんな顔を見合わせる。
「なぜ、しばらく見ない間にソライさんがそんな付け髭を付けているのかも、ハナビちゃんがでかくなってシンママやってるのかも、ユミさんやユウジさんがそんなにしわだらけになっているのかも、アルさんは……まぁいいですけど。」
「ん?」
「僕のこれ地毛なんだけど……。」
「ハナビが大きく?」
「し、しわッ!?」
「なんで俺はいいのぉ!?俺には何にもないのぉ!?」
「はい。
だってアルさんなんでもアリじゃないですか。
いちいち、アルさんにガタガタ変化を口にしていたりするのは野暮なことだと3年前に学びましたから。」
「……ん?3年前?どういうことだ?」
「はい?みんなで旅をしたのは3年前じゃないですか。」
な、なんだ?
3年前は確か2037年くらいか?
ん?アルさんそのころ封印されてなかったっけ?
「ニッちゃん、今何歳なのか教えてくれないか?」
「えーっと今年で21歳だったことは覚えています。
今は20歳です。もうお酒飲めます。」
「……今が何年か答えられるか?」
「馬鹿にしないでください。」
そう言ってその人は指折りで数を数える。
「2024年ですよね?」
「「「は?」」」
笑顔でそう答えると同時に、その場にいたみんながきょとんとなる。
「……これは封印されていて時間がずれた可能性がある。
とにかく今は状況に関して教える必要性がある。
ちょっと待ってな。」
創造主さんは空間を切り裂き、オレンジ色のどこかで見た座布団を取り出す。
「あ、私の座布団。」
「とにかく座れ。
話したいことが山積みだ。
時間のこととか、サイムのこととか、この人のこととかな。」
創造主さんは、私を指差す。
「え?ヒトメ……?な、なんで……死んだはずじゃ?」
「ど、どうも。初めまして。」
「ニッちゃん。混乱するだろうが、この2040年での諸々を話したい。
サイムの行方を知るためにもな。」
「はい?2040年??」
◆◆◆
みんなで輪になってオレンジ色の少女、ニッちゃんさん?を取り囲み話をする。
ここが2040年だということ、私が復活したこと、それぞれの家庭事情なども踏まえて話をする。
「し、信じられません。16年もたっているなんて。
ユウジさんとユミさんが大家族で、あのソライさんが領主に婿入りして、ハナビちゃんがシングルマザーやっているなんて!
ショーワ町のみんなは!?おじいちゃんは!?」
「お前のじーさんは相変わらず元気だよ。
この前、魚屋とパン屋とこっそりチンチロチンしていた。
今ではショーワ町もショーワ街な。」
「あとは……タマシイのアホがくそ腹立つ背広を着ていたわ。」
「うん、ほぼ変わらないんですね。」
ニッちゃんさんは呆れたように微笑む。
「ムッチーや吉田君は?」
「ムッチーなら、オレの兄貴の会社に入ってなんやかんやで結婚して数年だ。
一応1児の母。」
「吉田君ならハナビの妹である、ヒバナと結婚したわ。
3児の父親で、今は万歳ストームやめてミリタリーショップの店長。
ちなみにタマシイさんは粗大ゴ……出来の悪い長女であるケムリお姉ちゃんの旦那さんよ。」
「うわ……同級生とか友達とかの結婚話とか、出産話とか実際に聞くと心に来ますね……。
なんていうか、安心こそしていますけど、若干くるものがあるっていうか……。」
この人、なんていうか結構どっしりとしているなぁ。
誰にも丁寧語だけど、友達の出産話とか聞いても大袈裟に焦ってない感じだし。
あとナチュラルにハナビさんが自分の姉をディスらなかった?
「で?なんで私はいかにもやばそうな遺跡で倒れていたんでしょう?」
「それは俺らも聞きたい。
あとここはエイドスドアルームだ。
なぜか別の国にあるもう一つのエイドスドアルームだ。」
「ほぇ!?エイドスドアルームってもう一つあるんですか!?」
「ああ、あった。
っていうか今いるココが、それだ。
んでサイムがそこにいるからって俺らは呼び出されたんだ。」
「あーまた、何かしたんですね。」
なんか、わかってます感出てるな……ちょっと癪に障るかも。
「んで、軽く他己紹介するとこいつが俺の義弟のみーくん。」
「みーくんですみ!よろしくお願いしますみ!」
「アルさんの義弟!?え!?義弟ってことは男!?」
「はいみ!」
「そしてこいつは現魔神だ。」
「……。」
一気にニッちゃんさんの目が鋭くなる。
これ、冒険社のほとんどが同じような反応をする。
よほど『魔神』という言葉に嫌な思いがあるらしい。
「あ、みーくんはいい魔神み!」
「信じるに値しない。
もし変なことをしたら、殴る。」
「わ、わかった、み。」
「変なことはしないと思うぞ。安心しろ。」
「……。」
すごい睨んでるけど、一体何があったんだろ……?
