第139話『あの5人と再会少女』
あれから1日経った。
傲慢の遺体は帰っていたらなぜか燃えていて、扉は塵となって朽ちてしまった。
彼ら大罪はなんだか変なことを言う人達だったと、頭に『?』を浮かべて列車が到着するのをぼんやりと景色を見ながら待っていた。
気になっていることがいくつもあった。
1つはみーさんの義兄、創造主アルゴニックさんが言っていた言葉。
『ニッちゃんを探せ。』
結局ニッちゃんとは誰だったんだ?
なぜか痕跡が不自然なくらいにどこにもない。
もう1つはなぜか自害した潔癖の大罪、ハイドさん。
これがよくわからない。
なぜ死んだんだ?思わず逃げてしまったが何が目的だったんだ?
更なる謎として、大人たちは本当にサイムの元にいるのか?とか、誰に大人たちは転送させられたのか?
色々と謎は残るが私達はサイムがいると思わしき、エギレシア王国とパンタギア共和国の国境まであと少しというところまで来ていた。
だが、考えたところで私にわかるわけでもあるまいし、うとうとしてきた。
だってもう大罪は襲ってこない。
残りの第0大罪は逃げるという賢い選択肢をしたらしいし。
だったら、もう安心しかない。
手の骨にひびが入っていて痛いから治療に専念できる。
ただ、色々と疲れたので眠る。
◇◇◇
「ヒトメ、忘れないで貴女の役割を。」
夢の中、マルさん?が言う。
◇◇◇
「ヒトメさん……
ヒトメ……私ね。
約束。守るから、必ず生きて幸せになります。
あなたに勝てる気はまだしないけど、それでも悩んで悔やんで突っ走るから。
だから、びょ、病気だけは気をつけてね。会えてよかったです。
ありがとう。」
マルさんにとてもよく似た声で、オレンジ色の髪をした誰かが言う。
誰だろう?彼女は?
……
「ヒーちゃん!」
◇◇◇
イチちゃんの声で思わず目を開ける。
少しうたた寝をしていたらしい。
「ヒーちゃん、着いたよ!」
「ほえ?」
「国境よ、ヒトメ!」
みんなが荷物を持ち降りようとしている。
「わかったー。」
長い列車の旅も終わった。
時刻は朝、予定通りに着いたようだ。
列車を降りて駅を出ると目の前には巨大な門が私達を待ち構えていた。
「適当なところでみーさんにみんなを転送してもらおう。」
「みみのみ~!まかせるみー!」
「その間、みんなでこの街の情報収集だ。
ソライさん曰く、サイムさんはこの門の向こう、パンタギア共和国の方にいる。
みんなの大切な人もとにかくどうにか向こう側にわたる方法を考えなきゃ。」
そうだね。
駅から降りてすぐに目につくあの門は閉まってる。
大きさからして40mくらい。
私にとってハードル走くらいの感覚で飛び越えられるけど、さすがに国際問題に発展しそうだ。
ちょっと門まで近づいてみる。
駅からそんなに距離はなく、転送頑張ってるみーさん以外のみんなで朝ご飯のジャガバターをかじりながら向かう。
香ばしくておいしい!
