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おかしいけど、おかしいって言えない

「そもそも、ヘルメネイア帝国のヘルメネイアとは『解釈』という意味の古語なのです。

 帝国以前の大暗黒期は、魔法の伝授は神殿が独占し、秘教化しておりました。

 魔力判定を神殿がやっているのはその名残ではありますが、魔力開発は長年口伝で行われ、四属性のほかに、氷属性や雷属性、陽魔法があるとする一派もいたりしてもうカオス。

 それを新しく魔法を解釈することによって、素質がある者に広く開放するというのが帝国の出発点なのです。

 具体的には、魔法の体系の整備ですね。

 属性による系統を整理し、上級中級下級と魔法にランクをつけ、複合魔法の習得方法などもカリキュラム化したことで、適性さえあれば効率よく魔法を習得できるようになったのは、帝国になってからなのです」


 魔法理論の整備が帝国時代に入ってからって話はさすがに知ってる。

 というか、帝国史の教科書の最初に、めっちゃドヤって書いてあった。

 なんでその話から?とエドアルド様とぱちくりとヨハンナを見守る。


「一方で、代が進むにつれて、皇家の神格化、貴族の特権化が行われるようになるのです。

 属性魔法強い!複合魔法もっと強い!

 強い魔法が使えるから、皇家も貴族もエラいってなるのです。

 フオルマほか他国とのあれやこれやもあって、魔力を判定する宝珠の管理権だけはなんとか神殿に残りましたが、帝国はいわば皇家の魔力を崇拝する国になってもうたのです。

 本当は、魔法理論を構築する際、『ライト』や『封印』などは下級光魔法と整理されるべきだったのですが、あのへんを下級光魔法としてしまうと、それらを発動できる者にも一定の特権を渡さねばならなくなってしまいます。

 平民でも使える者がちょいちょいおりますですから、諸々都合が悪いということで、皇族が使う強大な光魔法とは別物だと分類してしまったのではないでしょうか。

 もともと大暗黒期から、無属性魔法という言い方はあったですし」


 強い属性魔法が皇家や貴族の権威の源だという話は、エドアルド様からも前に聞いた覚えがあるけど……


「でも、神殿の魔力判定は??

 私は宝珠がびゃーって光って、光属性だ!てなったけど、『ライト』や『封印』が使える人はなんで光属性って判定されないの?」


「神殿の魔力判定は、ある程度以上の魔力がないと判定できないのでは?

 四属性いずれかの魔力がある場合、ベースとして持っている光属性または闇属性+四属性となりますから、当然魔力が多く、神殿の宝珠が反応する閾値いきちを越えやすい。

 でも、光属性しかない場合、下級光魔法が使える程度では、宝珠は反応しないのではないでしょうか」


 ヨハンナは眼鏡をくいっと直した。


「仮定に仮定を重ねすぎてる気もするが……

 それなら、レディ・ウィルヘルミナの魔法が説明できるね。

 闇属性持ちをプリズムでテストできれば、ヨハンナ嬢の推測が正しいかどうか一発でわかるけど、闇属性持ちは非常に少ないらしいし、寿命をまっとうすることは稀とか、ほとんど都市伝説みたいな存在だしな……」


 エドアルド様がぶつくさおっしゃる。


 闇属性魔法。


 アルベルト様の漏れっぱなしの「魅了」とか、「隠形」とか、あれって闇属性魔法なんじゃ……

 どちらも人の認識をいじるもの、人の意思を「腐蝕」するものだとこじつけられなくもない。


 でも、アルベルト様は無属性魔法こと光魔法も使える。

 「手紙鳥」や「防御結界」は、アルベルト様に習ったんだし、「ライト」だって一緒に練習した。


 ヨハンナの説明だと、光と闇は対立しているんだから、両方使えるっていうのはおかしい。


 おかしいけど、おかしいって言えない。

 ……後で、アルベルト様に聞くしかないか。


「もしヨハンナ嬢の解釈が正しければ、本来、君の『ライト?』は中級光魔法に分類されるべきなんだろうし、『ライト?』を範囲魔法にできればそれが上級光魔法となるんだろう。

 やっぱり、デ・シーカ先生の言うように、なにかかっこいい名前でもつけてみたら?」


 エドアルド様はちょっとからかうように私の方を見た。


「えー……『ライト?』でいいですよ。

 というか、エレンの治癒魔法も、ほんとは光魔法なんじゃないですか?