「まぁ今度は何かあっても大切な人のために、先手を打たせてもらいますよ。」
「せ、せやな。」
創造主さんは、みーさんを連れてぎくしゃく後ろへ下がる。
「さ、さぁて!僕の自慢の娘でも紹介しようかな!」
「自分の子供に手を出してはいないでしょうね?」
ソライを知るものからもっともな質問だ。
だって、ソライの奴ロリコンだし……。
「ネリィと申します。以後よろしくお願いします。」
「ソライさんの娘なのに、ものすごく丁寧なんですけど……。
よ、よろしくお願いします。」
「失礼しちゃうなーニッちゃんは……。」
「私からしたらついこの間、あの人と一緒にセレスプルトで別れたばかりで現実感がつかめないんだけど……。」
「あ、う、うん。ソウダネ。」
それにしてもソライとも気兼ねなくが話してるんだなぁ。
で、なぜソライは何故片言に?
「見てみて~ニッちゃん。
これあの時、お腹にいた子!」
「ちょ!?おかーちゃん何するだろだろ~!?」
「で、そのあとすぐに生まれた子。」
「まぁ、あとその下に弟と妹がいっぱいいるっしょ。」
白野家が二ヤついて説明する。
「まぁ、そうなりますよね。
ユウジさんとユミさんなら。」
「え?意外性とか。」
「ないです。
3年…………じゃなくて19年前もそうだったんですから。
まぁいずれ私もそこまでじゃないけど、そこそこの家庭を持つでしょうしね。」
あーこの人コイバナ行けるタイプか。
気が合うかも~。
「「う、うん。そう……。」」
なんで2人ともキョドっているんだ?
ハナビさん一家が少しわだかまりを抱えながら出てくる。
「で、この人がアメキチさん。前に会ったこと覚えてる?王木の里で。」
「……あーーーソライさんの実家で従者をしていた。
お久しぶりです。」
「あ、どうも……。」
「あの実家の温泉にいたサルたちはその後どうにかなりましたか?」
ソライの実家に温泉!?それにサルって!?
「さぁ?脱走してきたもので……。」
「あはは、ある意味正解ですね。」
アメキチさんを押しのけるようにヨゾラちゃんを引っ張り出す。
「ニッちゃんさん!これがハナビの娘のヨゾラ!かわいい~でしょ!」
「え……養子とかじゃなくて?」
なぜ真っ先に養子が頭に浮かぶんだろう?失礼じゃないか。
「ハナビがお腹を痛めて産みました!
すごくかわいくてゲームがうまいんだよ!
で、ゲーセンとかで確か『天星のなんとか』って言われてるんだよ!」
「天星のナイトマリア!ママ!茶化すのはやめて頂戴!」
ヨゾラちゃんはすこしぷっくりとしてる。
「ほぅら~!かわい~でしょ?」
「ですね。私もいつかこんな子供が欲しいなって思います。
まぁハナビちゃんが子供を産めたことには驚きですけど……。」
「うん、そだね。」
なんていうかハナビさんの今の言葉がひどく作りものので、張り付けた笑顔のように聞こえる。
っていうかハナビさんに対して本当に失礼じゃない?
「で……あなたは……。」
「あ、アタシはイチジク。
信谷 無花果って言います。
ヒーちゃんの、いえヒトメちゃんの知り合いです。」
ニッちゃんさんはイチちゃんをじっと見つめる。
「……私のよく知る人に、なんだかそっくりかも?」
「よく知る人?」
「うん、大切な人。
でも、貴女の方は小さくてかわいいね。」
「あ、ありがとうございます。」
あーイチちゃんの頭をなでなでしてる~!羨まし~!
私もサイムとイチャイチャしたあと、なでなでしよっと。
「かわいい!」
「ちょちょっと待ってください。何するんですか!?」
私のイチちゃんまでもが、なんだかいい雰囲気にのまれてる?
――ちょっとムカッとする心がある。
あ、私も自己紹介しなきゃ。
「私は。」
「ヒトメ。高達ひとめ。
どこまでもまっすぐな女の子。」
なんだ?一気に目つきが鋭くなった。
「そ、そう。なんで知っているの?」
「大変よく聞かされましたから。
貴女のことは。」
何か得体のしれない怒りが伝わってくる。
だけどもそれは私の中からも湧き上がっている。
――これはなんだろう?
「ええ、ほんと。大変よく知っています。
貴女がどれだけあの人のことを大切にしてきたか。
私にとってどれだけ大きな壁であったことか。
私がここまで乗り越えるべき対象であったことか。
ですが、ここまでこれたのもある意味貴女のおかげです。
最終的に選んでくれたのも、貴女が壁としていてくれたからです。」
乗り越えるべき対象?選んでくれた?
何を言っているんだ?