朝の目覚めの味!ただ、ちょっとバターがショーワ街のと違うのか濃くて癖があって人を選びそう。
朝露の中、人がまばらな門へと向かう。
イチちゃんがいろんな人に状況を確かめるために奔走する。
「イチちゃん、どうだった?」
「なんだか向こうのパンタギア共和国で問題があるみたい。」
「問題って?」
「なんていうかモンスターの大量発生と土砂崩れで、向こうの人達が隣町に避難しちゃって帰ってこないみたいで、門を開けたらこっち側のならず者が火事場泥棒狙ってくるかもだってさ。」
うわーーー、運悪いなぁ。
少し門の向こうに耳を澄ますが、そんなに来ている感じはしない。
「数日待つしかないかもね……。
原因が災害ならそれで何とかなりそうだし。」
この先にサイムがいるのに……。
「イチちゃん、とりあえずみーさん達が揃い次第、あの門について話し合おう。」
「だね。」
ショーワ街に一時的に戻ってもいいが、今この場で解決できる方法があるなら話し合いたい。
◇◇◇
「いやはや、ヨゾラと共にボクも来ちゃってなんだか悪いね。」
「アメキチさん!」
みーさんは明らかに疲れてそうでグロッキーだけども、アメキチさんとヨゾラちゃん、ネリィさんもちゃんとこれたようだ。
大体ここまで3時間。
時刻は昼だ。
門が見えるレストランでアメキチさんを含めた8人で食事をしていた。
「弟たちはどうだったっしょ?」
「元気だよ。ハナビさんにこうも大変なことを任せていたことを深く反省している最中だよ。」
アメキチさんも白野大家族にだいぶ絞られたようだ。
「まぁオレちゃん達家族が、特別多いせいだけかもしれんだろだろ。」
「いや、人数よりもそれに向き合ってきた年数の重みを感じた。
ボクもヨゾラの父親としてこれからハナビさんと協力していきたいものだ。」
「狐になってみんなにもみくちゃにされるのは勘弁だけどね。」
アメキチさんがほほ笑む、ヨゾラちゃんもだいぶなついてきているようだ。
私もほほえましい。
「しかし、どうやってあの門の向こうに行こうか……?」
「開闢の歯車でワープするみ!」
「それを使うと倫理的にアウトだし、みーさん以外みんな死んじゃう。」
「でも『空』の歯車を使っての転送はアリなんじゃ?」
「あいつは一度行った事がない場所はいけない、ゲームでよくあるタイプの方式み!
下手にランダムで転送しちゃうと地面にめり込んだり、人がいるところと重なって、お腹からお顔がこんにちはしちゃったりするみ!」
こっわ!?
でもそうなると国境を超える方法はやはり門を殴って、無理やり開けさせたりこっそり向こう側へ跳躍する手しかないのかな?
待つのもアリだけども……。
うーーーん。
悩みながらレストランでミートパスタを食べていると、ズズズという音が国境際のこの町に響く。
「「「は?」」」
門が開いていく。
なんだかわけのわからないまま解決した?
ミートパスタを口に詰め込み、勘定をして門まで行ってみる。
「あ……あああ!!」
私はその光景に驚きを隠せなかった。
ボロボロだが、5人の人影が立っていた。
それはみんなが求めていた人達。
武山冒険社の5人が開いた門の向こうで待っていたのだった。
「パパン!」
「や、やぁ!ネリィちゃ~~ん~!!」
ぎこちなくソライがネリィちゃんのタックルを受け止める。
「おとーちゃん!」「おかーちゃん!」
「アサ、ヒル!」
「ほら、いたわ。心配することなかったようね。」
白野兄妹がユウジとユミさんに抱き着く。
「うげ、お前……大丈夫み?」
「だ、大丈夫。乗り物酔いしただけ……。
色々とやったから心配せーへんでええ。」
「あっそ。」
仏頂面でみーさんは創造主の背中をさする。
そして……。
「ママ……。」
「ヨゾラ…………それに……。」
アメキチさんはしっかりとハナビさんへ頭を下げる。
「お久しぶり、です。」
「アメキチさん……。」
ハナビさんはアメキチさんと向き合う。
猫背でバツが悪そうなアメキチさんを見ているハナビさんは、複雑そうな表情だ。
「ハナビさん、ごめんなさい。
今まで君に子育てを推してつけていた。」
「え……いや、あ……。」
なんだかハナビさんしどろもどろにしている。
「ハナビさん、ヨゾラのおかげでヨゾラが成長するまで、ボクは王木に追いかけられない。
だから……。」
「待って……。」
「なんだい?」
「ハナビはね、正直に言うとあなたにヨゾラを取られるのがまだ少し怖い。」
「……。」
「でもほんとは、あの時ハナビが勝手に産む決断をしてしまった。
あの時、あなたにひどいことをしてしまった。
だからごめんなさい。
ハナビの方が悪いの、ごめんなさい。」
「……。」
アメキチさんは少しため息をはく。
「ハナビ、こんな風に謝っておいてなんだけど、いきなり一緒に暮らすのは怖いの。
こんな頼み厚かましいけど、すこしずつからでいい?」
「いや、それでも娘と会えるなら全然それでいい。
それにボクの方こそヨゾラに命を救われた。
感謝こそすれど、謝罪されるいわれはないよ。」
「……うん。」
ヨゾラちゃんがぎこちない2人を見て笑っているのが、なんだかほほえましい。
それにあの2人も大人の恋って感じがして少し素敵~!いいなぁ~!