 火や水の魔法は使ったことがないのに、いきなり魔法陣なしで発動したって言ってたですし」


「ありえるね。

 君ほどじゃないけど、無属性……じゃなくて、光属性の魔力が目立って多かったし」


 うむうむとエドアルド様は頷いた。


「それにしても、『ライト』を極めれば魔獣を倒せるのか……

 光魔法を訓練しやすいようにすれば、平民でも魔獣と戦える者が出てくるかもしれないね。

 なぜ光魔法を整備しなかったんだろう」


「そこは、平民でも戦えてしまうことになってしまうと、皇家の威光、貴族の権威に影が差しかねないと、いらんことを考えた者がいたのでしょう。

 カイゼリンのキームの平原の戦いを最後に、大規模な魔獣襲来は起きなくなったですから、平民の能力開発までやる必要がなかったというのもあるかもですが」


「なるほろ……」


 と、ここでノックの音がした。

 どうぞ!と答えると、昨日の夜、世話をしてくれた侍女の方だった。


 にこやかに「昨日はよくお休みになれましたか?」と言いながら入って来たのに、エドアルド様を見つけた途端、眼が釣り上がった。

 反射的に逃げかけたエドアルド様の首根っこをひっ捕まえ、まだ身支度も済んでいない女性の部屋に押しかけるとはなにごとかと、叱りまくる。

 私が起きる前、部屋着姿のヨハンナと2人きりのところを発見されてたら、ギタギタにされてたかもしれない。


 お小言モードが一段落したところで、「公爵閣下が10時から私たち3人と書斎でお話したいとおっしゃっている」と言われた。

 まだ7時過ぎだったので、とりあえずヨハンナは仮眠をとり、私とエドアルド様は朝ごはんということになった。

 服装については、正式な訪問ではないし、私のワンピースでも大丈夫ということでほっとした。


 天気が良かったので、ダークグリーンの絹のシャツと白のスラックスにお着替えしてきたエドアルド様と一緒に、テラスで朝食を食べさせてもらう。

 公爵家の朝ごはんは、卵料理とハム、野菜のスープとサラダ、焼き立てのパン、庭の果樹園でとってきたばかりのさくらんぼ。

 ご飯そのものだけでなく、厚手の艶のあるテーブルクロスや、金で縁取りをした優美なかたちの食器もめっちゃキラキラしていた。


 エドアルド様、せっかく実家に帰ってるのに、私と一緒でよいの?と思ったけれど、お兄様は別館で奥様と暮らしていて、お母様は新市街地にある別邸で過ごされており、お父様は食べる時間が不規則なので、家にいる間も家族バラバラで食事をとるのが普通なんだそうだ。


 お母様はどうして別邸に?となんの気なしにうかがったら、エドアルド様が学院に入られたのを機に「もういいだろう」ということで別居したんだと言われて、え?どういうこと?てなる。


 お母様は大公家出身の方で、お父様とは幼馴染として育ったせいか、どうやってもお互い友達としか思えなかったそうだ。

 それでも頑張って夫婦らしくしようとし、子供も作ったけど、以前から別々に行動することの方が多かったし、それぞれ「仲が良い人」も折々いたりする状態が続き、もう正式に別居ということになったのだと言われた。


「ま、貴族にはありがちな話だよ。

 別に憎みあってるわけじゃないし、いいんじゃないかな」


 ヤバい、まずいことを聞いてしまった!って固まる私に、エドアルド様はほがらかに笑う。

 そういうものだってことで、特に気にしていないみたい。

 平民でもそういう夫婦がいないわけじゃないけど、そういう夫婦の子供は、悩んだり苦しんだりすることが多いんじゃないかな……

 やっぱり、貴族と平民ではいろんなところで感覚が違うのかもしれない。


公爵家のメイド「いいね&ブクマ、ありがとうございます!」(キラキラ朝食を給仕しながら)

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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