――なんだか今までに例を見ないほど、嫌な予感がする。
ニッちゃんさんはゆっくりと立ち上がる。
「私も自己紹介をしましょう。
私の名前は日。
草島 日。
年齢は先ほど言った通り20歳。
ショーワ町の神社の出身にして、武山冒険社No.3。」
……なんだ?この予感は。
彼女からひりひりと伝わってくる何かは?
「そして――」
彼女が振り返った。次の瞬間。
その言葉とともに私は。
「サイム君。
武山才無君は、私の彼氏です。」
――。
――は?
「あれ?聞こえませんでしたか?
私の彼氏はサイム君です。
私は彼の恋人。付き合って3年間、とても楽しく過ごさせていただきました。」
――はぁ?
「それでサイム君はどこでしょう?
また一緒にいたいんですが……。」
――――。
やっと開いた口から、自分の声がよくわからなくなっている言葉が聞こえる。
「そ、それ。嘘だよね?」
「はい?嘘なわけないじゃないですか。
しっかりとサイム君は私を彼女だと認めていました。
冒険社のみんなも知っていますし、彼は私に対して優しかったですよ。」
「そんなわけがない……そんなわけがないッ!!」
「そんなわけがあるんです。
ヒトメ、冷静になって考えてください。
中学時代に死んでしまったあなた。
それを乗り越え、乗り越えている間ともに旅をして愛情をはぐくんだ私。
死んでしまったあなたにいつまでも固執しているわけないでしょ?
時間が経ったんですよ。」
「ふざ、ふざけるな……!
私がサイムの彼女なんだ!!」
「それは過去の話です!
あなたがなぜ今になって生きているのかはわかりませんが、あなたが死んでいる間、サイム君は私を選んでくれたんです!!
現実を見ましょうよ!
死んだ人間のためにいつまでも足を引っ張ってこれからを過ごすより、同じ生きている人間と共に幸せに生きていく方が幸せじゃないですか!」
「んな馬鹿なことを言うんじゃない!!私たちの愛は不滅なのよ!!」
「実際私のためにサイム君は恋人になってくれました!」
嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!
サイムが新しい恋人を作った!?
私が死んでいる間に!?私という大切な人がいながら!?
嘘だ!!
「で、でたらめを言うな!!
信じない!!」
「私からすれば死んだはずのあなたが今更になって、お花畑の頭で恋人面して出しゃばる方がでたらめですよ!!
邪魔をしないでくれませんか!?」
「人の彼氏を取っておきながら何言ってんのよこの泥棒猫!!」
「死んだくせに!
サイム君があんたのせいでどれだけ傷付いたかもわからないくせに!!
ヒトメ!!あんたにそれを言う権利はないんですよ!!」
「うるさい!!
お前ッ!!
そうやってつけ込んだんだな!!
性悪め!!」
「あんたこそ、なにも理解しちゃあいない!!
大切な人が傷ついていくさまを、あんたのような自己中心的な馬鹿のせいでどれだけ苦しかったかッ!!
そんな彼は私を選んでくれたんだ!!
あんたは過去の人物!!
私の彼氏はサイム君だ!!
彼の今の彼女は私なんだッ!!
少なくともあんたじゃないッ!!」
「黙れ黙れ!!
私が最初に好きになった!!
サイムはそれを受け入れてくれたんだッ!!
お前は負け犬だ!!
私を踏み台にしなきゃ、そう言う妄想を見ることもできない悪女だッ!!」
「はぁ?たかだか中学生くらいのガキが、私の恋に関して何口出ししてんの!?
妄想じゃないですけど!?
あんたこそ、頭の中、馬鹿みたいな妄想描いているクソガキでしょうが!!
サイム君から聞いていた通り告白しても、何も進みやしない中途半端な女ですね!!」
こいつ……!!何でたらめばかり言ってるんだ!?
「私はえっちなことまでやりましたよ!?
あんたはどこまで行きましたか?」
……は?
「ああ、キスどまりでしたね。あんたはその純情さから何も進まなかった。
告白しても幼馴染どまりの女でしたね。」
駄目だ抑えられそうにない。
「彼はとてもやさしかったですよ。
幸せでした。」
もう無理だ。
「あともう少しで結婚までいきそうだったんですよね。」
許せない。
「ヒトメ、あんたはもうサイム君の彼女じゃない。
所詮、過去の人。諦めてください。」
――今。
――今、全部が壊れた。
――――私の彼を奪ったこの女を許すことはできない。
――草島日。
――――――お前を殺してやる。
◆◆◆
これが彼女との出会い……いや再会。
私の人生を変えた、その人。
――――これはその瞬間だ。
そう、彼女は最高の少女だった。
いや、正確には普通の彼女?が恋と心と絆そして力の先、”青春”で彩られた道を突き進む。
『最高との約束の物語』
そんな恋の物語。
淡い青い青春のお話。
その一幕。
――これが私の”大切な親友”との物語。
その壮絶な始まりだった。
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皆様へ。ここからがある意味、本編です。