「詳しくはゆっくり話していこう。」
「うん。」
おおおおおおお!!アメキチさんがハナビさんの手を握り、さりげなくエスコートしてる~~!!
いいなぁ~!だがその様子をぎこちない表情で、ちょっとだけにちゃつくソライが何だか気色悪い~。
「よかったな。アメキチ。」
「ソライ様……お久しぶりです……。」
「王木から逃げてきてくれてありがとうな。」
ソライとも再会したアメキチさんはその場に崩れ落ちて泣き出してしまう。
ソライもにっこり微笑む。
よほど感謝しているのだろう。
と思ったけど、ソライの言葉に聞き耳を立てる。
「(小声で)実家の蔵の床に隠したエッチな本捨てたよな?捨ててくれたよなぁ?」
「(小声で)それが3冊までは燃やしたんですが、燃やしている最中に御父上様に1,2冊ほど没収されて……。」
「(小声で)ヴァカッ……!おま、おまえ……!あ、あああ……ゴミ捨て場から拾わなければ……クソ。」
ソライは別の意味で崩れる。
中学男子か、こいつ本当に40代か?
みんながひとしきりの感動を体験した後、私とイチちゃんは創造主に尋ねる。
「なんで、国境門が開いたんですか?」
「いや、なんてことはないよ。
ソライが娘迎えに行くうるさかったから、『土』の歯車で土砂崩れなおして、『操』の歯車で強引に人操って門開けさせた~!
途中でいたモンスターは、冒険社で食べられそうなやつだけ少しだけ倒して、俺達の胃の中にいる。
いらへん奴は酸で溶かしたり、家畜にしたり、超音波で脅して退却させた。」
なんかさらっと天変地異とか奇跡とか神話とか起こしてない?
まぁ創造主ってのはそういう理不尽な存在なんだろう。
何かがあったら気を付けよ~。
「ちなみに今日の飯はユウジ特製照り焼きサンドウィッチでした!」
「ハナビが6つも食うから、量がすごかったけどな。」
「まだ少し食べたりないけど。」
ヨゾラちゃんがぷにぷになのも納得のいく大食漢だなぁ。
まさにこの母あって、あのぷにぷにアリって感じで。
ソライがちょいちょいと私の裾を引っ張る。
「実はサイムの奴が宿を取っているんだが、そこで1日休んでから向かってくれだってさ。」
「え?すぐに向かっちゃダメなの?」
「宿代の元を取ってほしいだろうし、サイムの奴なんだか忙しそうだから。
明日なら会えると思うぞ。
それにみんなに疲れを取ってもらいたいらしい。」
「え?マジで?」
「マジマジ、サイムが連絡をとってきてな。
おかげで、ようやく楽ができるってもんよ。」
サイムの奴、年を取って粋な計らいができるようになったって感じじゃない!
さすが私の彼氏!
そろそろ会えるんだ!再会できるんだ!
――ただ、なぜかまだ顔とか少し記憶がすっぽ抜けているのは何故だろう?
「ただ謎なのはサイムの奴が、僕らに連絡を取ってきた時。
お前のことを生き返っていることを知っていたらしい。」
「それは愛の力か何か知ってるんじゃ……。」
「んな都合のいいことあるわけないだろ。
ヒトメ、何か知らないか?」
んん~~~??
サイムがなぜか死んだはずの私が生き返ることを知っていた?
あーーーあれだな。
「私のラブラブパワーが空間を超えて、ここにいるサイムに伝わったんだよ!きっと!」
「さっき言った事と何一つ変わってねぇ……。」
ガタガタそんな謎ごときで恋人たちのイチャイチャする時間は奪われるべきではないのだ!
さてさて、私の自慢の彼氏と再会へ向けて、旅館っていう粋な計らいを楽しもうじゃないか~~!
ムフフ~!
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この物語の『更新』は現状『毎週金、土、日』に各曜日1部ずつとなります。
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本日のヒトメさんによる被害/買い物
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ジャガバター:さっぱりとした感じの味(230円)
ミートパスタ:ちょっと味が濃すぎるけど意外に食べ応えがあっておいしい(850円)