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私の魔法、「意思の力」と魔力を縒(よ)り合わせるんです!!

 ほんとに寝食忘れてるヨハンナに、サンドイッチを一切れ食べさせて、私は先に寝ることにした。

 ベッドに入ってうとうとしてたら、エドアルド様が来たっぽい物音がしたけど、もう起きれなくてそのまま爆睡する。


 起きたら、朝だった。

 まだ6時過ぎなんだけど、ヨハンナはいない。

 徹夜したのかなと思いながら、顔を洗って、ヨハンナの家で着るつもりで持ってきた紺のワンピースに着替える。


 公爵家でもこのワンピースでいいのかな……

 制服の方がまだマシかな?

 後で侍女さんに相談しよう。


「おはよー?」


 そっと居間に入ると、ヨハンナは執務机で目をらんらんと輝かせて、いつの間にか持ち込まれた『皇族譜』『貴族年鑑』の谷間で書きなぐっていて、部屋着姿のエドアルド様はソファで伸びていた。


「おはようなのですミナ!!

 解けましたですよリングア・グノシア!!

 甘い!甘いのですよゾーディア卿!!!!

 この程度の小細工で逃げ切れると思うなよ!!!なのです!!!!」


 眼をギラつかせながらヨハンナは叫んだ。

 徹夜ハイなのか、めっちゃテンション高い。


「ヨハンナすごい!おめでとう!!

 って、ゾーディア卿って誰?」


「エルスタルの秘書官で、あるじの没後、なんでか神官になった人なのです。

 エルスタルと親しく、神殿のあんな場所に隠すことができたとなるとかなり限られる上、手稿の内容的にも秘書官あたりの近侍が書いたものと推測できるのです」


「ほへー……

 帝国史の教科書とかには出てこない人だよね?」


 ゾーディア卿、名前に覚えが全然ない。


「そです。

 一般にはあまり知られていない人なのですが、なかなか麗しい肖像画が残っており、また生涯独身でしたので、初期帝国史畑の貴腐人にはエルスタルとゾーディア卿は鉄板の組み合わせなのです。

 どう掛けあわせるべきかは、魂が焼ききれんばかりの熱い論争が長年繰り広げられておりますが」


 貴腐人パワーがまた炸裂してた……

 ていうか、そんな畑まであるのか。

 不敬とかそういうの、大丈夫なのかな?


「そうなんだ。

 じゃあ、その人がエルスタルから聞いたことを書き残して、あそこに隠してたってこと?」


「ほぼほぼそういうことかと。

 ゾーディア卿、初代には親しく仕えましたが、2代目やカイゼリンとは相当な確執があったようなのです。

 帝国初期は魔獣との戦いも、諸外国との闘争も綱渡りの連続でしたから、もしエルスタルの子らが完全に道を誤ればスキャンダルで潰すつもりで、逆に皇統が絶えることがあればふさわしい人物に再度龍との契約を託すつもりで、両面睨みながら遺したのではないでしょうか」


 とかやっていたら、エドアルド様がううんと身じろぎした。

 猫ちゃんみたいにぴーんと手脚を伸ばして、「うーん……」とか声を漏らしながら、ぱちっと眼を開ける。


 きゃわわ!

 久々にきゃわわなエドアルド様だ!


「エドアルド様、おはようございます!」


「レディ・ウィルヘルミナ、おはよう……

 ああああ?? 僕、寝ちゃってた!?」


 朝になっていることに気がついたエドアルド様、起き上がりながら軽くパニクってる。

 女性と2人きりで一夜を過ごしてしまったとかあうあう言ってるけど、どうせヨハンナにあれを持って来いこれを持って来いとパシらされてたんだろうし、気にしなくていいと思う。


「そんなことより、解読できましたですよ!」


「ほ、本当にアレを一晩で!?

 凄いなヨハンナ嬢!!」


 エドアルド様は、がばっと立ち上がった。

 2人で執務机を覗き込む。


 手稿2冊と絵、文字の対照表と帝国語に訳したノートを広げて、ヨハンナはめっちゃドヤ顔になった。


「手稿の片方は、帝国初期のドロドロなスキャンダルに関する覚書でした。

 なかなか興味深い資料ではありますが、問題はもう片方の手稿に書かれた絵の解説なのです」


「「はい」」


 エドアルド様と一緒に生徒モードになる。

 絵をこっち側に向けると、真ん中の龍の上に書かれている言葉を、ヨハンナはペンのお尻で指した。


「まず絵の方からいきましょうか。

 ここには『ことわりの龍』と書かれています。

 そんでもって、白の龍には『意思の力』、黒の龍には『腐蝕の力』と付記されているのです。

 『腐蝕の力』という表現はいかにも瘴気を思わせるですから、『意思の力』の方は瘴気に対抗する人の魔法の力を表しているかもしれないですが」


「意思の、力……」


 その言葉を聞いた瞬間、思い出した。


 光弾<仮>を発動させた時、私、「意思の力」を使ってた!

