北の大地で素人女子が化石をわさわさ掘った話
みなさまごきげんよう。
もしくは初めまして。くろつです。
今回のお題は、この夏の私の新しい遊びについてです。
化石です。アンモナイトです。掘ったんです。しかも2回も。
ご興味ないという方は心からごめんなさいまし。
でもね、知人などにこの話をしてみたところ、
「化石?? 海外とかに行くってこと?」
「素人が掘っていいの?」
「お仕事は学芸員とかですか?」
などの反応が目立ったので、なるほど、化石が普通に掘れることは案外認知されていないのだなと思い、エッセイを書くに至りました。
◇◇◇
「あのっ……発掘作業に同行できるのは男子だけですか?」
ダメもとで、勇気を出して聞いてみたんです。
ミネラルフェアでブースを出しておられた化石屋さんに。
そしたら言われたんです、さらっと。
「女性も全然連れて行きますよ。あと素人でも最低一個は必ずとれる。だってとれるとこまで連れて行くからね」
か……かっこいいっ……!!
ぜひお願いします! と頭を下げて名刺を頂き、そこから私の化石人生がスタートしました。
え、なんでそんなのやりたかったって?
私ね、もともと古いものが好きなんです。
古い書籍や歴史ある建物に始まって、縄文土器、宝石もそうだし、恐竜の全身骨格なんかも好き。
ロマンチックですよね。
だって宝石や化石に同じものは二つないし、遺跡なんかはそこで生きていた人たちの証だったりするんですよ。
彼らにも当然感情があり、悩みや不安もあったはずで、どんなこと考えてたのかなぁって想像するのが私は好きなんです。
以前、土器の模様にイルカのモチーフがあるものを見たことがあって、そのイルカ、明らかに微笑んでるんですよ!
顔がもうね、キュートなの。
これ作った人、私好きだなぁって。
愛情とか心の余裕がないとそういうものって作れないと思うので、きっと食べ物も豊富だったのかなぁとか想像しながら延々眺めてます。
あと、自分で化石を掘りに行ったもうひとつの理由として、私、自作で宝石鉱山を書いてるんですよね。
だから一度は自分の手で発掘してみたかったの。
なので、化石屋さんと出会った時に、これだあっ! て。
もちろん最初は緊張しました。
希望日の前日に話を詰めてみたら、化石屋さんと私の二人きりだということがわかったし、なにかあっても人など来ない山の中であることは想像がついたし。
恋人にも相談して、やっぱり心配されました。
でも行きたい。気になる。
行かないと後悔する気がする。
なので恋人と二人で細かく対策を立てて出かけることにしました。
──そしたらね。
「このへんの地層は全部白亜紀の地層」
「あっこれそうですよ。もう化石見えてます。いきなり出ましたね」
「今渡ってるダムもきれいでしょう、ここもね、ダムができる前はたくさんとれたんですけどね」
知識量がね、もうすんごいの……。
最初のうちは素人の私を気遣って、一般用語で話して下さるんですよ。
「これはアンモナイト。こっちは二枚貝の化石。ここは植物化石ですねー。これはウミユリの仲間かな」
でもね、進むにつれて、化石愛が強いあまり、すっぽ抜けておしまいになる。
「これはイノセラムス、こっちのはハウエリセラス。薄っぺらくてここに線が出てるのが特徴ね、これはポリプチコセラス」
だんだん学名でお話しになり、しまいには、
「僕ね、あとはニッポだけ持ってなくて」
にっぽ?
「ああ、ニッポニテス。このへんの地層にはいないから難しいんだよねえ」
学名を略されてもわかんねーよーっ。
もちろん素人の私には、化石といってもどれがどれやら見分けがつかないのですが、さすが先生は優しかった。
「この石がね、ノジュールって言って、これを割るとかなりの確率で中に化石が入ってるの。自分で割ってみる?」
「もっと上から思い切り振り下ろして! いいね!」
「ここからまっすぐ歩いた延長線に、いいノジュールがひとつあるよ。見つけられると思うから行ってごらん。……あっ行き過ぎた、五歩戻って?」
結局、その日はリュックサックが片手で持ちあがらないほどのアンモちゃんを連れ帰り、その子らは今、私の机や本棚に大人しく飾られています。
白亜紀といえば、ざっくり数えても一億数千万年前なので、この子たち、ナリは小さくても私の大大大大大先輩。
たまにはポケットに入れて会社にも連れて行ってみて、
「ねえ現代社会どうだった? 疲れた? これって異世界転生って言う?」
とか、話しかけたりするのが最近のひそかな遊びです。
そしてこの化石屋さんを、私は勝手に心の中で「師匠」と呼んでいるのですが、師匠からはこのようなご指導を賜っております。
「くろつさんはね、タガネを買ってクリーニングの勉強をしてごらん」
「年に一度はフィールドに来るといいね(にっこり)」
お、押忍……。
さらに先日はこんなラインが。
「夏休み前がチャンスですよ!」
ああっ、これは暗に、現場に出ろというお言葉……ですね!!
自分よりはるかに知識がある人の言葉は素直に聞くのが吉だと思っていますので、おすすめ通りすぐに二度目のフィールドに行ったのですが……長くなるのでその話はまたいつか。
最後に、師匠から伺った印象的な話でしめたいと思います。
「僕の友達はね、個人でクビナガリュウを一頭掘りあててね。僕も掘るの手伝ったんだけど、彼の自宅に今、全身骨格の7割があるんだよねー」
きゃーっ、じゃあ埋まっているのね、掘りあてられていないだけで、その辺にも、あの辺にも、恐竜ちゃんが。
「多分そうだね、この辺の地層、時代は一緒だから。アンモナイトもたまに、恐竜の歯型ついたの出てくるしね」
……まいりました。おそれいりました。
北の大地のポテンシャルは、私が想像していたよりもはるかに凄うございました。
◇◇◇
最後の最後に。
私が久しぶりにエッセイを書けたのは、ひとえに恋人のハルヒくんのおかげです。
彼にはこの場を借りて深くお礼申し上げます。
私はこれまで、フルタイムで仕事をしながら満足のいく小説を書けたためしがなく、書いても書いても自分の物語が面白いと思えなくて、今回も2本ボツにして、
「私にはもう小説は書けないのかも……」
って落ち込んでいたのですが、そんな時ハルヒくんが私の過去作をひそかに読み返してくれていたことがわかり。
「やっぱり面白いと思って読んだよ。最近書いてなさそうやったしさ。俺は好きやで」
と言ってくれて。
なのでこのエッセイを書けたのは、すべて彼のおかげです。
いつも本当にありがとう&感謝してる!
そしてこれを最後まで読んで下さったあなたにも。
読んで下さりありがとうございました♡