8.コクウのいない日々。
マサトはとても優しかった。ほうたい、という白い布を何回も取り替えてくれるし、ガッコウというところから帰ってきたら、まだ動けない自分と遊んでくれる。お腹が空いたとわうわうと鳴いたら、温かくて美味しいミルクを持ってきてくれる。マサトはイチのことを良く見てくれた。彼との生活は、イチにとって、とても楽しくて幸せだった。
だがイチはどうしてもコクウが気になっていた。あの雨の後、コクウはどうしたのだろう。口喧嘩をして別れたままだから、きっと自分に対して怒っているに違いない。今ごろコクウは寂しい思いをしていないだろうか。他の猫達に、冷ややかな目で見られてはいないだろうか。けれど自分はまだ動けない。外の様子を見ることも出来ない。だからコクウが今どうしているのか分からなかった。
ずっと隣にいると約束したのに。自分が幸せになって、コクウは不幸の象徴では無いと証明したいのに。そう思うと胸が痛くて苦しくなる。きっと車に跳ねられた自分を、コクウは見ていただろう。もしかしたら自分のせいだと思い込んでいるかもしれない。そんなことは絶対にないって、伝えたいのに。だから早くコクウに会って謝りたいけれど、怪我が治らない限り外にも出れない。
「こくう…」
ぽつりとイチが寂しげにその名を呼んだ。