 それから、村で最初に魔獣を倒した時も!!


「私の魔法、『意思の力』と魔力をり合わせるんです!!」


「「はい???」」


 2人はあっけにとられている。


「だから、すっごいピンチになったら、身体の中がすうっと暗くなって、胸のあたりに、ぽわぽわっと光ってるものが見えてくるんです。

 それが『意思の力』で、巧い具合に魔力にひっかけて撚り合わせていくと、めっちゃ輝きだすんで、どんどん撚りを強くして、それを左の手のひらから打ち出せば『光弾<仮>』になるので!

 それでアラクネをぶっとばせたんです!!

 村で魔獣を倒したときは、地面からめちゃくちゃ魔力が噴き上がってて、勝手に『意思の力』と絡んでくれたんで、そのまんまいけました!!」


 左手を伸ばして説明したら、エドアルド様とヨハンナは顔を見合わせた。


「「なるほどわからん!!」」


 2人に声を揃えられて、そんなにわかんないかな??ってなる。


「そもそも『意思の力』という表現、初めて聞いたですが……

 ミナにだけその力があるということなのでしょうか」


「どうなんだろう?

 名前からすれば、誰にでもありそうな雰囲気だが……」


 ヨハンナとエドアルド様はぱちくりして、それぞれ自分の胸のあたりをうさんくさげに見てる。


「いや、あるから!

 ちゃんとあるから!!

 ピンチになったら見えるから!!!

 ……私だけかもしれないけど」


 2人は「僕だって、めちゃくちゃピンチな時は何度もあったんだけど」とか「あるのかないのか、どっちなのですか」と、もっと引いた。


「……えーと、とりあえず手稿の記述によりますと」


 ヨハンナに、さくっと後回しにされる。


「農奴として生まれたエルスタルは、故郷が魔獣に襲われた際、魔法で退けたのです。

 ただし、当時は魔法を打てるのは神殿で修行した者のみとされていたので、修行していないのに魔法を打てたエルスタルは邪法を使ったのではないかと疑われ、放逐されてしまいました」


 あ、絵の印象とちょっと違う話になってる。


「そして、諸国をさすらううち、古の知をひそかに伝える隠者に出会ったのです。

 隠者から遺跡の最深部にある試練を乗り越えられれば、強大な魔力を得られるという伝説を聞き、こんなに人の世が辛いものになっているのも魔獣のせい、ならば強大な力を得て、魔獣をまるっと滅ぼそうと考え、遺跡に入り込んだのです。

 遺跡には魔獣が湧きまくりだったですが、なんとかかんとか倒しきり、『理の龍』と邂逅したと」


「その話、アラクネと戦った時の僕らと似てるじゃないか!

 アラクネが試練だったということなのか?」


 前のめりでエドアルド様はおっしゃった。

 言われてみれば、話の流れは似てるけど……


「すっごいヤバかったでしたけど、あれくらいでエルスタルみたいな魔力を貰うって、無理じゃないです?

 エルスタル、海を割ったりしたんでしょ?

 アラクネ倒したくらいで、そんな力をくれます?」


 いくらなんでも、成果と報酬が釣り合わない気がする。


「あー……たしかに」


 エドアルド様は、ゆるっとテンションを下げながら頷いた。

 ていうか、そんな魔力もらっても困るし。


「エルスタルの時に、どういう魔獣が出たかは書いてないのでわからんのです。

 なにはともあれ、『理の龍』との交渉の末、子々孫々を贄として、強大な魔力と、自分および直系子孫しか使えない魔法を授かったと書かれておるのです。

 自分一人だけでなく、子孫にも力を願ったのは、いくらめちゃくちゃ強くても、さすがに一人じゃ魔獣を滅ぼしきれないからですかね」


「直系子孫しか使えない魔法って、皇家専用魔法のことなのかな?」


 この間、塔からの帰りにギネヴィア様からうかがったやつだ。

 エドアルド様が「そういうことなんだろうね」と頷く。


「……ていうか、『子々孫々を贄として』ってどういうこと……」


 さりげなく、すっごい怖い一言が入っている。


「そうとしか書いてないので、詳細はわからんのですが……」


いいね&ブクマありがとうございます!

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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